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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
223 三羽烏再び
しおりを挟む「驚いたな……まさかこんなところで会うなんて」
「いや、そりゃコッチのセリフだっての!」
呆然としながら言うディオンに、ネルソンがすかさずツッコミを入れる。
「ヴァルフェミオンで会うだけならまだしも、こんな夜中に……しかもこんな人気のない場所にいるなんざ、普通は想像もできねぇだろ」
「確かに。まぁそれは、僕らにも言えることだとは思いますがね」
エステルも肩をすくめながら苦笑する。言い得て妙だと思いながら、ディオンも小さく笑った。
「俺は今、臨時警備兵として雇われていてな。見回りの最中ってワケだ」
「ただ単にそうしているだけとも思えませんが?」
「……やっぱそう見えるか?」
「えぇ」
迷いなく頷くエステルに、ディオンは相変わらず敵わないと思ってしまう。下手に誤魔化そうとして、勝てた試しがない。それは今でも変わらないのだと改めて実感してしまった。
「まぁ、なんつーか……ちょいと人には話せない仕事を請け負ってるんだわ」
頭を掻きながらディオンが言うと、ネルソンとエステルは一瞬呆けたが、すぐさま笑みを深める。
「……なるほど」
「そーゆーことなら、理解できなくもねぇやな」
エステルに続いてネルソンも、ディオンが事情を抱えているのだと把握する。大きな立場を得ている二人だからこそ、その手の理解も早かった。
もっとも現在においては、それだけではなかった。
「つーか、割と奇遇だな。俺らも似たようなもんなんだよ」
「――ほう?」
ネルソンの言葉に、ディオンは興味深そうな表情を見せた。
「そうか……ならば互いに詮索は野暮だな」
ディオンは言葉のとおり、それ以上聞いてくることはなかった。居心地がいいような悪いような微妙な感覚に包まれながら、ネルソンは経緯を思い出す。
(実際、出くわしたのがコイツで助かったかもな。内容が内容だけに、ボカして説明するのも面倒極まりねぇしよぉ……)
ネルソンとエステルがヴァルフェミオンを訪れたのは、表向きはシュトル王国の代表として視察を行うことである。
しかし本当は、サリアや異世界召喚との密接な関係を暴くことであった。
シュトル王国の現国王であるジェフリーが、どんな伝手を辿ってその情報を手に入れたのかは、ネルソンたちも知らないことであった。根元から絶やせ――そう命じられただけなのである。
(サリアの存在は俺たちもよく知っている。どっかで生きていて、元の世界へ戻ることを諦めてねぇってのは、そんなに驚くことでもねぇが……)
問題はそのために、異世界召喚儀式の内容を掘り下げようとしていることだ。
あれは悲劇を巻き起こす以外の何物でもない。加えて、シュトル王国の闇そのものとも言える禁忌の魔法は、根こそぎ消し去るのが一番である。
ジェフリーは、ネルソンたちにそう断言していた。
彼らもその意見自体は、もっともだと思った。
もしも異世界召喚が広まれば、必然的にシュトル王国が話題に上る。過去の汚名が再び浮き上がるのも時間の問題だ。
この十年で、シュトル王国はかなり持ち直してきた。
必死に過去の汚名を濯ぎ、再び周りの国から見直されるようにまでなった。
折角ここまで立ち直ってきたというのに、またそれを傾けられるわけにはいかないというのがジェフリーの言い分だ。
――サリアをなんとしてでも止めろ!
ジェフリーからそう言われた。そして続けてこう言われたのだ。
――最悪の場合、命を奪うことも厭わない。その責任は全て私が受け持つ!
