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2章 バイト先で偶然出逢わない
2章25 ジャスティン・ミラー ①
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「――どうぞ」
不慣れな手つきでノックをすると、日本語で入室の許可を与えられる。
「失礼する――」
弥堂 優輝は躊躇いなくドアノブを回して執務室の中へと入った。
「ようこそマッドドッグ。そこに座ってちょうだい――」
彼を迎えたのは、“G.H.O.S.T”の指揮官であるジャスティーヌ・ミラーだ。
「悪いけれど、ちょっと付き合ってもらうわよ」
悠然とした態度で彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「…………」
ドアを閉めながら弥堂は眼球を動かさずに部屋の中の配置を視る。
通常時にこの部屋に置かれているような調度品の類は全て撤去されており、部屋の真ん中に事務机と椅子が置かれている。
その机に着いているのがミラー指揮官だ。
ミラーのすぐ斜め後ろには1人の隊員が立っている。
恐らく護衛だろう。
その護衛の近くにはノートPCを乗せた小さな机があり、そこには黒人の女性が座っている。
こちらは秘書兼書記といったところだろうか。
そのさらに後ろ、部屋の両角あたりに一人ずつ小銃を提げた武装隊員が居る。
ミラーを射線に入れずに、いつでも彼女の対面に座る者を射殺出来るような位置取りだ。
スッと、ドアの前に立つ弥堂の両脇に隊員が近寄る。
「座ルンダ」
「…………」
ブラジル人の背の高い男に指示され、弥堂は眼を細めた。
もう一人は弥堂よりも若いかもしれない男。
弥堂に着席を促した後にその二人の隊員はドアの前に立つ。
退路を断つように。
この二人は1Fのロビーで見かけた二人だ。
確か背の高い方がフィリップスで、ガキの方がシェキルだとダニーが言っていた。
弥堂は足を進めてミラーの前に立つ。
「どうぞ」
「あぁ」
着席を勧められ、それに素直に従った。
机の上には僅かな書類とノートPC、それからコーヒーの匂いのするマグカップが一つ。
拷問器具などは見当たらない。
「緊張しなくていいわ。コンプライアンスを遵守した上で、貴方に聴取を行います」
「コンプライアンス……?」
意味のわからない英単語だと弥堂は訝しんだ。
「これから尋問をするけど、それは貴方の人権を保証した上で行われるってことよ。当然、拷問や薬物の投与などの非人道的なことは行われない」
「……?」
弥堂はますます眉を顰める。
生命と舌だけは残し、それ以外の人としての尊厳などは全て踏み躙った上で奪ってやるのが尋問だ――それが弥堂の常識である。
油断させるための罠なのかと疑う。
だが――
「――ワタシには“サイコメトリー”の“異能”があります。今回の聴取ではそれを使わせてもらいます」
「……なんだと?」
――続いた言葉にはつい声に出して反応してしまった。
不真面目な隊員が情報漏洩をしたのでその情報は予め知ってはいた。
しかし――
「――何故わざわざそれを明かす?」
情報を抜いてスパイかどうかを判断するのなら、異能のことを報せるメリットなど何もないはずだ。
それを訊ねると、ミラーは苦笑いを浮かべて肩を竦めた。
「色々と問題があるのよ。黙ってやると任務が終わって国に帰った後で訴えられることもあるの」
「そんなバカな」
「日本もそうでしょうけど、今の社会って難しいのよ。不法な尋問が明るみに出るのもマズイけれど、ワタシたちはそもそも存在が明るみに出るとマズイから……」
「だからって配慮するのか? そもそもそれを漏らしたら確実に消されるだろ。そんなこともわからないバカを雇ってるのか?」
「今は大丈夫でもふとしたことで自制が効かなくなることだってあるわ。インターネットとSNSは人に万能を錯覚させる麻薬よ。容易く人間をモンスターに変えてしまうわ」
「……人権ってめんどくせえな。クソだろ」
「……エマ、今のは記録に残さないであげて」
ミラーが振り向いてそうお願いをすると、秘書官の女性は苦笑いで頷いた。
弥堂は改めて背もたれにかける体重を調節する。
「さて、これからアナタの手に触れます……」
ミラーは机の上に両手を乗せて掌を見せてくる。
「ワタシとアナタの手を触れ合わせながら、そのままアナタに質問をしていきます。答えたくないことには『答えたくない』『答えられない』と言っても結構よ」
「わかった」
その言葉とほぼ同時に秘書官がカタカタとキーボードを鳴らす。
了承をした――とでも記録に残したのだろう。
弥堂は鼻を鳴らして両手を机に乗せる。
すると、ミラーの手が近づいて来た。
その手は指先が触れそうな位置で止まる。
「緊張する?」
ミラーは少し悪戯げな目でそう訊ねてきた。
弥堂はその顔を魔眼で視返す。
「そうだな。女性にはあまり慣れていないんだ」
肩を竦めて弥堂が冗談めかすと、ミラーは彼の手に指で触れた。
「……あら。エマ、この子ウソを吐いたわ。悪い子だって記録しておいて」
意地の悪そうな顔で笑うミラーが指示をすると、背後の女性がまたカタカタとキーボードを鳴らす。
「勘弁してくれ」
「フフ、今のは見逃してあげる。こうやってわかっちゃうから正直に答えるのね」
「そうするよ」
「ところで、どれくらい女の子を泣かせたの?」
「泣かされたことの方が多いよ」
「これはウソじゃないみたいね」
「…………」
どうやら既に“サイコメトリー”の能力を使われているようだ。
ウェアキャットの時と同様、魔力の流れなどは視えなかった。
これなら「使う」と言われなければ気付けなかっただろう。
能力の考察とは関係ないが――
(――やはりぬるいな)
――廊下で待っていた時と同じ感想が浮かぶ。
「あら? 怒ったのかしら? プライベートの質問は嫌がるタイプ?」
「……あまり好ましくはないな」
「そう。でも、ゴメンなさい。必要の上でプライベートのことにも多少触れると思うわ」
「答えたくなかったらそう言うよ」
「よろしい。緊張もしていないみたいだし早速始めていくわね」
「どうぞ」
承諾をしつつ、弥堂は心臓の鼓動を意識して魔力を操る。
身体に刻まれた一つの刻印が熱を持つ。
――【領域解放】
魔術を用いて自分自身に洗脳をかけた。
「――まず、ワタシの能力のことは知っていたのかしら?」
「知らない」
これには『嘘を吐く』と強く意識をして嘘を吐いた。
「知っていたみたいね。サトウから聞いたのかしら?」
「すごいな。そこまでわかるのか」
「……サトウじゃないみたいね」
「白状するよ。ダニーから聞いた」
軽い調子で弥堂は明かした。
同時にミラーに触れられている箇所を意識する。
緩く握って机に置かれた弥堂の両手に、ミラーの両手の掌が重ねられている。
其処から感じるモノは何もない。
少なくとも魔術的な干渉を受けているわけではなく、触れている間だけ触れているモノにだけ作用する能力であると推測出来る。
当然、それもブラフである可能性があるのですぐには結論を出さない。
ここからは『嘘を吐いている』という暗示を解除して、『自分は真実を口にしている』と強く思い込む。
「どうして隠したのかしら?」
「下の階でのやりとりを見ていたからな。ダニーがまたアンタに怒られちまうと思ったんだ」
「そう。上手くやれているみたいね」
「おかげさまでな」
少しずつ刻印に流す魔力を増やして洗脳を強めていく。
【領域解放】による催眠レベルの自己暗示――
これがサイコメトリーによる尋問への弥堂の対抗手段だ。
