捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~

鏑木カヅキ

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28 最初の質問は

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 城内に戻ったシリカとヴィルヘルム。
 荘厳ささえ醸し出す二人だったが、部屋に入るや否やヴィルヘルムが壁にもたれかかった。
 咄嗟にシリカがヴィルヘルムの傍へと駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか陛下!?」
「あ、ああ。すまない、大勢の前で演説することなどなかったのでな」
「そ、そうでしたか……病み上がりですし、あまりご無理はなさらずに」

 心の底から心配そうにシリカはヴィルヘルムの顔を真っ直ぐに見た。
 ヴィルヘルムはシリカの視線を受け、気恥ずかしそうに顔を背ける。
 だが、意を決したように強張った顔のまま、再びシリカへと視線を戻す。

「……気遣い感謝する……ありがとう、シリカ」

 不器用で、どこか頼りなくも、真摯な声音だった。

「い、いえ……へ、陛下がご無事ならそれで」

 シリカは驚き、そして小さくはにかんだ。
 二人の間には、以前とは違う張り詰めた空気はなかった。
 まだ拙い。しかし確実にそこには絆があった。

「ごほん」

 小さな咳払いに振り向く二人。
 そこには執事のクラウスとアリーナが立っていた。
 クラウスは冷静な佇まいだったが、アリーナは嬉しそうに笑みを浮かべ、興奮したように何度も頷いていた。
 なぜか小さな拳を胸の前で握り、小さく動かしていた。
 それはさながら頑張れと応援するようだった。
 シリカとヴィルヘルムは顔を見合わせ、そして恥ずかしそうに視線を逸らした。
 思春期の若者の反応のようだった。
 傍から見れば何ともむず痒く、それでいて微笑ましい光景でもあった。
 クラウスがいつも通りの真面目な表情のまま、やや言いにくそうに口火を切った。

「お二人が仲睦まじいのは大変結構ですが……」
「え、演説後の振り返りと、今後の方針について話すべきだな」
「左様でございます」

 言われてヴィルヘルムは何かを誤魔化すように、バルコニー前の部屋を出た。
 ヴィルヘルムにシリカたちも続き、会議室へと向かう。
 会議室と銘打ってはいるが、中は手狭な一室に、六人掛けのテーブルと最低限の家具、地図、書籍があるだけだった。
 ヴィルヘルム、シリカ、クラウス、アリーナの四名が入室する。
 ヴィルヘルムとシリカは椅子に座り、クラウスとアリーナは壁際に立っていた。
 そんな中、ヴィルヘルムがクラウスに問いかけた。

「まず演説の様子はどうであったか?」
「問題なく。国民の反応も上々であったかと。陛下の予想通り国民たちの間で潜在的に存在していた聖皇后シリカ様への期待は確固たるものになった、と考えてよろしいでしょう」
「そうか。先の一件を発端とする国家反逆の意思は薄れたと見てよいか」
「完全にとは言い切れませんが。ロンダリアでは貧困や将来への不安、閉鎖的な経済状況など問題は山積みですが、しかしシリカ様の出現により、好転する可能性は高いかと存じます」
「ああ、そのためのお披露目だったからな」

 ヴィルヘルムがちらっとシリカを見ると、笑顔が返ってくる。
 思わず見とれ、すぐに頭を振って我に返るヴィルヘルムの様子を見て、アリーナが笑いをかみ殺していた。

「と、とにかくシリカのおかげで国民の意思は一つになった。完全にではないが、良き方向へと向いているはずだ……だが、シリカ。本当によかったのか?」
「もちろんです。私は聖女として人に尽くすことを誉としておりました。ロンダリアの聖皇后となれば、自国の民のために尽くすことは当然ですし、何より私がそうしたいと思っています。国民のため、陛下のためにできることはすべてしたいのです」

 真っすぐな瞳を前に、ヴィルヘルムは何度も頷き返した。
 喜色が隠し切れずにいることは明白だった。

「……そうか。そなたの存在はロンダリアの礎となる。今後のロンダリアの命運を握っていると言っていい。だが、重責を感じる必要はない。まずは自身の思いを大切にして欲しい」
「はい。お気遣いありがとうございます、陛下」

 ヴィルヘルムは大きく頷いた。

「独立宣言を大々的に行ったということは連合国、特に聖ファルムス国へ反旗を翻したと同義。しかし彼奴等は軍国主義国家ではない。よほどの大きな理由がない限り、武力行使はあり得ん。特にこちらには聖術に目覚めたシリカが存在する。聖神の庇護を得たシリカが存在するロンダリアへ攻め入るなどまずありえない。考えられるとすれば父の代に起きた宗教侵略だが、こちらも恐らく問題ないだろう」
「と言いますと?」

 シリカの疑問にヴィルヘルムが小さく笑った。

「聖神教団の象徴は聖女ドーリス。そして新生ロンダリア皇国の象徴は聖皇妃シリカ。どちらが聖女として人々の救いとなるかと考えれば、言うまでもあるまい」
「それはどういう意味でしょう?」

