125 / 793
1章 魔法少女とは出逢わない
1章16 出会いは突然⁉ ②
しおりを挟む
「――水無瀬」
「――ひゃわーーーーーっ⁉」
「――ひゃにゃーーーーっ⁉」
背後から声をかけると、一人と一匹は両手と両前足を上に伸ばし奇声をあげながら跳び上がった。
そのまま水無瀬は粟を食ったようにアワアワ言いながらジタジタと奇っ怪な踊りをし、彼女の相棒の猫は水無瀬の顏の横でクルクルと空中を走り回る。
驚きすぎだろと、思わず呆れた眼を向けそうになるがそれよりも、この期に及んでまだ背後を確認しようともしないヤツらの体たらくに俺は苛立つ。
そうこうしていると、クルクル回る猫のしっぽが水無瀬の顔面を打った。
「ふにゃっ――⁉」
ぺしっと間の抜けた音から大した威力ではないと傍から見ている俺にもわかるが、痛みよりも驚きが勝ったのだろう、水無瀬はバランスを崩して前のめりに転んだ。
べちゃっ、ふぎゃっ、と先程の焼き増しの光景を見せられた。
なんで前に倒れるんだよ。
前方から顔を打たれて驚いたなら、尻もちをつくか背後に倒れるならまだしもわかるが、やはり猫が言っていたように乳が重いせいで重心が前に傾いているのだろうか。
そういやこいつ猫背だしなと、そんな余計な思考はすぐに消える。
先程同様、路地裏の汚いアスファルトに顔面を押し付け、後方へ尻を突き上げるような姿勢をとる彼女の制服スカートが捲れ上がる。
露わになったのは青と白の縞々のおぱんつに包まれたケツだ。
俺は戯言のような思考を打ち切り、眼を細めて尖らせた視線をそのケツに突き刺す。
(……どういうことだ?)
俺が目の前で転んだクラスメイトを放置して浮かび上がった疑問に考えを巡らせている内に、猫が慌てて救出に向かった。
「マ、マナぁーーっ! だ、大丈夫っスか⁉」
「う、うえぇ……鼻すりむいたぁ……。いたいよぅ……」
情けない声のわりにすぐに体を起こした彼女は、擦りむいて赤くなった鼻の頭を指差して飼い猫に強調する。
猫は労わるようにその傷を舐めた。
「カワイソウに……イタイのイタイのペロペローッス!」
「わぁ。メロちゃん、くすぐっ――たくないっ⁉ いたいっ! ザラザラするっ!」
「ヘヘっ。ジブン、ネコッスから」
「にゃー?」
「ニャニャニャーッス!」
皮膚が破けて出血するようなことはなく、軽い打ち身程度で赤くなっていただけのようだ。
負傷をすることになった一連の出来事のことはもう忘れているのか、彼女たちは向かい合って首を左右に振ってリズムを合わせながら「ニャンニャン」言い合っている。
俺は水無瀬の後ろ頭を引っ叩いた。
「おい、水無瀬」
「――あいたぁーーっ⁉」
ここまで至ってようやく彼女は頭を抑えながら振り向いた。
「弥堂くん、なんでぶつのぉ……って! びっ、びびびびびびとーくん⁉ なんでぇっ⁉」
「…………」
いつものように彼女を無視するつもりはなかったのだが、何を答えるべきか、何から答えるべきかわからず、すぐには言葉が出てこなかった。
こいつのらのボンクラ加減に引きずり込まれているようでとても不快だとも感じ、真面目に考えるのが面倒くさくなってとりあえず無言で水無瀬を視た。
「び、びとーくん、なんで……っ、いつからここに――って、どっ、どどどどどどうしよう、メロちゃん⁉」
「お、落ち着くッスよ、マナっ! まだ慌てるような時間じゃねぇーッス! まだ……きっとまだワンチャンあるッスよ! だから――はぅあっッス⁉」
水無瀬を宥めようとしていた黒猫だが、俺がジーっと自分を視ていることに気付くとハッとなる。
そして目線を左右に泳がせ顏から汗をダラダラと流し始める。
