透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
228 / 252
第七章 魔法学園ヴァルフェミオン

228 仕入れた情報~三羽烏

しおりを挟む


「へぇー、じゃあそのカミロって男子が、こないだから行方不明なのか……」
「そうなんスよー」

 とある男子生徒からの話に、ディオンが興味深そうに耳を傾けている。
 たまたま宿題のノートを教室に忘れ、それをこっそり取りに来たところを見回りの魔導師に見つかり、ペナルティを受けそうになる。
 しかしそこをディオンが通りかかって声をかけたのだった。
 ソイツは俺に預けてくれ――ドラゴンライダーとして有名なディオンの言葉に、その見回りの魔導師もすぐさま信用して預けた。
 男子生徒はどうなるのかとビクビクしていたが、待っていたのはディオンの優しい態度であった。
 早い話が助けられたということだ。

(いやー、見つかったときはもうダメだと思ったけど、まさか助けてくれるなんて思わなかったなぁ。ディオンさんってマジでいい人過ぎじゃないか)

 こんな感じで男子生徒は、素直にディオンの優しさに対して感謝していた。もっともこれは、あくまで男子生徒の視線での話に過ぎない。
 実際は――

(いやー、なんか情報持ってないかと思って助けてみたら、結構いい当たりを引いちまったみたいだな♪)

 情報収集したいという、ある種の企みを達成するためであった。
 もっとも互いに損はしておらず、立派なウィンウィンが成立しているため、なんとも言えないのも確かだろう。
 黙っていれば互いに幸せでいられる、典型的なパターンの一つである。

(それにしても気になるな。テストのときだけ結果が残せない落第生、か……)

 普段は問題なく魔法が使えるのに、何故か試験の時は不発となり低評価の連発。どう考えても不思議に思えてならないというのが、男子生徒の意見であった。
 周りもそれに気づいていたが、声をかける者は殆どいなかった。
 男子生徒曰く、誰しも自分のことで精いっぱいだったからとのことだったが、ディオンからすれば建前にしか見えなかった。

(まぁ、藪蛇になりたくない気持ちは分からんでもないが、それはともかく――)

 内心でほくそ笑みつつ、ディオンは考える方向を切り替える。今は男子生徒たちの気持ちについては、正直なところどうでもいい。

「何か裏がある、か……」
「ディオンさんもそう思うッスよね?」

 呟きに反応した男子生徒が、嬉しそうな表情を見せる。

「いやー、俺もそうじゃないかと思ってるんスよ。何せアイツを担当していた先生が突然辞めちまいましてね。きっとあの先生が陥れてたんじゃないかって、俺たちの間ではウワサになってるんスわ」
「陥れた?」
「えぇ。なんでそんなことをしたのかは分かんないっスけど、辞めたのはきっと、良心の痛みに耐えられなかったからじゃないッスかね? それなら最初からしなけりゃいいってのに……」

 肩をすくめながらペラペラと喋る男子生徒。いい気分に浸っていることは容易に想像がつくが、そこについて指摘することもなかった。
 むしろ色々と喋ってくれる点では、実にありがたいほどである。

「その先生とやらは、何か困ったことがあったんだろうかな?」
「さぁ……たまに理事と話しているのを、チラッと見たことはあるッスけど」
「理事ねぇ」

 ディオンは呟きながら思う。なんとなくピースが揃ってきた気がすると。

(恐らくその先生は利用されたクチか……となると理事のほうがキーカードだな)

 教師が生徒を陥れるなど、何か大きな理由でもなければ実行しない。しかし裏に大人物がいれば、話は別となってくる。
 ヴァルフェミオンの理事の謎については、ディオンも割と気になっていた。
 今回、自分たちが調べようとしていることについて、何か大きな関係がある可能性は十分にあり得るとも思えた。

(なんとなく聞いちまった不祥事的な出来事が、まさか繋がってるとはな)

 無論、これはまだ可能性の域を出ていない。しかし頭の片隅に留めておく価値は十分にあると、ディオンは認識する。
 小さな笑みを浮かべ、ディオンは男子生徒の肩に手を置いた。

「話を聞かせてくれて感謝する。向こうから行けば、見張りに見つからずに寮へ戻れるハズだ。さぁ、早く行きなさい」
「は、はいっ! ありがとうございました!」
「いいから、あと声を抑えろ」
「はっ――むぐっ!」

 男子生徒は手で口を抑えつつ、何度もペコペコと頭を下げながら、ディオンが指をさした方向を走っていく。
 それを見送り、とりあえず待ち合わせ場所に戻るかと思い、彼も歩き出した。
 すると――二人分の足音が近づいてきた。

「よぉ、ディオン。こんなところにいやがったか」
「一人の生徒が走っていくのを見かけて、もしやとは思ったら案の定ですよ」

 ネルソンとエステルだった。それはそれとして、ディオンはエステルの言い回しが少しだけ気になった。

「念のために聞くが、もしやってのはどーゆー意味で言ってるんだ?」
「さっきの子は、明らかに嬉しそうな笑顔だったんですよ。まるで憧れている雲の上のような人に出会えたかのように」
「で、こんな夜中でそんなのに会えるとしたら、オメェぐらいだと思ったのさ」
「――なるほどな」

