俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章12 Out of Gate ③

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 さて、どう始末をつけるか――


 周囲に展開する敵を視界に捉えて、希咲はごく小さく唇を舐める。


 とはいえ、ガラの悪い男4人を向こうにまわして、希咲はまったく危機感を抱いていなかった。

 どうとでもなる。

 そのように考えているため、怒りに目を血走らせた複数名の男たちがジリジリと間合いを詰めてきていても、未だにガードレールに尻をのせたままだ。


 その余裕を感じさせるような態度がさらに男たちの怒りを加速させるが、それは同時に冷静さも削っていく。

 そう仕向ける為に過剰にバカにして煽ってやったのだ。


 幼馴染である天津 真刀錵あまつ まどかのように、相手のベストを引き出した上での尋常な勝負を――などといった嗜好は希咲にはない。


 正気を失った暴徒となる寸前といった具合の憤怒を浮かべた表情。

 仮に彼らに負けた場合には自分はただでは済まないだろう。

 だが、決して自分にとって彼らは脅威にはなり得ない。


 多少は喧嘩をした経験くらいはあるのだろうが、例えば昨日対峙した『弱者の剣ナイーヴ・ナーシング』の高杉 源正たかすぎ もとまさのように何らかの技術を習得しているようには見えないし、例えば昨日やり合った弥堂 優輝びとう ゆうきのように多くの時間を闘争の中に身を置いて過ごしてきたといった雰囲気もない。

 4人同時に相手をしても十分に捌けるだろう。


 とはいえ、油断はしない。


 昨日の『弱者の剣ナイーヴ・ナーシング』も弥堂 優輝も十分に捌ける相手だったはずなのに後れをとってしまった。

 寝る前に思い出して半ベソかきながら反省をしたのだ。

 同じ轍は踏まない。


 気を引き締めると同時に浮かび上がりそうになった昨日の『嫌なこと』を振り払うように、トレードマークであるサイドテールを片手で後ろへ振り払う。


 しかし、そうしようとして耳の上に持って行った手に想定していた感触がなく空振りしかけたので動作を途中でやめる。

 そういえば弥堂のせいで現在はいつもの髪型ではなく、水無瀬のようにゆるくおさげにしていたのだったと思い出した。

 中途半端に上げた手で誤魔化すようにおさげをイジイジする。


「な、なんだ……⁉ テメェなんのつもりだ……?」


 すると、いきなり手を上げて何をするでもなく下ろした希咲の仕草を警戒したのか、彼らは足を止めて睨みつけてくる。


「……ハッ――なぁに? ビビってんの? カッコわる~い」


 自分の仕出かしたちょっとした『うっかり』を悟られぬよう、ブラフ半分、照れ隠し半分でこれみよがしに鼻を鳴らして嘲ってやる。


 ガードレールに腰掛けながら盛大に見下してくる希咲の態度に、不良たちは怒り狂う――ことはなかった。


「ゔっ――⁉」


 呻いたのは希咲だ。


 今しがた誤魔化すような真似をしたせいか、無意識の仕草で足を組み替えた希咲の下半身に彼らの目玉がギンっと一斉に集中したからだ。


(お……男ってホント……バカ…………っ!)


 お前ら怒ってたんじゃねーのか。

 今すぐ殴りかかりたいほどに怒り狂ってたんじゃねーのか。

 これからケンカしようって相手のスカートがそんなに気になるのか。

 てゆーか危なかった。さっきあいつらがしゃがんでる時にやってたら下着見られてた。


 と、希咲は頭を抱えそうになる。



 男というものは、時に性欲が怒りを凌駕する。


 わかってはいたが、彼らへの呆れと軽蔑の気持ちを強めると同時に、こんな連中と揉めている自分も酷く低俗なのではないかと情けなくなってくる。


 思わず漏れ出そうになる溜め息を意識して留めた。


 ここで脱力してはいけない。


 スカートといえば――と思い出すまでもなく、昨日とんでもなくヒドイ目に合わされたばかりだ。


(弥堂めえぇぇっ……! 許さないんだから……っ!)


 気が抜けてしまいそうだったところを弥堂への怒りを燃やすことで、それを目の前の彼らへぶつけようと無理やり戦闘用のテンションを保とうとする。

 弥堂に対しても彼らに対しても八つ当たりな気がしたが、気がしただけならきっと気のせいだ。


 そこで、『そうだ。弥堂といえば……』と思い当たり、少し試してみることにする。


「んんっ」と喉と気持ちを整えてから唇を動かす。



「――見たい?」


「……あ?」



 言っている意味がわからないと怪訝そうな顔をする彼らの前に、ここでようやくガードレールから尻を離して立つ。


「見たいの? って聞いてるんだけど?」

「見たいって……なんのことだ……?」

「だからぁ…………こぉ・こっ」

「へっ……? はぁ…………っ⁉」


 自身のスカートに真っ直ぐ伸ばした綺麗な人差し指を当てて指し示しながらコテンを首を傾げてみせる希咲の、その蠱惑的で妖艶な仕草に男たちは動揺した。


「今見てたでしょ? あたしの、ここ。見たいのかなって」

「はぁっ⁉ みっみみみみみ見てねえしっ!」

「そ?」


 あれだけ下心丸出しに振舞うくせにそこは否定するのは、何かしらのプライドのようなものが彼らにもあるのだろうか。


(てゆーか、あんだけロコツに見てきて気付かないわけないでしょ)


