179 / 793
1章 魔法少女とは出逢わない
1章26 Void Pleasure ③
しおりを挟む弥堂は彼らが消えたその地点をまだ油断なく視続ける。
「い、いみわかんねえッス……、なんでジブンら助かったんスか……? 少年、オマエ色々スゲェッスね。頭おかしいッスけど……」
いまだ生存した実感の薄いメロは茫然と呟きを漏らしながらフラフラと近づいてくる。
彼女が足元に来たところでようやく弥堂は水無瀬の首から凶器を離し、地面へ放り捨てた。
「あっ……! そうだ、マナぁーっ!」
メロは宙へ浮かび上がり彼女の無事を確かめようと顔を覗き込む。
「あぁ……、なんてひどい………。こんな数日に渡って複数人にマワされた後みたいな目になっちまって……」
「…………」
「オイ、テメェー! なに他人事みたいなツラしてんスか⁉ オマエがやったんだろッス! 一体どこ見て…………ハハァーン」
他所を視る弥堂の視線を追うとその先はギロチン=リリィが生えていた場所だ。そこに在るものを見つけたメロはイヤらしい笑みを浮かべる。
「カァーッ! たくっ、このエロガキはよぉー。しょうがねぇなーッス!」
なにやら管を巻きながら彼女はそこへ寄っていき、地面に付着していたギロチン=リリィの体液だと思われる白濁液を肉球で拾い上げる。
そうしてウキウキとしながら軽い足取りで戻って来た。
「わぁーってるッス。みなまで言うなッス。でもちょっとだけッスよ? かぶれちゃうかもしんないッスからね。ジブンがチャチャッと顔に塗ってやるからすぐに撮影するんスよ? 早めに拭き取りたいッスからね。そんであとでedgeで写真を送ってくれッス……」
言いながらメロは白濁液を光のない瞳で佇む水無瀬の顏へと近付けていく。
弥堂は溜息を吐くと無言でドスケベ妖精を叩き落した。
「フギャニャッス⁉」
「余計な真似をするな。もうここから出るぞ。そいつを元に戻す」
「あいてて……ッス……。もとにって、これちゃんと戻るんスか? カウンセリングとかいらないんスか?」
起き上がりながら疑問を呈するメロを無視して、弥堂は水無瀬の正面にまわり彼女の顔を覗く。
首から提げたネックレスをまた外そうとして、やめる。
面倒だったのだ。
「おい、水無瀬。またパチンとするからもう戻れ。それでいいな?」
「それでいいなってなんスか! そんなテキトーなので戻るわけ――」
ニャーニャー喚く煩いネコを無視して弥堂はスリーカウントを開始する。雰囲気だけでもそれっぽくしようと思ったからだ。
そして水無瀬の目の前で指をパチンとすると――
「――はっ⁉ 私はいったいなにを……っ⁉」
「ウソでしょおぉーーーッス⁉」
周囲でボカンボカン爆発が起きていてもビクともしなかった愛苗ちゃんがあっさりと覚醒し、ネコ妖精はびっくり仰天した。
「よし戻ったな。ご苦労」
「マナぁーーっ! よかったッス! ジブンこんなのママさんにどう説明すればいいかと……」
「あ……、メロちゃん、弥堂くん。私、今まで――って、ちちちち血ぃーーっ⁉」
記憶の整合性がとれず混乱しながら弥堂の顔を見上げた水無瀬は血塗れのクラスメイトの姿に驚く。
「あっ……! そういえば! 流血が似合い過ぎてて全然違和感なかったッスけど、そういえばケガしてたッスね。大丈夫ッスか? 少年」
「問題ない。いいから結界を解け。俺は忙しいんだ」
「え……? でも、すごい痛そうだし……」
「うるさい、さっさとしろ。オラ、早く」
「はははははいっ! Blue Wish おねがいっ!」
言いながらパンパンと大きな音で手を打ち鳴らして急かすと水無瀬はピョンコと跳び上がり勢いに流されて変身と結界を解除する。
パラパラとパズルが崩れるように世界が捲れていきやがて光が瞬くと、そこはいつものショッピングモールの風景に変わっていた。
弥堂は周囲に眼を遣る。
黒焦げになっていた車も、火の海になっていた駐車場も、彫刻刀で刳り貫いたように破壊されていた建物も何事もなかったようで、やがて弥堂たちの周りにも人通りが戻っていく。
弥堂はスマホを取り出し時刻を確認する。
「びっ、弥堂くん! 今救急車呼ぶねっ!」
「やめろ。それよりも、結界の中とここでは時差などはないのか? このスマホの時計はそのままで合っているのか?」
「えっ……? えと、今まで時間がズレたりとかそういうことはなかったと思うから大丈夫かなって……」
「……そうか。チッ、時間がないな」
「じゃあ弥堂くん。一緒に病院に――」
「――行かない。この程度の負傷は問題ない。ほっとけ」
「ほ、ほんとに……? あっ! そういえばゴミクズー……ギロチン=リリィさんは⁉」
「大丈夫だ。お前が倒した。それで力を使い果たしたお前は気絶していた。そういう感じだ」
「えっ、えっ……? そういう感じなの……?」
「そういう感じだ」
「そっかぁ……」
「くっ、くぅぅぅぅ……、我がパートナーながらチョロすぎるッス……。カワイイけども」
ゴリ押しで水無瀬を納得させた弥堂はすぐに歩き出す。
向かった先はショッピングモールの出口だ。
「び、弥堂くんっ! どこに行くの⁉」
「用事がある。もう行く」
「あ、うん……、でもクリーニング屋さん行くんだよね? そっちは出口だよ?」
「時間がないからもういい。じゃあな」
「あ、あれだけクリーニングに拘ってたくせにそんなあっさり……、やっぱこいつおかしいッスよ。一体どこに行くんスか?」
「キャバクラだ」
「はぁっ⁉」
「きゃばくら……?」
学校ジャージを身に纏い顏には血痕が。
確実に入店を拒否されるであろう状況でも、何を差し置いてでもキャバクラへ向かう。
コテンと首を傾げるパートナーの横で、そんな弥堂の漢っぷりにメロは恐れ入ったように呻く。
「弥堂くんっ!」
「待つッス、マナ。引き留めちゃダメッス。行かせてやれッス……」
尚も取り縋ろうとする水無瀬をメロは訳知り顔で止める。
「メ、メロちゃん……、でも……」
「男には行かねばならぬ時があるんス。ヤツにとっては今がその時なんス……」
「そ、そうなの……? わかったよ。でもちょっとだけ――弥堂くん待ってぇ!」
少し声を張り上げると弥堂は立ち止まり振り向く。迷惑そうに顔を顰めながら。
「なんだ」
「えっと、邪魔してゴメンね? 少しだけ」
「なんだ」
「あのね? 明日……、学校来るよね……?」
「学校……? 生きてたらな」
「えっ⁉ やっぱり傷が――」
「――問題ないと言っただろう。だから明日も学校に行くという意味だ」
「あ、そっかぁ。よかった」
「だったら最初からそう言えッス。めんどくせぇ男ッスね」
「うるさい黙れ。それでなんだ? 何かあるのか?」
いちいちチャチャを入れてくる目障りなネコを黙らせ水無瀬の顏を視る。
「あ、ううん。なんでもない……、でも、えへへ……おたのしみにっ」
はにかんだように笑い答えを濁す彼女へ怪訝な眼を向ける。
曖昧な答えを嫌う弥堂だが、今は時間がない。
仕方ないので流すことにした。
「もういいか?」
「あ、うん。ありがとうっ」
「じゃあな」
「うんっ。ばいばいっ弥堂くん」
弥堂は再び歩き出す。
一瞬フラつきそうになるのを意志の力で無理矢理抑え込む。
また病院だなんだと騒がれては面倒だからだ。
ダメージを負いすぎた。
局面だけを見るのなら、格上の敵と遭遇しこちらに有利な条件を取り決めた上で戦いを終わらせたと見ることも出来る。
しかし、弥堂の役目は闇の組織と戦うことでも、ゴミクズーを駆除することでも、魔法少女を手伝うことでもない。
本来の自分の目的は何も果たせてはいない。
ゴミ拾いによる地域への貢献アピールは警察に連行されることで失敗し、クリーニング屋に行くという私用ですら失敗した。
次をしくじれば今日は何一つ成果をあげられなかったことになる。
歯を噛み締めて地面を踏む。
己の無能さが嫌になりそうになるが、しかし失敗塗れの弥堂の人生ではこんなことはよくある。
だが、昨日そうであったからといって今日や明日もそうであることが許されるわけではない。
次は失敗は許されない。
時間を使い怪我を負い、コストを支払って何一つ得られていない。
神は無駄を許しはしない。
弥堂自身に信心は欠片もないが、彼の師である女はそうではない。
彼女が信じる神が許してくれないということは彼女も許してくれないということだ。
だから、次をしくじることはエルフィーネが許してくれない。
昔の女を思い出しながら弥堂はショッピングモールの敷地から足を踏みだし、決意強く地面を押し出して目的地へと進む。
一路、キャバクラへ――
なにか大きな意志を秘めて歩いていく男の背中を見ながら少女とネコは立っていた。
「行っちゃったッスねー……」
「うん、行っちゃったねぇ」
「マナも早く用事済ませた方がいいッスよ。もう晩御飯の時間になっちゃってるッス」
「あっ、そうだね。急がなきゃ」
メロは水無瀬の背中を昇っていくと彼女の背負ったリュックサックの中に入り込み、顔だけを外に出してグテッとする。
「ジブンはこうしてぬいぐるみのフリをしてるッスから、なにかあったら話しかけてくれッス」
「うん、ありがとう」
「ジブンちゃんとリサーチしといたッス。男モンは3階っス。20時には閉まるから急ぐッス」
「わわわっ……! たいへんだぁー」
パタパタと水無瀬は駆けていく。
彼女も彼女なりのミッションを遂げるためショッピングモールの中へ入っていった。
弥堂や彼女達の居なくなった駐車場からは他の人々も消えていく。
とうに夕食時になっている夕暮れの下で次々と車が国道へ出ていく。
人気の減ったモール入り口の交差点で、挿されていた花の亡くなった空き瓶がコロコロと転がった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる