グールムーンワールド

神坂 セイ

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CHAPTER Ⅴ

第215話 威力偵察任務⑤

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「ディリップ!!!」

 オレの声にみんなも人型グールの存在に気付いたようだ。

「あれは……? 2体目か……?」
「ち、厳しいな……」
「面倒臭そうな奴が来ちゃったわね……!」

 司、天王寺、虎影が厄介そうだとディリップを睨むが、向こうはこちらを気にもせずに遠くに目線を送っていた。

「佐々木セイか。貴様らは後だ。先ずはフリゴリスと共に宝条を始末する、こいつらの相手をして待っていろ」

 ディリップはそう言うと姿を消した。

「あ、あいつ!! 2体でアイちゃんを押さえるつもりだ! ヤバいですよ、天王寺さん! そ、それにとにかく武蔵野くんを助けに行かないと!!」

「分かっている! オレと来い、佐々木! みんなは結界内でグールを討伐しろ!!」

「りょ、了解!!」

 オレは返事を待たずに駆け出した天王寺の後を追って武蔵野の元へと向かった。
 高速機動で空中を滑ると、直ぐに武蔵野たちの落下した場所の近くにたどり着いた。しかし、そこには巨大なグールが群がっているだけで武蔵野たちの姿は見えない。

(か、感知もうまく出来ない!! 生きててくれよ!!)

「武蔵野!! 今助けるぞ!! 究極極大核熱狙撃散弾イノーマスフレアスナイプショット!!!」

ドドドドオオオアオウウウ!!!

 天王寺の魔術で一帯のグールが吹き飛んでいく。激しく広範囲の攻撃だが、正確な狙いでグールを狙撃しているようだった。

(凄い! この規模でこの正確性! それにこれはモモさんが使ってたものと同じ? いや、今はそれどころじゃない!!)

「オレも! 天狼征軍弾セイリオスクルセイズ!!」

 オレは100式同時発射の天狼弾セイリオスで天王寺に続いた。

「見えた!!」

 天王寺が激しく魔術を連発しながら地上へと降り立っていく。オレもそれに続き天王寺の側へと着地した。

(そんな……)

 オレは言葉を失った。

 ぐちゃぐちゃだ。武蔵野たちは無残にグールの群れに食いちぎられたのだろう。辺りは血まみれで腕や足が無造作に転がっている。

「む、武蔵野おおおお!!!」

 天王寺が絶叫を上げながら治癒結界を展開した。

「佐々木……! この場で治癒を試す! 腕だろうが臓器だろうが無くなっていても延命はできるかも知れん! 生きてさえいれば都市にさえ戻れば何とかなるはずだ!!」

(た、確かに……、オレも腕を再生させたし、生きてさえいれば……!)

「わ、分かりました! オレはグールを押さえます! む、武蔵野くんたちを助けて下さい!!」

 オレはこちらへ殺到するグールに銃を撃ちまくりながら、だが気付いてしまった。
 いつもは同じ気配を3つ並べたような武蔵野たちの魔素を今は1つしか感じないことを。

(認めたくない!! 信じたくない!! またか! またなのか!! すぐ側に居て……!!)

「くそ! くそ!! くそおおおお!!!」

 オレは怒りと共に武蔵野たちを襲ったグールを吹き飛ばし続けた。
 10メートル程の巨体とは言え、魔宝具を装備したオレの銃弾を受けてグールは次々に宙に舞っていった。
 だがそれも大群が相手では長くは続かなかった。

 離れた場所。オレの攻撃範囲の外から何十というグールが口に光を貯めてこちらに狙いを定めていた。
 オレは目の前で手一杯でそちらへ対応が回らない。

 ドオオオオオンンン!!!

 グールの攻撃がオレを直撃した。全ての攻撃は相殺しきれなかった。

(ぐう! 武蔵野くんたちのところへグールが……!! な、何とか止めないと!!)

 急いで天王寺たちへと向かうグールに迎撃の体勢を整えようとするが、既にオレの周りにもグールの群れが取り囲んでいた。

「くそお!!」

ドオオンンン!!!

 敵の攻撃を覚悟した時、周囲のグールが突然吹き飛んだ。

「全く、無茶しすぎよ!」

「み、美作さん!!」

 オレの側には、気絶していたはずの美作が立っていた。
 そして天王寺たちのところには伊達が剣を構えているのが見えた。

「佐々木! 天王寺! 気を失っちまって悪かった! ここを脱出するぞ!」

 伊達が声を上げた。

「ま、待って下さい、伊達マスター! 武蔵野たちの延命が出来るまではここで……!」

「天王寺くん! それならもう済んでいるでしょ!」

(や、やっぱりそうなのか……?)

