172 / 793
1章 魔法少女とは出逢わない
1章25 生命の伽藍堂 ②
しおりを挟む狂笑。
手で目元を覆いながらアスは高笑いをあげる。
何がそんなに可笑しいのかはわからないが、彼の足元に座っていたボラフが腰を浮かせ、気まずげにしながらも緊張を高めている様子から流れが変わったのだと、それが弥堂にも否応なく伝わってきた。
「お、おい、アス……様、これは――」
「――ボラフさぁ~ん」
「――っ⁉」
堪らずボラフが声をかけると、ピタっと嗤い声をあげるのを止めたアスが顔を向けた。
その狂気染みた嗤い顏にボラフが言葉を飲み込むと同時、アスは足元で膝立ちになっているボラフの腹部を爪先で蹴り上げた。
鈍い音を発する暴力的な行為とは裏腹にふわっと柔らかくボラフが浮き上がると、アスは自身の目線まで上がってきた彼の首を片手で掴んで握る。
「グァッ……ガッ……ッ⁉」
ボラフは反射的に自身の首に食い込むアスの指を両手で外しにかかるが、余程に力の差があるのかビクとも動かせない。
吊し上げられるボラフを視ながら弥堂はさりげなく水無瀬の背に手を回し指先で心臓の裏に触れる。
彼女の心臓の鼓動を感じとりながら、そのリズムに合わせてトットットッ――と指で彼女の背を叩く。
彼らの関心外でそうしている内に、アスはグイと乱暴にボラフの顏を引き寄せ至近で目を合わせた。
「どういうことです? ボラフさん。聞いてませんよ」
「な……っ、にっ、がっ……!」
「開いてるじゃないですか。種が」
「グッ……!」
「何が成果がないですって? 何故報告しないんです?」
「カッ……、カハッ……!」
ギリギリと強く首を絞めつけられるボラフは言葉を発せない。
アスは紅く妖しく光る瞳孔の収縮した瞳で数秒ボラフの目を覗き込むと手を離し、足元に崩れ落ちる彼の頭を踏みつけた。
薄い笑みを浮かべる。
「……まさかこの私を出し抜けるとでも?」
「ちっ、ちがう……っ! そうじゃない……! そんな、グッ……、つもりは、ねえっ……!」
「いつからです? いつから、こうなんです? 隠し通せるとでも思ったんですか?」
「ち、ちがうっ! 少なくとも昨日は、ちがった……!」
「へぇ……?」
自身の靴底と地面とに挟まれて苦悶する部下をアスはジッと見下ろした。口の端を僅かに持ち上げ浮かべている笑みを冷えたものに変える。
ボラフは全身から冷や汗が噴き出たように錯覚した。
「……まぁ、いいでしょう」
ややあって、アスは足を離す。
顏に貼り付けた表情を元の柔らかい微笑みに戻して、足元で息を荒げる部下に声をかける。
「今日開いた、ということでいいんですね? 勿論、アナタの言い分を信じるのならば――ですが」
「あ、あぁ……っ! 嘘は、ついてねえ……っ」
「そうですか? 先程成果はないと仰いましたよね? まさか彼女のことに気付いていなかったとでも?」
「うぐっ……、そ、れは……っ!」
「フフッ、まぁいいでしょう。これ以上は虐めないであげましょう」
「…………」
「よかったじゃないですか。成果。あげることが出来て」
「……あぁ」
「心配していたのですよ。失敗してばかりでしたので。まるでわざとやってるかのように……、そういえばあまり嬉しそうじゃありませんね?」
「そんなこと、ねえよ……」
「フフッ、そうですか。そういうことにしておきましょう。何にせよこれで問題は解決しましたね。私は配置替えを検討しなくて済みますし、プロジェクトは一歩前進した。これは評価に値します。アナタも昇格できるかもしれないですね」
「そりゃどうも……」
「では、もう少し彼女の状態を確かめてから帰るとしましょうか。アナタは先に帰ってもらって構いませんよ」