なんでだよ。
お前らの汗腺は肉球にしかねえだろうが。
しかしよく視てみると、ヤツの手から汁が零れるようにボトボトと液体が漏れている。
あれは汗なのか……? 気持ち悪ぃなこいつ。
俺が心中で自分とは違う別の生物を蔑んでいると、やがて猫はなにやら必死な様子で飼い主と思われる水無瀬へ何かを訴えだした。
「ニャニャっ! ニャニャニャっニャニャニャっニャニャニャスッスニャ!(マナっ! ここは上手く誤魔化すッスよ!)」
「え? なぁに? メロちゃん、ネコさんごっこは後にしようよ。今は弥堂くんに見つかっちゃって大変なんだよ?」
水無瀬の言うことは尤もなのだろうが、そもそも俺の目の前で相談すんじゃねえよ。
「ニャニャニャーっ! ニャニャン、ニャニャッスニャニャ! ニャニャッニャンニャっニャニャニャニャっニャベーッス!(だからーっ! ジブン、ネコッスから! 喋ってんのバレたらニャベーッス!)」
「ニャベーの?」
「ニャベーんス!」
「そっか、うん。わかったよ!」
「わかってくれたッスか!」
どう意思の疎通が出来たのかは俺にはわからんが、彼女たちの間では何かしらの折り合いがついたらしい。
「うんうん」と頷いて納得の姿勢を見せた水無瀬は、改めて俺の方へ顔を向けてしっかりと目を合わせてくる。
「あのね、弥堂くん。これはニャベーの!」
「アホーーーーッス⁉」
「…………そうか。それは、ニャベーな……」
重苦しい気分でどうにか言葉を返した。
「アホっ! アホっ! マナのアホーッス!」
「いたっ、いたいよメロちゃん! しっぽでペチペチしないでーっ!」
この頃には俺はもう声をかけたことを後悔していた。
自業自得といえばそうなのかもしれんが。
運がいいか悪いかという問題以前に、こんな所に這入って来たのも、こいつらを無視して立ち去らなかったのも全て自分自身の過失だ。
それを認めて受け入れるにはもうあと何年か歳を重ねる必要がありそうではあるが、だが実際のところ見てしまった以上放置をすることも出来ない。
じゃあ知らなければよかったのかというと、そういう話でもない。
俺自身が今日学園でクズどもに伝えたように『知らないこと、気付かないことは罪』だ。
スパイの身とは謂え、風紀委員として活動をしている以上は『知らない』では済まない。
『学園の生徒』の中に『魔法少女』がいて、それが『外部勢力』と『対立』をしていて、放課後に『戦闘行為を含んだ活動』をしている。そしてその正体は『水無瀬 愛苗』である。
これらは俺にとって非常に有益な情報であり、知らないことが不利益になる情報だ。
なのに、それらを得たことに一切の高揚はなく、さらに詳しく聴取をすることに酷く億劫な気分になる。
俺と同じ『世界』の住人だとはとても考えらないような振舞いをする目の前の一人と一匹から話を聞き出すのには、とても我慢を強いられるのだろうし、どうせまともな返答などでてこないだろうという諦めもある。
出来ればこのまま来た道を戻って速やかに帰宅したい。
だが、そういうわけにもいかない。
まだ確定情報ではないが、ヤツらの口ぶりから考察をすると、今回の戦闘は偶発的に起こった遭遇戦などではなく、例のネズミ――“ゴミクズー”と言ったか?――ああいった化け物が複数存在しており、そして彼女らはそれを捜索し、殺してまわっている。
そのように考えるのが妥当だ。
サバイバル部部員としての俺。
風紀委員としての俺。
そしてただの俺。
複数の立場の弥堂 優輝にとって『魔法少女・水無瀬 愛苗』の存在は不利益になる可能性がある。