「ど、どういうことですか?」

 天王寺が必死に治癒術を継続させながら美作に顔を向けた。その顔はすがるような、悲壮に満ちていた。

「天王寺くん。武蔵野くんたちは残念だけど2人は既に絶命してしまっているわ。だけど1人だけはかろうじて生きている。そしてその緊急治療はあなたの手でもう終わっているわ。早くここを脱出しましょう」

「し、しかし……!! 蘇生の可能性も……!!」

「聞き分けなさい! こんな状況はあなたも初めてじゃないでしょう!!」

「……」
 
 美作に叱責されて天王寺は言葉を失った。
 今のオレたちにとってはあまりにも辛い言葉だったが、それを言った美作の顔も天王寺と同じものだった。

(そうか、美作さんも……)

「了解しました……、せめて武蔵野たちを弔ってやりたい。地盤ごと結界内へ運ばせて下さい……」

 天王寺はそう言って魔術を発動すると、武蔵野たちの倒れている地面がボコリと宙に浮かんだ。

「天王寺、佐々木。行くぞ」

「はい……、伊達マスター」

 オレたちは群がるグールを何とかかき分け、スカイベースの直下の結界内へと滑り込んだ。
 ここはナナやユウナの多重結界が張られており、A級の群れであっても突破は容易ではない。

「武蔵野……!!」
「う、嘘でしょ! そんないきなり……!」

 司と虎影が無残な姿になった武蔵野たちを見て声を上げた。

「む、武蔵野さん……!! そんな……!!」
「も、もうダメなのか! 天王寺さん!」
「か、かすかに息はあるよ! 今治癒術を……!」

 ナナ、アオイとユウナも苦しげに武蔵野たちに駆け寄った。

「む、武蔵野くん……」
「この強者たちでも……」

 普段あまり感情を見せない欄島と千城も大きく肩を落としている。

「みんな、こちらを向いて私の話を聞いて!」

 美作が厳しい顔をして涙を浮かべるオレたちを呼んだ。
 
「武蔵野くんたちは本当に残念だった……、しかし今はグールとの戦闘中よ! 私が指示を出す!!」

 美作の声はピンと張っているが、どこか危うさを感じさせるものだった。ユウナのような思考透視能力が無くても分かった。
 美作は武蔵野の死を悲しんでいる。その悲しみを押し殺してグールという脅威に立ち向かっている。

「当面はスカイベースからの結界、砲撃のお陰でここを拠点に出来る! 私と欄島班、司隊員! スカイベースに乗り込んで敵を討伐するわよ! 地上はアベルと共に佐々木班、天王寺隊員、虎影隊員で戦って! アベルもいいわね!?」

「ああ、もちろんだ!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 オレはこのまま戦闘を再開しそうになるみんなに待ったを掛けた。

「何だ! 佐々木!?」

「だ、伊達さん! アイちゃんは!? 向こうで1人のはずです!!」

「それは分かってる」

「え? 分かってるって! 向こうは人型グールが2体と何か強そうなグールも3体いるはずです!! いくらアイちゃんでも……!」

「佐々木は宝条さんが心配なんだな?」

「は、はい! だから早く……」

「問題ない。オレたちはこのままでA級の大群と戦うぞ」

 オレは伊達の言葉に耳を疑った。

「なに……!!?」

「落ち着け、佐々木くん」

 あまりにも薄情な伊達の言葉に激昂しそうになるオレを、司が制してきた。

「大丈夫だ。宝条マスターなら相手が人型グール2体であっても充分に戦える」

「え……?」

「佐々木。お前は宝条さんの幼馴染なのに彼女の実力は知らないのか。宝条さんはさっきまで人型グールとBSS級3体を同時に相手取っていた。そして有利なのは宝条さんだった。すでにBSS級3体は倒したようだ。それで焦った人型が応援を呼んだのだろう」

 確かにアイコの戦況は伊達の言うとおりだと、オレも感知を凝らすことで気が付いた。

「本当だ……す、凄い……え、えっとBSS級って言うのは……?」

「先日の防衛討伐戦争で初確認されたSS級の上位個体だ。おおよそSS級3体分程の脅威があるらしい」

「それを3体も……!!?」

「もともとオレたちと天王寺さんがそれぞれ1体ずつ押さえてたんだけどね。宝条マスターが来て直ぐに人型の方へと向かっていったんだ。オレは1対1で正直ギリギリだったよ」

 欄島が今までの戦況を説明してくれた。

「ああ……、オレの方も厳しい戦いだった。しかし人型とBSS級1体と戦っていた伊達、美作両マスターの方が手傷を負ってしまった。そして危うい所に宝条さんが現れ、現在の状況というわけだ」

「なるほど……」

 オレは天王寺が力ない言葉を振り絞ってしてくれた説明に状況を全て把握することが出来た。今はアイコの桁外れに高い実力のお陰で何とか持っているということだ。

「現状は理解出来たな? A級の大群と戦うぞ」

「分かりました……! 伊達さん!」

 美作はオレにひとつ頷きのサインを送ると、宙に浮かぶスカイベースへと乗り込んだ。
 欄島、千城、司もそれに続いていく。

 オレたちは全方位に群がるグールに向けて、結界の縁近くにぐるりと立ち並んだ。

『相手はA級約3万! だけど、私たちが人類の精鋭だって所を見せつけてやるわよ!』

「「「おおお!!!」」」

 激しい戦いが始まった。
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