俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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序章 俺は普通の高校生なので。

序章33 弱者どもの夢の跡 ①

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 希咲が、弟や妹たちの進路候補からは絶対にこの学園は外そうと密かに心に誓っていると弥堂が近寄ってくる。


「おい、さっさと帰るぞ。もたもたするな」


 その言い様にカチンときた希咲はすぐに眉を跳ね上げる。


「なによその言い方っ! あたしあんたの女じゃないんだから命令すんな!」

「うるさい、すぐに準備をしろ。奴らの関心がこちらに向く前に立ち去るぞ。荷物は教室だな? いくぞ」

「あっ、ちょっとまっ――ひやぁぁぁぁっ!」

 矢継ぎ早に告げながら胸元でカーディガンを握って前を閉じていた彼女の手をとり、そのまま手を引いて歩き出そうとすると希咲から素っ頓狂な声があがる。

 弥堂は咎めるような眼を彼女へと向けた。


「なっ、なによっ! 自分で歩けるからさわんないで!」

 法廷院たちに見つかる前に――と言われたばかりなので、多少のばつの悪さを感じながらも希咲は弥堂へ何かを誤魔化すように怒りを表す。


「……まぁいい。なら自分で歩け。行くぞ」

「あっ、ちょっと待ってってば。先に行って下駄箱で待ってて」

 弥堂は歩き出そうとしていた足を止めて希咲を怪訝な眼で見た。


「どういうことだ? このままここから同行すればいいだけのことだろう?」

「えっと……その……あたし、ちょっと寄るとこあるからっ」

「だから教室へ鞄をとりに行くのだろう? どっちみち昇降口へ行くのなら通り道だろうが」

「いいからっ! なんでいうこときいてくんないわけ⁉」

「俺に言うことを聞かせたいのならば、納得させられるような説明を出来るようにしろ」

 左右の足を順番に動かすだけで目的地への距離を縮められるというのに、そんな簡単なことにもすぐにとりかかることの出来ないノロマな女を、弥堂は軽蔑の視線で見た。


「いや……だからさ――」

「お前――まさか……」


 尚もごにょごにょと口ごもり歩き出そうとしない、そんな希咲の態度を不審に思い、弥堂は懐疑的な眼つきに変わる。


「お前バックレるつもりか? 逃がさんぞ」

「にげないわよ!」

「いいか? お前も聞いてのとおりだ。俺はあの教員からお前を送れと命じられている。もしもお前が逃げれば俺が仕事を達成できなかったことになる」

「だからぁ! ちがうってば!」

「じゃあなんだ。俺の要求はさっきから一つだけだ。『さっさとしろ』、簡単なことだろう? 何故出来ない?」


 聞き分けのない少女に早くしろと促すと、彼女はキュッキュッと床に靴底を擦り、まるで聞き分けのない者に対して苛立ったかのような理不尽な態度をとってくる。


「だぁかぁらぁ……っ! あぁもぅっ! トイレよ! おトイレいきたいの! 察しろばかっ!」

「チッ……ションベンか。さっさとしろよ」

「ショっ――⁉ ちがうわよばかっ‼‼」

「じゃあ糞か。帰るまで我慢できんのか?」

「ちがうからっ! 女の子にそういうこというんじゃないわよ! 小学生か!」

「めんどくせぇな。いいからさっさと便所へ行って排便してこい」

「だからっ! 言い方っ! きたないっ! さいてーっ!」

「汚いもなにもあるか。その汚いものを出したがっているのはお前だろうが」

「だーかーらーっ! ださないって言ってんでしょ! その用でトイレいくんじゃないの!」


 支離滅裂な主張をするクラスメイトの女子に弥堂は眉を顰める。


「排便するのでないなら何故便所に行く必要がある? 怪しいな……まさか便所の窓から逃げるつもりか?」

「にげないって言ってんでしょ! もー、しつこいっ!」

「俺を欺けると思うなよ。もういい、時間の無駄だ。俺も便所に同行する。お前の用とやらが終わるまでしっかり横で監視してやる」

「変態かっ‼‼ マジさいてーなんだけどっ!」