唯一、水無瀬 愛苗のクラスメイトとしての弥堂 優輝にとっては、どうでもよく、関係のないことであるが、多数決で詳細を把握する方向に決議される。
……なにが『魔法少女・水無瀬 愛苗』だ。
なんなんだこの頭の悪い字面は。
ナメやがってクソが。
非常に面倒ではあるが、しかし俺の気分などどうでもいい。
何を感じて、何を考えて、何を思っていようとも、それらとは別にやるべきことはやらなければならない。
「おい、お前ら。いい加減にしろよ」
再度、俺に声をかけられたボンクラコンビはハッとする。
「ゴ、ゴメンね、弥堂くん。ほったらかしにしちゃって。さみしかったよね……?」
「わ、悪気はなかったんス。だから落ち込むなよッス。ほら、だいじょうぶっスか? 肉球揉むッスか?」
ビキっと――口の端が吊ったのを自覚する。
冷静であろうと努めながら、頬に肉球を圧し当ててくる猫へジロリと眼を向ける。
「ヒ――っ⁉」
喋ってんじゃねえよテメェ。誤魔化すんじゃなかったのか? もう忘れたのかグズめ。
そのような俺の思いが通じたのかは定かではないが、近い距離で眼が合った猫はプルプルと震えながら後退し、飼い主の胸の中へ逃げ込んでいった。
「わっ⁉ どうしたのメロちゃん⁉」
「恐かったッス! ジブン、めっちゃ恐かったッス!」
「恐くないよぉ。弥堂くんは優しい子だよ?」
「いーや、ジブンにはわかるッス! ありゃ確実に2.3人殺ってる目っス!」
「弥堂くんはそんなことしないよぅ」
「騙されちゃダメ――って、ちょっと待ったッス! 弥堂くん⁉ あれが弥堂くんッスか⁉」
「え? うん、そうだよ、同じクラスで隣の席の弥堂 優輝くんだよ」
「ニャんだとーーーッス⁉」
水無瀬から俺を紹介された黒猫は何故か驚いた様子を見せる。
「どうかしたの? メロちゃん」
「どうもこうもねぇーッスよ! 弥堂くんは大人しい子って言ってたじゃねーッスか! 草食系は⁉ 可愛い系は⁉ どう見たってサイコ系じゃねぇーッスか!」
「メロちゃん! そんなこと言っちゃダメだよ! び、弥堂くんゴメンね? メロちゃんはネコさんだから間違えちゃったの……」
「ネコさんだからわかるッス! コイツは小動物とか虐待する系男子ッス! 絶対ショタの時に公園でアリの巣にションベンぶちこんだり、蝶の羽もいだり、クモの足を一本ずつ引き千切ったりとかしてたッス! そういうヤツッス!」
「メロちゃん! めっ!」
水無瀬は飼い猫に強く注意を与え胸にギュッと抱く。すると猫の頭部は胸肉に埋め込まれとりあえず猫は黙った。
「あの、弥堂くん。メロちゃんがゴメンね?」
「どうでもいい。それよりも俺の話をさせてくれないか?」
「え? あ、うん。もちろんいいよ? どうぞ」
「あぁ。それでは――」
ようやく切り出せると思ったが、水無瀬の胸に埋まったケダモノがなにやら藻掻いている。
はぁ、と溜め息をひとつ。
「――その前に。放してやれ」
「え?」
「死ぬぞ。そいつ」
「しぬ……? って! あっ――⁉」
下がった俺の目線を追って彼女は自分のペットだか相棒だかの容態に気付き、慌てて手を離す。
「ぷはぁっ――⁉ し、しぬかと思ったッス!」
「ゴメンね、メロちゃん!」
「なぁに、気にすることはねぇーッスよ。そのおっぱいの中で死ねるんならネコ冥利に尽きるってもんッス!」
「ねこみょーり……?」
パンっと、手を叩く。
また彼女らが何か始める前にこちらに注意を向けさせた。
緊張感や危機感などまったく感じられない二組の目玉からの視線を受け止めて、俺までこいつらの雰囲気に当てられそうで、抵抗の意思を繋ぐために気怠さを溜め息にして吐きだす。
さて、何から訊き出していくか。
「――ひゃわーーーーーっ⁉」
「――ひゃにゃーーーーっ⁉」
背後から声をかけると、一人と一匹は両手と両前足を上に伸ばし奇声をあげながら跳び上がった。
そのまま水無瀬は粟を食ったようにアワアワ言いながらジタジタと奇っ怪な踊りをし、彼女の相棒の猫は水無瀬の顏の横でクルクルと空中を走り回る。
驚きすぎだろと、思わず呆れた眼を向けそうになるがそれよりも、この期に及んでまだ背後を確認しようともしないヤツらの体たらくに俺は苛立つ。
そうこうしていると、クルクル回る猫のしっぽが水無瀬の顔面を打った。
「ふにゃっ――⁉」
ぺしっと間の抜けた音から大した威力ではないと傍から見ている俺にもわかるが、痛みよりも驚きが勝ったのだろう、水無瀬はバランスを崩して前のめりに転んだ。
べちゃっ、ふぎゃっ、と先程の焼き増しの光景を見せられた。
なんで前に倒れるんだよ。
前方から顔を打たれて驚いたなら、尻もちをつくか背後に倒れるならまだしもわかるが、やはり猫が言っていたように乳が重いせいで重心が前に傾いているのだろうか。
そういやこいつ猫背だしなと、そんな余計な思考はすぐに消える。
先程同様、路地裏の汚いアスファルトに顔面を押し付け、後方へ尻を突き上げるような姿勢をとる彼女の制服スカートが捲れ上がる。
露わになったのは青と白の縞々のおぱんつに包まれたケツだ。
俺は戯言のような思考を打ち切り、眼を細めて尖らせた視線をそのケツに突き刺す。
(……どういうことだ?)
俺が目の前で転んだクラスメイトを放置して浮かび上がった疑問に考えを巡らせている内に、猫が慌てて救出に向かった。
「マ、マナぁーーっ! だ、大丈夫っスか⁉」
「う、うえぇ……鼻すりむいたぁ……。いたいよぅ……」
情けない声のわりにすぐに体を起こした彼女は、擦りむいて赤くなった鼻の頭を指差して飼い猫に強調する。
猫は労わるようにその傷を舐めた。
「カワイソウに……イタイのイタイのペロペローッス!」
「わぁ。メロちゃん、くすぐっ――たくないっ⁉ いたいっ! ザラザラするっ!」
「ヘヘっ。ジブン、ネコッスから」
「にゃー?」
「ニャニャニャーッス!」
皮膚が破けて出血するようなことはなく、軽い打ち身程度で赤くなっていただけのようだ。
負傷をすることになった一連の出来事のことはもう忘れているのか、彼女たちは向かい合って首を左右に振ってリズムを合わせながら「ニャンニャン」言い合っている。
俺は水無瀬の後ろ頭を引っ叩いた。
「おい、水無瀬」
「――あいたぁーーっ⁉」
ここまで至ってようやく彼女は頭を抑えながら振り向いた。
「弥堂くん、なんでぶつのぉ……って! びっ、びびびびびびとーくん⁉ なんでぇっ⁉」
「…………」
いつものように彼女を無視するつもりはなかったのだが、何を答えるべきか、何から答えるべきかわからず、すぐには言葉が出てこなかった。
こいつのらのボンクラ加減に引きずり込まれているようでとても不快だとも感じ、真面目に考えるのが面倒くさくなってとりあえず無言で水無瀬を視た。
「び、びとーくん、なんで……っ、いつからここに――って、どっ、どどどどどどうしよう、メロちゃん⁉」
「お、落ち着くッスよ、マナっ! まだ慌てるような時間じゃねぇーッス! まだ……きっとまだワンチャンあるッスよ! だから――はぅあっッス⁉」
水無瀬を宥めようとしていた黒猫だが、俺がジーっと自分を視ていることに気付くとハッとなる。
そして目線を左右に泳がせ顏から汗をダラダラと流し始める。
なんでだよ。
お前らの汗腺は肉球にしかねえだろうが。
しかしよく視てみると、ヤツの手から汁が零れるようにボトボトと液体が漏れている。
あれは汗なのか……? 気持ち悪ぃなこいつ。
俺が心中で自分とは違う別の生物を蔑んでいると、やがて猫はなにやら必死な様子で飼い主と思われる水無瀬へ何かを訴えだした。
「ニャニャっ! ニャニャニャっニャニャニャっニャニャニャスッスニャ!(マナっ! ここは上手く誤魔化すッスよ!)」
「え? なぁに? メロちゃん、ネコさんごっこは後にしようよ。今は弥堂くんに見つかっちゃって大変なんだよ?」
水無瀬の言うことは尤もなのだろうが、そもそも俺の目の前で相談すんじゃねえよ。
「ニャニャニャーっ! ニャニャン、ニャニャッスニャニャ! ニャニャッニャンニャっニャニャニャニャっニャベーッス!(だからーっ! ジブン、ネコッスから! 喋ってんのバレたらニャベーッス!)」
「ニャベーの?」
「ニャベーんス!」
「そっか、うん。わかったよ!」
「わかってくれたッスか!」
どう意思の疎通が出来たのかは俺にはわからんが、彼女たちの間では何かしらの折り合いがついたらしい。
「うんうん」と頷いて納得の姿勢を見せた水無瀬は、改めて俺の方へ顔を向けてしっかりと目を合わせてくる。
「あのね、弥堂くん。これはニャベーの!」
「アホーーーーッス⁉」
「…………そうか。それは、ニャベーな……」
重苦しい気分でどうにか言葉を返した。
「アホっ! アホっ! マナのアホーッス!」
「いたっ、いたいよメロちゃん! しっぽでペチペチしないでーっ!」
この頃には俺はもう声をかけたことを後悔していた。
自業自得といえばそうなのかもしれんが。
運がいいか悪いかという問題以前に、こんな所に這入って来たのも、こいつらを無視して立ち去らなかったのも全て自分自身の過失だ。
それを認めて受け入れるにはもうあと何年か歳を重ねる必要がありそうではあるが、だが実際のところ見てしまった以上放置をすることも出来ない。
じゃあ知らなければよかったのかというと、そういう話でもない。
俺自身が今日学園でクズどもに伝えたように『知らないこと、気付かないことは罪』だ。
スパイの身とは謂え、風紀委員として活動をしている以上は『知らない』では済まない。
『学園の生徒』の中に『魔法少女』がいて、それが『外部勢力』と『対立』をしていて、放課後に『戦闘行為を含んだ活動』をしている。そしてその正体は『水無瀬 愛苗』である。
これらは俺にとって非常に有益な情報であり、知らないことが不利益になる情報だ。
なのに、それらを得たことに一切の高揚はなく、さらに詳しく聴取をすることに酷く億劫な気分になる。
俺と同じ『世界』の住人だとはとても考えらないような振舞いをする目の前の一人と一匹から話を聞き出すのには、とても我慢を強いられるのだろうし、どうせまともな返答などでてこないだろうという諦めもある。
出来ればこのまま来た道を戻って速やかに帰宅したい。
だが、そういうわけにもいかない。
まだ確定情報ではないが、ヤツらの口ぶりから考察をすると、今回の戦闘は偶発的に起こった遭遇戦などではなく、例のネズミ――“ゴミクズー”と言ったか?――ああいった化け物が複数存在しており、そして彼女らはそれを捜索し、殺してまわっている。
そのように考えるのが妥当だ。
サバイバル部部員としての俺。
風紀委員としての俺。
そしてただの俺。
複数の立場の弥堂 優輝にとって『魔法少女・水無瀬 愛苗』の存在は不利益になる可能性がある。
唯一、水無瀬 愛苗のクラスメイトとしての弥堂 優輝にとっては、どうでもよく、関係のないことであるが、多数決で詳細を把握する方向に決議される。
