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第七章 魔法学園ヴァルフェミオン
228 仕入れた情報~三羽烏
しおりを挟む「へぇー、じゃあそのカミロって男子が、こないだから行方不明なのか……」
「そうなんスよー」
とある男子生徒からの話に、ディオンが興味深そうに耳を傾けている。
たまたま宿題のノートを教室に忘れ、それをこっそり取りに来たところを見回りの魔導師に見つかり、ペナルティを受けそうになる。
しかしそこをディオンが通りかかって声をかけたのだった。
ソイツは俺に預けてくれ――ドラゴンライダーとして有名なディオンの言葉に、その見回りの魔導師もすぐさま信用して預けた。
男子生徒はどうなるのかとビクビクしていたが、待っていたのはディオンの優しい態度であった。
早い話が助けられたということだ。
(いやー、見つかったときはもうダメだと思ったけど、まさか助けてくれるなんて思わなかったなぁ。ディオンさんってマジでいい人過ぎじゃないか)
こんな感じで男子生徒は、素直にディオンの優しさに対して感謝していた。もっともこれは、あくまで男子生徒の視線での話に過ぎない。
実際は――
(いやー、なんか情報持ってないかと思って助けてみたら、結構いい当たりを引いちまったみたいだな♪)
情報収集したいという、ある種の企みを達成するためであった。
もっとも互いに損はしておらず、立派なウィンウィンが成立しているため、なんとも言えないのも確かだろう。
黙っていれば互いに幸せでいられる、典型的なパターンの一つである。
(それにしても気になるな。テストのときだけ結果が残せない落第生、か……)
普段は問題なく魔法が使えるのに、何故か試験の時は不発となり低評価の連発。どう考えても不思議に思えてならないというのが、男子生徒の意見であった。
周りもそれに気づいていたが、声をかける者は殆どいなかった。
男子生徒曰く、誰しも自分のことで精いっぱいだったからとのことだったが、ディオンからすれば建前にしか見えなかった。
(まぁ、藪蛇になりたくない気持ちは分からんでもないが、それはともかく――)
内心でほくそ笑みつつ、ディオンは考える方向を切り替える。今は男子生徒たちの気持ちについては、正直なところどうでもいい。
「何か裏がある、か……」
「ディオンさんもそう思うッスよね?」
呟きに反応した男子生徒が、嬉しそうな表情を見せる。
「いやー、俺もそうじゃないかと思ってるんスよ。何せアイツを担当していた先生が突然辞めちまいましてね。きっとあの先生が陥れてたんじゃないかって、俺たちの間ではウワサになってるんスわ」
「陥れた?」
「えぇ。なんでそんなことをしたのかは分かんないっスけど、辞めたのはきっと、良心の痛みに耐えられなかったからじゃないッスかね? それなら最初からしなけりゃいいってのに……」
肩をすくめながらペラペラと喋る男子生徒。いい気分に浸っていることは容易に想像がつくが、そこについて指摘することもなかった。
むしろ色々と喋ってくれる点では、実にありがたいほどである。
「その先生とやらは、何か困ったことがあったんだろうかな?」
「さぁ……たまに理事と話しているのを、チラッと見たことはあるッスけど」
「理事ねぇ」
ディオンは呟きながら思う。なんとなくピースが揃ってきた気がすると。
(恐らくその先生は利用されたクチか……となると理事のほうがキーカードだな)
教師が生徒を陥れるなど、何か大きな理由でもなければ実行しない。しかし裏に大人物がいれば、話は別となってくる。
ヴァルフェミオンの理事の謎については、ディオンも割と気になっていた。
今回、自分たちが調べようとしていることについて、何か大きな関係がある可能性は十分にあり得るとも思えた。
(なんとなく聞いちまった不祥事的な出来事が、まさか繋がってるとはな)
無論、これはまだ可能性の域を出ていない。しかし頭の片隅に留めておく価値は十分にあると、ディオンは認識する。
小さな笑みを浮かべ、ディオンは男子生徒の肩に手を置いた。
「話を聞かせてくれて感謝する。向こうから行けば、見張りに見つからずに寮へ戻れるハズだ。さぁ、早く行きなさい」
「は、はいっ! ありがとうございました!」
「いいから、あと声を抑えろ」
「はっ――むぐっ!」
男子生徒は手で口を抑えつつ、何度もペコペコと頭を下げながら、ディオンが指をさした方向を走っていく。
それを見送り、とりあえず待ち合わせ場所に戻るかと思い、彼も歩き出した。
すると――二人分の足音が近づいてきた。
「よぉ、ディオン。こんなところにいやがったか」
「一人の生徒が走っていくのを見かけて、もしやとは思ったら案の定ですよ」
ネルソンとエステルだった。それはそれとして、ディオンはエステルの言い回しが少しだけ気になった。
「念のために聞くが、もしやってのはどーゆー意味で言ってるんだ?」
「さっきの子は、明らかに嬉しそうな笑顔だったんですよ。まるで憧れている雲の上のような人に出会えたかのように」
「で、こんな夜中でそんなのに会えるとしたら、オメェぐらいだと思ったのさ」
「――なるほどな」
二人の言い分に、ディオンは納得するしかなかった。
実際、ドラゴンライダーとして世界をあちこち回っている中、割と彼の元に人が群がってくることも多いのだ。
「ヴァルフェミオンでも、ディオンの名前は健在だもんなぁ。羨ましいぜ」
皮肉っぽく笑うネルソンに対し、ディオンもニヤリと笑う。
「そーゆーお前らも、この学園では割と有名だぞ?」
「俺ら? そりゃあエステルは分かるが、俺は別にそうでもねぇだろう?」
確かにシュトル王国の宮廷魔導師を務めるエステルの存在は、学生たちの間でもかなり有名である。しかしディオンは、魔法が使えない騎士団長の身だ。いくら高い立場を得ているとはいえ、ここは魔法学園。評価基準から漏れ出ると考えるのは自然と言える。
「いや、存外そうでもなかったりするぞ?」
しかしディオンは、この潜入捜査で確かに耳にしていたのだった。
「ネルソンのファンだっていう学生も、男女問わずそれなりに存在してるのさ。別に気を使ってるワケじゃないぞ? むしろ俺も驚いてるくらいだ」
「マ、マジかよ……ったく、ミーハーなガキどもが!」
そっぽを向くネルソンであったが、その態度がどういう意味を示しているかは、二人にはお見通しであった。
「おいおい。ここには俺たちしかいないだろう? 素直に喜んだらどうだ?」
「ディオンの言うとおりですよ。下手な学生より子供っぽいですよ?」
「う、うるせぇっ!」
狼狽えながら声を荒げるネルソンに、エステルとディオンは声を上げて笑う。そんな三人の姿は、かつて『三羽烏』と呼ばれていた冒険者時代のそれと、全く同じであることを当の本人たちは気づいていない。
「だーもう、俺のことはいいんだよ! んなことより――」
無理やり話題を変えがてら、ネルソンはエステルに視線を向ける。
「エステル! オメェも何か情報を仕入れてきたって言ってただろうが!」
「おっと、僕としたことが忘れてましたね」
大袈裟気味に肩をすくめつつ、エステルは苦笑する。そしてコホンと一つ咳ばらいをして、姿勢を戻しながら切り出した。
「実は最近、とあるお調子者の落第生候補三人が、何かしでかして厳罰を喰らったという情報を得たんです」
その三人のリーダー的存在の名前は、クレメンテという男子であった。彼は典型的なお調子者の貴族であり、いつも取り巻き二人を侍らせて、事あるごとに自分を高く見せようとしてきていたらしい。
もっとも口だけの男であることも確かであり、周りからの評価は低かった。
最近、行方知れずになった男子生徒も、彼の被害者であったらしく、哀れに思う者も多かったのだとか。
ちなみに、そのクレメンテたちに罰を与えたのは、なんと理事のウォーレスだという噂が流れている。
しかしこればかりは流石にないだろうと思っており、その生徒たちは心から信じてはいなさそうであったというのが、エステルの感想であった。
「そしてこの学園に、かつて僕が面倒を見ていた後輩がいたんですが……」
「最近、急に辞めちまったんだってな」
「そうなんですよねぇ」
ネルソンの言葉にエステルはため息をつく。
「久しぶりに会いたかったんですが、ホント残念ですよ」
「なんでも学生に対して不正を働いていたとか、ウワサされてたな」
「流石に何かの間違いとは、思いたいところですがね」
「気持ちは分かるがな。まぁ、いねぇモンは仕方がねぇだろ」
「……ですね」
割と本気で落ち込むエステルの肩に、ネルソンがポンと手を置いた。そんな二人の姿を見つつ、ディオンは顎に手を当てながら考える。
(ここでもウォーレスが出てきたか。そして急に辞めたという先生の話も……)
学生から聞いた話と、あながち無関係とは思えなかった。少し調べてみる価値があるかもしれない――そう思っていた時だった。
「ディオンさん!」
聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。三人が振り向くと、そこにはメイベルを連れたリスティが、険しい表情で駆け寄ってくる。
「――あれ、そちらの方々は?」
一人だったはずのディオンに二人追加されていることに気づき、リスティは思わず首を傾げる。
その反応を新鮮に思いつつ、ネルソンとエステルは小さく笑った。
「驚かせてしまってすみません。私はディオンの旧友のエステルと申します」
「同じく、ネルソンだ。ちょいと野暮用で来たら出くわしちまって、ついつい雑談に花を咲かせちまったって感じだな」
「はぁ、どうも……私はリスティと申します」
「えっと、私はメイベルと言います。どうも初めまして」
戸惑いながらも、なんとなく自己紹介をしてしまったリスティとメイベル。しかしすぐさま、ハッと我に返るのだった。
「って、そうだ! それどころじゃなかったんだ!」
「――何かあったのか?」
明らかに様子がおかしい二人に、ディオンたち三人は表情を引き締める。そしてリスティは、拳を握り締めながらハッキリと告げた。
「この子のお姉さんが、ウォーレスとか言う理事の人に連れていかれたの! しかも森の賢者様まで一緒だったんだって!」
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