俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章51 死線上で揺蕩う窮余の一択 ⑨

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 仄かな後ろめたさを誤魔化すように希咲は努めて明るく聴こえるような殊更に軽い口調で話題を転換させる。


「――えとね、あいつの部活? そこの部長さんの言うことをよく聞いてるみたいな? そんな風なこと言ってたような……」

「部活? それって『災害対策方法並びにあまねく状況下での生存方法の研究模索及び実践する部活動』――別名サバイバル部のことですか?」

「あ、あんた……、よくそれ覚えられたわね……」

「天才ですから」


 若干引いた様子の希咲へ望莱はニコっと微笑む。


「でも、う~ん……、廻夜 朝次めぐりや あさつぐ。以前に軽く洗った時には特に出自に気になるところはなかったんですよね……」

「もう調べてたんだ」

「別件ですけどね。学園のお金の動きを冗談半分で調べ上げて京子みやこちゃんに嫌がらせしようと思いまして。そしたら怪しい金額が今期からそのサバイバル部に流れ込んでました」

「あ、あははー……」


 そういえばそんな犯罪的な話もあったなと思い出したが、今はいっぱいいっぱいなので七海ちゃんは笑ってスルーした。


「確かに“掟”がって言ってましたけど。でもあれって『おぱんつ』がどうとかってしょうもない話でしたし……。他になにか言ってませんでしたか?」

「んーとね。具体的に『何を命令された』とかってことじゃないんだけど。なんだかあいつの態度……? がちょっーと違うなーって感じて……」

「態度、ですか?」

「そう。なんかさ、その部長さんには丁寧?っていうか、やたらリスペクトがあるっていうか……。あいつってばさ、先生相手にもタメ口でケンカ売ったり煽ったりするくせに、その部長の言うことにだけは素直に従ってる気がするのよ」

「……もう一回調べてみますか……、今度はうちの社員を使って」

「もう一回やればなんか出てくるもんなの?」

「以前は学園の記録簿をパクったんですよ。なので京子みやこちゃんたちが調査した情報なんです」

「あんた、そういうことやめなさいよね」

「まぁまぁ、こうして今役立ってることですし。それと同じ方法で弥堂先輩の情報もここに来る前に見たんですよね」

「あいつのも?」


 驚く希咲に望莱はニンマリと笑う。


「正門前で人目も憚らずに七海ちゃんとイチャイチャしてましたからね。これは只事ではないと思わず犯罪に手を染めてしまいました」

「……もしかしてあんたの方が危険人物なんじゃないの? つか、イチャイチャしてねーし」

「助かります」


 希咲にジト目を向けられるも無敵のみらいさんにはこれっぽっちも効かない。それどころか彼女は助かってしまう始末だ。


「とはいえ、弥堂先輩の情報も京子ちゃんたち調べのものなので、それが間違ってる、もしくはダミーだった場合はなんともですねー」

「ダミーって?」

「京子ちゃんが先輩の情報を隠してる場合ってことです。実は彼女たちが彼のことを把握していて、或いは秘密の戦力として彼を雇っている――なんて場合は偽のプロフィールを入れてる可能性があります。まぁ、それはほぼないと思ってますけど」

「あ、でも、あいつ生徒会長のこと閣下とか呼んでた」

「閣下?」

「偉大なる生徒会長閣下に感謝しろ……だったかな? そんな風なこと言いながら三年生の人のお腹蹴ってた」

「頭おかしくて草、です」


 ぷふーっと吹き出す望莱に希咲は胡乱な瞳を向ける。


「笑いごとじゃないわよ。その人――たぶん100㎏くらいありそうな男子なんだけど――蹴られる前に二階の窓から外に宙吊りにされたりしてて、それからお腹蹴られて廊下で吐いちゃってさ。カワイソウだし心配だからハンカチあげて背中さすってあげたんだけど、もうすっかり怯えちゃって……。介抱するつもりだったけど泣きながらブルブル震えて何故かあたしに謝ってくるから、あたしドン引きしちゃって。マジびっくりだわ」

