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29 女子会
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夕食を終え、シリカは自室に戻っていた。
ベッドにうつ伏せになり、うんうんと唸っている。
ちなみにドアの横には、そわそわとした様子のアリーナが立っていた。
就寝前の手入れや着替えなどを手伝うためなのだが、シリカはまだその気になれないらしい。
元々、自分の世話は一人でやってきたのだが、新生ロンダリア皇国となることを機に、ヴィルヘルムはアリーナにシリカの世話をするように命じたのだ。
正直、あまり気乗りはしないが、ヴィルヘルムの言葉を無下にもできない。
「はぁ……」
嘆息して、思い出してはまた嘆息。
それもそのはず、演説後のヴィルヘルムとの会話は、我ながらお粗末なものだった。
ぷるぷると震えると、いきなり立ちあがった。
「だっていきなり、好きなものはなんだ、なんて聞いてくるんだもの! 今まで私に興味なんて持ってなかったのに!」
ずるい。不意打ちすぎる。
最初に自分がした問いを今更返してくるなんて。
そんなことされたら嬉しくなるに決まっている。
おかげで、それ以降はまともに反応できず、無難な会話に終始してしまった。
もっと上手く立ち回れれば、一気に距離は詰まったはずだ。
しかしただ端的に答えることしかできなかった。
あれでは淡泊に見えて当然だ。
(せっかく陛下が聞いてくださったのに……きっと勇気が必要だったはず。それなのに私は……)
今までのヴィルヘルムを見れば、簡単なことではなかったと容易に想像がつく。
だというのに自分は動揺してしまい、まともに対応できなかった。
聖女として幾十、百万の人と接してきたというのに、ヴィルヘルムを前にすると冷静さを失ってしまう。
「しかもこの一か月で以前よりも……か、かか、格好良くなりすぎてて! 以前も格好良かったけれど! 今はもうすごいっていうか! ああ、もう! どうしたらいいかわからないわよ!」
シリカは勢いよく頭を抱えては唸り続ける。
そして突然、軽快な動きでベッドから降りると、すたすたとアリーナの前まで移動した。
「ア、アリーナはその……殿方と親密な関係になったことがありますか……?」
「え!? と、とと、殿方とですか!? い、いやそれはえーと……」
シリカは縋るような視線アリーナに向けた。
目を白黒させていたアリーナだったが、覚悟したように表情を引き締めるとドンと胸を叩いた。
「も、もも、もちろんでございます! 百戦錬磨のアリーナと呼ばれているくらいですから!」
「ほ、本当ですか!? なんとそれは頼もしい。すごく経験があるのですね」
「まったくない……じゃなく、ありありのありですよ! な、なんでも聞いてくださいませ!」
明確な動揺を見せるアリーナに、シリカはまったく気づかない。
むしろ、あまり口にしたくないのかもしれないと勝手に察したくらいだった。
「他言は致しません! どうか助言をください! どうすれば殿方と親密になれるのですか!? どのように会話をすればいいのかわからないのです……」
「あれ? ですが、陛下とはお話になっていらっしゃるかと思いますが」
「は、話してはいますが……それはすべて私から一方的に話しかけるか、公務か看護関連の話題ばかりで。仕事に関わることならばいかようにも話せるのですが」
「ふむぅ、なるほどぉ。つまり個人的なお話になると、いつも通りに話せないと?」
「と、特に陛下から話してくださる時は……」
「確かに。今まではシリカ様から、ということが多かったですからねぇ……あれですね! シリカ様は押しに弱いんですね!」
「押しに……弱い……ですか?」
「ええ! 頼まれると断れない、とか。相手から何か言われるとついつい構ってしまう、とか。自分から積極的になるのは得意なのに、相手が積極的になると苦手、とか。そういう人のことを言ったり言わなかったりするとか!」
「あ、当たってます!!」
はっとした顔をして、シリカは興奮した様子でアリーナに顔を寄せた。
「す、すごい! さすがは百戦錬磨のアリーナですね! なんでもわかるのですね!」
「ま、まあ? それほどでもありませんが!」
だらしなく頬を緩ませて胸を反るアリーナ。
あまりに滑稽な姿を見てなお、シリカは目を輝かせる。
「で、ではどうすればよろしいでしょう?」
「ど、どうすれば? そ、そうですね……うーんうーん。あ! だったらもうむしろこっちから攻めてみては?」
「せ、攻める……ですか?」
「そうです! あたしが利いた話では――ごにょごにょ」
「なるほど……え? そ、そうなのですか。でも――」
二人の密談はしばらく続いた。
シリカは目を見開き、時には頬を染め、そして最後には意を決して両手を握った。
「わ、私頑張ります!」
「その意気ですよ、シリカ様!」
女二人、興奮した様子で決意を新たにした。
一喜一憂し、悩み迷い、それでもどこか幸せそうな二人がそこにいた。
ベッドにうつ伏せになり、うんうんと唸っている。
ちなみにドアの横には、そわそわとした様子のアリーナが立っていた。
就寝前の手入れや着替えなどを手伝うためなのだが、シリカはまだその気になれないらしい。
元々、自分の世話は一人でやってきたのだが、新生ロンダリア皇国となることを機に、ヴィルヘルムはアリーナにシリカの世話をするように命じたのだ。
正直、あまり気乗りはしないが、ヴィルヘルムの言葉を無下にもできない。
「はぁ……」
嘆息して、思い出してはまた嘆息。
それもそのはず、演説後のヴィルヘルムとの会話は、我ながらお粗末なものだった。
ぷるぷると震えると、いきなり立ちあがった。
「だっていきなり、好きなものはなんだ、なんて聞いてくるんだもの! 今まで私に興味なんて持ってなかったのに!」
ずるい。不意打ちすぎる。
最初に自分がした問いを今更返してくるなんて。
そんなことされたら嬉しくなるに決まっている。
おかげで、それ以降はまともに反応できず、無難な会話に終始してしまった。
もっと上手く立ち回れれば、一気に距離は詰まったはずだ。
しかしただ端的に答えることしかできなかった。
あれでは淡泊に見えて当然だ。
(せっかく陛下が聞いてくださったのに……きっと勇気が必要だったはず。それなのに私は……)
今までのヴィルヘルムを見れば、簡単なことではなかったと容易に想像がつく。
だというのに自分は動揺してしまい、まともに対応できなかった。
聖女として幾十、百万の人と接してきたというのに、ヴィルヘルムを前にすると冷静さを失ってしまう。
「しかもこの一か月で以前よりも……か、かか、格好良くなりすぎてて! 以前も格好良かったけれど! 今はもうすごいっていうか! ああ、もう! どうしたらいいかわからないわよ!」
シリカは勢いよく頭を抱えては唸り続ける。
そして突然、軽快な動きでベッドから降りると、すたすたとアリーナの前まで移動した。
「ア、アリーナはその……殿方と親密な関係になったことがありますか……?」
「え!? と、とと、殿方とですか!? い、いやそれはえーと……」
シリカは縋るような視線アリーナに向けた。
目を白黒させていたアリーナだったが、覚悟したように表情を引き締めるとドンと胸を叩いた。
「も、もも、もちろんでございます! 百戦錬磨のアリーナと呼ばれているくらいですから!」
「ほ、本当ですか!? なんとそれは頼もしい。すごく経験があるのですね」
「まったくない……じゃなく、ありありのありですよ! な、なんでも聞いてくださいませ!」
明確な動揺を見せるアリーナに、シリカはまったく気づかない。
むしろ、あまり口にしたくないのかもしれないと勝手に察したくらいだった。
「他言は致しません! どうか助言をください! どうすれば殿方と親密になれるのですか!? どのように会話をすればいいのかわからないのです……」
「あれ? ですが、陛下とはお話になっていらっしゃるかと思いますが」
「は、話してはいますが……それはすべて私から一方的に話しかけるか、公務か看護関連の話題ばかりで。仕事に関わることならばいかようにも話せるのですが」
「ふむぅ、なるほどぉ。つまり個人的なお話になると、いつも通りに話せないと?」
「と、特に陛下から話してくださる時は……」
「確かに。今まではシリカ様から、ということが多かったですからねぇ……あれですね! シリカ様は押しに弱いんですね!」
「押しに……弱い……ですか?」
「ええ! 頼まれると断れない、とか。相手から何か言われるとついつい構ってしまう、とか。自分から積極的になるのは得意なのに、相手が積極的になると苦手、とか。そういう人のことを言ったり言わなかったりするとか!」
「あ、当たってます!!」
はっとした顔をして、シリカは興奮した様子でアリーナに顔を寄せた。
「す、すごい! さすがは百戦錬磨のアリーナですね! なんでもわかるのですね!」
「ま、まあ? それほどでもありませんが!」
だらしなく頬を緩ませて胸を反るアリーナ。
あまりに滑稽な姿を見てなお、シリカは目を輝かせる。
「で、ではどうすればよろしいでしょう?」
「ど、どうすれば? そ、そうですね……うーんうーん。あ! だったらもうむしろこっちから攻めてみては?」
「せ、攻める……ですか?」
「そうです! あたしが利いた話では――ごにょごにょ」
「なるほど……え? そ、そうなのですか。でも――」
二人の密談はしばらく続いた。
シリカは目を見開き、時には頬を染め、そして最後には意を決して両手を握った。
「わ、私頑張ります!」
「その意気ですよ、シリカ様!」
女二人、興奮した様子で決意を新たにした。
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