透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第一章 色無しの魔物使い

001 真夜中の光と謎の少年

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 至って変わらない静かな夜の森。今日も平和な一日が終わる――家の中でくつろぐ少女はそう思っていた。
 その瞬間、外から凄まじい光が発生した。

「えっ、な、何!?」

 少女は慌てて立ち上がり、カーテンを開けて外を見る。
 真っ暗な森の中に、巨大な光の柱が出現していた。家のランプよりも数倍ほど明るいその光は、あからさまに普通ではない。
 数秒後、一瞬にして光は消えた。
 森の生き物たちも驚いたのか、あちこちの茂みでがさがさと動いたり、小さな影が多数、飛び出しては走り回ったりしている。
 やがてそれも落ち着き、比較的森が静かになった。

「何だったんだろう、今の光って?」

 少女は窓の外に視線を向ける。真っ暗で何も見えないが、その先に何かがあることは明白であった。

(……やっぱり気になる!)

 少女はカンテラを手に外へ飛び出した。
 物心ついたときからずっと暮らしている場所だけあって、真っ暗な森を駆け抜けるのは、それほど苦労はしない。わずかな明かりで周りを少し照らせば、どこに何があるかは分かるのだ。

(光は確かあっちから出ていたよね? 私の記憶が確かなら――)

 その先にある場所の光景を想像しながら走る。やがて少女は、森が小さく開けた場所に出てきた。
 同時に雲に隠れていた月も現れ、それを青白くぼんやりと照らす。
 小さな墓標がポツンと建てられていた。
 そしてその前に、うずくまるようにして倒れている一人の人物の姿があった。

「あっ……!」

 それに気づいた少女は慌てて駆け出し、その人物に近づく。意識は失っているようだが、少なくとも生きてはいるようであった。
 上下ともに茶色の部屋着らしき服を着用しており、長く伸びた栗色の髪の毛は、後ろで雑に括られている。痩せ型で小柄で幼さが残る顔立ちであったが、性別の見分けがつかないほどではなかった。

(多分、男の子よね? 年は私よりも少し下ぐらい、かな? それに――)

 少女は少年の耳に注目する。

(この耳……長さからして人間族ってところね。角とかもなさそうだし)

 そう思いながら少女は、自身の耳を軽く触ってみる。エメラルドグリーンのふんわりとした髪の毛から覗き出ている、普通の人間よりも少しだけ長い耳を。

(まぁ、少なくともエルフ族じゃないわね。とにかく助けないと……)

 どこか自虐的に笑いながら、少女は少年を運ぶべく手を伸ばそうとした。
 その時――

「おい、あそこに誰かいるぞっ!」

 後方から声が聞こえた。複数人の足音が近づいてくる。少女が振り向くと、男女三人のグループが、カンテラ片手に駆けつけてきた。
 すると中央に立つリーダーらしき男が、立ち止まるなりため息をつく。

「なんだ、アリシアじゃないか」

 ガッカリしたような声で、リーダーらしき男が少女の名前を言う。

「こんな夜中にここにいるってことは、大方さっきの光はお前の仕業だな?」
「え、いや、それは違……」
「別に隠さなくてもいいんだぜ? お前が『ゲージュツはバクハツだー』的な研究をしているのは、間違いないことなんだからよ」

 アリシアの返事を完全に無視する形で、男はニンマリと笑う。あからさまに見下している表情であり、アリシアもいい気分はしていない。
 自分の生き様を貶されたのだから尚更であった。

「ブルースさん。私がやっているのは『錬金術』であって、爆発を研究した覚えはこれっぽっちもないんですけど」

 反論するアリシアだったが、ブルースは肩をすくめながら鼻で笑った。

「似たようなもんだろ。俺らの知ってる錬金術師は、皆どっかしらでドカーンと大きな音立てて、みっともない黒コゲな姿を晒してるがな」
「爆発を研究してると思われても、不思議じゃないってことね」

 ブルースの仲間である女性魔導師がケタケタと笑う。そしてブルースに対して、すり寄りながら猫なで声を出した。

「ブルースさぁん、早く行きましょう? この子に関わるだけ時間のムダだわ」
「ドナの言うとおりだな。引きこもっている彼女と違って、俺たちは明日も、ギルドの仕事が待っている」
「ハハッ、確かにドナやエルトンの言うことは、もっともだな」

 自分たちこそが全て正しい――そう言わんばかりにブルースは笑った。
 それに続いて他の二人も気持ち良さそうに笑い出す。それをアリシアは、途轍もなく冷めた目つきで見上げていた。
 ブルースはそれに構うこともなく、アリシアを見下ろしながら言う。

「全く……同じエルフ族として恥ずかしい限りだ」
「違いますよブルースさん。この子は『ハーフエルフ』です。私たちのような、純粋なエルフ族とは違うんですってば」
「おぉ、そうだった。そういえば耳が俺たちよりも少しだけ短いもんな」

 わざとらしく驚く反応を見せるブルース。それに対してエルトンが、ため息をつきながらも軽く笑う。

「ブルース。分かった上で言うのはいい加減にしとけ。今の時代じゃ、種族を越えたハーフなんて珍しくもないぞ」
「そういうエルトンこそ、完全に笑っているじゃないか」
「お前のヘタクソな演技が面白いからな」
「ハハッ、そりゃ光栄なことだぜ♪」
「もー、ブルースさんってばー」

 三人が楽しそうに笑い出す。完全に蚊帳の外と化しているアリシアは、ひっそりとため息をついた。

(よくもまぁ、ここまで人のことをからかえるモノだわ)

 もはや怒りを通り越して感心すら思えてくる。ついでに言えば、早くどこかへ行ってくれないかなぁ、という気持ちも生まれてきていた。
 そんなアリシアの願いに応えるかの如く、ブルースは笑みを落ち着かせる。

「まぁ、アレだ」

 ブルースが咳ばらいをしつつ、アリシアに告げる。

「勉強熱心なのは大いに結構なことだが、何事も程々にしておけよ」
「まーったく、ムダな時間を費やしちゃったわ!」
「何事もなかったようでなによりだ」

 そして三人は、彼女の後ろを含む周囲を全く確認することもなく、そのまま踵を返して立ち去って行った。
 振り返ることもしない三人の後ろ姿を見ながら、アリシアは呆然とする。

(行っちゃった……もしかしてホントに気づいてなかったの?)

