161 / 793
1章 魔法少女とは出逢わない
1章22 4月19日 ⑥
しおりを挟む「よぉ~し。大人しくしとけよ~」
そう言って全体に目を配らせたのは40歳前後のトレンチコートを着た男だ。
「警察だっ!」
もう一人の20代半ばから後半くらいの男が、制服の上着から取り出した手帳を見せつけてくる。
「悪そうなヤツがいっぱいいるじゃねえか……こりゃ大漁だ。なぁ、青柴ぁ?」
「はいっ! ヤマさんっ!」
新たに現れた二人組は警官のようだ。公園にいる誰かが騒ぎを見て通報したのかもしれない。
「たすけてお巡りさんっ!」
ダッと駆け出したリュージは青柴と呼ばれた若い制服警官の足に縋りつく。
「む? どうしました?」
「じ、実は――」
事情を説明するために顔を上げようとするとリュージは自分が取り縋っている相手の足に違和感を覚える。
「ん?」と眉を寄せ目線を上下に振ると、青柴と呼ばれた若い警官の服装は上は警察の制服で、下は青のケミカルウォッシュだった。
「ダッ、ダダダダダダセェッ⁉」
真面目に職務に就くべきはずである警官のあまりに歌舞いたファッションセンスにスジモンはびっくり仰天した。
青柴巡査はそのリアクションに対して「む」と不服そうに眉を寄せ、訓練された動作でカチリとリュージの手首に手錠をはめた。
「1103、逮捕」
「なんでだよっ⁉」
「本官にはいつか『ジーパン刑事』と呼ばれたいという夢がある。今はまだ半人前だから半分私服で半分制服だ。それを馬鹿にしたのは公務執行妨害にあたる。ですよね! ヤマさんっ!」
「そうだなぁ~。他人の夢を笑う奴はクズだ。クズは逮捕しといた方が世の中の為になるし、俺らの成績にもなる」
「さぁ、立て。詳しい話は署の方で訊かせてもらうからな」
「なぁに。カツ丼くらいは頼んでやるさ。もちろんキミの自腹だがね」
「クソッタレ! あ、兄貴ィッ! 兄貴たすけてぇ!」
官憲の横暴な振舞いに堪らず兄貴に助けを求めると、ちょうどフラフラと兄貴が立ち上がったところだった。
「ゥオゥラァッ! サツがなにしに来たんじゃあ⁉ お呼びでねえんじゃボキャァッ!」
「巡回中じゃオラァッ! こっちは街の平和守ってんだよクソがァッ!」
大声で威嚇をする兄貴にトレンチコートの警官も負けじとガラの悪い声を返す。
「なぁにが巡回じゃあ! お散歩してりゃあ銭が入ってくるたぁ、オマワリさんはエエご身分じゃのおぉ? ワシらの税金返さんかいっ! えぇ、おい、山元よぉ~?」
「ぬかせや極道モンがよぉ。キレイな金で税金払えるようになってから出直してきなぁ。それが出来ねえんならブタ箱にぶちこんで更生させてやるぜぇ~?」
「令状見せんかいボケェ! オドレはマル暴ちゃうやろが! 勝手にワシの身柄持ってけるもんならやってみぃやぁっ!」
「なぁにが令状だバカタレがぁ。周り見てみろ。こんな所でカタギと揉めて騒ぎ起こしやがって。普通に現行犯じゃアホンダラァ~」
「アァッ⁉」
自身が山元と呼んだ警官から指摘され周囲に目を遣ると野次馬が集まっていた。言われたとおり騒ぎになってしまったのだろう。
チッ舌を打ち声量を抑える。
「ハッ、確かにちょいとデカイ声で喋り過ぎたかのぉ? えろぉスンマヘン。で? そんでなんの現行犯だって? 声が五月蠅いっちゅーだけでワッパはやりすぎちゃいまっかぁ?」
「ハン。スットボケんなや間抜け面がぁ~。カタギと喧嘩して言い逃れできっかよぉ。暴行に傷害じゃあ~。どうせ脅迫もやっとんのだろ」
「ひでぇ言いがかりだぜぇ。被害者はワシらじゃあ。のぅ、ヤス?」
「ヒェイッ! アニフィッ!」
顔面血塗れのヤスちゃんがザザッと警官の前に立ち塞がる。
「なにが被害者だ。見え透いた言い逃れを――」
