俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

文字の大きさ
253 / 793
1章 魔法少女とは出逢わない

1章42 bud brave ②

しおりを挟む

「弥堂くんっ!」


 去り行く背中へ慌てて手を伸ばす。

 声を出して足は動かさずその手は当然届かない。


『役に立たない』


 弥堂に言われたその言葉に胸が締め付けられる。


 強い焦燥感と不安感に全身を支配される。

 縋る手をとる者は誰もいない。


『置いて行かれる』

 そんな強迫観念が背後から近寄ってきて両肩に手を置いてくる。

 それはこの場で生まれて寄ってきたものではなく、少しばかり遠い過去からやってきたものだ。


 弥堂の言動はいつもこんなものだ。

 しかし、『見捨てられた』『見放された』と水無瀬は感じてしまい、そのことで焦りが募る。


 追いかけなきゃと、そんな思い込みから一歩を踏み出そうとすると足元に落ちていた青い宝石のついたペンダントに気が付いた。

 魔法少女の変身アイテムで、これを使えば魔法が使える。

 つまり、『役に立つ』ことが出来る。


 勢いよく川の中に屈みこむ。

 石の上に落ちた膝が痛んだが気にならなかった。

 すぐにBlue wishを両手で掬い上げる。

 これで役に立てると、顔を上げる。


「弥堂くんっ!」


 再度呼びかけるが、その声に応えたのは本人ではなかった。


 弥堂の背中を越えた向こうで、アイヴィ=ミザリィと目が合った。


 ガパッと口が大きく開く、それを認識した瞬間胸元を強く押され尻もちをつく。

 尻の隙間の空気で下着が膨らむ不快感に眉を顰めそうになるが、その前にグイっと首を前に引っ張られたことで湧きあがった本能的な危機感で上書きされる。


 すぐにブチィっと何かが引き千切られ首は解放された。


 現況に思考が追い付いていない水無瀬は茫然と自分の首元に手を遣りながら見下ろす。


 制服のブラウスのボタンが上からいくつか引き千切られていた。


「……カエセ」「……フク」「……ワタシノ」「……ワタシノオトコ」「……カエセ」


 大きく開いた女子高生の口から先程も見た肥大化した舌が飛び出ている。

 その舌の先端に浮き出た顏が見覚えのあるリボンを咥えていた。


 水無瀬の首元を留めていた制服リボンだ。


 肉塊のような舌がそのリボンを呑み込んだ。


 肉の幹が僅かに膨らみ、その膨らみが躰の方へと流れていく。

 火傷に浸食された喉がそれを嚥下した。


 すると、アイヴィ=ミザリィの着ているスカーフのないセーラー服に、スカーフの代わりに水無瀬の制服リボンが現れる。


「……ワタシノ」「……セイフク」「……カエシテ」


 舌先の顔はどこか満足げな様子でニヤリと嘲笑う。


 水無瀬は放心する。

 遅れて痛みを感じる。

 押された胸元、引かれた首、石に打った尻。


 1年以上魔法少女として戦ってきて、この時彼女は初めて戦いで負う痛みを知った。



 そんな水無瀬を見ながらアイヴィ=ミザリィはケタケタと笑う。

 一頻り嘲笑してから舌を体内に収容して顔を前に向けると、目の前に人影が飛び込んでくる。


 弥堂だ。


 今の一連の動きの中で水無瀬に一切の関心を払わなかった弥堂は虎視眈々と不意を討つ機会を伺っていた。


 ズドンっと水を踏み抜く足が水柱を上げる。


 零衝――


 送り込まれた威はアイヴィ=ミザリィの体内で爆発し、補充したばかりの体液をあらゆる穴から噴き出した。


 この一撃で仕留められないことはわかっているのですぐに追撃に出る。


 拳を躰に押し付けもう一度足を踏む。


 だが――


「チッ」


 左足で踏んだ川底に積もっていた石が崩れたことで重さを踏み外し、大地より力を汲み上げて増幅させることに失敗した。

 弥堂に“零衝”を教えた師であるエルフィーネであれば足場の悪さなど問題にしないが、その彼女が免許皆伝を言い渡さなかった弥堂の技量ではこういったミスが起こる。

 結局拳を強く押し込んだだけで追撃は終わった。


 その間にアイヴィ=ミザリィが行動する。

 奇声をあげて髪を振り乱した。


 ヤツにとっては弥堂を引き剝がそうとしただけの攻撃とも言えないような適当な行動でも、ただの人間と変わらない程度の耐久力しかない弥堂では運悪く当たっただけで致命打になりかねない。