「……たしかにカワイソウに。七海ちゃんの犠牲者がまた一人生まれてしまったんですね……」

「なんであたしなのよ。弥堂の被害者でしょっ」

「ふふふ、そうですねー」


 咎める目付きの希咲に望莱は生温い目を返し、それから表情を改める。


「でも、そういえば……そうですね。ちょっとだけ気になってたことがあるんですよ」

「気になること?」

「はい。校内の放送で弥堂先輩が生徒会長室――京子ちゃんの執務室に呼ばれるの結構多くないですか?」

「んと……そだっけ……?」

「わたしが入学してまだ半月くらいですし、そこまで意識してなかったので只の印象ですけど、週に2・3回はないですか?」

「あーー……なんていうか、それって平常運転……? いっつもあんな感じよ」

「そうなんですか?」


 目を丸くする望莱へ希咲は苦笑いしながら答える。


「うん。去年から。気付いたらあんな風にしょっちゅう呼び出されるようになってた気がする。そのせいであたしも感覚麻痺ってたわ。確かに普通はあんなに呼び出されないわよね」

「……それっていつ頃からとか、憶えてますか?」

「う~ん……、ごめん。ちゃんとは憶えてないわ。秋か冬にはもう今みたいな感じになってた気がするけど、あたし1年の時はあいつと知り合いじゃなかったからそこまで気にしてなかった」

「水無瀬先輩のことがあるのに? 普通好きな子がよく知らない人の名前口にするようになったら、その人物のこと徹底的に調べ上げませんか? わたしは七海ちゃんとの接触が確認されたので弥堂先輩のこと調べ始めましたけど」

「フツーはそんなヤンデレの人みたいなことしないわよ! あんただけ!」

「えー?」

「だいたい、そんなことして愛苗にバレたら嫌われちゃうじゃん」

「でもでも、学園でも頗る評判の悪い人ですよ?」

「……や、まぁ、確かにちょっとは気にしたけど。でもさ、あいつのこと愛苗から聞いたり、『ふーきの狂犬?』とかって噂出る前に、その放送でフルネームよく聞いてたからさ。顏知んないけどなんか知ってる子みたいに錯覚しててスッと入ってきちゃったのよね」

「なんかえっちです」

「なんでだよ」

「でも、これはちょっとおかしいですよ」

「そう? や、あたしもさ、最初はなんでこの『ビトー』って子しょっちゅう呼び出されてんだろーって思ってたんだけど、そしたら『ふーきの狂犬やばい』とかって噂になり始めて。そんで呼び出し放送読んでる理事長もたまにちょっとキレてるしで、『あー、なんかやらかして怒られてるんだー』くらいの感じでナットクしちゃったのよね。あいつのこと知った今でも、あいつなら直接呼ばれて怒られても不思議はないってゆーか」

「いいえ。ここでおかしいのは弥堂先輩じゃなくて京子ちゃんです」

「生徒会長が?」


 今度は希咲が目を丸くする。訝しむような表情の望莱が説明をする。


「呼び出されてるのって生徒会長室です。あそこは京子ちゃんの執務室。ということは京子ちゃんが直接先輩に会ってることになります」

「うん……? それってなんか変……?」

「そういえば七海ちゃんは京子ちゃんのことあんまりよく知らなかったですね」

「そうね。あんたたちと一緒にいるから名前とどういう立場の人なのかは最低限知ってるけど。人柄とかそういうのは全然知んない」

「えっとですね。京子ちゃんが自分から誰かに会うって滅多にないんですよ」

「そうなの?」

「はい。それがなくても変なんですけど。いいですか? 先輩の素行不良を叱るとして、それで呼び出すとしたらそれは生徒会長ではないですよね?」

「あ、そっか。確かにそうね」

「普通は生徒指導の先生が指導室に呼ぶはずなんですよ。生徒会長どころか理事長の出る幕でもないんです」

「じゃあ、風紀委員関連の仕事とか?」

「いいえ」


 別の可能性を挙げる希咲に望莱はキッパリと首を横に振った。


「百歩譲って風紀委員のことで何か話をするとしても、その時の相手は風紀委員長のはずです。相手がわたしたちならともかく、ポッと出のよく知らない人間、ヒラの風紀委員に過ぎないただの男子生徒に、直接京子ちゃんが会うだなんてことはまずありえません」

