捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~

鏑木カヅキ

文字の大きさ
19 / 33

19 好きなもの

しおりを挟む
 日が落ち、窓の外はすでに黒に染まっている。
 食堂には頼りない蝋燭の灯りが幾つも灯っている。
 光源は少ない。恐らく節約のためだろう。
 無言で食事するヴィルヘルム。
 長テーブルの反対側でシリカは料理を口に運んでいた。
 夫婦の食事とは思えないほどの、距離感と空気の重さだった。

(このままは良くないわね……)

 疎んじてはいないとヴィルヘルムは言っていたが、明らかに距離を取ろうとしている。
 こんな調子では信頼関係を築くことなんてできない。
 新婚だというのにすでに冷め切った夫婦のようだった。
 せっかく縁を結んだのだ。
 このままでは悲しいし寂しい。
 シリカは自分を勇気づけるため、小さく「よし」と呟いた。

「アリーナ、少しいいですか?」
「はい! いかがいたしましたか!?」

 食堂の端っこでそわそわしながら待機していたアリーナが、元気よく近づいてきた。
 妙にニコニコしている。何か楽しいことでもあったのだろうかと、シリカは小首をかしげる。

「こちらの料理なのですが」
「もしかして、もう満足なさいましたか?」

 なぜか嬉しそうに笑うアリーナに、苦笑を返す。

「いえ、あちらに運んでくれますか?」
「あちら……? 陛下の隣、ですか?」
「ええ。お願いできますか?」
「もちろんです!」

 特に何を疑問に思うでもなくアリーナは料理をてきぱきと運び出した。
 ヴィルヘルムがいる上座のすぐ横の席に、次々に皿が置かれる。
 ヴィルヘルムは何事かとその様子を見ていたが、しかし何も言わなかった。
 シリカが隣に座ると、ヴィルヘルムはほんの僅か目を見開く。

「隣、失礼いたします」
「…………ああ」

 逡巡は見えたが、止めるつもりはないらしい。
 食事を再開しながら、シリカはヴィルヘルムを横目で見る。
 食事以外に興味がないかのように、視線を皿にしか向けていない。

(そんなに私に興味がないのかしら……)

 きっかけは真っ当ではないにしろ、夫婦になったのだからもう少し歩み寄ってくれてもいいだろうに。
 初対面の時は、もっと気遣いを感じたのだが、あれ以来、あまり関わらないようにしていることは間違いなかった。

(かと言って、毛嫌いしているわけでもないし、要望は受け入れてくださるし……何をお考えなのかよくわからないわね)

 表情からは感情がまったく読み取れない。
 こんなにわかりにくい人は初めて見た。
 やはり自分から積極的にいくしかないようだ。

「陛下はお食事に興味はないのですか? あまりお食べになられないご様子」
「……最低限の栄養さえ取れればよい」

 栄養が取れていないからやせ細っているのではないか、とシリカは思ったがさすがに黙っておいた。
 口うるさい姑になる気はない。

「お好きなものはないのですか?」
「ない」
「ない? おひとつも? 飲み物もありませんか?」
「……紅茶は好きだ」

 シリカは目をキラッと輝かせた。

「紅茶! どういった種類が?」
「特定の種類はない」

 会話がすぐ終わる。
 これは会話が下手なのか、それともただ話す気がないのか。
 もっとヴィルヘルムのことが知りたい。
 そう思い、さらに言葉を繋げようとしたが、ヴィルヘルムが先に口を開いた。

「掃除をしているそうだな。侍女の仕事を手伝っているのか?」
「……は、はい。公務ではないので問題ないかと」

 僅かに緊張しながら、シリカは上目遣いでヴィルヘルムの様子を窺った。
 相も変わらずの鉄面皮しかそこにはない。

「余の言葉だ。覆す気はない。自由にすると良い」

 言いながら口もとをナプキンで拭くと、すぐに立ち上がり出て行ってしまった。
 パンやスープはほとんど残っていた。
 見るとテーブル上にはティーカップが置かれていた。
 確かにワインや水だけではなく、陛下は紅茶を嗜んでいるようだった。
 一応は許しを貰い、安堵した。
 それに、初めて彼の好きなものが知れた。
 それだけで少しだけ嬉しさを感じてしまう。
 ふと背後に気配を感じて、振り返るとアリーナがあわあわしながら佇んでいた。
 恐る恐るといった感じでシリカに話しかけてくる。

「あ、あのお気になさらず。陛下はいつもあのような、その、きっぱりというか、淡泊というか、ああいう感じでして。あ、いえ! 悪口ではなく!」
「ああ、いえ、大丈夫ですよ。気にしてませんし。陛下がどういうお方なのか、少しはわかっていますので」
「そ、そうですか……申し訳ありません、余計なことを」
「いいえ、ありがとうアリーナ。心遣いは嬉しいです」

 アリーナはわかりやすく表情を明るくさせ、歯を見せた。
 素直でわかりやすい、いい娘だなとシリカは微笑を浮かべる。
 ぐううううううう!
 突然、聞こえた音にシリカは目を見開いた。
 アリーナは慌ててお腹を手で押さえ、恥ずかしそうに俯いてしまう。

「す、すみません、お、お腹が……」

 主よりも先に食事をすることはまずない。
 夕食がまだなのだろう。
 先ほどもお腹が鳴っていたことはシリカも覚えていた。

「気にしないでください。私も食事を終えますので」

 今日はあまり食欲がなかった。
 久々に沢山働いたからだろうか。
 パンを半分残し、食事を終えた。

「せっかく作ってくださったのに申し訳ないのですが」
「いえいえ! むしろ嬉しい……じゃなくて、大丈夫です! 晩御飯代が浮く……じゃなくて、その」
「……もしかして食べ残しを食べるのですか?」
「ひゃ!? そ、それは……そ、そんなことは……」

 図星だったようで、アリーナはあちらこちらに目を泳がせた。
 あまりにわかりやすく、シリカはクスッと笑った。。

「咎めるつもりはありませんよ。もったいないですからね」
「え!? お、怒らないのですか? 侍女がはしたない! みたいに」
「見えないところであればよいのではないですか」

 表立ってバクバク食べられては困るが、裏でのことをとやかく言うつもりはない。

「あ、ありがとうございます! 助かります!」
「もしかしてお給金が足りていないのですか?」
「い、いえ、そのようなことは! ただ、家にお金を入れていますので、余裕がないと言いますか! ウチは両親がおらず、弟と妹の面倒はあたしが見ないといけないので!」
「そうですか……大変ですね」

 家にお金を入れて、余裕がなくなるくらいの給金しかないとも言える。
 親がいないという話はそこかしこで聞く。
 子供だけで生きていくのは大変だろう。
 シリカにはその辛さがよくわかった。
 立ち上がり部屋に戻ろうとした時、ふとヴィルヘルムが残した料理に視線が向かった。

「陛下は、よく料理を残すのですか?」
「はい。いつもパンやスープ、時にはメインをお残しになりますね。お飲み物はよくお飲みになるのですが」

 そう言えばと思い出す。よくアリーナに飲み物のおかわりを頼んでいたような気がする。
 単純に、小食だという可能性もあるが。
 食べきれないか嫌いだからという理由で毎回残すのならば、これからはいらないと言うこともできるわけだ。
 それなのにいつもパンやスープを残す。
 これは偶然なのだろうか。

 ちらっとアリーナを見上げる。
 パチパチと瞬きをする彼女は愛らしく、そしてどこか小動物らしさを感じた。
 雇い主の陛下であれば、彼女の事情も知っているだろう。
 この城で働く人間は多くもないのだから。

(……まさかね)

 使用人のために食事をせずに痩せてしまう、なんてことは本末転倒だ。
 給金を上げるなり、直接、食料を配るなりすればいいだけのことなのに、あえて食べ残すなんて周りくどいにも程がある。
 もしもそんな方法をとる人間がいるとしたら、なんと不器用で非効率的な方法をとるのか、と言いたくなる。
 考えすぎだろう。
 結局、そう結論付けて、シリカは席を立った。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド  どこにでも居る普通の令嬢レージュ。  冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。  風魔法を使えば、山が吹っ飛び。  水魔法を使えば大洪水。  レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。  聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。  一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。 「その命。要らないなら俺にくれないか?」  彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。  もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!  ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。  レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。  一方、レージュを追放した帝国は……。

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

処理中です...