「……チッ」
もう興味はなくしたとばかりにボラフから目線を切り、水無瀬の方へ歩き出そうとアスが体の向きを変えた瞬間――
「――ありったけ撃ち込め」
「ふるばーすと……」
上空に魔法の光弾の群れが展開し即座に降り注ぐ。
「懲りないですね。意外と頭はよくないのでしょうか」
先程と同じようにアスは頭上へ手を翳しシールドを展開させる。
光球が次々とシールドに当たっては消えていくのを視野に捉えながら、弥堂は次の指示を出す。
「最大火力だ」
「さいだい……」
光弾の雨で縛り付けている隙に水無瀬の持つ魔法のステッキに力が集束しピンク色の魔力光が膨らむ。
その間に光弾の雨は止んだ。
光線を放つに足るエネルギーが充填されるまで足止めは保たなかったようだ。
「ほう……」
しかし、光弾を防ぎ切ったアスは瞳に興味深げな色を浮かべて水無瀬の方へ手を翳してシールドを維持したまま、特にそれ以上は動こうとはしなかった。
ようやく魔法の準備が整う。
「やれ」
「ふろーらるばすたー」
ギロチン=リリィを仕留めたものと同じ、人気アニメである『魔法少女プリティメロディ☆フローラルスパーク』のヒロインこと『フローラルメロディ』の必殺技『フローラル・バスター』を模倣した魔法が放たれる。
直径1.5mほどの光の奔流が襲いかかりアスの展開する銀光が輝く透明な防御壁に直撃する。
その二つの魔法の力は拮抗した。
「へぇ……」
前方のアスは楽し気な声を漏らし、
「ダ、ダメだ……、ダメッスよマナぁ……っ」
後方で蹲るメロからは悲観色の声が零れた。
それらを聴きながら弥堂は右手は水無瀬の背中に触れさせたまま左手で胸元の逆十字に吊るされたティアドロップに触れる。
そうして状況の行く末を見据えようとして、ふと思いつき水無瀬に話しかける。
「おい」
「おい……」
「がんばれ」
「がんばる……」
適当な励ましをかけてみると――
「む……っ? これは……」
俄かに水無瀬の放つ魔法の力が増し、アスの眉がピクッと跳ねる。
「…………」
弥堂はその様子を無感情に視詰め、不意にペシッと水無瀬の頭を叩いてみた。すると、魔法少女ステッキから放出されている魔法が直径2倍のごんぶとビームになった。
「――なんですって」
シールドを掲げる手にかかる負荷が爆発的に跳ね上がりアスは目を見開く。
片手で難なく支えていたシールドに、思わずもう片方の手を伸ばして両手で支える。
「今だ」
「すぱーくえんど……」
防御障壁ごとアスやボラフを飲み込む勢いだった魔法光線が大爆発を起こす。
爆風が四方八方を吹き荒らした。
粉塵が頬を刺すが結果を観測する為、決して眼は閉じない。
ほどなくして視界が晴れる。
(そうだろうな)
最初の奇襲の時と同様、健在なままでそこに立っていた。
だが、先程と違う結果になった点が一つ。
アスが展開したシールドに細かい罅が無数に入っていた。
その罅からガラスが砕けるように透明な防御障壁がパリパリと音を立てて壊れていく。
「へぇ……」
自身の防御が壊されたことに、アスは慌てるでも憤るでもなく、短く感心したような声を漏らした。
「しょ、少年……っ! ど、どうしよう……っ! どうしたらいいッスか⁉」
怯え切った様子のメロの縋るような声が背後からかかる。
「大丈夫だ。何もしなくていい」
振り返りもせず、弥堂は平坦な声で短く返した。
(出来ることなど何もない)
それ程に力の差は圧倒的で絶望的だ。
だから、何をしてもしなくても、結果は同じことだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる