グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅳ

第168話 歓談②

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「君たちはずいぶん仲がいいようだね」

 声を出したのは、オレたちのことを見ていた二宮だ。

「すみませんでした。二宮さん。同郷の者だけで話をしてしまって」

 セイヤが謝ったが、二宮はまるで気にしてはいないようだ。

「同郷か。君たちは新ツクバ都市の出身だね」

「はい、そうです。よくご存知ですね」

 菅原が感心の声を返すが、これは二宮の思考透視能力だろう。

「いや、私も思考透視能力があるからね。だいたいのことは分かる」

「なるほど、そうなんですか。さすがだ……」

「ありがとう、菅原くん。……ところでさっきの話の中で、少し気になったことがあってね。これは余計なことかも知れないが一応言っておくことにする」

(? 気になったこと?)

「月城さん」

 二宮がユウナを呼んだ。

「え? わ、私ですか?」

「ああ。君は阿倍野マスターが時間転移については分からないと言った時、喜んだね。ここでその理由を話して欲しい」

「え? 喜ぶ……? そんなはずはないんじゃ?」

 オレは二宮が何を言い出したんだと不思議に思った。

「そ! それは……! 二宮さん! え? 今ここでですか!? そ、それは……全部お見通しってことですよね……」

 ユウナが顔を赤くして狼狽している。

「悪いが、私たちはいつ命を失うか分からない生活だ。気付いてしまった以上、君たちに後悔はさせたくない」

「あ、ああ……、そうなんですね……」

 ユウナは少し俯いてしまった。

「どうした? 大丈夫か、ユウナ?」

 状況が良く分からないが、ユウナはひどく動揺しているようだ。

「さ、佐々木さん。あの、私は、阿倍野さんから時間転移については分からないって聞いた時……」

「うん?」

「本当にごめんなさい、私は嬉しかったんです」

「嬉しかった? 何でだよ、ユウナ?」

 アオイもどうしたんだと疑問が顔に出ている。

「う……ん。だって、佐々木さんがすぐに居なくなったりしないって分かったから……」

(……え!?)

「そ、それって……?」

「あ、あの私は。佐々木さんと一緒に任務が出来ること、一緒に行動出来ることが。佐々木さんと一緒にいることが……幸せなんです」

「ゆ、ユウナ……」

「だから、今日の話によっては、佐々木さんはもしかして居なくなってしまうかもと。そう思っていたので……」

「だから、嬉しかったと?」

 セイヤの問いに、ユウナはコクンと頷いた。

「……」

 場が沈黙に包まれた。

「兄ちゃん、兄ちゃん」

 ナナがオレのことをつんつんとつついてきた。

「早く何か言いなよ」

「え?」

「え? じゃないっしょ。ユウナさん待ってるよ」

(そ、そうなのか……? でも何て言えばいいんだ?)

「自分の思うことを素直に言いなよ。兄ちゃんは言葉なんか選んでたら相手に変な勘違いさせることあるんだから」

 ナナがやれやれという風にため息を吐いた。

(う、うるせえな!)

「ゆ、ユウナ……」

「は、はい……」

 ユウナが少しだけ顔を上げて上目遣いでオレを見た。

「お、オレはこの時代に突然放り出されて、ずっとがむしゃらにグールの相手をしてきた」

「はい」

「それはオレの家族を取り戻すためで、それは今も続いてる」

「分かっています」

「だから、少し時間をくれないか?」

「時間……?」

「うん。オレの頭の中は今はラクやユキのことでいっぱいでさ……。生き延びること、強くなることで精一杯なんだ。だけど、オレたち家族が4人揃ったら、また改めてこういう話をさせてくれ。いや、ユウナとこういう話がしたいんだ」

「そう……ですか」

「ユウナ、おれはさ。初めてユウナに会った時、ユウナに助けてもらっただろ? あの時から、オレはユウナのことは天使みたいに思ってる」

「兄ちゃん天使ってww ウケる」
「佐々木スゲーな」

 オレの強化聴力は、ナナとアオイの小さな呟きを聞き逃さなかった。

「と、とにかく! オレは! オレもユウナのことを大切に思ってる!」

オオオ!

 周りが歓声を上げた。
 言いやがった、という雰囲気だ。

「さ、佐々木さん……」

 ユウナも赤い顔でオレを見ている。
 正直めちゃくちゃかわいい。

「と、とにかく。オレの気持ちはそういうこと! まずは新トウキョウ都市へ攻めてくるグールへの備え。それに集中しよう。それでいいかな? ユウナ」

「はい……ありがとうこいました」

 パチパチパチパチ!