 二人の言い分に、ディオンは納得するしかなかった。
 実際、ドラゴンライダーとして世界をあちこち回っている中、割と彼の元に人が群がってくることも多いのだ。

「ヴァルフェミオンでも、ディオンの名前は健在だもんなぁ。羨ましいぜ」

 皮肉っぽく笑うネルソンに対し、ディオンもニヤリと笑う。

「そーゆーお前らも、この学園では割と有名だぞ?」
「俺ら? そりゃあエステルは分かるが、俺は別にそうでもねぇだろう?」

 確かにシュトル王国の宮廷魔導師を務めるエステルの存在は、学生たちの間でもかなり有名である。しかしディオンは、魔法が使えない騎士団長の身だ。いくら高い立場を得ているとはいえ、ここは魔法学園。評価基準から漏れ出ると考えるのは自然と言える。

「いや、存外そうでもなかったりするぞ?」

 しかしディオンは、この潜入捜査で確かに耳にしていたのだった。

「ネルソンのファンだっていう学生も、男女問わずそれなりに存在してるのさ。別に気を使ってるワケじゃないぞ? むしろ俺も驚いてるくらいだ」
「マ、マジかよ……ったく、ミーハーなガキどもが!」

 そっぽを向くネルソンであったが、その態度がどういう意味を示しているかは、二人にはお見通しであった。

「おいおい。ここには俺たちしかいないだろう? 素直に喜んだらどうだ?」
「ディオンの言うとおりですよ。下手な学生より子供っぽいですよ?」
「う、うるせぇっ!」

 狼狽えながら声を荒げるネルソンに、エステルとディオンは声を上げて笑う。そんな三人の姿は、かつて『三羽烏』と呼ばれていた冒険者時代のそれと、全く同じであることを当の本人たちは気づいていない。

「だーもう、俺のことはいいんだよ! んなことより――」

 無理やり話題を変えがてら、ネルソンはエステルに視線を向ける。

「エステル! オメェも何か情報を仕入れてきたって言ってただろうが!」
「おっと、僕としたことが忘れてましたね」

 大袈裟気味に肩をすくめつつ、エステルは苦笑する。そしてコホンと一つ咳ばらいをして、姿勢を戻しながら切り出した。

「実は最近、とあるお調子者の落第生候補三人が、何かしでかして厳罰を喰らったという情報を得たんです」

 その三人のリーダー的存在の名前は、クレメンテという男子であった。彼は典型的なお調子者の貴族であり、いつも取り巻き二人を侍らせて、事あるごとに自分を高く見せようとしてきていたらしい。
 もっとも口だけの男であることも確かであり、周りからの評価は低かった。
 最近、行方知れずになった男子生徒も、彼の被害者であったらしく、哀れに思う者も多かったのだとか。
 ちなみに、そのクレメンテたちに罰を与えたのは、なんと理事のウォーレスだという噂が流れている。
 しかしこればかりは流石にないだろうと思っており、その生徒たちは心から信じてはいなさそうであったというのが、エステルの感想であった。

「そしてこの学園に、かつて僕が面倒を見ていた後輩がいたんですが……」
「最近、急に辞めちまったんだってな」
「そうなんですよねぇ」

 ネルソンの言葉にエステルはため息をつく。

「久しぶりに会いたかったんですが、ホント残念ですよ」
「なんでも学生に対して不正を働いていたとか、ウワサされてたな」
「流石に何かの間違いとは、思いたいところですがね」
「気持ちは分かるがな。まぁ、いねぇモンは仕方がねぇだろ」
「……ですね」

 割と本気で落ち込むエステルの肩に、ネルソンがポンと手を置いた。そんな二人の姿を見つつ、ディオンは顎に手を当てながら考える。

(ここでもウォーレスが出てきたか。そして急に辞めたという先生の話も……)

 学生から聞いた話と、あながち無関係とは思えなかった。少し調べてみる価値があるかもしれない――そう思っていた時だった。

「ディオンさん!」

 聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。三人が振り向くと、そこにはメイベルを連れたリスティが、険しい表情で駆け寄ってくる。

「――あれ、そちらの方々は?」

 一人だったはずのディオンに二人追加されていることに気づき、リスティは思わず首を傾げる。
 その反応を新鮮に思いつつ、ネルソンとエステルは小さく笑った。

「驚かせてしまってすみません。私はディオンの旧友のエステルと申します」
「同じく、ネルソンだ。ちょいと野暮用で来たら出くわしちまって、ついつい雑談に花を咲かせちまったって感じだな」
「はぁ、どうも……私はリスティと申します」
「えっと、私はメイベルと言います。どうも初めまして」

 戸惑いながらも、なんとなく自己紹介をしてしまったリスティとメイベル。しかしすぐさま、ハッと我に返るのだった。

「って、そうだ! それどころじゃなかったんだ!」
「――何かあったのか?」

 明らかに様子がおかしい二人に、ディオンたち三人は表情を引き締める。そしてリスティは、拳を握り締めながらハッキリと告げた。

「この子のお姉さんが、ウォーレスとか言う理事の人に連れていかれたの! しかも森の賢者様まで一緒だったんだって!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...