 希咲が人としての最低限のエチケットすら持ち合わせていない男を非難するが、『尋問モード』となった弥堂は意に介さない。


「なんとでも言え。俺は風紀委員だ。学園の風紀を守るためならばどんな誹りを受けることも厭わない」

「本末転倒でしょーが! あんたが女子トイレに入った時点で風紀が乱れまくってんじゃない!」

「些事だ。それよりも随分と嫌がるじゃないか。なにか疚しいことがあるんじゃないのか? おい、どうなんだ」

「喜んで男と一緒にトイレ入る女子なんているわけねーだろうが! ああぁぁぁぁっ、もうっ――!」


 先程と同じパターンで会話が成立しなくなっていく苛立ちに、堪らずといった風にカーディガンから手を離した希咲は頭をガシガシする。


「――ブラよ! ブラ着け直したいの! あんたが外したんでしょ!」

「おブラだと……?」

「いわせんな! 全部あんたが悪いんだからね!」


 隠し通したままで何事もなかったように修復するつもりだった胸周りの問題を、諦め半分怒り半分に申告する。

 外れただなんだと胴上げの時から騒いでいたのはわかっていたが、特に関心もないために弥堂は気に留めていなかった。


 その胸を「そういえば……」と正々堂々とガン見をして注視する。


「なっ、なによ! 見んな! バカ!」

 なに憚ることなく不躾に真正面から胸に注目をしてくる不届き者から守るように、希咲は再びカーディガンの前衿と前裾を掴み直しピッチリ閉じてガードする。


「お前ちょっとそれ見せてみろ」

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁっ‼‼」


 しかし、常識という範疇の中で生活を送っていない疑いのある男によってその手を掴まれ、ガバッとカーディガンの前を開けさせられた。


 弥堂はマジマジと希咲の制服ブラウスの胸部分の生地を慎ましやかに押し上げている内部の膨張具合を視る。


「ふむ…………随分と巧妙に偽装していたものだな……」


 弥堂の記憶にある、これまでの希咲の見た目の情報と比較して、明らかに目減りし心許無くなったそのサイズの差異に謎の感心を覚えた。


 希咲 七海は今日の出来事でこの弥堂 優輝という男についてある程度解ったつもりでいた。


 しかし、それでも極めて常識的な価値観を持つ彼女には、まさか突然このような暴挙に及ぶ者が存在するなどとは発想をすることすら出来なかった。

 そのため、反応も対応もできないまま服を開けさせられた状態で軽くパニックに陥り、半ば放心したように固まっていたが、やがてプルプルと身を震わせると――


「――し……」

「…………し?」

「し・ねぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 弥堂の顔面目掛けて全力で飛び膝蹴りを放つ。


「おっと」


 その場で予備動作もなくほぼ垂直ジャンプのように繰り出されたそれを弥堂は難なく身を反らして回避するが、その際に掴んでいた希咲の手を離してしまった。


 拘束が解かれた機会を逃さず希咲は飛び膝の勢いのまま宙返りをして身を翻す。


 大きさはないがよく締まった形のいい小さめの尻がクルっと縦回転し通り過ぎていくのが弥堂の眼には映った。


 普通の女子高生らしからぬ見事な軽業と、ついでにお尻を披露した希咲は危なげなく着地をし、それと同時にバックステップで距離をとる。

 ギュッと強くカーディガンを握って前を隠すと、涙目ながらも気丈に変質者を睨みつけ、ふしゃぁーっと威嚇をした。


「なっななななななにすんのよ⁉ ばかあほへんたいきもいしねっ!」

「……? 何、と言われてもな。その胸一体どうなってんだと関心が湧いただけだが」

「わくな! あたしの胸にかんしんもつな!」

「心配するな。関心といってもそこまでではない。取るに足らないものだ」

「はぁっ⁉ 足らないってどーゆーいみっ⁉ バカにしてんの⁉」

「何言ってんだお前」


 あらゆる意味で女子の尊厳を踏み躙ってくる男への憤慨は留まる所を知らない。


「そこまでして見たいわけ⁉ でもおあいにくさまねっ! ブラ外れても下にヌーブラも着けてるから透けたり浮いたりしないから! ざーんねんでしたっ、しねっ、へんたいっ!」

