グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第206話 ワイズ会談⑨

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「嘘だろ? ほとんど一方的じゃねえか」
「いや、レンカが弱いだけでしょ」

 ワイズの幹部たちが何やら会話を交わしているのが聞こえる。だが、オレにはそんなことは気にならなかった。

「ユキ! オレが勝ったぞ、どうだった!?」

 オレはユキに問いかけるが、ユキは舌打ちでオレに答えた。

「調子に乗るな。だが、お前たちの実力と魔素性は分かった。まあ、新キョウト都市へは連れていってもいいだろう」

「いや実力とかじゃなくて、オレが本物だってことだよ!」

「黙れ。こんな戦いひとつで信用できるわけないだろうが。……だがな、ただの偽物ではないと、少しだけは認めてやろう」

「ほんとか! じゃあ!」

「黙れと言っている。まだ本物だと認めたわけではない」

「……」

 (強情だな。少しだけ認めるって言うのはどういうことだ??)

「まあまあ! 佐々木くん、一歩前進だね! ユキさんも彼らの思いはさっきの戦いを見て感じましたでしょ。無駄な争いはここまでにして未来に向けて建設的な話し合いをしましょうよ」

ドオン!

「うるさいぞ。リュウセイ」

「ぐうう? なんで?」

 阿倍野は再度、ユキに地面に叩きつけられた。不思議そうな顔をしているがこれはオレもしょうがないと思う。

「……じゃあいいかしら? さっきの話だけど。新キョウト都市へ向けるS級40人、A級4000人という兵力の件よ」

「……それは最低ラインだな。それ以下で新キョウト都市へ向かっても無駄死にが増えるだけだし、奪還はかなり困難になるだろう」

 話を戻そうとしたアイコにユキが先に釘を刺した。

「ええ。それは理解したわ。だけど、この人数の軍を編成するには……新オオサカ都市ではこれから3年弱は時間が掛かると思うわ」

 アイコの言葉を聞いてユキは小さくため息をついた。

「……ならば新トウキョウ都市はどうだ? そっちの方が人員は多いだろう。2都市で合計すれば戦力も整うのではないか?」

「オレの方ですか? そうですね。今のまま都市が成長していったとして……あと2年弱ですかね」

 阿倍野の返答にユキは眉をひそめた。

「論外だ。新トウキョウ都市でもそんなに掛かるのか?」

「論外と言われても……。ユキさんとしてはこの奪還戦に掛けられる時間はどのくらい残されてると考えているんですか?」

「……そうだな、持ってあと1年だ」

(はあ!?)

「え!? それはさすがに……何か根拠はあるんですか?」
「そ、そうね。今まで30年近くも現状を維持しているんだから。何かしらの判断基準はあるんでしょ、ユキちゃん?」

 このユキの言葉には阿倍野もアイコも驚きを隠せない。

「ああ。新キョウト都市で討伐され続けるグールの数。これは年々減少している。そして日本海方面から侵入してくるグールの数も年々増加を辿っている。おそらく来年には、ラク兄さんが止めきれなくなった上級グールがこちら側、東西都市圏にまでたどり着くことになる。そうなると都市圏の隊員たちは新キョウト都市を奪還するどころではなくなるだろう。現在ラク兄さんはそれだけの脅威を押し止めてくれているのだ」

 都市圏に侵入するグールが増えることがそこまで危険なことなのかとオレは思ったが、阿倍野のアイコの表情がオレの考えが甘いと否定していた。
 きっと防衛やら開発やら何やらで大変になるのだろう。

「……では、ユキさんとしてもこれから1年以内に新キョウト都市を奪還しないといけないということですよね?」

 阿倍野はかなり悩みながらだが、ユキにそう告げた。オレは何だか嫌な予感がした。

「どういう意味だ。リュウセイ」

「我々はユキさんの言うほどの兵力は保有してません。無論、出せる戦力は全て出します。しかし足りない分はワイズから補填、派兵をしてもらえませんか?」

「……」

 オレはユキからビリビリと威圧を感じた。

「貴様、私の都市の人員を犠牲にして自分たちだけが助かろうと言うのか?」

「いえいえ! そこまでは言ってませんが、実際オレたちが現在出せる兵力はたかが知れてます。ユキさんの都市ならば、さっきの必要戦力よりももっと出せるかな……」

ドオオン!!!

阿倍野が何度目かに地面にめり込んだ。

「があふっ! い、今までで一番強い……!」

「相変わらず、いけ好かないやつだ……。お前らはお前らで兵力を整えろ! 期限は今年一杯だ!! それが出来ないのなら、私は私たちだけでラク兄さんのみを救出する!! 後のことは知らん!!」

 ユキが阿倍野に罵声を浴びせていると、アイコが阿倍野を庇うようにユキの前へと立った。

「やっぱり、ユキちゃんは私たちの為に新キョウト都市を奪還したいと言ってくれてたのね。リュウセイの軽口は私からも謝るわ。ごめんなさい」

「……」

 ユキは面倒そうにアイコを見るだけだ。

「それにユキちゃんは今も私たちの為に、都市に居られなくなった人員をこの街で生活させてくれている。それだけでもかなり私たちの治安活動に貢献してもらっているわ。ここからさらにユキちゃんにそんな兵力を出せとはとても言えない。私たちは私たちで必要な戦力を整えなければいけないわ」

 治安活動という意味はいまいち理解できないが、おそらくユキは新トウキョウ都市や新オオサカ都市で犯罪を犯した者たち、つまはじきにされた者たちを勧誘してこの街に住まわせている。
 アイコはそれはユキが都市の治安の為に行っていると、協力的な活動だと話しているようだ。

「だが、どうする? 戦力は準備できないのだろう?」

「そうね。だから私からもひとつ提案があるの。聞いてもらえるかしら?」

「……何だ?」

「さっきの話。グールの大群が四国からこちらへ向かって来ている件だけど」

「それがどうした?」

「その大群の討伐は私たちが請け負うわ。東西都市圏から兵力を結集して対応する」

「……ほう」

「その代わり。と言っては何だけど、あなたたちの使っている装備。それを私たちに支給してくれないかしら」

「……」

「さっきの2人の幹部の使う魔技はこの場所。ワイズ組織で生み出されたオリジナルよね? だけど、魔素を集中させたときに魔導具である衣服の一部に別の特殊な反応があった。おそらくそれが……」

「もういい。宝条マスター」

 ユキがアイコの言葉を遮った。

「……了承してくれると言うことかしら?」

「いいや、駄目だな」

「そんな! その装備があれば必要戦力の準備も目処が……」

「魔導石だ」

「え?」

「グールの討伐、かつ宝条マスターの生産している魔導石。それと交換が条件だ」

「そ、それはさすがに強欲じゃないですか?」

 阿倍野が地面にめり込んだままにユキに苦言を漏らした。

「黙れ。魔導石3000個、それと私たちの装備を3000個交換と行こう」

「……分かったわ」

 アイコが悩みながら、しぶしぶながらも首を縦に振った。

「決まりだな。ではグール討伐については別途連絡係を決めてそちらに索敵情報を渡そう。そして、グール討伐後に魔導石が準備でき次第、またここに来い」

 ユキは玉座から立ち上がった。

「話は以上だ」

 そう言ってユキは席を離れた。

 その後は幹部と細かい話だけをして、オレたちはワイズ本拠地、トマスモアを後にした。

 結局オレたちはまたユキとは大した話は出来ないまま終わった。

 前回と同じく、都市の外れまで桐生が案内をしてくれて、その道すがらに旧友たちが話に花を咲かせていた。
 
 桐生、伊達、最上、相馬、美作、毛利、この人たちが静かだが楽しそうに話す背中にはとても懐かしいものを感じた。
 まるで家族と団らんするような、そんな雰囲気だ。

「みなさん、やっぱり仲がいいんですね」

 オレは思わず声を掛けた。

「ああ? まあ、付き合いは長いからなあ」

 伊達が何の気なしにオレに答えた。

「私たちは半分家族みたいなものね。正直、こうしてまたみんなと会えるとは思って無かったわ」

 美作も嬉しげにそう言った。

「オレは特例だがな。あとはソラとクルミだ。このまま話が上手く進めばまた一緒に戦ったりも出来るだろう」

 桐生がそう言うが、障害はまだまだ多いだろうことも予期しているようだ。
 確かにユキのあの強硬な姿勢を軟化させるのはかなり苦労しそうだ。

「まあ、あがくしかないさ。だけど、もう阿倍野さんと戦うことはなさそうで安心しましたよ」

「え? なんで?」

 前にいた阿倍野が桐生を振り返った。

「なんでって……、前に新センダイ都市でオレの体を引きちぎったでしょう。もうあんなことはこりごりですよ。まさか阿倍野さんがこんなに強くなってるとは……」

「え? 阿倍野さん。そんなことしたんですか?」
「いくらなんでもやり過ぎじゃあ……」

 最上と相馬が若干引いている。

「ああ、あれね! あれは幻術だよ。ジンにそういう幻覚を見せたんだよ。両手両足をちぎって復元なんて出来るわけないでしょ」

「な!!」

 桐生が絶句した。

「ふふふ、そういうことだったんだ」

 毛利が驚愕する桐生の顔を見て笑っている。
 それにつられてみんなが笑顔を見せていた。
 桐生もやれやれと言って笑っている。

 東京ギルド。
 日本列島で最強のメンバーたちも長い間苦楽を共にしたかけがえのない仲間たちだった。まだ完全ではないが、みんながそれを取り戻した喜びで溢れている。

 この人たちのように、オレも家族を取り戻す。
 オレは強い意志を持って、遠くに離れたトワスモアの本殿を振り返った。
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