透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
201 / 252
第六章 神獣カーバンクル

201 黒い勇者たち

しおりを挟む


 あの時は、本当に幸せだった――――
 意地っ張りな自分を優しく迎えてくれたヒトたちの笑顔は、荒んだ心をあっという間に綺麗にしてくれた。
 仲間たちと打ち解けるのに、そう時間はかからなかった。
 賑やかで退屈することのない楽しい日々。きっとこれからもずっと、当たり前のように続いていくと、そう思っていた。
 しかし、それは勘違いだった。
 当たり前の幸せも、崩れる時は一瞬である――それを思い知らされた。

「魔力スポットがあると知ったサリアが、興味をもって行こうと言い出したんだ」

 カーバンクルは俯いたまま語る。マキトは前を向いたまま、黙って話に耳を傾けていた。

「それでオレはサリアたちと一緒に、あの魔力スポットにやって来たんだ」
「俺たちが出会った、あの場所だよな?」
「あぁ」

 カーバンクルは大きく頷いた。

「あそこまで来ること自体は、特に大したことはなかったんだぜ。にーちゃんのテイムした霊獣が変身して……そうそう思い出した! あのフォレオだぜ、でっかい獣姿になってよぉ!」
「フォレオが?」

 まさかの事実に驚くマキトだったが、よくよく思い出してみると、そんなに驚くほどでもないことに気づく。

「……そーいえば前に、ユグさんから聞いたな。フォレオは俺の父親がテイムしていたとかって」

 聞いたのは、フォレオをテイムしてすぐ後のことだった。初めてリオの墓参りを終えて、神殿に戻ってから明かされたのである。
 フォレオも一緒に聞いたのだが、ピンと来ている様子はなかった。
 封印される前のことが本当に思い出せず、リオという名前に対しても、どこかで聞いたような気がする程度の反応しか示さなかった。

「そっか。その時にはもう、獣姿になることはできてたんだな」
「みてーだな。とにかくそれで、オレたちはあっという間にこの山奥へ来たんだ」

 周囲を見渡しながら言うカーバンクル。当時の記憶がしっかりと残っているだけあって、どこか懐かしそうであった。

「魔力スポットもすぐに見つかってよ。今回の冒険は簡単だったな、って――そう思っていた時だった」

 カーバンクルの表情が、急激に歪み出す。心から憎んでいると言わんばかりの苛立ちように、マキトはすぐさま察した。

「その『勇者』ってヤツが現れたのか?」
「あぁ……あの時のことは、忘れたくても忘れられねーぜ……」

 震える体をマキトに優しく撫でられながら、カーバンクルは続きを語り出した。


 ◇ ◇ ◇


 その者たちは、数人で結成された冒険者パーティだった。
 リーダー格の青年は、自らを『勇者』と名乗り、銀色に光る剣を抜く。とても誇らしげにしていたその表情は、カーバンクルにはどこまでも醜い怪物のようにしか見えなかった。
 そこら辺にいる狂暴な魔物よりも危険だと、心から感じるほどに。

「よぉ、サリア。ちゃんと生きててくれて嬉しいぜ♪」

 勇者がニヤリと笑い、一歩近づいてくる。

「マジで精霊を司る霊獣をたくさん従えてるみてぇだな。俺たちが有効的に使ってやるから、そいつらを全部よこせ」
「ふざけないで!」

 サリアが間髪入れずに叫ぶ。その瞬間、怒りに反応するかの如く、あちこちに跳ねている黒髪が揺れた。

「あたしの大事な子たちを、アンタたちみたいなロクデナシには渡さないっ!」
「――おいおい、少しは言葉に気をつけろよ?」

 啖呵を切るサリアに、勇者はため息をつきながら呆れ果てた視線を送る。

「俺は勇者だ。国王が直々に認めた肩書きを持つ男だぜ? 俺が一声あげれば、国の軍隊をも軽く動かせるんだよ。まぁ、そうするまでもねぇけどな。下手な軍隊よりも俺のほうが圧倒的にTUEEEからよぉ♪」

 『強い』の部分をあからさまに口調を変えながら、勇者はニタニタと笑う。それに続いて、彼の後ろに控えている仲間たちも、次々と口を開いてきた。

「そうだぜサリア。コイツの強さはお前も聞いたことくらいあるだろう?」
「マジで異世界召喚されたチート持ちだもんねー♪」
「まさに俺TUEEEってヤツだな。全く羨ましいもんだぜ」

 あはははは――と、勇者パーティはこぞって機嫌良さそうに笑う。それに対してサリアは、どこまでも冷たい表情を浮かべていた。
 彼女の後ろにいる魔物たちも、そして彼女の仲間である青年も同じくであった。
 しかし勇者たちは、そんなサリアたちの表情など気にも留めておらず、仕方がないなぁと言わんばかりに肩をすくめる。

「サリア、頼むから少しは素直になってくれよ」

 勇者が優しい口調で諭すように語りかけてきた。無論、それはサリアを更に苛立たせるものでしかないが、勇者は全く気づこうとすらしていない。

「俺たち皆、同じ故郷から召喚されてきた仲間じゃないか」
「誰が誰の仲間よ! あたしの能力が使えないと分かった瞬間、追い出されるのを笑いながら見ていたじゃない!」
「ハハッ、そんな昔のことを未だ気にしてるのか? 少しは心を広く持てよ」

 心から愉快そうな笑い声を出す勇者。サリアの後ろでは、魔物たちや青年の表情が変化しつつあった。
 怒りを通り越した不気味さ――それを目の当たりにしたような表情だった。
 勇者の視線には、サリアしか映っていなかったが。

「いつまでも過去に縛られるなんて、バカバカしいにも程があるぞ?」
「ほぉ? 勇者というのは随分と偉いんだな」
「――あぁん?」

 突然割り込んできた声に、勇者は苛立ちを募らせながら視線を向ける。一人の青年がサリアの前にスッと出てきていた。

「ちょ、ちょっと、リオ!」
「済まないな。大切な人を好き勝手言われて、黙ってられる俺じゃないんだよ」

 リオと呼ばれた青年が鋭い視線を勇者たちに向ける。同時に彼が従えている魔物たちも前に出てきた。
 地の底から這い上がるような唸り声が、いつでも飛び出せることを示している。
 勇者のパーティメンバーは緊張を走らせるが、当の勇者は訝しげに眉をピクッと動かした。

「んだよテメェ……もしかして魔物使いか?」
「あぁ。それがどうした?」
「――ハハッ! なんだよそりゃ、コイツは笑えるぜ♪」

 勇者は突然笑い出す。それもあからさまなる嘲笑であった。

「魔物の後ろに隠れることしか能がねぇくせに、偉そうなことを……しかもテメェは人間じゃねぇな? てゆーか、エルフにしちゃあ、耳が少し短いような……」
「ハーフエルフだからな。当然と言えば当然だ」
「ほぉ? つまりハンパもんってことかよ。さぞかしエルフの故郷じゃ、爪弾きにされて生きてきたんだろうなぁ?」

 早く認めろよと言わんばかりに、勇者がニヤニヤと笑う。それに対してリオは、深いため息をついた。

「エルフ族のハーフなど、今時珍しくもないよ。混血が見下される時代は、もうとっくに終わってるさ」
「はんっ、そんなの知らねーよ!」

 しかし勇者は、まるで聞く耳を持っていなかった。

「俺たちの世界じゃ、エルフの混血は見下されて育つってのがジョーシキなんだ。偉そうなこと抜かしてんじゃねぇよ、バァカ!」
「そーだそーだ! 弱虫はすっこんでろ!」
「部外者は黙ってなさいよ! そんな簡単なことも分からないの?」
「これだから異世界人は困るんだよな。常識というモンをまるで知らねぇしよ」

 勇者の仲間たちも次々と偉そうな口調でののしってくる。それに対して魔物たちが苛立ちを見せるが、リオが手で制した。魔物たちが見上げると、リオの表情に怒りが出ていないことを悟った。
 正確に言えば、怒る価値すらない――要はそういうことなのだと。

「リオ? 一応言っておくけど……」

 するとそこに、サリアが不安そうな表情でリオに囁いてきた。

「全部アイツらの独りよがりだからね? 地球の皆があんな感じじゃ……」
「分かってる。真っ当な人間族もいるんだろう? 俺は信じてるよ」
「――ありがと」

 ニコッと笑うリオに安心するサリア。二人の間に温かく甘い空気が流れ出す。
 しかし――

「おい、サリア。早くその邪魔な部外者をどかせよ。話ができねーだろ?」

 勇者は真正面から、その空気をぶち壊してきたのだった。そのせいでサリアが苛立ちを募らせていくのだが、勇者は全く気づかない。

「そもそもお前の意見なんざ、ハナっからどーでもいいんだよ! お前は大人しく俺たちの言うことに従ってりゃいいんだ。てゆーか、それぐらい最初から分かりやがれってんだよ、バァカ!」
「な――!」

 なんですってぇ、と叫んでやりたかったが、口から言葉が出てこなかった。
 それぐらい唖然としてしまったのだ。俺様気取りを通り越した、どこまでも傲慢を極めた態度に、サリアは改めて衝撃を受けたのだった。
 そんな中、勇者は何事もなかったかのように、再びニヤリと笑う。

「お前にとってもいい話だぜ? 全ては元の世界――日本に帰るためだからな!」
「……えっ?」

 それを聞いたサリアは、思わず耳を疑った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...