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第三章 子供たちと隠れ里
082 シュトル王国の子供たち
しおりを挟む王都は国の中心部だけあって、規模も大きく人も多い。人間族が中心となって治めているシュトル王国も決して例外ではなく、今日も賑やかな声があちこちで絶え間なく響き渡っている。
子供たちが集まる広場は、その筆頭だと言えていた。
「あ、ジェイラスが来た!」
整えられた金髪に眼鏡をかけた少年が、ゆっくりと向かって来る緑髪で大柄な少年の存在に気づいた。
それに続いて、その場にいたほかの三人も振り向く。
「なんか、ちょっとボロボロに見えるような……」
銀髪で大人しい印象の強い少女が、不安そうな表情を浮かべる。
「なんとなく想像はつくけどね」
「あぁ、そうだな」
呆れた表情を浮かべる赤髪の少女に続いて、青髪で整った表情が特徴的な少年も苦笑気味に頷く。
「よぉ、ジェイラス。またケンカしてきたのか? 今回は手酷くやられたな」
「あぁん? うっせぇよアレク! こんなのどうってこたぁねぇんだ!」
青髪の少年アレクに、大柄な少年ジェイラスが、喧嘩腰の口調で返す。それに対してこれ見よがしに深いため息をついたのは、赤髪の少女であった。
「こりないわねー。よくもまぁ、そこまで殴り合えるもんだわ」
「メラニーに同感だね」
「……ゴメン。サミュエルにだけは、同感されたくない」
「なっ、なにおう?」
赤髪の少女メラニーに、金髪の少年サミュエルが突っかかる。しかし微妙に腰が引けており、如何せん迫力に欠けていた。
そんな中動き出したのは、銀髪の少女であった。
「はい、ジェイラス。練習がてら作ったポーションで良かったら……」
「悪いなリリー。全然助かるぜ」
ジェイラスはポーションを受け取りながら、銀髪の少女リリーにニカッと笑みを浮かべる。問題ないという意思表示も兼ねていたのだが、その傷はやはり生々しいと言わざるを得なかった。
しかしそんな心配そうにするリリーをよそに、ジェイラスは勢いよくポーションを飲み干していく。
「――ぷはぁっ! 体に染み渡るぜ。リリーの錬金の腕も、また少し上がったんじゃねぇのか?」
「そりゃ上がるってもんでしょ」
酒を飲んだ親父のような反応を示す彼に、メラニーがため息をつく。
「今までアンタがケガする度に、リリーがポーション作ってきてたんだから」
「皮肉にもいい練習にはなってるよな」
「んだとぉっ?」
メラニーとアレクが立て続けに居れたツッコミに、ジェイラスが突っかかる。ガキ大将らしく拳を構えてのことあったが、これもまたいつものことであり、二人は全く臆していない。
仮に本気で殴り掛かられても、対処のしようがあるからでもあったが。
「はいはい、その拳をしまいなさいっての。あたしだってアンタに魔法なんか使いたくないんだからね?」
「俺も、お前相手に戦うマネだけは勘弁願いたい。これでも大切な幼なじみだと思ってるんだからな」
「――くっ!」
ばつが悪そうな表情を浮かべ、ジェイラスが視線を逸らす。
魔導師の適性を得たメラニーと剣士の適性を得たアレクの実力は、子供たちの間でもかなり有名であった。
二人とも高い【攻撃色】に恵まれ、将来の冒険者は確実だとも言われている。
無論、アレクとメラニーもそのつもりであった。そしてそれは、この場にいる五人の共通している目標でもあった。
「一応言っておくが……お前も程々にしておけよ、ジェイラス?」
腕を組みながらアレクが言う。
「俺たちは皆で冒険者になるんだ。問題ばかり起こしていると不利になるぞ」
「そーそー。少しは僕みたいに平和主義にならないとね♪」
人差し指を立てて、弾むような声を出すサミュエル。あからさまに調子に乗った態度を見せたのがいけなかったのだろう。
それに対してジェイラスは、一瞬にして苛立ちの表情と化した。
「あぁんっ!? うっせぇんだよ、テメェは!」
「ひぃ!」
荒ぶる声にサミュエルは情けない声を出し、尻餅をついてしまう。その姿もまた毎度のことであり、よくもまぁ繰り返すもんだと言わんばかりのため息が、アレクたちの口から漏れ出るのだった。
「それぐらいにしておけ、ジェイラス。今日皆で集まった目的を忘れたのか?」
呆れた表情でアレクが言うと、ジェイラスは拗ねた表情でそっぽを向いた。
「……忘れてねぇよ。もうすぐ始まる課外活動のことで話し合うんだろ?」
冒険者を目指す子供たちのための学校――通称、冒険者養成学校に、アレクたちはもうすぐ入学しようとしていた。
十二歳を迎え、適性鑑定を受けた子供たちが試験を受け、それに合格すれば入学の資格が与えられる。それから数年間の訓練を受け、無事に卒業できれば、冒険者ギルドへの登録試験の免除と、初期ランクの上乗せが成されるのだ。
更に卒業資格なしでいきなり登録した冒険者に比べると、ランク昇格試験へのステップが大幅に緩和されることでも有名である。
早い話が、冒険者ギルドのエリートコースみたいなものである。
もっとも危険と隣り合わせである冒険者を育成する学校なだけあって、卒業はおろか進級ですら容易ではない。貴族や平民も関係なく、金を積めばなんとかなることも決してあり得ない。
危険な世界へ飛び込む者に甘い汁は吸わせない――それを知らずに気楽な気持ちで養成学校に入学してくる子供たちも、決して少なくないのが現状であった。
アレクたち五人も、それは十分に心得ていた。
絶対に五人で卒業しよう――そう決意を改めて固める意味も兼ねて、こうして集まっているのだ。
「僕たちは五人とも無事に養成学校に合格した。そして入学前に、合格者を対象とした課外活動がある――ここまではいいな?」
アレクの問いかけに他の四人が頷き、そしてメラニーが口を開く。
「えぇ。そしてその課外活動が、事実上の最終試験だってことでしょ?」
メラニーの言うとおり、公にこそなってはいないが、冒険者を目指す子供たちならば当たり前に知っているくらい、有名な話だったりする。
表向きは『合格者の顔合わせを兼ねたレクリエーション』なのだが、その裏には合格した子供たちが、本当に冒険者としてやっていけるかどうかを見極める目的があるという噂が広まっているのだ。
ギルドや王宮、そして学校でも知れ渡っている噂なのだが、今までにその噂が否定されたことは一度もない。
つまり噂は本当だということだ――そう判断されるのも自然なことであった。
実際、毎年この課外活動を終えた子供の何人かが、入学を辞退している。それも噂を真実と見なされる要因にもなっていた。
そしてアレクたちも、たった一人を除いて、その噂を心の底から信じていた。
「……本当に、最終試験も兼ねてるのかなぁ?」
そのたった一人ことリリーが、首を傾げていた。
「私たち、まだ十二歳だよ? 魔物と戦ったことすらない子供なんだよ? なのにそんな不意打ちみたいなことするとは、正直思えないけど……」
「リリーは甘いねぇ」
そんな彼女の意見を、サミュエルが得意げにぶった切る。
「冒険者という職業は決して甘くないんだ。子供だからと言って、大人たちが容赦してくれることを期待するほうが、どうかしていると思うよ」
「そうだな。今回ばかりは、俺もサミュエルに同感だ」
「うん。流石はアレク――って、こらぁ! 今回『ばかりは』って何だよ! まるで僕がいつも的外れなことを言っているみたいじゃないか!」
「……アンタ自覚なかったの?」
声を荒げるサミュエルに対し、メラニーが呆れた表情で呟く。もっともサミュエルは聞いていなかったが。
「まぁ、とにかくだ――」
気を取り直すべくコホンと咳ばらいをし、アレクは改めて切り出す。
「今回の課外活動で、なんとしてでもいい成果を出すんだ! こんなところでつまずくワケには絶対にいかない!」
拳を握り締めながら、アレクは熱弁する。仲間たちが呆然とする中、ジェイラスだけがニヤリと笑みを浮かべていた。
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