俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章25 生命の伽藍堂 ②

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 狂笑。


 手で目元を覆いながらアスは高笑いをあげる。


 何がそんなに可笑しいのかはわからないが、彼の足元に座っていたボラフが腰を浮かせ、気まずげにしながらも緊張を高めている様子から流れが変わったのだと、それが弥堂にも否応なく伝わってきた。


「お、おい、アス……様、これは――」

「――ボラフさぁ~ん」

「――っ⁉」


 堪らずボラフが声をかけると、ピタっと嗤い声をあげるのを止めたアスが顔を向けた。

 その狂気染みた嗤い顏にボラフが言葉を飲み込むと同時、アスは足元で膝立ちになっているボラフの腹部を爪先で蹴り上げた。


 鈍い音を発する暴力的な行為とは裏腹にふわっと柔らかくボラフが浮き上がると、アスは自身の目線まで上がってきた彼の首を片手で掴んで握る。


「グァッ……ガッ……ッ⁉」


 ボラフは反射的に自身の首に食い込むアスの指を両手で外しにかかるが、余程に力の差があるのかビクとも動かせない。


 吊し上げられるボラフを視ながら弥堂はさりげなく水無瀬の背に手を回し指先で心臓の裏に触れる。

 彼女の心臓の鼓動を感じとりながら、そのリズムに合わせてトットットッ――と指で彼女の背を叩く。


 彼らの関心外でそうしている内に、アスはグイと乱暴にボラフの顏を引き寄せ至近で目を合わせた。


「どういうことです? ボラフさん。聞いてませんよ」

「な……っ、にっ、がっ……!」

「開いてるじゃないですか。種が」

「グッ……!」

「何が成果がないですって? 何故報告しないんです?」

「カッ……、カハッ……!」


 ギリギリと強く首を絞めつけられるボラフは言葉を発せない。


 アスは紅く妖しく光る瞳孔の収縮した瞳で数秒ボラフの目を覗き込むと手を離し、足元に崩れ落ちる彼の頭を踏みつけた。

 薄い笑みを浮かべる。


「……まさかこの私を出し抜けるとでも?」

「ちっ、ちがう……っ! そうじゃない……! そんな、グッ……、つもりは、ねえっ……!」

「いつからです? いつから、こうなんです? 隠し通せるとでも思ったんですか?」

「ち、ちがうっ! 少なくとも昨日は、ちがった……!」

「へぇ……?」


 自身の靴底と地面とに挟まれて苦悶する部下をアスはジッと見下ろした。口の端を僅かに持ち上げ浮かべている笑みを冷えたものに変える。

 ボラフは全身から冷や汗が噴き出たように錯覚した。


「……まぁ、いいでしょう」


 ややあって、アスは足を離す。


 顏に貼り付けた表情を元の柔らかい微笑みに戻して、足元で息を荒げる部下に声をかける。


「今日開いた、ということでいいんですね? 勿論、アナタの言い分を信じるのならば――ですが」

「あ、あぁ……っ! 嘘は、ついてねえ……っ」

「そうですか? 先程成果はないと仰いましたよね? まさか彼女のことに気付いていなかったとでも?」

「うぐっ……、そ、れは……っ!」

「フフッ、まぁいいでしょう。これ以上は虐めないであげましょう」

「…………」

「よかったじゃないですか。成果。あげることが出来て」

「……あぁ」

「心配していたのですよ。失敗してばかりでしたので。まるでわざとやってるかのように……、そういえばあまり嬉しそうじゃありませんね?」

「そんなこと、ねえよ……」

「フフッ、そうですか。そういうことにしておきましょう。何にせよこれで問題は解決しましたね。私は配置替えを検討しなくて済みますし、プロジェクトは一歩前進した。これは評価に値します。アナタも昇格できるかもしれないですね」