「んー、あたしは会長さんの性格とか知らないからなんともだけど、でも、あんたがそう言うんならそうなのね」

「そもそも理事長――御影みかげがそんなこと許さないはずなんですが……、これは何かありそうですね……」

「何か隠してるかもってことか。学園にあったあいつの情報ってどんな感じだったの?」


 考え始めながらまたスマホを操作し出す望莱に希咲が問うと、望莱は画面を見ながら既知の情報を諳んじる。


「学園編入時に調べられた身元情報ですね。本籍は江東区。隣ですね。そっちで中学まで卒業している。だけど高校受験をしていなくて謎の空白期間があります。入試がとっくに終わって入学式も過ぎた4月に美景台学園の編入試験を受けて合格、5月から登校を開始。現在は美景市内で一人暮らしをしながら通っています」

「あ、あやしい……」

「両親の生まれも育ちも都内。もちろん業界とは関係のない普通の社会人。それぞれの実家も含めて普通の家庭。先輩の小中学校の経歴はしっかりあるし、だから京都とは関係ないと考えたんですよ。両親含めて特別なにかの宗教に入信している記録もないし、外国への渡航履歴もない。だから教会の線も薄いかなって……。たしかに変な空白期間はあるんですけど、こんな短い期間でそれまで普通の人間だった中学生男子をこっちの業界の工作員に仕立てるなんてムリゲーだと思うんですよね。そもそも素養がなければ何しても無駄ですし。これもうちの社員に再調査させる必要がありますね……」

「…………」


(その情報、たぶん間違ってる……っ)


 望莱が齎した情報に希咲が沈黙をしながら心中で感じたのは、何故か焦りだった。


 彼は親元を離れたと言っていた。

 そしてルビアという女性に保護された――拾われたと。

 
 それに、ルビアにエルフィーネ。

 ヨーロッパの地方を連想させるような名前だ。


 外国にホームステイなどをしたなら、拾われたなどという言い方はしない。

 彼の両親の了承のもとに出かけたという出来事ではないはずだ。


 時期は不明だが親元を離れ、遠い外国の地で彼は一定の期間を彼女たちと過ごしている。そしておそらくそのまま元の家庭には帰らず、どういう経緯かはわからないがこの美景の地へとやってきたのだ。


 法的・物的な証拠とは矛盾している。

 ほぼ直感に依存したものだが、希咲はこれで間違いがないと感じた。


(でも、それだと、時系列が合わない……?)


 中学を卒業してからの僅か一ヶ月ほどで消化できるような経験だとは考え難い。

 弥堂の話しぶりからの印象では、そんな短い期間の関係性だとは感じられなかった。少なくとも数年は彼女たちと過ごしていたように希咲には思える。


 当然だが、これも望莱に伝えるべき内容だ。


 しかし――



『――そうだな。そういうことなら、キミの言うとおりエルフィは俺の彼女なのだろう』


 そう口にした時の彼の顏と、その瞳の奥に見たものを思い出す。


 これも、さっき思い出していた他の言葉も。


 きっと、弥堂 優輝という人間には滅多にない、なんの悪意も意図もなく口にした言葉だ。


 きっと大切な人たちとの、大切な思い出。


 それをあの日あんな場所で自分なんかに漏らしてしまったのはきっと。


 それを話せる相手が誰もいないからだ。


 彼には誰もいない。


 あんなにどうしようもなくて、ロクでなしで人でなしな彼がうっかり見せてしまった、数少ない人間らしさなのだ。


 きっと彼はあの時油断していたのだろう。


 決して自分に気を許したわけではない。


 でも、正門に辿り着く少し前――


『――共犯者がいればいい』


 彼自身、自分がそれを口にしたことに驚いたような顔をしていた。


 なのに――


『だが、いつかの未来で。今日の出来事を共に経験した者と、あの時は楽しかったと、そう口裏を合わせることがもしも出来たのならば。それは『楽しかった思い出』に出来る。そういうことに、出来る』

