捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~

鏑木カヅキ

文字の大きさ
21 / 33

21 シリカ食堂開店

しおりを挟む
 マルティナは腰に手を当て、目をパチパチとした。

「こいつは驚いたねぇ」

 一日で洗える洗濯物の量ではなかった。
 しかしすべての洗濯物は洗い終えただけでなく、干されていた。
 時刻は夕方。それは、作業を半日で終わらせたということだ。
 シリカは汗を拭いながら満面の笑みを浮かべる。

「何とか終わりましたね」

 洗濯班の女性たちがシリカに駆け寄ると、興奮した様子で話しかけてくる。

「王妃様のおかげですよ! とっても手際が良くて!」
「ええ、驚きました。あんなにお上手なんて。しかも効率的な方法を教えてくださったし!」
「いえいえ、みなさんのおかげです。私たちはお手伝いをしただけで。ね、クラウス」
「そ、そうでございますな……うぬぅっ!」

 困ったように笑うシリカの隣で、座り込んでいる人物が一人。
 クラウスは脂汗を滲ませながら、腰を抑えていた。
 寄る年波には勝てなかった、ということだろう。
 シリカは胸中でクラウスに謝りながら、再びマルティナに向き直った。

「一体、どんな方法を使ったんだい? 元聖女様ってのはまさか魔法を使えるんじゃないだろうね」
「まさか。普通に洗っただけですよ。ただ、ちょっとやり方を変えただけで。ほら、今までは大量に山積みになった洗濯物の中から近場のものを一つ取って、それを洗うというやり方をしていたでしょう? それだとどうしても頑固な汚れが残っているため、洗うために時間がかかります。ですので、付け置きしておきました」
「付け置き? 水に付けておくのかい?」
「ええ、石鹸を混ぜた水ですが。そうすると汚れが分解されて、洗いやすくなります。ですので、まずは大量の桶を用意してそこに付け置きし、しばらく経ったものを洗い、途中からは干す係と洗う係にわかれて作業をしました。その方が効率がいいので」

 感心したように口をあんぐりと開けるマルティナ。
 別段難しいことでもないし、それなりに知識がある人間なら当たり前のことだ。
 ただそういったものは先駆者から伝えられるもので、時間が必要だったりもする。
 そして仕事の効率化をする、という意識を持つことが大切だ。
 これが中々に難しく、過去のやり方を維持してしまう人間が多い。
 この国、ロンダリアは歴史が古いが、国土縮小に伴い文化や伝統、知識が上手く伝達されていないということは、識字率の流れから何となく理解できた。
 それゆえの提案だったのだが。

「へぇ、シリカ様は物知りなんだねぇ」
「色々とやってきましたから」

 世界中でも、元孤児の元聖女の現王妃なんていないだろう。
 我ながら面白い遍歴だと思いながらも、過去の知識や経験が活きたことは素直に嬉しかった。
 自分の人生は無駄ではなかったと、そう思えたのだ。
 クラウスは腰を抑えて、唸っている。
 次からはクラウスにはもっと腰に優しい仕事を与えてくれるように頼もうと、シリカは心に誓った。

「そりゃ頼もしい! それじゃこれからもっと仕事を任せることにしようかね!」
「ええ、是非とも!」
「うぐっ! もっと仕事をするのですか……ううっ」

 やる気満々のシリカに対して、クラウスは腰の痛みのせいか死にそうな顔をしている。
 一先ず、可哀想な執事長のことは置いておいて。
 まずは一歩前進。
 これからどんどん仕事をしていこう、とシリカはやる気に満ち溢れていた。

   ●〇●〇●〇●〇

 一か月後。
 採掘場前、宿舎の食堂。日中。

「おかわりだっ!」
「うめぇうめぇっ! うめぇよ!」
「はふはふっ! パワーが溢れてくるぜぇっ!」

 人で溢れかえり、誰もが食事に夢中だった。
 ガツガツと肉やパンをほおばり、そして満足そうにしている。

「シリカ様! 芋肉揚げ定食、五人前追加です!」
「はい、すぐに!」

 調理場でフライパンを振るシリカ。
 料理班の女性陣があわただしく料理を作る中に、シリカも混じっている。
 むしろシリカは指示を飛ばし、料理の出す順番まで考えていた。
 ちなみにクラウスは腰の負担の少ない雑務や、帳簿作成をするようになっている。

「ひぃっ! こ、こんなに食堂に人が来るの初めてだよぉ! い、忙しすぎるぅ!」
「シリカ様が来てからお客さん増える一方で! 採掘場の労働者以外も街からもわざわざ来てる人もいるんですよぉ!?」
「シリカ様がご提案なさった料理が全部好評だからね! ほら、口じゃなく手を動かす!」
「「はぁいっ!」」

 料理班のメンバーにも活気があふれていた。
 突然、料理班に入れられた時は、シリカも少し驚いたものだ。
 理由は食堂の客入りが悪く、そのテコ入れのためだ。
 料理があまり得意でない女たちが、料理を作っているのだからそれも仕方がない。
 しかも家庭用料理しか作ったことのない彼女たちの料理は、総じて量が少なく、そして簡単なレシピに偏っていた。
 まずくはない。だが美味くもないという食堂に来る労働者は多くはなかった。

 だがしかしそれも仕方ないことではあった。
 なぜなら十分な食料がロンダリア国にはないからだ。
 ロンダリアは自給自足できる土地も人材もおらず、農業や畜産業は盛んではない。
 それゆえ基本的にロンダリアの食糧事情は、輸入に頼っているのが現状だ。

 しかし、シリカがやってきたからそれは一変する。
 まず肉体労働者用に、がっつり食べられる定食を作ることを考えた。
 国内の食料は偏っており芋や小麦、あとは低価の肉と野菜だけだった。
 肉は筋張っており、野菜は痩せているものばかり。
 そんな素材しかなかったため、今まではスープやパンのような家庭料理を作ることが多く、栄養が少ないし、体力がつかないものばかりだった。
 毎日、肉体労働に勤しむ鉱夫たちには物足りないだろう。

 そこでシリカは主食となる『芋肉揚げ』を考案した。
 芋をすりつぶし、細かく切り刻んだ肉を混ぜ、最低限の味付けをして、小麦粉をつけて揚げて特製のソースをかけるだけの簡単な料理だったが、パンにも合う濃い味と脂っこさに加えて、濃い味を薄れさせる野菜スープとのバランスは絶妙と評判だった。
 好評を博し、次々に素材を組み合わせた料理を考案した。
 食堂の飯が美味くなった、という評判は徐々に広がり、そして今に至るというわけだ。

 元々、立地はよく、労働者たちが入りやすい環境にはあった。
 あとはどれだけ料理に魅力があるか、労働者たちにあった料理を出せるか、それだけだったのだ。
 しかし、シリカは気づいていないが、他にも要因はあった。

「シリカ様! 美味かったです!」

 シリカが働く調理場近くまで来た若い男が、でれでれとした顔を見せる。
 汗をキラキラと輝かせ、シリカは相好を崩した。

「それはよかったです、また来てくださいね」
「は、ひゃいっ! き、きますぅ!」

 胸を押さえつつ、仲間たちと店を出ていく若者。
 こいつ顔真っ赤でやんの、と茶化されつつ出ていった。
 あまりにわかりやすいやり取りだというのに、シリカは笑顔のまま頭の上に疑問符を浮かべるだけだった。

「シリカ様ってもしかして天然、ってやつかね?」
「いやありゃ経験不足だわ。男関連に疎そうだし」
「あんなにお綺麗なのにねぇ……むしろだからなのかね?」
「そもそも王妃様なのに分け隔てなく接してくださるし、そりゃ男衆はコロッと行くさね。禁断の恋的な」
「「「「罪作りだねぇ」」」」

 料理班の四人のおばさま方が、ため息を漏らしシリカを見守っていた。
 件のシリカはと言えば、一生懸命料理を作り続けていた。
 その横で感心した様子で話しかけてくる、初老の女性がいた。

「しかしシリカ様は本当に何でもできますね」
「子供のころ生きるために色々と学んだというのもありますが、聖女の時も補佐官が厳しくて、あれもこれも勉強しろ! と言われまして。料理はその時に教わりましたね。考案した料理も、大体は教わったものですし」
「子供のころならわかりますけど、聖女の時に必要なものなのですか?」
「私も必要なことなのかなとは思いましたが……そういえば、今、役に立ってますね」
「ほー、不思議なこともあるもんですね」

 確かに、聖女に料理の技術など必要ない。
 しかし補佐官のソフィーからは、これくらいはできて当たり前、聖女と言えど、常識を知らないのは恥であると言われ、家事全般や礼儀、一般知識など色々と教わった。
 その積み重ねが活きている。
 今になって思えば、聖女として必要ないことも多く学んだ気がする。
 ソフィーが独断でやらせたことなのか、それとも教団としての方針だったのか、当時は気にすることもなく、必死で学んだものだが。

 そういえば、ソフィーは元気だろうか。
 彼女は他人にも自分にも厳しい人だったが、信頼のおける人だった。
 今も元気だといいのだけど、と胸中でシリカは一人ごちる。
 そんな彼女を遠くで見つめる人物がいた。
 レオとその取り巻きたちである。

「ちっ! お気楽なもんだな。王妃様ってのは」
「そりゃそうさ。自分たちは裕福な暮らしをしてるんだろうからな」
「レオ……いいのかよ」

 取り巻きの一人が不満そうに言い放った。
 レオはシリカを凝視する。

「構いはしねぇさ。今はな」

 含みを持たせた言葉に、取り巻きたちは不服そうにしていた。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

義母の企みで王子との婚約は破棄され、辺境の老貴族と結婚せよと追放されたけど、結婚したのは孫息子だし、思いっきり歌も歌えて言うことありません!

もーりんもも
恋愛
義妹の聖女の証を奪って聖女になり代わろうとした罪で、辺境の地を治める老貴族と結婚しろと王に命じられ、王都から追放されてしまったアデリーン。 ところが、結婚相手の領主アドルフ・ジャンポール侯爵は、結婚式当日に老衰で死んでしまった。 王様の命令は、「ジャンポール家の当主と結婚せよ」ということで、急遽ジャンポール家の当主となった孫息子ユリウスと結婚することに。 ユリウスの結婚の誓いの言葉は「ふん。ゲス女め」。 それでもアデリーンにとっては、緑豊かなジャンポール領は楽園だった。 誰にも遠慮することなく、美しい森の中で、大好きな歌を思いっきり歌えるから! アデリーンの歌には不思議な力があった。その歌声は万物を癒し、ユリウスの心までをも溶かしていく……。

偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!

南田 此仁@書籍発売中
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」  パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。  王太子は続けて言う。  システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。  突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。  馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。  目指すは西の隣国。  八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。  魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。 「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」  多勢に無勢。  窮地のシスティーナは叫ぶ。 「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」 ■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

処理中です...