「そりゃどうも……」

「では、もう少し彼女の状態を確かめてから帰るとしましょうか。アナタは先に帰ってもらって構いませんよ」

「……チッ」


 もう興味はなくしたとばかりにボラフから目線を切り、水無瀬の方へ歩き出そうとアスが体の向きを変えた瞬間――


「――ありったけ撃ち込め」

「ふるばーすと……」


 上空に魔法の光弾の群れが展開し即座に降り注ぐ。


「懲りないですね。意外と頭はよくないのでしょうか」


 先程と同じようにアスは頭上へ手を翳しシールドを展開させる。


 光球が次々とシールドに当たっては消えていくのを視野に捉えながら、弥堂は次の指示を出す。


「最大火力だ」

「さいだい……」


 光弾の雨で縛り付けている隙に水無瀬の持つ魔法のステッキに力が集束しピンク色の魔力光が膨らむ。

 その間に光弾の雨は止んだ。

 光線を放つに足るエネルギーが充填されるまで足止めは保たなかったようだ。


「ほう……」


 しかし、光弾を防ぎ切ったアスは瞳に興味深げな色を浮かべて水無瀬の方へ手を翳してシールドを維持したまま、特にそれ以上は動こうとはしなかった。

 ようやく魔法の準備が整う。


「やれ」

「ふろーらるばすたー」


 ギロチン=リリィを仕留めたものと同じ、人気アニメである『魔法少女プリティメロディ☆フローラルスパーク』のヒロインこと『フローラルメロディ』の必殺技『フローラル・バスター』を模倣した魔法が放たれる。


 直径1.5mほどの光の奔流が襲いかかりアスの展開する銀光が輝く透明な防御壁に直撃する。


 その二つの魔法の力は拮抗した。


「へぇ……」


 前方のアスは楽し気な声を漏らし、


「ダ、ダメだ……、ダメッスよマナぁ……っ」


 後方で蹲るメロからは悲観色の声が零れた。


 それらを聴きながら弥堂は右手は水無瀬の背中に触れさせたまま左手で胸元の逆十字に吊るされたティアドロップに触れる。

 そうして状況の行く末を見据えようとして、ふと思いつき水無瀬に話しかける。


「おい」

「おい……」

「がんばれ」

「がんばる……」


 適当な励ましをかけてみると――


「む……っ? これは……」


 俄かに水無瀬の放つ魔法の力が増し、アスの眉がピクッと跳ねる。


「…………」


 弥堂はその様子を無感情に視詰め、不意にペシッと水無瀬の頭を叩いてみた。すると、魔法少女ステッキから放出されている魔法が直径2倍のごんぶとビームになった。


「――なんですって」


 シールドを掲げる手にかかる負荷が爆発的に跳ね上がりアスは目を見開く。

 片手で難なく支えていたシールドに、思わずもう片方の手を伸ばして両手で支える。


「今だ」

「すぱーくえんど……」


 防御障壁ごとアスやボラフを飲み込む勢いだった魔法光線が大爆発を起こす。


 爆風が四方八方を吹き荒らした。


 粉塵が頬を刺すが結果を観測する為、決して眼は閉じない。


 ほどなくして視界が晴れる。


(そうだろうな)


 最初の奇襲の時と同様、健在なままでそこに立っていた。


 だが、先程と違う結果になった点が一つ。


 アスが展開したシールドに細かい罅が無数に入っていた。

 その罅からガラスが砕けるように透明な防御障壁がパリパリと音を立てて壊れていく。


「へぇ……」


 自身の防御が壊されたことに、アスは慌てるでも憤るでもなく、短く感心したような声を漏らした。


「しょ、少年……っ! ど、どうしよう……っ! どうしたらいいッスか⁉」


 怯え切った様子のメロの縋るような声が背後からかかる。


「大丈夫だ。何もしなくていい」


 振り返りもせず、弥堂は平坦な声で短く返した。


(出来ることなど何もない)


 それ程に力の差は圧倒的で絶望的だ。


 だから、何をしてもしなくても、結果は同じことだ。

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