透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン

220 祖父と母親、そして姉

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「いつまでここに閉じ込めておく気じゃ! せめて事情くらい話さんかい!!」

 ガンガンガン――扉を叩きつける音が空しく響き渡る。いくら叫んでも答える声は一つも返ってくることはない。
 クラーレは、深いため息をつきながら、叩く手を止めてしまう。
 分かってはいるのだ。いくら叫んだところで、いくら暴れたところで、周りは自分たちのペースでしか動かないことを。

(ワシは別にどうなっても構わん。マキトたちだけは、無事でいてほしい!)

 もはやそれ以外に願うことはなかった。何が目的で連れてこられたのかは、まだ全く判明していない。碌な理由でないことは察しがついているが、もう殆どどうでも良くなっている感じであった。
 クラーレは項垂れながら、備え付けの椅子に座る。
 窓のない小さな部屋の中をいくら見渡しても、得られる情報は殆どない。
 できれば今すぐにでも、ここから飛び出したいところだ。
 全力で魔法を放ち、周りの壁は天井、そして床の全てを破壊して脱出しようかと考えてみた。
 しかしそれは悪手だと思った。
 ここがどのような場所か分からない以上、迂闊に動いたり手を出したりするのは危険過ぎる。
 結局のところは、待つしかない――それがクラーレの出した結論であった。

(それにしても、一体いつまでワシはここに……むっ?)

 ――ゴオオォォーーッ!
 クラーレがひっそりとため息をついたその瞬間、重々しい音が響き渡る。振り向いてみると、部屋の扉が開いていた。
 そしてその先には――

「ほう? どうやら大人しくしていたようだな、元・宮廷魔導師殿」

 ヴァルフェミオンの理事を務めるウォーレスが立っていた。

「キサマ……っ!」

 そのニヤついた笑みに対し、クラーレは険しい表情で立ち上がる。
 ウォーレスの後ろに控えている二人の女性に気づかず、そのまま噛みつく勢いで立ち向かっていった。

「黒幕はキサマか! ワシをこんなところへ連れてきてどうする気じゃ!?」
「はぁ……少しは落ち着いてほしいモノだな」

 臆することなく呆れを示すウォーレス。それに対してクラーレは、更なる苛立ちを募らせていく。

「何を言うか! 人をいきなりこんなところへ閉じ込めおってからに――」
「少しは人の話を聞きたまえ。森の賢者も見ているぞ?」
「――なんじゃと?」

 ウォーレスが自身の後ろを促し、クラーレもそれにつられて視線を向ける。確かに森の賢者と言われるユグラシアがそこにいた。そしてその隣には、恐らくハーフエルフであろう少女の姿も。
 ユグラシアは困ったような笑みを浮かべ、軽く会釈をする。
 何故、彼女がこの場に連れてこられたのかについては、確かにクラーレも気になるところではある。
 しかしながら、今はそれよりも尋ねたいことが、彼の中にはあった。

「その前にワシの質問に答えろ! マキトたちは一体どこへ飛ばしたのじゃ!?」
「……何?」

 今度はウォーレスが疑問を浮かべる番だった。軽く室内を見渡してみるが、確かにクラーレと自分たち以外の人物や魔物たちの姿はいないと、ウォーレスもしっかりと確認する。
 故に、首を傾げずにはいられなかった。

「どういうことだ? 魔物使いの少年たちも一緒に転移させたハズだが……」
「しらばっくれるでないわ!」

 しかしクラーレからしてみれば、ウォーレスの態度は全て演技にしか見えず、更に怒りを燃やしてしまう。

「この期に及んで見苦しいぞ! もしあの子たちに何かがあれば、このワシが直々にキサマを成敗して――」
「あ、あのっ! ちょっと待ってください!」

 その時、クラーレの言葉を遮るようにして、アリシアが声を上げた。

「もしかして、マキトたちもここに来てるんですか?」
「むっ? お主は……」
「あ、私はアリシアと言いまして、マキトたちの……まぁ、姉みたいな者です」
「アリシア……おぉ、そうか! お主がそうじゃったか」

 名前を聞いたクラーレは、ようやく怒りを収め、小さな笑みを浮かべる。

「マキトから話は聞いておったよ。それであの子たちじゃが……確かに転移されるときは、皆で一緒の状態だったハズなんじゃ。しかし気がついたら、ワシが一人でこの部屋にいる形でな」
「なるほど、そうでしたか……」

 呆然とするアリシアの隣で、ユグラシアが納得しながら頷く。

「恐らく転移されてきたというのは本当でしょう。しかし何故かあの子たちだけ、別な場所に飛ばされた。そして恐らくそれは……」

 ユグラシアが、未だ戸惑いを見せているウォーレスに視線を向ける。

「ウォーレスさんも、想定外のことだったみたいですね」

 図星を突かれた彼だったが、それを表に出すことはしなかった。代わりに小さなため息を一つ付き、目を閉じながら肩をすくめる。

「どうやら転移魔法に誤差が生じたようだな。まぁ、別にそれならそれで、どうとでもなるから構わんがね」

 負け惜しみにしか聞こえない言い訳を述べつつ、ウォーレスは右手を掲げる。

「キミたちには、もう少しここで大人しくしていてもらおう。今は夜中だ。特にこれと言った手出しをするつもりはないから、安心して眠ってくれたまえ」

 パチンッ――と指を鳴らした瞬間、部屋の扉が開く。ウォーレスが部屋の外に出ようとしているのだ。

(部屋を出るなら、今がチャンスじゃ!)

 クラーレがそう思いながら、ウォーレスを倒すべく動き出す。しかしその瞬間、ウォーレスはニヤリと笑いながら右手を掲げ、再びパチンと指を鳴らした。
 すると――

「ぐっ、うぅっ!!」

 後ろから苦しそうなうめき声が聞こえた。クラーレが振り向くと、アリシアが胸を抑えながら崩れ落ちている。

「アリシア!」

 ユグラシアが駆け寄り、彼女を解放しようとする。これはどういうことだと、クラーレは無言のままウォーレスのほうを見た。

「ハハッ。まぁ見てのとおりだよ、クラーレ殿。余計なことはしないほうがいい」

 ウォーレスは再び、指をパチンと鳴らす。アリシアの胸から苦しみが解除され、同時に扉も閉まってしまった。
 再び閉じ込められる形となってしまったクラーレたち。
 しかしクラーレの表情に絶望はなく、苦しみを与えてしまった少女に対し、心配と申し訳なさを込めた表情を浮かべていた。

「……なにやら、事情がありそうじゃな」
「はい。ちょうどいい機会なので、全てをお話しますわ」

 ユグラシアはここに来るまでの経緯を、クラーレに粗方話した。そしてそれを聞き終えたクラーレは、椅子に座りながら重々しくため息をつく。

「――そうでしたか。それはまた、随分と因縁深いことですなぁ」

 ウォーレスとアリシアの関係だけでも驚かされたが、それ以上に自分の孫との関係性について、しみじみと頷いてしまう。

「アリシアさんとマキトも、過去でそれ相応の繋がりがあろうとは……世間というのは広いのか狭いのか、よく分からんモノですわい」
「えぇ。それについては同感です」

 ユグラシアも優しい表情で頷いた。ずっと交わることのなかった関係が、ここにきて急に繋がりを持つとは、運命的な何かを感じてならない。
 その全てが偶然によって発生したのだから、尚更と言えるものだった。

「私も驚きました。クラーレさんがマキトのお爺ちゃんだったなんて……」

 アリシアも少々の戸惑いを込めた笑みをクラーレに向ける。

「神獣の封印を解いただけでなく、テイムまで……ホントあの子ったら、一体どこまで行くつもりなんだろ?」
「フフッ、でもマキトくんらしいことだわ。アリシアもそうは思わない?」
「……まぁね」

 苦笑しながらアリシアは頷く。そんな母娘のやりとりに対して、クラーレは嬉しさを覚えていた。
 今のマキトたちには、立派な『家族』がいるのだと。
 祖父として、それがなによりであった。故に今回の事態を、尚更見過ごすわけにはいかないと思った。
 するとその時、アリシアがはたと思い出したような反応を示す。

「でも、ノーラや魔物ちゃんたちが一緒なんですよね? だったらきっと、無事でいると思いますよ?」

 その口調は、明らかに相手を宥めようとしているそれであった。それに気づいて目を見開くクラーレに、アリシアはニッコリと笑う。

「魔物ちゃんたちも強くなってますし、ノーラもかなり肝が据わってますから」
「――そうね。アリシアの言うとおりだわ」

 ユグラシアも笑顔で賛同した。
 親子だと名乗る二人は、明らかに血の繋がりがないことは分かる。しかしその強さを秘めた笑みは、どことなく似ているような気がした。
 マキトたちが見せていた笑みも含めて。

(そうか……この者たちは信じておるんじゃな。あの子たちが無事であると)

 こんなシンプルな答えに、どうして今まで辿り着かなかったのかと、クラーレは少しだけ恥ずかしくなってくる。
 心配するばかりで信じることをしていなかったと、改めて気づかされたのだ。
 マキトの祖父を名乗るなら、それくらいのことはするべきだろうと。

(ワシも一つ、しっかりせねばならんな)

 クラーレはフッと笑みを深め、そしてしっかりと目を開き、顔を上げる。

「今は、とにかくチャンスを待ちましょうぞ。体を少しでも休めて、いざというときに備えるべきですじゃ」
「――えぇ」
「はい!」

 クラーレの言葉に、ユグラシアとアリシアが強く頷いた。
 気を持ち直したその表情は、とても芯が強く、そう簡単には崩れない。そして下を向くこともない。
 来るべき時に備えて、三人は壁を背もたれにして、目を閉じるのだった。


 一方、その頃――――
 メイベルが夜の学園内を、まるで彷徨うかの如く歩き回っていた。

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