『だから。もしもキミが今日のことを『楽しかった思い出』にしたいと、そう考えたのならば。そう変えたいと願ったのならば。無理に今ここで切り替えを試みるのではなく、いつかの未来で――それをいつに設定するのが最適なのかはわからないが――今日のこの時が楽しかったと、そう一緒に笑い合って口裏を合わせてくれる、そんな『共犯者』を見つけるべきだ』


 それなのに、その後に続けてくれたこの言葉は、紛れもなく自分――希咲 七海のために言ってくれた言葉だ。


(しょうもない悪さばっかしてるあいつが、たまにうっかり人間らしいことしちゃって、それであいつに不都合なことになっちゃうなんて――)


――そんなのカワイソウ。


 そう思ってしまった希咲にはもう、彼があの時に漏らしてしまった彼の重要な情報を他人に話してしまうことは出来なくなってしまった。


 それに――


『――きっとそいつが、『楽しかった思い出そういうこと』にしてくれる』


 そう言った――言ってくれた彼に『じゃあ一緒に確かめましょ』と、共犯者になるように持ち掛けたのは希咲自身だ。


 叶わない、叶えるつもりのない約束。

 きっと弥堂の方もそれは同じだろう。


 申し合わせたわけでもない。

 きっとお互いに叶わなくて構わないと思っている。

 そんな小さな小さな口約束。

 高校生という子供同士の、その場のノリで結ばれた、くだらない約束。


 だけど、卒業の時、約束の期限がくる前に、自分の方からそれを裏切るだなんて、そんな真似は――


(――絶対に出来ない……っ!)


 彼はきっと自分に裏切られたとしても何も思わないだろう。


 希咲 七海は彼にとって何ら重要な人物ではなく、それは自分にとっての弥堂 優輝も同じだ。


 希咲以外の人間に裏切られたとしても、きっと弥堂は何も感じないだろう。


 だが、だからといって、当たり前のように彼を裏切るようなことはしてはいけないと。

 だからこそ、軽々に彼を裏切ってはいけないと、そのように希咲には感じてしまった。


 あんな人間だからといって、そんなことをしてしまえば、きっと彼はずっとあんな人間のままだ。


 だからやってはいけないと、強くそんな気がしてしまった。


 それに、彼の方は希咲が『言わないで欲しい』と言ったことも、『やって欲しい』と言ったことも、今のところは一応全部守ってくれている。『やらないで欲しい』と叱ったり、お願いしたことは何にもしてくれないけれど、それでも希咲と結んだ『取引』や『約束』はやってくれていた。


 弥堂にとってはもしかしたら重要なことなのかもしれないが、希咲にとっては『取引』も『約束』も大した違いはない。


 あんなにイヤなヤツでも約束を守ってくれているのに、こちらが先に破ってしまったら、それでは自分の方がアイツよりもイヤなヤツになってしまうではないか。



(ホント……むかつくヤツ……)



 そんな中で希咲の方から彼を裏切るには、せめて“正当な理由”が要る。


 そして、現状それはない。


 だから――



(ホント……悪いクセ……)



「どうしました? 七海ちゃん」

「えっ?」

「なんか幸薄そうな笑みを浮かべてましたよ。ダメ男から離れられない系のダメ女みたいな」

「うっさい。そんなんじゃないわよ!」

「えー?」


 首をかしげる望莱につい八つ当たりで声を荒げてしまったが、やってしまったのならばとその勢いのまま話し始める。


「ねぇ、みらい。ここまで進んでおいてなんだけど、やっぱりベツに犯人がいるとかないかな?」

「えっと、そうですね。では『弥堂先輩が』ではなく『わたしが』今回の件に何故犯人がいないと考えたのか。その理由を説明します」

「うん……」


 意図的に話を逸らしたことにチクリとした罪悪感を胸に抱きながら、希咲は望莱の目を見る。


「まず、犯人がいる。ということはこの異常事態は人為的なもの。そういうことになりますよね?」

「えっと……? うん、そうね」

「ということは、『人々から水無瀬先輩を忘れさせる』こんな不可思議な現象を誰かが起こしている。そういうことになりますよね?」

「うん。当然そうなるわね」

「ということは、そうする為の『手段』が必要になります」

「それが無理ってこと?」

「いいえ」


 話の流れを読んだつもりだったが、それは望莱によって即座に否定される。


「実際に現象が起きていて、それに犯人がいるということなら、その場合はその手段があるということになります」

「ま、またややこしいわね……」

「今わたしが言った『無理』は手段の在る無しではなく、在ったとしても実行が限りなく不可能に近いという意味です」

「実行が……」

「とりあえず手段は在ると、そう仮定します。『人々から水無瀬先輩を忘れさせる』そんな不思議な現象を起こす。そんな、まるで『魔法』のような手段がこの世に在るとします」

「魔法……」


 余人が耳にすれば妄想としか思えない、そんな望莱の話に希咲は引き込まれる。



「魔法で忘れさせる。その対象者は誰ですか?」

「……? 愛苗でしょ?」

「いいえ。水無瀬先輩に関することですが、忘れているのは彼女以外の人々です」

「あ、そっか」

「つまり、不特定多数の人に『水無瀬先輩のことを忘れてしまう』、そんな魔法をかける必要があるわけです。それも全員に、ほぼ同時に」

「……そんなことはムリ?」

「いいえ。かなり無理に近いですが理論上は不可能ではないです。必要コストをクリアできるのなら。でもそれは世界中の人間全てを対象にすることになる。でも、そんなことをすれば世に隠れ潜む普通じゃない人たちに気付かれますよね? 下手をすればそんな普通じゃない人たちを根こそぎ敵に回すことになります。その上で実行するのなら理論上は可能です」

「実質不可能ってことね」

「なので、範囲をあくまで水無瀬先輩の周辺ということにします」

「つまり、学園ってことね……」


 希咲は心当たりがないか思い出しながら続きを聞く。


「着目するべき点は、被害者たちの症状の進行に大きな個人差が見られないことです。もしも対象を指定して一人一人魔法をかけるのなら、莫大な手間と時間がかかりますよね? 誰が水無瀬先輩を知っていて、誰が知らないのか。こんなことを調べながら一人一人に忍び寄って――なんてことをやってたら最初に魔法をかけた人と最近かけた人の症状の進行に差が出るはずです」

「そうね。少なくともクラスの子たちはほとんど一緒だったわ」

「症状の進行を均等にするのが肝なんですよ。クラスで一人か二人だけ、何故か水無瀬先輩のことを忘れた人が居る。こんな状況だと他のまだ正常な人たちの方が多数派になるので、『なんかあの子おかしくない?』って誰かが言って、そこから絶対に騒ぎになりますよね?」

「そうね。あたしもそう思う」

「だから、不特定多数に一度に術をかける必要がある。違和感を感じる者を出さない為に。その場合、人ではなく場所で指定をする。指定した範囲内の全ての人間を対象にする。これなら可能だと思います」

「学園か美景市……ってことかな?」

「ただ、この場合はさっき言った『実行が不可能』これに該当してしまいます」

「どういうこと?」


 望莱はその問いに僅かに目を細め薄い笑みを浮かべる。


「美景台学園だからです」

「あぁ……、そっか」

「もしも学園でそんな規模の大きい術……、魔法を発動させれば絶対に“まきえ”ちゃんにバレて、“うきこ”ちゃんに殺される」

「理事長もいるしね……」

「はい。郭宮くるわみやのお膝元。そこは御影みかげの間合いの内です。絶対に無理です」

「理事長ってそんな強いんだ」

「あんなメイドのコスプレとかして清掃員の真似をしてますが、戦闘能力・索敵能力に諜報活動は折り紙付きです。“今の”真刀錵まどかちゃんと戦ってもどっちが勝つかわかんないかもですね」