 きょとんとしているシリカに、ヴィルヘルムが目を見開く。
 クラウスもアリーナも同じような表情をして、シリカを見つめていた。
 対してシリカは小首を傾げた。
 他の面々も首を傾げた。
 そしてようやくヴィルヘルムも気づく。
 このシリカという女性は、まったく気づいていない。
 自分の価値と才能と、その素晴らしさを。
 思わず口にしようとして、寸前でやめた。
 彼女にそういった言葉は無用だ。
 むしろ足枷になるかもしれない。
 自然体こそがシリカの良いところなのだ。

「いや何でもない。いずれわかることだ」
「そうですか……? 陛下がそうおっしゃるのであれば」
「とにかく他にも色々と策を弄してくる可能性はある。我々がやるべきことは、聖ファルムス国、特に枢機卿の謀略を跳ね返し、国家繁栄を盤石にすることだ。聖ファルムス国が裏で妨害工作をしてくることもあるだろうからな」
「あ、あの、無知で申し訳ないのですが、我が国が発展するには何が必要なのでしょうか?」
「まずは人だな。国土は決して広くはないが、人口が少なすぎる。人が国を作り、経済を回すのだ。兵の数も増やす必要がある。それと資源。現在は鉱山の採掘が主産業となっているが、他の資源も見つける必要がある。加えて国内の食料事情の改善。現状、食料においては飢餓が起きるほどではないが、聖ファルムスの妨害により流通が滞る危険性があるため、自国内で食料生産をする必要があるわけだ」
「輸出入が滞れば、国民の生活は立ち行かなくなると……食料以外にも、鉱石の輸出も不可能に?」
「可能性は高い。だがロンダリアの鉱石は質が良く数もそれなりに多い。聖ファルムスの搾取や関税、顧問料がなくなれば適正価格で販売が可能だ。ゆえに、販路さえ確保できれば、今まで以上に収益が見込める。そうするためには、他国の人間にロンダリアの鉱石の価値を広く知ってもらう必要があるが」
「問題は山積み、ということですね」
「ああ。だがすべては解決できる可能性がある。ならばそれで良い。聖ファルムスに屈し、飼い殺しにされていた過去とは違い、前に進むことができるのだから」
「ええ……ええ! そうですね! 私も、もっともっと頑張ります!」

 可愛らしい笑顔で答えるシリカ。
 その健気さと素直さにヴィルヘルムは抱きしめたい衝動にかられた。
 むしろ手が少し出てしまっていた。
 だが寸前で思いとどまった。
 クラウスもアリーナもいるし、何より妻とは言え、いきなり抱きしめるなどできるはずもない。
 そもそもまだそのような関係性を築けてもいないのだ。
 ギギギと腕を膝元まで戻すヴィルヘルムを見ながら、シリカはきょとんとしていた。
 純粋というか無防備というか。
 心を許しているという風にも考えられるが、あまりにあけすけな態度にヴィルヘルムは胸中で懊悩していた。
 何度かの呼吸をして平静さを何とか取り戻すと、再び言葉を紡ぐ。

「……と、ところで、聖術の方はどうだ?」
「この一か月で何度か亡くなった方の蘇生を試みましたが……リザレクションはできませんでした。けれど、治癒自体は可能でした。以前と同じくらいには聖術が使えるようになっているかと思います」
「そうか。蘇生は無理か」
「申し訳ありません……」
「いや、責めているわけではない。むしろ簡単に使えない方が良かったとも考えられる。人を生き返らせる……それは神の奇跡に等しい所業であるからな」
「そう、ですね……そうかもしれません」

 仮に蘇生が可能になった場合、世界中から依頼が殺到するだろう。
 聖皇后を利用しようと目論む輩も増えるだろう。
 もちろん聖術で治癒が可能な時点で、狙われる立場であることは間違いないのだが。

「さて、そろそろ良いだろう。一先ず休憩とする」

 アリーナが慌てた様子で部屋を出て行った。
 どうやら茶を入れてきてくれるようだ。

「久しぶりの公務でお疲れになったのではありませんか?」
「ああ。だがここ一か月療養し、十分食事もしたからか、体調は良い」

 騒動から一か月の間、表に姿を現さなかったのは単純に大事をとって療養していたからだった。
 その間、シリカの献身的な看護とまともな食事によって、ヴィルヘルムの見た目は良い方向へと変わった。
 考えも前向きになり、どこか晴れ晴れとした印象さえ醸し出していた。
 幼い頃から容姿や能力を否定されてきたヴィルヘルムは、初めて自分を肯定できている。
 以前では考えられないほど積極的に、思いを言葉にするようになった。
 それもこれもシリカの存在があったからだろう。
 だがまだまったく足りない。
 シリカに多くのものを貰った。
 すべて返すことはできずとも、ならばせめて言葉を尽くそう。
 可能な限り、自分なりに、少しずつでもいい。
 ヴィルヘルムは小さく咳払いをして、そして意を決して口を開いた。

「シリカ、聞きたいことがあるのだが」
「聞きたいことですか? なんでしょう?」

 彼女のことを知るための、最初の言葉は決まっていた。
 今までいろいろなことがあった。
 それは多くは己のせいなのだが。

 だからこそ、まずはこの言葉から始めようと思った。

「そなたの好きなものはなんだ?」
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