単なる口だけの言葉かと思いきや、魔力による契約まで施してきた。これには流石のネルソンも、そしてエステルも驚きを隠せなかった。
それだけ国王が本気なのだと思い知らされた。しかしながら、その心意気は殆ど建前によるものだということも、残念ながら分かっていた。
(要するにアレなんだよな……国を脅かす災いのタネを潰したいだけなんだよ、あの国王サマは)
とはいえ、政治的判断としては決して間違ってもいない。国のためならば、秘密裏に残忍なことをさせるのも、この世の中では決して珍しくはない。
なによりジェフリーに限って言えば、もう一つ特別な理由があるのだ。
ネルソンとエステルは、それをよく知っていた。
(あの人にとって異世界召喚ってのは、愛する人を奪ったカタキみてぇなもんだ。徹底的にぶっ潰したい気持ちは、分からんでもねぇけどな)
十年前の件は、今でも鮮明に思い出せる。
媒体には国王の娘――すなわちジェフリーの妻が選ばれた。しかも当時の前国王が一方的に決めたも同然の形で。
ジェフリーは最後まで猛反対していた。
妻を愛していたというのも当然ながらある。しかしそれ以上に、易々と王家の血を引く者を減らしてしまう危機感を強く抱いていた。
当時、まだジェフリーと妻の間に子供はできていなかった。
つまり彼女を失えば、王家の血を引く者は当時の国王ただ一人となってしまう。そうなれば、自分が婿養子になった意味もなくなってしまうではないかと、ジェフリーは必死に訴えた。
その言い分は確かにそのとおりだと、ネルソンは今でも思う。
しかし、国王はまるで聞く耳を持たなかった。
野心が叶えばどうとでもなると取り合ってくれず、もはや当時のジェフリーは成す術もなかった。
そして得られたのは、最悪の結末であった。
全てを失ったも同然のジェフリーが、この十年でちゃんと国王の責務を果たせているというのは奇跡に等しいと、ネルソンたちをは思う。
だからこそ、今回の案件に対しては否定しきれなかったのだ。
これであの国王の気が晴れるのならばと、ネルソンとエステルは任務を全うする覚悟を決めた。
何だかんだで二人とも、ジェフリーに対して忠誠を誓っているということだ。
国王のためならば何でもする――その覚悟を持って、二人はヴァルフェミオンに乗り込んできたのだった。
そして――今に至るというわけである。
(まっさかディオンがいるとは思わなかったぜ。詳しい事情は分からねぇが、ヤツもこの学園に潜む『大きな裏』を探ろうとしてんだろうな)
そんなことをネルソンが考えていると、ディオンがニヤリと笑ってきた。
「折角だし、俺たち三人で『視察』をしてみないか?」
その提案にネルソンもエステルも目を見開いた。
「互いに事情は言えないが、なんとなく利害が一致しそうにも思える。秘密がある者同士、手を組んでみるのも悪くはないと思うんだがな」
「……まぁなぁ」
ディオンの言葉に、ネルソンが後ろ頭を掻きながら苦笑する。そしてエステルもにこやかな笑みを浮かべてきた。
「いいんじゃないですかね? 久々に三羽烏が揃ったことでもありますし」
「だな。俺も特に、異論的なもんはねぇよ」
余計な言葉はいらない。この三人が揃えば尚更だ。それぞれに事情というものがあることも、ちゃんと理解している。だからこそ割り切って、手を向くという提案を受け入れることができる。
なんとも不思議なものだと、ネルソンは思えてならない。
単なる腐れ縁とは違う。もっと別の何か――それこそ言葉では表せない何かこそが自分たちなのだと。
その何かを例える言葉こそが、『三羽烏』なのだろう。
そしてそれを、不思議と嫌だとは思えない自分もいることを、ネルソンはちゃんと自覚しているのだった。
「んじゃ、さっさと動き出そうぜ。一時間後にここへ集合ってことでいいだろ?」
「手を組むにしても、一緒に動く理由はないですからね。分かりました」
「俺も了解だ。三羽烏らしくなってきたな」
ニヤリと笑うディオンに、ネルソンもフッと笑みを浮かべる。
「抜かしてろや。もういいから行くぞ!」
「おうっ」
「はい」
かくして久々の活動再開となった三羽烏は、意気揚々と動き出すのだった。
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