「えっ⁉ それって相当やばいんじゃ……。聖人まさとなら? さすがにあいつが勝つわよね……?」


 恐る恐る窺う希咲に望莱は満面の笑みを返す。


「はい。もちろん兄さんが勝ちます」

「そ、それもそうよね……」

「性別が女である以上、うちの兄に勝つことは出来ません」

「は?」


 ほっとした様子を見せた希咲だったが、その表情は一瞬で訝し気なものに変えられた。


「女と戦うと何故か最終的に惚れられるという特殊能力がうちの兄にはあります。いくら理事長が当代の御影とはいえ、所詮は女。兄さんのお〇んちんには勝てません」

「……真面目に聞いて損した」

「七海ちゃんくらいのものです。こんなに長い期間兄さんと関わっているのに一向にデレる気配を見せないのは。何時になったらうちの兄をベッドに招き入れるんです?」

「一生ねーわ」

「なんでですか! うちの兄のなにが不満だって言うんです⁉ そんなに弥堂先輩がいいんですか⁉ もうえっちしたんですか⁉ デキ婚秒読みですか⁉」

「してないって言ってんでしょ! なんで聖人と弥堂の二択しかないのよ⁉ あたしの選択肢地獄じゃんか! もっと普通の社会人としてちゃんと真面目に働いてくれそうな人と結婚させてよ!」

「つまり経済力が重要ということですね。七海ちゃん。わたし、お金……持ってますよ?」

「別にお金なんて言ってないでしょ……。大事だけど。でもそれじゃ、あたしめっちゃヤな女じゃん……」

「んもぅ、七海ちゃんったらワガママかわいいです」

「うっさい。つか、なんの話してたか忘れちゃったじゃんか……」

「美景台学園にはヤベー守護者がいるからヤバヤバってお話です」


 疲労感たっぷりに肩を落とす希咲に望莱がニコやかに本筋を伝える。


「あぁ、そっか。だから、実行不可能ってことか」

「はい。だから同じ理由で弥堂先輩も犯人ではないとわたしは思ってます」

「じゃあ、あいつってなんなんだろね……」

「多分彼は巻き込まれたんじゃないでしょうか」


 望莱は表情を和らげて説明をする。


「彼が何の目的で学園に来たのか、もしくは送り込まれたのか。それは今はわかりません。ですが、普通でないことは間違いない。そんな普通でない彼が自分とは関係なしに周辺で起こった怪奇現象に巻き込まれてしまった。こんなとこじゃないでしょうか」

「……そんな都合のいいこと――」


 希咲の言葉の途中で望莱は両手を使って自分と希咲を指差してみせる。


「――あぁ、そっか。そうね。あたしたちがまさに“それ”だもんね」

「そういうことです。彼もわたしたちも、学園の人も。この不思議な怪奇現象に巻き込まれた。今回の件はこういうことである可能性が高いと思います」

「誰かが起こしたことじゃないってことね」

「もしもそうであるなら、さっきも言った通り、普通じゃないことをしたら普通じゃない人が気が付く。わたしたちに何かをすれば蛮くんの“呪い返し”に引っ掛からないはずがない。わたしたちが範囲外にいるだけだとしても、渦中の学園で御影にバレる。人為的でないのなら天災である可能性が高い。これが現状でのわたしの見解です」