 仕留めるという欲は捨て、深追いはせずに一度距離をとることにした。


 連続で突き出される髪の針を何度かバックステップを踏んでやり過ごしながら間合いを調整する。

 距離をとり過ぎないように注意し、上体を揺らしながら攻撃を避けつつ射程を測っていく。


 幾度か攻撃を繰り出した後、アイヴィ=ミザリィは先程のように髪を川に突き刺して水を汲み上げた。

 輸血のように水を吸い込んで躰の形状を保つだけの体液を補充する。

 先程と同じ光景だ。


 しかし、ここからは違った。


 大きく息を吸い込むようにアイヴィ=ミザリィが上体を仰け反らせる。


「――っ⁉」


 瞬時に浮かび上がる予感・直感に反射反応した脳が神経に命令を下す。

 考える前に身体を横に大きく投げ出した。


 それとほぼ同時に顔を前に戻したアイヴィ=ミザリィがレーザー光線のように水を吐き出した。


 放水車から放たれる水ほどのサイズで直射状に迫るそれは、一瞬前まで弥堂が居た場所を貫き、川面を抉りながら背後の水無瀬を射線上に捉える。


「――マナっ!」


 寸でのところでメロが水無瀬に飛びつき射線から押し出した。


「チッ」


 舌打ちを一つ落として旋回するように走り出す。


 川に突き刺したままのアイヴィ=ミザリィの髪が膨らみ次々と水を吸い込んでいく。

 そして走る弥堂を追うように水を吐き出した。


 自分が走り抜けた跡を線を引くように追いかけてくる放水に気を取られていると、視界に黒い線が飛び込んでくる。

 髪の毛を束ねた針だ。


(同時に使えるのか――っ⁉)


 顔面目掛けて突き出される針を無理矢理首を曲げて躱す。

 走る速度が落ちてしまい背後の放水が近付く。

 そこへさらに新たな髪の束が横から振られた。

 身を転がして避ければ背後から迫る放水に仕留められる。


 弥堂は髪の束に手を添え全身の力を抜く。

 触れた掌を支点に宙に身を翻した。


 受けた攻撃の力を利用して身体を縦に回し頭が下になると、その瞬間に力の方向を操作し今度は横に回転させる。

 伸身宙返りをしながら身を捻って軌道をずらし、追ってきた放水の方も飛び越えて回避した。


 足から着地すると残った力を踏みつけて初速に変換する。


 放水攻撃だけなら然程の脅威でもないが、髪の攻撃も同時に行えるのであれば話は別だ。

 射程の長い攻撃から潰す為に一気にアイヴィ=ミザリィの懐に飛び込んでいく。


 狂気に染まった目で奇声を浴びせかけてくるゴミクズーを殺傷可能範囲キリングレンジに捉えようとした時――


「――っ⁉」


 弥堂の周囲の川の中から幾つもの髪の束が飛び出してくる。


 咄嗟に急ブレーキをかけて身を捩った。


 ほぼ全方位から伸びてくる髪の束を躱していくが、あっという間に処理が追い付かなくなり左腕を絡めとられる。

 反射的に振り払いたくなる衝動を抑え、逆にその髪を掴み取り力づくで少女の躰を引き寄せ無理矢理自分の間合いに入れた。


 即座に“零衝”を打ち込む。


 今度は発動に失敗することはなく、アイヴィ=ミザリィの体液が排出される。打撃の衝撃で顔が上を向き口から冗談のように水が噴射された。

 しかし、川の中に刺さったままの髪がすぐに中身を補充する。


 アイヴィ=ミザリィの顏がこちらを向き、ニタリと笑った。


「……ツカマエタ」

「――っ⁉」


 まずいと危機感を認識するよりも早く、強く身体を引っ張られる。


「……キャハハハハハッ!」


 弥堂の腕を髪で拘束したままアイヴィ=ミザリィは川の上を走り出した。


「……カエシテ」「……カエシタ?」「……カエッテキタ」「……オトコ」「……ナオト」「……ワタシノオトコ」「……カエッタ」


 狂喜の声を溢しながら走るゴミクズーに弥堂は引き摺られる。


 浅瀬で川底の石に身体を打ち付けられながら加速し、やがて水深が深い場所まで来ると川の水の表面で身体を跳ねさせながら引っ張られていく。


 モーターボートや水上バイクほどの速度を体感するくらいの勢いで走るアイヴィ=ミザリィ。

 拘束している髪は解けず、掴まれた腕の関節が軋む。


 ひどく楽しそうにバカ笑いを上げるアイヴィ=ミザリィとは逆に、弥堂は紛れもなく窮地に追い込まれていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...