「なんの話をしているんだお前は」

「なにって、あんたがあたしのち……って――ああぁぁぁぁっ! ぜったい言わないかんねっ!」

「お前ホントうるせぇな」


 また何を言っているのかわからなくなってきた希咲に対して弥堂は呆れをみせる。


「俺はどういう技術で胸の大きさを偽装しているのかが気になっただけだ。うまいことやるもんだと感心しただけでそれ以上は興味もない」

「うっさい! そんなほめ方されてもうれしくないわよ!」

「というか……」

「あによっ⁉」


 ひとつ得心がいかないといった風に顎に手を当て考えながら喋る弥堂の言葉を待ちながら、希咲としては冷静になっていくに連れてこの話題を広げることで己に利することは何もないと遅ればせながら気付いた。

 しかし、もはや退くにも退けないため現状に激しく苛立つ。


「細かい名称については詳しくないが……普通のおブラに、詰め物に、そしてヌー……おブラ?と言ったか? そんなに物々しく装着している女を俺は見たことがないぞ」

「うっさいわね! べつにいいでしょ! てか色々覚えなくていいから!」

「お前、そんなに重装備をしてどういうつもりだ? 戦争でも始めるつもりか?」

「そうよ! ごめんなさいねっ! これは乙女の聖戦なの! 常在戦場なの! 自分との戦いなのよ! わるいっ⁉」

「そう、か…………まぁ、その、なんだ。強く生きろ」

「励まされたっ⁉」


 血も涙もない冷血マシーンだと思っていた男が初めて見せた優しさのようなものが、まさかの自分のトップとアンダーの数字の差異へ向けられた気遣いだったことに、希咲は大変なショックを受けた。


「ばっ、バカにしないでっ! あるから! ふつーにあるから!」

「そうか」

「ないわけじゃないの! もうちょっとほんのすこーしだけ大きく見せたかっただけで、別にゼロじゃないんだからねっ!」

「意味がわからん。別に胸の大きさなどどうでもいいだろ」

「よくないっ!」

「しつこいぞ。この話は終わりだ。さぁ、とっとと便所で装備してこい」

「だめっ! 聞きなさいよ! でも聞いたら口ごたえしないですぐに納得してから全部忘れて!」


 自分の疑問はある程度解消できたので早く話を打ち切りたい弥堂に、今度は逆に希咲が取り縋って話を続けようとする図に塗り替わった。


「無茶苦茶なことを要求するな。それにさっきも言っただろう。俺は一度取得した情報を記憶から失くすことはない」

「ダメっ! 忘れなさいよっ! でも勘違いもしないでっ!」

 これでは話にならないとばかりに弥堂は息を吐く。


「失望したぞ希咲 七海。このイカれた学園の中ではマシな部類だと思っていたんだが、まさかこんなガキだったとはな」

「失望⁉」


 びっくり仰天した七海ちゃんのしっぽがぴゃーと跳ねてぶわっと逆立つ。


「シツボーってなんなのよっ⁉ なんであたしがあんたなんかに失望されなきゃいけないわけ⁉ カンケーないでしょ!」

「お前は本当にうるさいな」

「うるさいってなによっ⁉ あんたが悪いんでしょ! 人の胸とかパンツにシツボーっていみわかんない! あんたシツレーすぎっ!」

「は? 胸? おパンツ?」

「あたしあんたのカノジョじゃないんだから別にどーだっていいじゃない! あたしの胸やパンツがこうで、あんたになにかメーワクかけた⁉」

「俺がいつそんな話をした」

「したじゃん! バカにすんな! 胸だってフツーにあるし、パンツもたまたま今日はこういうのだって言ってんじゃん!」

「どうでもいいんだが」

「どうでもいいってなによっ! 大体あんたのパンツだって、そのへんのコンビニでテキトーに売ってそうなヤツじゃん! 絶対あたしのパンツの方がカワイイんだからっ!」

「……自分との戦いなんじゃなかったのか? 俺に勝ってどうする……?」

「うっさい! へりくつゆーな!」

「俺が言っている『失望』とはお前の乳房やおパンツのことではなく、聞き分けがなくて話が通じない今のお前の様を言っているんだが…………まぁ……お前がそれでいいのなら俺ももうそれで構わん……」