 周りが今度は拍手を始めた。

「兄ちゃん、良かったじゃん! たぶん、もう一生こういうことはないよ!」
「佐々木とユウナなら。まー仕方ねー。ギリだな。ギリギリ認めてやる!」
「セイ。女性を悲しませるようなことはしてはいけないぞ」
「佐々木くん。おめでとう。あなたって意外ともてるのね」

(こ、こいつら。絶対楽しんでるな……)

「おめでとう、私からも祝福するよ」

「に、二宮さん……」

 そうだ。この人が元凶だ。こんな公開処刑みたいなことになったのは。

「まあ、良いじゃないか。これが私からの手向けだ」

「そ、そうですか……」

「それとだ。もうひとつ言っておく。佐々木くん、君はまだハッキリと自覚していないようだからね」

(こ、今度は何だ?)

「君が100年前に戻るということは、この時代にいるラクさん、ユキさんと別れるということでもある」

「!!」

「この先君が100年前に戻るのか、それともこの時代に残るのか。考えておいた方がいい。どちらの時代でも君の家族は居るのだから」

「そう……ですね」

 これは盲点だった。
 オレは100年前の時代に戻ることだけを考えて今まで討伐隊員として働いてきたのだ。
 まさかこの時代に生き残ったラクとユキが居るとは……
 どうすればいいのか皆目検討がつかない。
 まずはこの時代のユキに会ってみないことには。

「まあ、そうだろうね」

 思考を読まれた……

「え? 兄ちゃん気付いてなかったの?」

 ナナが何の気なしにオレに言った。

「ナナ? お前は分かってたのか? どちらかの時代のラクとユキとは別れなければいけないって」

「いや。違くない? ラクとユキがここにいるんだから。もう100年前には戻る必要はなくなったってだけじゃん」

「お前……、そんな簡単なことじゃないだろ……」

「何で? 確かに友達とかを助けたいとは思うけど、戻ってもパンデミックは起きる訳じゃん。全員は助けられないし……」

「そうじゃなくて! 家族の話をしてるんだよ!」

 的外れなことを言うナナについ大きな声が出てしまう。

「だから! 家族は全員揃ってんじゃん! この時代に! 逆に何が嫌なの?」

 オレはナナのこの言葉には少しだけ目が覚めた思いがした。
 オレは100年の隔たりを経て、今の時代のラクとユキ。100年前のラクとユキを違う人物のように感じてしまっていたのだ。
 この時代に、オレの家族は全員いる。

 その事に、当たり前のことに改めて気付かされた。

「……家族は、家族ってことか」

「? 当たり前じゃん」

「はははっ。そうだな」

「え? キモ。何で笑ってんの?」

「まあ、まずはユキに会ってみよう。なあナナ。ユキはユキだよな」

「だから当たり前じゃん」

「そうだな」

 オレはナナと話をして、少しだけ気持ちが楽になった気がした。ナナはそんなことは全く考えてないだろうが、家族の悩みは家族と話すと収まるものだなと、心底思っていた。

「気持ちの整理はついたようだな」

「あ、はい。二宮さん、ありがとうございます」

 二宮はオレの自覚のないもやもやした気持ちにも気付いていたのだろう。それでこんなに気を回してくれて。ユウナのこともそうだが、本当にありがたい。

「佐々木くん。君はさっき伊達マスターに言われていたな。一緒に頑張ろう、と」

「え? はい。そうですね」

「グールの王を倒す。そう決意しているのは私も同じだ。共にグールの王を倒そう」

「に、二宮さん……! はい、ありがとうございます! 必ず倒しましょう!」

「いい顔だ。佐々木くん。いや佐々木。では、言いたいことは言えた。私はこれで失礼する。シオリ、行こうか」

「あ、はい」

 急にオレを呼び捨てにすると、二宮とシオリがこの場を離れると、何となく気まずい沈黙が降りた。

「佐々木、何かしゃべれ」

 アオイがオレにつっけんどんに声を掛けてきた。

「な、なんでオレ?」

「ユウナが緊張してんだろーが」

 その言葉にユウナを見ると、オレと目が合った。
 ユウナはふっと目をそらすと、頬を赤くしている。

「あ……」

「ユウナ、あの……」

「はい……?」

「その、これからもよろしくな」

「……こちらこそ。よろしくお願いします……」

 ユウナははにかんだ笑顔でそう言って、オレのことを見つめてきた。

(か、かわいい……!)

「兄ちゃんそれだけかよww」
「だせーな、佐々木」

 オレの強化聴力は、ナナとアオイの小さな呟きを聞き逃さなかった。

「もういいよ! とにかくみんな、生き残ってまた会おうな!」

「佐々木くんにしてはいいことを言うわね。みんな、もうすぐ戦争よ。気を引き締めましょう」

「吻野班長の言うとおりだな。オレたちは新ヒロシマ都市で。吻野班は新トウキョウ都市で。それぞれ勝利を勝ち取ろう」

 吻野と菅原が皆に激励をかける。
 もちろん。みんなで生きて勝つ。
 オレたちは全員、その決意は同じだった。
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