「――なんビャあ、マッポフォラァっ! アニフィフヘヘフっヘんならフォヘギャヒャッヒャヤぁっ!」
閑散とした前歯の隙間から山元への威嚇の言葉を鳴らすと、スッと寄ってきた青柴巡査がヤスちゃんの手にカチリとワッパをかけた。
「1107、逮捕」
「ピャアアァァァァァァッ⁉」
自身の手を見下ろしヤスちゃんはビックリ仰天する。
「お前、そのツラはヤクやってるだろ? 覚悟しろよ」
「ア、アニフィッ! アニフィ……ッ!」
「ヤ、ヤスゥゥゥーーッ!」
鉄の鎖に引かれながら、青くなったかつては眉毛があった跡をふにゃっと下げて助けを求める弟分に兄貴は手を伸ばすがその手は届かない。
「ほれ、おめぇも来い。情けでワッパは勘弁してやる」
「山元ぉ……テメェ……っ」
「皐月のおやっさん具合悪いんだろ? あまり心労をかけるもんじゃあねえぜ」
「チッ、それを言われちゃあ敵わねえな。ええわ、連れてけや」
「なに。ちょっと派出所で茶でも飲んでけ。ちゃんと帰してやる」
観念をした兄貴は警官の方へ近づいていく。
「ほんなことよりヤマさんよぉ。アンタ巡査長だろ? 刑事でもねえのに勝手に私服着てええんかよ?」
「心はいつでも刑事なんだよ。テメーの仕事着はテメーで決める。それが男ってもんよ」
「そんなことだから出世できねえんだよ」
「お前に言われたかねえや。それにな、着たくても制服がねえんだ」
「アン?」
「ちょっとこれ着て俺を厳しく取り調べてくれってよ、カミさんに強要したらバラバラに裁断されちまってよ」
「アンタ馬鹿なんじゃねえのか?」
「こっぴどく叱れちまったよ。しっかり調べてもらおうってよ、ケツ穴にUSBメモリ隠しといたんだが、それ突っこんだまま2時間正座よ。ありゃあナカナカだったぜぇ~」
「そんなことだからしょっちゅう実家に帰られんだよ。女にはナメられたらシメェだ。逆にケツにUSB突っこんでやれよ」
どうも顔見知りの様子の警官とヤクザは世間話のように最低の会話をし、折り合いをつけたようだ。
大人しくなったヤクザたちを青柴巡査に任せ、山元巡査長は弥堂と子供たちの方へ近づいてくる。
「お兄さんたち災難だったねぇ~。コワイおじさんたちはお巡りさんらが――」
にこやかに話しながら途中で弥堂の顔を見て表情を変える。
「お前この野郎。狂犬じゃあねえか。なんだよ、お前と揉めてたのか? 話が変わってくるじゃねえか」
「兄ちゃんはなんでヤクザにもお巡りさんにも『狂犬』なんて呼ばれてるの? どうかしてるよ……」
かけるから呆れたような悲しそうな瞳を向けられるが弥堂は無視した。
「ご苦労。こっちは特に問題はない。そいつらを連れてとっとと行っていいぞ」
「このガキ……、相変わらず大人にナメた口ききやがって……。気軽にスジモンと喧嘩すんなって言ってんだろ? お前が皐月組と仲いいのは知ってるが……」
「別に仲良くなどない。同じことを何度も言わせるな無能警官が」
「に、兄ちゃんっ! お巡りさんにそんなこと言っちゃダメだよ……っ!」
大人に対する口のきき方をしらない高校生を小学生たちが慌てて窘める。
「ったく、クチの悪ぃガキだ。せっかくの休日に公園で中年ヤクザとデートたぁ悲しいねぇ。たまには若い女の子と遊んだらどうだ? 青春ってのは――」
中年らしいおせっかいを口にしようとした山元巡査長だが、そこで視線が下がり弥堂の腰に抱き着きご満悦な顏の女児に気が付く。
カチリと、静かな音が鳴った。
「1114、逮捕」
「「「えぇ~っ⁉」」」
知ってるお兄さんの手首に銀色の手枷が嵌められる衝撃シーンを見てショタたちはびっくり仰天する。
「テメェ、この野郎。確かに若い女の子と遊べっつったけどなぁ。いくらなんでも若すぎるだろぉが。無茶しやがって……、なんだ? 股間の方まで狂犬なのかオメーは? あん?」
「何を言っているのかわからんが誤解だぞ」
弥堂は自らの手首から伸びる鎖を無感情に見つめながら、とりあえず自分は悪くないということだけ主張した。
「アン? 誤解だぁ?」
「そうだ。誤認逮捕は罪が重いぞ。お前のキャリアに傷がつく可能性が高い。俺は高校生だからな。仮に誤認逮捕だった場合、当然SNSでこのことを拡散するぞ。いかに自分が不当な扱いを受け傷ついたかと情感たっぷりに語るストーリーを添えてな。その場合世間はお前だけでなくお前の妻や子供にまで石を投げてくるだろう。そうなったらお前の妻は二度と実家から帰ってこなくなるだろうな。それはリスクに見合わないとは思わないか?」
「この野郎。躊躇なく警官を脅迫するんじゃあねえよ。んじゃ、こっちに訊いてみるか。お嬢ちゃん? このクズのお兄ちゃんとはどんな関係なんだい? 仲良しなのかな?」
「え? なかよしだよぉー? それよりおじさん。お兄さんを連れていっちゃうの? あのね、お兄さんとは“みー”のことイジメてくれるってお約束してるの。だから連れていかないで?」
「来いっ、この野郎」
グイっと強く手錠を引かれる。
「貴様、後悔するぞ」
「うるせえんだよ。特殊性癖に特殊性癖を上塗りすんじゃねえよテメェ。必ず後悔させてやるからな」
「待て。証拠ならある」
「あぁ? 証拠だぁ?」
肩眉を吊り上げる巡査長の前で弥堂は懐から一枚のカードを取り出し、それを見せる。
目を細める中年警官の目に飛び込んできたのは――『カイカン熟女クラブ』の朝比奈さん29歳Eカップの写真だ。
「……これは?」
「見てわからんのか? 無能め」
「ちょいとおじさんには意味がわからねえなぁ」
「いいか? 俺は熟女好きだ。今度その女を指名する予定がある。つまり俺は幼児性愛者ではない。薄汚いペド野郎と一緒にするな」
「来いっ、この野郎」
再び手錠を引かれ弥堂は連行されていく。
「お前、この人妻そこの子らの母親くらいじゃねえか。ワンチャンあるぞ? キワドイとこ攻めるんじゃあねえよ」
「意味がわからんな。俺を解放しないと後悔することになるぞ」
「うるせえよ。高校生のくせに人妻ヘルスだぁ~? ナメやがって……、署でたっぷり絞ってやっからな」
「断る。今日は予定があるんだ。お前と遊んでいる暇はない。それとその写真は返せ」
「必死かよ。どんだけ人妻好きなんだよ。いいからちょっと署でお茶していけ。ちゃんと帰してやっからよ」
「まってー。お兄さんっ! あくやくれーじょー約束だからねー!」
ブチブチと言い合いながら二人はこの場を離れていく。その背中に少女の切実な願いの声がかけられた。
知ってるお兄さんが目の前で逮捕されるという衝撃映像に、少年たちは茫然としていた。
しばしの間、ヤクザと一纏めに連行される弥堂の後ろ姿を見守った後、やがて誰からともなく顔を見合わせると子供たちは大きくひとつ頷き合い、お昼ご飯を食べるためにお家へ帰る。
世の中にはきっとどうにも出来ないことがあり、時にはそれらから目を背けることも必要なのだと、彼らはそれを今日学んだ。
例え、自分の手の届かない外の世界で大変なことが起こっていたとしても、自分には目の前の『お昼までには帰ってきなさいね』というお母さんの言いつけの方が大事なのだ。
人それぞれに出来ることと出来ないことがあり、同時にやるべきことがある。
こうしてひとつ大人になった子供たちは公園を出ていった。
その場には数本のシケモクと僅かな血痕だけが残された。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる