俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章16 出会いは突然⁉ ⑦

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 とはいえ。


 3つ目か。


 実は俺の3つ目に訊きたかったことはもう訊けてしまっていた。


『地面や壁の破壊跡が跡形もなく消えたのはどういうことだ』


 それが3つ目にするつもりだった質問だ。


 だからもうこれで話を打ち切ってしまってもいいのだが――


「――そうだな。それではもっと実際的で直接的な話をしようか」


 ここまでの話を一旦整理する。


 この世界には“ゴミクズー”という化け物が存在をしており、それが人間を襲っている。そしてそれを倒す者として“魔法少女”というものが存在する。


 では、これが現実的な問題として社会にとって脅威なのかというと、然程大きなことではないと俺は考える。


 何故かというと、これまでに“ゴミクズー”が絡んでいると思われるような事件などは、少なくとも俺の知っている範囲では見たことも聞いたこともないからだ。


 今日視たあのネズミの化け物。


 もしも普通の人間がアレに襲われたのなら、間違いなく殺されるだろう。そしてその死体は食い荒らされるはずだ。

 ただでさえ死体が珍しいこの国で、そんな損傷の仕方をした死体が発見されれば必ず大きな騒ぎになるはずである。


 一応この後調べてみるが、少なくとも記憶の限りではそんな事件がニュースになっているのを見た記録はない。


 それはつまり、情報統制でもして表沙汰になっていないか、そもそも事件が起こっていないかのどちらかになる。


 “ゴミクズー”とやらがいつから存在しているのかは知らんが、水無瀬は『小学生の時』と先程漏らした。


 それならここ数年に限定して考えてみる。


 もしも被害を秘匿している場合。


 その場合、変死体は見つからないかもしれないが、代わりに行方不明者が増えるはずだ。

 しかし、そういった話も特に聞かない。


 であるならば、そもそも事件が起こっていない可能性が高い。


 事件が起こっていないとは、そのままの意味で何も起こっていないということではなく、事件を事件だと、問題を問題だと気付かれていないという意味だ。


 どういうことかいうと、“魔法少女”の手によって全てが未然に防がれているという意味だ。


 しかし、それはないだろう。


 今日まで視てきた、そして今日知った水無瀬 愛苗を考えれば、こいつらにそんなことが出来るはずがない。

 こいつらの魔法少女としての腕前や“ゴミクズー”との戦力差については俺は寡聞にして知らないが、だがこいつらはポンコツだ。

 優秀であるはずがない。


 それらを加味して導き出される妥当な結論としては、『事件は起こっているが、そもそも発生件数が極端に少ない』、俺は現時点で本件をそのように評価した。


 あの“ゴミクズー”がこの街だけにいるとは考えづらい。仮に水無瀬が頗る優秀だったとしても日本中、或いは世界中をカバー出来るはずがない。

 そうすると見えてくるもう一つの考慮しなければならない可能性があるのだが、それは今はいいだろう。


 もしも“ゴミクズー”が人類にとって真に驚異的な存在であるのならば、とっくに騒ぎになっていなければおかしいのだ。

 暴漢や通り魔の方がよほど現実的で身近な脅威だろう。


 特定の個人が“ゴミクズー”に襲われる確率など交通事故に遭うくらいの確率だろうととりあえず考えておく。


 俺個人には遠い問題であり、クラスメイトである少女が魔法少女として戦っていたとしても、それは俺には実際のところ関係のない問題だと思える。


 水無瀬が化け物との戦いで生命を落とすことになっても、或いは誰だか知らない一般人が襲われて死ぬことになったとしても、それらは全て俺にとってはどうでもいいことだ。


 逆に。


 俺に、弥堂 優輝という存在にとって直接問題になるのは、“ゴミクズー”ではなく、むしろ“魔法少女”の方だ。



 それをこれから確かめる。



「水無瀬」

「うん、なぁに? 弥堂くん」

「お前らの目的はなんだ?」

「……? えと、街の平和を守ることだよ?」

「それは人間の社会に迷惑をかける“ゴミクズー”を駆除するという意味か?」

「え? うん……、駆除じゃなくて浄化だけど……。でも、そうだよ」

「そうか。では、人間の社会に迷惑をかける人間は駆除しないのか?」

「えっ……?」


 何を聞かれているかわからない。そんな顔をする水無瀬をよく視て、さらに訊いていく。


「なにかおかしなことを訊いたか? 社会に迷惑をかける人間などいくらでもいるだろう? そいつらは放っておいていいのか? と訊いたんだ」

「そ、それは……」

「ここに来るまでも見かけなかったか? ガラの悪いヤツらを。あいつらはこのあたりをナワバリにして、徒党を組んで一般人を囲み恐喝をし暴力を奮い金を奪って女を攫っているような連中だ。こいつらもゴミクズだろう?」

「で、でも、それはお巡りさんたちのお仕事だし、私が勝手に何かしちゃうのは……」

「そうだな。それは正しい判断だ。俺もそうするべきだと思うぞ。では、お前はこれまでに人間に向けて魔法を撃ったことはあるか?」

「な、ないよ! そんなのあるわけ、ない、です……」

「そうか。それは――」


 ドッドッドッ――と耳の奥で鳴る心臓の音を眼球の中へ押し込むつもりで眼を強め、彼女と目を合わせる。

 目の前に立つ少女の裡に居るはずの水無瀬 愛苗をその眼窩から覗き視る。


「――それは立派だな」


 それは同時に水無瀬からも同様に俺を覗き見ることが出来ることになる。

 彼女は俺を見て息を呑んだ。


「それはこれからも変わらないか?」

「……もちろん、だよ……? 魔法は人を守るために……」

「そうか」

「ニンゲン……オマエ急になにを――」


 猫の言葉には答えずただ一瞥をくれてやる。


 猫は全身の毛を逆立て水無瀬の足元でその身を縮めた。


「では、水無瀬。例えば。これはあくまで例えば、の話だが――」

「あ……、え……?」

「――今からお前たちが家に帰ろうとしたとする。ここからは道が4つあるが、それは別にどれでもいい。そうだな、では、その道にしようか」


 この広場から広がる4つの路地の内の一つを指で指し示すが、彼女たちはそれを見ようともしない。

 驚き怯み竦んだように俺から視線を離せないまま立ち尽くしていた。

 彼女の瞳に写った俺はいつも通りの俺と変わらずに俺には視える。


「お前たちがそこの路地に入ると人間がゴミクズーに襲われていた。その場合お前は、どうする?」

「それは、もちろん……助けるよっ。助けます……っ!」

「そうか。じゃあ、人間に襲われていたら?」

「えっ?」

「お前たちがそこの路地に入ると人間が人間に襲われていた。さぁ――」


 水無瀬へ向ける視線を強める。


「――どうする?」


 彼女は酷く戸惑っている様子だ。


「どうした? 答えないのか?」


 彼女は答えない。

 実際の状況を想像しているのか、この場の雰囲気にか、それとも俺にか、それはわからないが恐れ慄いている。


「警察に通報するか? それもいいだろう。正しい選択だ。だが、それでは間に合わない場合はどうする? 今、まさに、人間が殺されようとしていたら?」


 水無瀬は答えない。


「お前の手の中にはそれをどうにかする力が――魔法がある。さぁ、どうする?」


 答えない。答えられない。


 それは問いに対する答えが解らなくて答えられないのか、単純に答えたくなくて答えないのか、或いは恐怖に身を竦んで言われたことの意味すら考えられていないのか。

 それも俺にはわからないし、そしてどうでもいい。


 彼女がどう思い、どう考え、どう行動するのかを知りたくて訊いているわけではないからだ。

 彼女が何を思い、何を考え、何をするかなどに興味はなく、至極どうでもいい。


 ただ、ストレスを与え、追い詰め、傷つけて、その存在が揺らがないかを確かめるためにこうしている。


 ハッハッ――と浅く、彼女の唇の隙間から息が漏れる音がする。


 だから、俺は構わずに続ける。


「想像しづらいか? じゃあケースを変えよう。今、お前の目の前で俺が暴漢に襲われているとする」
「その場合、お前はどうする?」
「どうした? 俺を助けてくれないのか?」
「魔法を撃つだけだぞ?」
「俺を見殺しにするのか?」
「暴漢を殺すか、俺を殺すか」
「お前は選べる側だ」
「さぁ、どうするんだ?」


 彼女が息を呑み込む音にヒュッとした音が混ざり始めた。

 だから、俺は構わずに続ける。


「もっと実感が湧きやすいように訊いてやろうか」
「今、お前の目の前で、希咲 七海が殺されそうになっていたとする」

「――なな、み、ちゃ……」


 水無瀬の目がより大きく見開かれた。


「希咲を殺そうとしているのは、俺だ」

「え――?」


 左手の中指と人差し指を伸ばして揃えて他の指は握る。

 その手を水無瀬の目線の高さまで上げて彼女によく見せてやる。


「この手はナイフだ。お前の友達を殺すナイフだ」


 右腕を動かす。

 ここに来る前に学園の正門前で腕の中に抱いた希咲の身体がスッポリ納まるスペースを俺の身体との間に空けて、架空の希咲 七海を右腕で抱く。


「この腕の中には彼女が居る」


 水無瀬によく見えるように、ゆっくりと左手のナイフを右腕で抱く希咲の首筋まで持っていく。


 水無瀬の口からは声にもならないような意味を持たない音だけが漏れている。

 しかし、彼女の目玉は俺の手のナイフを追って動いた。


「今、希咲の首筋に刃を当てている」
「これを彼女の皮膚に少しだけ押し付けて引くと彼女の首が切れる」
「彼女の細い首の、薄い皮膚が破れて、肉が裂け、その肉の割れ目からは血管が覗く。重要な血管が破かれてしまったら、そこからは大量の血液が漏れ出る」
「首の血管――頸動脈だ。わかるか? 脳に血や酸素を送っている重要な血管らしい。それを切ると人間は血がいっぱい出て死んでしまうんだ」
「5分ほどで死に至るらしい。救助が間に合ったとしても後遺症が残ることもあるらしいぞ」

「あ……、や……、ななみちゃ…………」

「そうだ。七海ちゃんだ。もちろん七海ちゃんも首を切られたら血がいっぱい出て死んでしまう」

「やだ……、そんなの……」

「そうか。そうだろうな。だが、ダメだ」

「え……?」

「俺は今から七海ちゃんを殺す。お前の目の前で。お前の大事な友達の七海ちゃんを。殺してやる」
「10カウントだ」
「10カウント後に希咲の首に当てたナイフを引く」
「そうしたらどうなる? もう説明したな?」
「七海ちゃんは死ぬ」
「七海ちゃんの身体から血がいっぱい溢れ出して、俺の足元からお前の立っている場所まで、一面の血の池が出来るだろう」
「その池が出来る頃には彼女はもう彼女ではなくなっている」
「ただの死骸だ」


 水無瀬はギュッと胸を抑える。

 痛みで堪らずといったように、左胸を抑えた。


「ま、まって。びとうくん……」

「待たない。だが、オマエも好きにすればいいだろう?」

「えっ……?」

「俺を止めたいのなら、言葉よりももっと確実な手段が、お前にはあるだろう?」

「あっ……、でも……っ!」

「どうするかはお前が決めろ」
「お前は俺を止めることも出来るし、何もしないことも出来る」
「俺を殺すことも出来るし、希咲を見殺しにすることも出来る」
「お前は誰でも殺すことが出来るし誰も殺さないことも出来る」
「好きにすればいいし好きにすることがお前には許されている」
「『世界』がお前に許している」
「さぁ」
「いくぞ」


 尚も何かを言いかける水無瀬を無視してカウントを開始する。


「10――」
 心が、気持ちが、大きく揺らぐ。
「…………9――」
 水無瀬の手は抑えていた胸から離れ、
「………………8――」
 その胸の前に垂らされたペンダントへ伸び、
「……………………7――」
 青い宝石のような石に触れる。
「…………………………6――」
 やがてその石を握り、
「………………………………5――」
 その手には力がこめられ、
「……………………………………4――」
 両の目をギュッと強く閉じた。
「…………………………………………3――」
 彼女は顔を上げ、
「………………………………………………2――」
 そして開いたその瞳を俺へ――
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