 後ろで倒れている少年のことを、ブルースたちは一瞥することもなかった。
 カンテラがあるとはいえ、暗くて気づかなかったのだろうか。それとも気づいていたけど、アリシアのしでかしたことに巻き込まれて、可哀想と思いながら心の中でケタケタと笑っていたとか。
 どちらも普通にあり得そうだなと、アリシアは肩を落とす。

(……まぁ、いいや。とりあえずこの子を、ウチへ運んじゃおう)

 とりあえずこの場は切り抜けたということにして、アリシアは倒れている少年を背負って歩き出す。思いのほか軽かったため、片手でカンテラを持ちながら歩くのも苦にならずに済んだのだった。
 それはそれで、少年の体調や栄養面が気にならなくもなかったが、ひとまずそれは置いておくことにした。
 代わりに一つだけ、アリシアの中でどうしても気になることがあった。

(この子……近くの子じゃないよね? 一体どこから来たんだろう?)

 カンテラの明かりを頼りに真っ暗な森の中を進みながら、アリシアはその疑問について考えてみる。
 しかし家に着くまでに、まともな答えが出てくることはなかったのだった。


 ◇ ◇ ◇


「とりあえず、あの子はベッドに寝かせたからいいとして……」

 アリシアはダイニングテーブルに座る。そして目の前に置いてある、一冊の本に視線を向ける。
 『異世界召喚儀式の謎!』――本のタイトルには、そう書かれてあった。
 知り合いから要らないと言われて譲り受けた本であり、アリシアもちゃんと読むつもりなどなかったものであった。

「……流石にあり得ないよね?」

 苦笑しながら本を手に取り、パラパラとページをめくり出す。まさかこの本を開く日が来ようとはと、そう思いながら。

(流石にあの子が異世界召喚されてきたなんて……うん、ありえないよ)

 異世界召喚――文字どおり異なる世界から、人を呼び寄せる魔法である。
 王家の血を引く者を媒体とし、膨大な魔力を注ぎながら呪文を唱える『儀式』を行うことで、初めて発動が成立する。
 儀式を行えば、媒体と魔力を注ぐために集められた魔導師は命を失う。
 まさに多大な犠牲を支払う究極の魔法なのだ。
 そこまでするくらいだから、当然それに見合った結果を誰もが期待する。
 しかし、世の中そう甘くはない。

(異世界召喚儀式の成功率が極めて低い、か……大量の犠牲を払う割には、なんともメリットが感じられないわね)

 アリシアはため息をついた。

(おまけに儀式が成功したとしても、いい結果が得られるかどうかは賭け。保証という保証がまるでないなんて、バカバカしいにも程があるわよ、全く)

 異世界召喚で呼び出されるのは、基本的に『人間』というヒトであること。十代前半から二十代前半という伸びしろの期待できる年代の者が、主に呼び出される可能性が高いこと。
 そして――何かしらの特殊能力を持っていること。

(特殊能力云々に関しては、謎も多いみたいね)

 呼び出される前は特殊能力を持っていなかった。召喚されたら何故か特殊能力を持っていた――それが過去に召喚された者に共通している。
 それが異世界召喚魔法の影響なのか、真相は未だ解明されていない。

(しかもその特殊能力が、何の役にも立たないケースもあった……ますます馬鹿げていることだわ)

 要するに、召喚した国の意にそぐわないことも少なくなかったということだ。そう言った者たちの顛末がどうなったかは、本には書かれていない。しかし少なくとも碌な末路ではないだろうと、アリシアは思う。

(それでも昔の人たちは、その賭けに縋っていたのね。戦争に勝つために、莫大な戦力が欲しかったってワケだ。そしてその戦争もなくなって、賭けに縋る意味がまるでなくなったと)

 戦争を行わない条約が各国で結ばれ、長い時間をかけて世界は平和という土台を築き上げていった。
 それと同時に異世界召喚儀式も、自然と忘れ去られていく。
 時代は常に、変化しつつ流れてゆくものである。
 数十年という長い時間は、異世界召喚魔法という存在を消すには十分であった。

(一応、異世界召喚儀式を執り行った記録は、あるみたいだけど……)

 しかしそれらに目を通しても、分かることは少ない。どの記録も肝心なところは伏せているからだ。故に、異世界召喚儀式の存在自体は語り継がれても、その中身の詳細が語り継がれることはない。
 儀式の手順も受け継がれることはなく、もう二度と異世界から人が呼ばれることはあり得ない――そう見なされるようにもなっていった。
 異世界召喚儀式をせずに、異世界からヒトが降り立つことはないと、人々は心から思っていたからだ。

(だからこそ、異世界召喚が今の時代に起こることは、決してあり得ない……か)

 本をパタンと閉じ、アリシアは少年が寝ている部屋に視線を向ける。
 全てはあの子が目覚めてからだと――そう思うのだった。

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