……なにが『魔法少女・水無瀬 愛苗』だ。
なんなんだこの頭の悪い字面は。
ナメやがってクソが。
非常に面倒ではあるが、しかし俺の気分などどうでもいい。
何を感じて、何を考えて、何を思っていようとも、それらとは別にやるべきことはやらなければならない。
「おい、お前ら。いい加減にしろよ」
再度、俺に声をかけられたボンクラコンビはハッとする。
「ゴ、ゴメンね、弥堂くん。ほったらかしにしちゃって。さみしかったよね……?」
「わ、悪気はなかったんス。だから落ち込むなよッス。ほら、だいじょうぶっスか? 肉球揉むッスか?」
ビキっと――口の端が吊ったのを自覚する。
冷静であろうと努めながら、頬に肉球を圧し当ててくる猫へジロリと眼を向ける。
「ヒ――っ⁉」
喋ってんじゃねえよテメェ。誤魔化すんじゃなかったのか? もう忘れたのかグズめ。
そのような俺の思いが通じたのかは定かではないが、近い距離で眼が合った猫はプルプルと震えながら後退し、飼い主の胸の中へ逃げ込んでいった。
「わっ⁉ どうしたのメロちゃん⁉」
「恐かったッス! ジブン、めっちゃ恐かったッス!」
「恐くないよぉ。弥堂くんは優しい子だよ?」
「いーや、ジブンにはわかるッス! ありゃ確実に2.3人殺ってる目っス!」
「弥堂くんはそんなことしないよぅ」
「騙されちゃダメ――って、ちょっと待ったッス! 弥堂くん⁉ あれが弥堂くんッスか⁉」
「え? うん、そうだよ、同じクラスで隣の席の弥堂 優輝くんだよ」
「ニャんだとーーーッス⁉」
水無瀬から俺を紹介された黒猫は何故か驚いた様子を見せる。
「どうかしたの? メロちゃん」
「どうもこうもねぇーッスよ! 弥堂くんは大人しい子って言ってたじゃねーッスか! 草食系は⁉ 可愛い系は⁉ どう見たってサイコ系じゃねぇーッスか!」
「メロちゃん! そんなこと言っちゃダメだよ! び、弥堂くんゴメンね? メロちゃんはネコさんだから間違えちゃったの……」
「ネコさんだからわかるッス! コイツは小動物とか虐待する系男子ッス! 絶対ショタの時に公園でアリの巣にションベンぶちこんだり、蝶の羽もいだり、クモの足を一本ずつ引き千切ったりとかしてたッス! そういうヤツッス!」
「メロちゃん! めっ!」
水無瀬は飼い猫に強く注意を与え胸にギュッと抱く。すると猫の頭部は胸肉に埋め込まれとりあえず猫は黙った。
「あの、弥堂くん。メロちゃんがゴメンね?」
「どうでもいい。それよりも俺の話をさせてくれないか?」
「え? あ、うん。もちろんいいよ? どうぞ」
「あぁ。それでは――」
ようやく切り出せると思ったが、水無瀬の胸に埋まったケダモノがなにやら藻掻いている。
はぁ、と溜め息をひとつ。
「――その前に。放してやれ」
「え?」
「死ぬぞ。そいつ」
「しぬ……? って! あっ――⁉」
下がった俺の目線を追って彼女は自分のペットだか相棒だかの容態に気付き、慌てて手を離す。
「ぷはぁっ――⁉ し、しぬかと思ったッス!」
「ゴメンね、メロちゃん!」
「なぁに、気にすることはねぇーッスよ。そのおっぱいの中で死ねるんならネコ冥利に尽きるってもんッス!」
「ねこみょーり……?」
パンっと、手を叩く。
また彼女らが何か始める前にこちらに注意を向けさせた。
緊張感や危機感などまったく感じられない二組の目玉からの視線を受け止めて、俺までこいつらの雰囲気に当てられそうで、抵抗の意思を繋ぐために気怠さを溜め息にして吐きだす。
さて、何から訊き出していくか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる