グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅲ

第141話 北部奪還戦争⑪

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『兄ちゃん! 無事!?』

 オレがへたり込んでいると、通信装置からナナの声が聞こえた。

「あ? あ、ああ! 無事だよ、無事! ナナは大丈夫か?」

『え? 私は無傷に決まってんじゃん。スカイベースにずっと乗って戦ってただけ』

「そ、そうか! 良かった!」

 オレはナナが何ともないと知り、さらに力が抜ける気がした。

「ナナさん。お兄さんは魔素切れよ。今そっちに連れていくから誰か治療をお願い」

 オレの直ぐ後ろには鏑木が立っており、オレの首を掴んだ。

(え!? 鏑木さん?)

『了解しました。今、集中治癒結界を展開します。兄が苦労を掛けます』

「いいのよ」

 鏑木はそう言うとオレを荷物か何かのように持ち上げて運び始めた。

(ちょ、ちょっと! 少し休めば歩けるよ!)

「か、鏑木さん!」

「いいのよ。佐々木くん」

(はあ?)

「さっきはありがとう。私ももう魔素が尽き掛けていて、敵に気付かなかった。先日の戦いのときもそう。あなたに助けられたわ」

 鏑木はオレにニコリと笑顔を見せた。

(ほ、惚れてまう!)

『鏑木班長! こちら菅原! 周囲のA級はスカイベースにて殲滅出来そうです!』

「ええ」

『ですが! 千城隊長が苦戦しているようです! S級にやられ掛けていて、今は欄島隊員がS級グールと交戦中!』

「……何故今それを私に?」

『助けに行かないんですか!?』

 オレたちはこの会話の間にスカイベースに乗り込んでいる。
 既にスロープも格納され、機体に設置してある集中治癒結界に入り、外に出ていた全員が魔素とケガの回復に努めていた。

 オレも含め、開拓部隊の初期メンバーがここには揃っている。

 鏑木はオレたちの顔をぐるっと見渡してから、背中を向けた。

「行くに決まってるでしょう!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 グールを忍術で痛め付けた後、阿倍野は桐生の前に立ちはだかっていた。グールもまだ完全に死んだわけではないが、もう瀕死という状態だった。

「それで? お前らはなんでグールを集めてるわけ?」

 桐生は阿倍野の攻撃を受けたが、まだまだ余裕という顔は崩さない。

「それは教えられませんよ。オレが怒られてしまう」

「うーん、そうか、分かったよ。じゃあ仕方ない」

 桐生が怪訝な顔を浮かべた。

「答えないなら実力行使しかないね」

 ドン!

 阿倍野は魔素を迸らせて桐生を威圧した。

「そ、そんなことをしている場合ですか? それに、あなたにはもうそこまで余力が残っていないでしょう」

 桐生は一筋の汗を流しながら阿倍野に警告をした。

「オレのところに来れば、グールを横取りできる。そう判断したんだろ? それも二度も。新トウキョウ都市のギルドマスターとしてそんな舐めた真似はもうさせられないからね。無理もするさ」

 阿倍野は全身に力を込めて両手を合わせた。

「答えろ」

阿倍野の目が鋭く光った。

「……仕方ない! 五度天輪!! 三条護符!!」

 桐生は言葉の代わりに全身に光の魔方陣を展開した。

「……戦うしかないね」

 阿倍野は小さく呟いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 欄島が相対するのは以前にも阿倍野からグールを横取りした際に桐生に立ち会っていた2人だ。

 男は黒いスウェットを上下に来て、茶髪の青年。
 女はセーラー服を着た若い女性だ。

「あなたたち。もしかしてワイズのメンバーかしら?」

 欄島が銃を打ち出す前に、吻野が冷静を保って聞いた。もう魔素が残っていない彼女はここから戦いが始まると圧倒的に不利となる。まずは時間を稼いで少しでも魔素を回復させようとしていた。

 吻野はこの2人がかなりの戦力を持っていることは一目で分かっていた。

「そうよ。そこのグールはウチラがあとは面倒見るから。もう帰っていいよ」

「グールをもらうとか、面倒を見るってどういうこと?」

「は? どうでもいいでしょ、そんなこと」

 吻野はセーラー服の女の子の発言には、とてつもない怒りを覚えた。いつもなら魔術を連発して返事をするところだが、今はその魔素がない。

「そ、そう。ところで、私は新トウキョウ都市中央部所属の吻野モモ、S+級隊員よ。あなたは?」

「へえ、あんたが……。名前は知ってる。新トウキョウ都市の特級戦力の1人でしょ? その割にはボロボロじゃない」

 吻野は激しい怒りを抑えるので精一杯だ。質問に質問で返す無礼さ。自分をあんた呼ばわりする舐めた態度。とてもこれ以上の会話は不可能だと理解した。

「……」

「どうしたの? ウチが聞いてんだけど。耳が遠いの?」

 吻野の我慢はついに限界を越えた。

「あなた、私たちの前からグールを奪っていくつもりみたいだけど、そのまま何事もなく帰れると思っているの?」

 セーラー服の女の子は可憐な顔に似合わない、凶悪な笑みを浮かべた。

「それ、どういう意味よ?」

「ケガしたく無かったら、グールはここに置いて私たちに頭を下げて帰りなさい。目障りだけど、今なら許してあげてもいいわ」

 吻野がそう言った瞬間、女の子は両手を広げた。

「二度天輪!!」

 女の子が叫ぶと細い両手と両足に光の魔方陣が取りついた。

「頭、下げさせてみなよ。吻野モモ」

「あれ、吻野? もういいの?」

 ここで欄島が割って入ってきた。欄島も吻野が時間稼ぎをしていることは分かっていた。

「ええ。あの態度にはもう我慢できないわ」

 吻野はそう言って通信装置を開いた。

「討伐軍に同期した各種携帯結界を緊急射出。あなたたちは千城さんを回収して待機よ」

 吻野は後方に近付いて来ていた、スカイベースに指示を飛ばした。

『こちら菅原! 了解!』

ドドドン!!

 まだ数百メートル離れているスカイベースより、いくつもの砲弾が打ち出された。
 打ち出されたものは、弾丸ではなく討伐軍の隊員にのみ作用するように同期された携帯結界で、治癒、治療、魔素回復、身体能力向上、隊員以外の身体能力低下などの効果がある。

 吻野はスカイベースの接近を感知して、その援護を見込みワイズとの戦闘を決意していた。

「あなた、その舐めた態度を後悔させてやるわ」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「S級の反応は消えたのでは? 今の指示はどういうことだ?」

 オレたちは集中治癒結界の中で、吻野の指示を聞いていた。
 だが、つい先ほどS級グールを倒したとオレたちは感知していたため、何故スカイベースに戻らず援護を要請するのか、セイヤはそれを疑問に思っていた。

「吻野隊員たちの側に知らない反応が2つあるわ。グールじゃない。誰かしら?」

 鏑木も感知能力で現在の状況を探っていた。

「……これは、あの時の奴らだ」

「セイ?」

「セイヤ! これは東部遠征のときも来た、あのワイズってやつらだ! こんなところまで来たのか!?」

「何?」

 オレの言葉には遊撃部隊も面々も驚いている。さすがにこれだけのメンバーであれば彼らのことも皆知っているようだ。

「ワイズ? あの討伐軍の離脱者の集まりだっていう? ここに何をしに来たんだ?」

 御美苗も何故今ここでという疑問を顔に出していた。

「御美苗さん、前のときあの人たちは強いグールを集めていると言っていました。だから多分今回も……」

「確かにそう言っていたな。もしかしてそれでモモと揉めているのか」

 セイヤも状況が読めてきたようだ。

「え? 揉めてるって、でも同じ人間ですよね? こんなグールの群れの真ん中でわざわざ人間同士で戦わなくても……」

 志布志の言うことは最もだ。オレたちは人間同士で揉めている場合ではない。

「まあ、吻野隊員の判断だ。彼女なら問題ないだろう。まず千城隊長を救出して、我々は残りのグールを討伐しよう」

「ええ、そうね。吻野隊員と欄島隊員がいれば大丈夫ね。まずは千城隊長よ。私が行くわ」

 山崎と鏑木がそう話すが、おそらくここにいるメンバーはワイズという組織の強さを知らない。
 セイヤやユウナ、アオイは直接彼らを見たが、その強さまでは理解しきってないだろう。

「……あの」

 オレはおずおずと声を上げた。

「どうした?」

 セイヤがオレを見た。

「オレは前回、このワイズの2人を近くで見ました。だからこの2人の強さは感知で知っています」

「そうなの? それで?」

 鏑木が何を言い出したのかと眉を潜めた。

「このままでは、モモさんと欄島さんは負けると思います。援護に行きましょう」
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