 心中で胡乱な瞳になりながら、表の顏には出さぬようにして演技を続ける。


「じゃあ、見たくないんだ?」

「あっ……あ?」

「だからぁ…………」


 勿体ぶるように声を伸ばしながら、スカートの表面を指で下方向になぞっていくと、男たちの視線がその指の動きに釘付けになる。


 その指はやがて衣服と素肌との境界となる裾にまで辿り着くと、第一関節分だけその境界を越えた。

 希咲はその指先を曲げて校則による規定よりも少し短いスカートの中に挿し入れると、クイとほんの僅かに裾を持ち上げてみせる。


「こ・こ。見たくないの?」

「……は? え…………っ?」

「見たいの? 見たくないの? あたしは別に見せたいわけじゃないからどっちでもいいんだけどぉ……」

「ま、待て……っ!」


 スカートの裾を持ち上げていた指を戻そうとすると、呆けていた“サータリ”が慌てたように制止してくる。


「そっ、そりゃオメェ……そんなの、見たいに決まって…………なぁ?」


 自分だけ欲望を吐露するのは気恥ずかしいのか、周囲の仲間に水を向けると彼らも卑しい笑みを浮かべ口々に同意した。


 その最中も彼らの中の誰一人として希咲の股間から目を離してはいない。


(うぅ……やっぱキモイ……っ!)


 自分から仕向けたことではあるが、目の前で複数の男たちが自身の下半身に血走った目を向けてくるのに嫌悪感を抱き、その視線が集まる箇所に鳥肌が立つ。


 普段は露わになっていないスカートで隠された僅か1㎜ほどの内腿の肌に夢中になっている男たちの視線の熱に怯み、思わずキュッと腿を締めてしまいそうになるのを我慢する。


 演技とはいえ、なんつーことをしてるんだと、自分にも嫌悪しそうになるが、思い通りにコントロール出来てはいるのでこのままやりきる。


「ふぅ~ん……やっぱ見たいんだぁ……? でもザンネンだね? ずっとしゃがんだままでいたら今、たぶん見えてるのにね?」

「え? ――あっ……⁉」

「すーぐ怒っちゃってあたしのこと殴ろうとかするからぁ……パンツ。見れなかったね? 女の子に暴力奮おうとしたバツかも。損しちゃったね?」

「へっ……へへっ……まぁ、そう言うなよ。本気で女殴ろうなんて……なぁ?」


 先程の怒りはどこへやら。

 男たちは揃って媚びた笑みを浮かべ「そんなつもりじゃなかった」と口を揃える。


 そんな姿を見て裏側では心底見下し、表側ではニッコリ笑って首を傾げながらこちらも媚びたような声を出してやる。



「えー? ホントにぃー?」

「マ、マジだって! だから…………なっ?」

「んー? なぁにぃー?」

「わ、わかってんだろ? もうちょいスカートめくってくれよ?」

「えーーー?」


 面子を凌駕した性欲に忠実な男どもを焦らすように勿体つけてから答える。


「やーよ」

「はぁっ⁉ ふざけんなよオマエ!」

「えー? だってこれ以上あげたら他の関係ない人たちにまでパンツ見られちゃうじゃん。あたしそこまでしたくなーい」

「騙したのかよ⁉ 見せてくれるって言ったじゃねーか!」


(ゆってねーよ)


 希咲は心の中でジト目になったが、表では「えー? どーしよっかなー?」などとクスクス笑う。


「じゃあさ。あんたたちがしゃがめばよくない?」

「あ⁉」

「だからぁ。あたしのパンツ。どうしても見たいんなら、そこに膝を着いて覗けばいいじゃん? 土下座でもするみたいに」

「テッ、テメェっ!」


 怒りの声をあげるものの、その怒声はプライドとのせめぎ合いにより生じたものだ。

 希咲はそれを面白がるように、スカートを持つ手とは逆の手を口元に当て、さらにクスクスと笑みを漏らす演技をする。

 本音では大分しんどくなってきた。


「うそうそ。ふふっ、ほらっ? こーやって、あたしがスカート上げてるからさ? ちょっと屈めば見えるわよ?」

「うっ……うぅ……っ⁉」

「ほら、はやく。あんま目立ってきたらやめちゃうわよ? どーするの?」

「見るっ! 見るからっ! そのままっ!」


 随分と必死な様子に希咲は一瞬真顔になった。


 すぐに猫を被り直して、上体を折ろうとする彼らを止める。


「ほら? もっとこっちきて……? 他の人に気付かれないように、あたしを隠して……?」

「えっ? あっ、あぁ……」


 目ん玉をギンギンにかっ開き息を荒げながら彼らは言われるがままに、フラフラと吸い込まれるように不自然に前かがみな姿勢でヒョコヒョコと近づいてくる。


 当然その間も視線はずっと希咲の股間に釘付けだ。


「……うん。そのへんでいいかな。そこで止まって」

「おっ、おぉ……!」

「ガバって動いたら注目されちゃうから、ゆっくり、かがんでね……?」

「あ、あぁ……っ!」


 夢うつつな様態で男たちの上体が下げられていく。
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