「じゃあその怪奇現象ってなに?」

「それはさすがに現場に行かないことには……。正確には現場に蛮くんを連れて行って調べてもらわないと、ですね」

「それもそっか……」


 希咲は難しい顏で考え込む。

 考えているのは弥堂のことだ。


「あいつのこと、どうすればいいかな?」

「まず、敵対しないことです。少なくともこちらからは」

「敵……」

「ただ、わたしがさっき挙げた界隈から来ている人だったらもう手遅れです。その場合はスッパリ諦めましょう」

「ここに来ている時点で向こうが敵対してるってことね」

「そうです。ただ、弥堂先輩はまだそうでない可能性があります」

「そうで、ない?」

「彼が『外法師はぐれ』である可能性があります」

「はぐれ?」


 コテンと首をかしげる希咲の様子に望莱は目を丸くする。


「あれ? 『外法師はぐれ』のこと教えたことありませんでしたっけ?」

「んーー、ごめん。覚えてない」

「『外法師はぐれ』というのはですね、まぁ、言葉どおり何処にも所属してないそっち系の人ですね。つまり野良です」

「のら……」

「色んな人がいるんですけど……、例えば元は何処かに所属していたけどやらかしちゃって逃げている人、足抜けして世捨て人になっちゃった人、それから今まで普通に生きてたのに突然変な力に目覚めちゃった人、などなどです。別にそういう人たちみんなで徒党を組んで結託しているわけではないので、何処にもカテゴライズ出来ない人たちをまとめて『外法師はぐれ』と呼んでるって感じですね」

「あぁ、なるほど。てゆか、そうなるとあたしも一応それになるのか」

「そうです。七海ちゃんは野良ギャルです」

「うっさい。野良じゃないしギャルでもない」

「ふふふ」


 不機嫌そうに眉を寄せて軽く睨んでくる野良ギャルにみらいさんは大いに助かる。

 みらいさんは性癖が残念なので“推し”のどんな表情でも喜ぶのだ。


「まぁ、そんな感じですかね。手持ちの情報では、わたしにはここまでしか弥堂先輩の正体はわかりません。中間順位と致しましては、1位・外法師はぐれ、2位・テロリスト、3位・その他、4位が教会で、ドベに京都です」

「絞れないけど、“そっち系”は確定ってことね」

「いえす。ここまでの情報を持って彼を疑ってる状態のわたしが、もう一回彼に会ってお喋りすれば看破出来る自信はあります。ですが、タイミング悪く現在はわたしたちも“お仕事中”ですしね。一応京子ちゃんたちにメッセするのと、うちの社員に調査命令を出すのは今やっておきました」

「会長さんたちにも?」

「はい。彼に注意することと、もしも情報があるなら下さいって。隠し立てするとロクなことにならんぞ? オ゙ォ゙ンッ⁉ って送っておきました」

「こんな夜中に脅迫文送るんじゃないわよ! カワイソウでしょ!」

「いいえ。これは経営指導です。わたしは学園の大口スポンサー様ですから」

「なんかスマホいじってると思ったらそんなことしてたのね……」


 呆れ顔で溜息を漏らす希咲の姿に望莱は機嫌を良くする。

 そして軽い調子で話を振った。


「七海ちゃんはどれがいいですか? わたし的にはテロリスト推しです」

「え? どれがいいって……、う~ん、あたしは“はぐれ”……だっけ? それかなぁ。敵対しないで済むのそれしかないし」

「あら。無難ですね。意外とミーハーなんですね」

「ミーハー……? なんの話してんのかわかんなくなるからテキトーなこと言わないでよ。つか、これが一番可能性高いんでしょ?」

「いまのところは、ですがね。さっきは言わなかった候補にアメリカとか中国の政府や軍からの工作員ってのもありますけど、これも線が薄いのでまとめて第三位です。今のわたしが持ってる情報ではここまでしかわかりません。わたしには、です」

「……なんか含みのある言い方ね」

「はい。わたしにはここまでですけど、でも――七海ちゃんにはもっとわかりますよね?」

「えっ――」


 ギクリと心臓が跳ねた。


 見透かすような望莱の視線に射止められ、希咲はその心の内の動揺を表に表してしまう。

 咄嗟に取り繕う言葉すら失い、望莱の黒い瞳の奥の赤い灯に視線を縫い留められた。
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青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

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