 怒りで我を失い過ぎて、何故か男子である自分相手にパンツのかわいさでマウントをとってきたクラスメイトの女子への対処には、さしもの弥堂も困り果ててしまい、彼にしては珍しいことに折れることにした。


「なにそれ⁉ やっぱバカにしてんでしょ⁉ あとお前っていわないでっ! あたしあんたの女じゃないんだから!」

「……馬鹿になどしていない。キミの言う通りだと認めたんだ」

「あっそ! じゃあ、あたしのいうことわかったんなら、ちゃんとあやまって取り消して!」

「…………すまなかったな、希咲。キミの胸は立派で素晴らしい。それとキミのおぱんつは俺のパンツよりも可愛いと認めよう」

「はぁ⁉ きもいこといわないでよ! なんでまたそーやってセクハラすんの⁉」

「どうしろってんだクソが……」


 しかし、どうにも彼女の怒りは治まらないようで、どうあっても許されることはないようであった。



「フフフ。そのへんにしておきなさいよ、希咲。女の子がそんな風に声を荒げるものではないわ」

 そこにどうにか車椅子の修復の目途がついたらしい一団から抜け出してきた白井が近寄ってきた。


「はぁ⁉ なによ! カンケーないでしょ! しゃしゃってくんな!」

「あらあら、怖い」

 警戒心剥きだしで威嚇する希咲に対して彼女はどこか余裕だ。心なしかホクホクとした表情をしている。


「希咲、貴女ね、せっかくそんなに可愛いのだから男性にそんな態度をとってはダメよ。もっと――うっ……!」


 何やら上から目線の大きなお世話な説教をし始めたと思ったら、白井は突然コメカミを抑えて身を屈める。


「…………ちょっと? どうしたのよ」

 どう見ても芝居がかった仕草であったが、基本的にいいこである希咲さんは一応気遣う姿勢をみせる。


 その希咲の社交辞令に対して白井は「いえ、大丈夫よ。ご心配ありがとう」などと言いながら身を起こし、わざとらしく「う~ん」と伸びをするとこれ見よがしに自分の肩を揉み解しだした。


「…………なに? なんのつもり……?」

 何故かその一連の動作が妙に癇に障った希咲は、瞳に映す不審を一層に強めて尋ねる。


「――うん? あぁ、ごめんなさいね。最近肩こりが酷くて偏頭痛に悩まされているのよ」

「…………へー……」

「恥ずかしい話だけれどこの頃成長期なのかしらね。先月ブラのサイズが上がってしまってね……1カップ上で買い換えたばかりなのだけれど……」

「ふっ、ふぅ~~ん…………」

「あぁ……でも、困ったわあ…………新調したばかりだというのに、どうもまたサイズが合わなくなってしまったのか、きつく感じるのよ」

「…………」


 小芝居感満載の白々しい白井の身の上話に、形の上で礼儀として一応相槌だけは打っていた希咲だったが、そのうち無言で俯いてしまう。


「もしもまたサイズが上がってしまったのなら次はEカップよ。困るわ。私ってほら、どちらかというと知的なイメージじゃない? 巨乳って頭悪そうに見えるって聞くし……いやだわぁ……数少ない取り柄がなくなるのはつらいわぁ~……あーつらいつらい。そういえば希咲。よく見ると貴女って賢そうよね? うふふふふ」

「そ、そ~お? そんなことないと思うけど。うふふふふふ……」


 つらいつらいとぼやく割に全くつらそうに見えない白井さんの目が向けられているのは希咲の胸部だ。

 どうにか愛想笑いを絞り出した希咲だが、その俯けた顏の前髪の隙間から覗く目はひとつも笑っていない。殺る目だ。


「正確なサイズを測るのって自分ではよくわからなくって……あぁ、困った。この間下着屋さんに行ったばかりでまた行くのもねぇ……私の勘違いだったら恥ずかしいしぃ、そうじゃなくても『またデカくなったのかよ、この女』って思われそうで……うふふ」

「……ふっ、ふふふふふ……」

「あっ、そうだ! ねぇ? 希咲。よかったら助けると思って測ってくれないかしら? わ・た・し・のぉ……でぃ・い・かっ・ぷっ…………うふふ……もしかしたらぁ、Eカップにぃ、なってるかもだけどぉ。ねぇ? お願いできなぁい?」

「あははー…………い・や・よっ!」

「えー、希咲さんちょっと冷たくなぁい? なんでそんなこと言う――あっ⁉⁉」


 耳障りな猫撫で声で楽し気に希咲を煽っていった白井は、喋っている途中で突然何かに気付いて思わず言葉を止めるという過剰な演技をした。


「……なによ?」

 ロクでもないことであるのは間違いなくわかっているのに、激しく苛立っている希咲はそれを訊いてしまう。

 すると白井は突如態度を神妙なものに改めた。


「あの……ごめんなさいね? そんなつもりはなかったのだけれど、ちょっとデリカシーが足りていなかったわ」

「…………どーゆーいみよ?」

「ふふふ…………だって、ねぇ? そりゃ、イヤよね。他の女の大きくなったかもしれない胸なんて測りたくなんかないわよねぇ」

「……べつに…………」

「うふふふふふ……私としたことが、察してあげるべきだったわぁ。まったくもって『無い者』への配慮が足りていなくてごめんなさいねえぇぇ?」

「いっ、いいいいいみがわかんないわ……」


 言葉とは裏腹に『無い者』という言葉を聞いて眉をピクピクさせて応える希咲の声は裏返り気味だ。


 明らかに効いている、そう見て取った白井の表情はより強く歓喜に染まる。


「そ~おぉ? 気にしてるんじゃないのぉ? おっぱいがぁ、ち・い・さ・い・こ・とっ」

「はっ、は~あ? べっ、べつにぃ? あたしふつーにあるしぃ?」

『ちいさい』のところで露骨に声量を上げて強調してくる白井に対して希咲は見るからに劣勢だ。


「あら、そ~お? へー。常軌を逸した盛り方してるくらいだからすんごいコンプレックスなのかと思っちゃったぁ」

「じょ、常軌……? 逸した……?」

「これはマジレスだけど、貴女ね。普段からそんな必殺魔球の修行みたいな無茶な盛り方してたら絶対に形崩れるわよ?」

「う、うっさいわね! ちゃんとケアしてるし! ほっといてよ! カンケーないでしょ!」

「まぁ、そうね。関係ないわね。Eカップという巨乳の領域に至ったこの私にはこれっぽっちも関係のないレベルも低くて、ついでにトップも低い話だわ! ふはははははっ!」

「ぐぬぬぬぬぬ……っ!」


 傍で死んだ目で二人のやりとりを聞き流す弥堂には皆目理解の及ばぬ話だが、マウントをとられる希咲は歯ぎしりでもしながら血涙を流しそうなほどの悔しがり方だ。


「ごめんなさぁい! カップの存在すら危ぶまれるナイチチ七海ちゃんにぃ、Eカップを計測しろだなんて残酷なお願いをしてしまってぇ、この度はぁ、まことにぃ、申し訳ぇ、ございませんでしたあぁ。本当にぃ、ごめんなさぁいねぇ!」

「あるもんっ! カップあるもんっ!」

「うんうん、そうよね? あるわよね? だいじょうぶだいじょうぶ、わかってる…………アハッ――アハハハハハハハハハッ!」

「うわーん! ぶっころしてやる!」


 泣きの入った希咲が高笑いをあげる白井に飛び掛かったが、弥堂にキャッチされ止められる。


「はなして! はなしなさいよっ! こいつは! この女だけはあぁっ――」

「いい加減にしろ。何度繰り返すんだ。お前もそのへんにしろ」

 言いながら弥堂は希咲を米俵のように肩に担ぎつつ、後半の言葉は白井へと向けた。


「ぎゃーーーーっ⁉ やだやだやめてっ! またパンツみえちゃうでしょ⁉」

「あーーー、勝った勝ったぁ…………うふふ、気持ちいいわ。待たせてしまってごめんなさいね、弥堂クン。もう満足したからそれ持って帰ってもらって結構よ」


 最後の最後で劇的な逆転勝利を掴み取ったらしい白井は、耳元で喚く希咲の大声に顔を顰める弥堂へと、満ち足りた顔で謝辞を述べてから立ち去ろうとする。
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