弥堂は異世界で過ごした時間の中で、何度か敵や味方に捕まって身体の部位が欠損するような拷問を受けたことがある。
それだけなら根性で耐えればいいだけなので別にどうということはない。
しかし中には、薬漬けにされて洗脳をされたり、魔術によって心理を観測されるような尋問もあった。
この【領域解放】での自己暗示はそれらの尋問への対策に身に着けたものである。
幸いそれらの尋問魔術は、頭の中の思考や記憶を何もかも読まれてしまうような強力なものではなく、嘘発見器に毛が生えた程度のものだった。
なので自己暗示でどうにか切り抜けてこられた。
これが“神意執行者”の認定を受けるほどの“加護”だったら恐らく対抗出来なかっただろうが、そういった種類の“神意執行者”には出遭ったことがない。
仮にこのジャスティン・ミラーの“サイコメトリー”とやらが、“神意執行者”クラスの加護だったら、その時はもう諦めるしかない。
その時はもう諦めて――
弥堂は浮かびかけた思考を自制して消し去る。
刻印が熱を持った。
意識を変えて弥堂はミラーの表情を視る。
何も反応はない。
魔力を感知出来ていない。
弥堂はそれについて何も思わなかった。
「配属先はどう?」
「アホばっかりで悪くない」
「そう。なにか気になったことはある?」
「特には」
「何も思わなかったことはないでしょ?」
「犯罪者だらけで少し驚いたくらいかな」
「そう。彼らは彼らなりに真面目に仕事をしているわ。そこは評価してあげて」
「もちろん。気のいいヤツらだよ」
「護衛体制については?」
「それなら少し――」
弥堂は試しにリスクをかけてみる。
思考内の言語を異世界の言語に変えてみた。
「何故この本部と護衛対象が離れている? すぐ近くの階か同じフロアにした方がいいんじゃないか?」
「そうしたいのは山々だけれど、本部はどうしても人の出入りが多くなるから」
「どちらにしてもリスクはあるか」
「そうね」
「攻められた場合はどう対応するんだ?」
「侵入が可能な経路は地上からに絞っているわ。敵は外の清祓課の防衛ラインを突破した後にホテルに突入。その後はエレベーターか階段で博士の居る20Fまで上がってくるしかない。その20Fまでの最終防衛ラインがこの本部がある15Fよ。ここで食い止めている間に屋上からヘリで博士を逃がす手筈になっているわ。ここまでのことがわかっていたとしても非常に困難よ。ダニーから聞いていないの?」
「初めて聞いたよ」
「アイツ……」
下唇を噛むミラーの顔を見ながら、弥堂は何も思わなかった。
「屋上からヘリで逃がせるなら、敵も同じ手段で攻めてこられるんじゃないのか?」
「屋上には対空砲を設置、ロケットランチャーを持った隊員も居るわ。付近のいくつかのビルにも同様の部隊を待機させているから、1機や2機ではまず近寄れないわね」
「それ以上の規模のものは敵も出してこれないか」
「そういうことよ」
「いい作戦だな」
今吐いた嘘には気付かれていない。
異世界の言語にも反応はない。
弥堂はそれについて何も思わない。
「スパイはそんなに深刻なのか?」
「そうね。ここに来るまでに何人も見つかっているから。もう居ないとは限らないわね」
「そういえば、ホテルの従業員も入れていると聞いたが」
「えぇ。急なスケジュールだったからワタシたちはこの施設のことが把握出来ていない。運用のアドザイザーという面でも最低人数は必要よ」
「そいつらの身元は?」
「勤続1年以上のスタッフだけに絞ってもらっているわ」
「その程度のリスクは受け入れるべきか」
「そうね。だから今やっているのが100%に近付ける為の作業よ」
「…………」
「他に何か疑問や、問題に感じることはあるかしら?」
「いや、ないな。なにも問題ない」
ほぼダニーから聞いた通りの内容だった。
これなら上手くいくだろうと思う。
「次はまたワタシから質問をしてもいい?」
「もちろん。どうぞ」
一定の調子を意識して承諾を返す。
「アナタの保護者について――」
「…………」
「さっき下のラウンジで聞いた女性について。聞いてもいいかしら?」
弥堂は刻印の洗脳を弱めて腹の底の燃え尽きぬ怨嗟を意識する。
すると、ピクっと――
弥堂の手に重ねられるミラーの手が反応した。
「答えたくない」
「……ゴメンなさい。怒らせたかしら」
「そういうわけじゃない。答えたくないのは女性に聴かせるべき話じゃないから、というのもある」
「それって……」
「彼女は拷問の果てに殺された。訴訟どころじゃ済まないような話になる」
「そう……。わかったわ。言わなくて結構よ。もちろんこのことでアナタの評価に影響はありません」
「助かるよ」
握った左手の掌の中に冷たい熱を感じる。
弥堂は焔を再び腹の底に沈めて、【領域解放】への魔力供給量を増やした。
ミラーは少し神妙そうな顔を作って、話題を変える。
「そうね……なら、仕事上で困ったこととかはないかしら?」
無難な話。
今の話の前の話題と地続きなようで少し曖昧な質問だ。
それを投げかけつつ、ミラーは少し口調を和らげた。
弥堂は何も思わなかった。
「そうだな……。博士に雑談を求められた」
「あら。それは珍しいわね」
その流れに弥堂は逆らわずに、少し重要度を下げた話をする。
ミラーは大袈裟に表情を動かして興味を示した。
「アルファ1――ケインもそう言っていた。彼女はあまり社交的ではないのか?」
「そうね。社交的な人物だとは言えないけれど、気難しい人でもないわ。シャイでナイーブなのよ。それに今は状況が状況だから」
「そうか。俺に話しかけたのは、恐らく同じ日本人だからだろうとケインは言っていた」
「ワタシもそう思う。その程度のコンタクトなら許可するわ。余裕があれば付き合ってあげてちょうだい。護衛対象のメンタルケアも重要な任務よ。もちろんケインの許可があれば、だけど」
「……そうか」
刻印を操作して、弥堂は不満を露わにする。
「あら? どうかしたの?」
それにミラーは反応した。
弥堂は再び刻印へ魔力を渡す。
「実は女性と話すのが苦手なんだ。だから少々困っている」
その答えにミラーは片眉を動かした。
「そうは見えないわね。それに、ワタシも女性よ?」
弥堂の眼を下から覗き込むようにしながら、わずかに手の甲を撫でてくる。
弥堂はそれについて何も思わない。
「アンタはプロだ。だから仕事上の上司や同僚としてだけ考えられる。だが、博士はそうじゃない」
「フフ、正直ね」
「何かとっかかりになるような博士の情報はないか? 雑談のネタが欲しい」
「それを相手から見つけ出すのが雑談よ」
「参ったな」
眉間に皺を寄せる弥堂に、ミラーも彼女の秘書もクスクスと笑った。
空気が和らいだところで、別の話を向けてくる。
「アナタ、学生なんですってね」
「そうだな」
その程度のことは当然調べているし、佐藤からも情報が行っているだろう。
それについて何も思わない。
「学校は楽しいかしら?」
「博士にも同じことを聞かれたよ。別に不満はない」
「それは楽しくないってことね?」
「楽しみ方がわからないんだ」
作戦と関係のない“雑談”が続く。
「大学まで行くつもり?」
「いや。どうかな」
「何故高校に?」
「戦場を抜けて日本に帰ったタイミングが、ちょうどそういう時期だった。それで、このまま足を洗えないかと気の迷いを起こしてしまったんだ」
「……それで? どうだった?」
「難しさを覚えているよ」
弥堂は何も考えずに真実のみを口にする。
ミラーは一定の調子で話を続ける。
「そう。でも、すぐに決めるべきではないわ。慣れていないだけかもしれない。慣れは時間が齎してくれることもあるわ」
「参ったな。待つのも苦手なんだ」
「フフ……」
ミラーは気を許したように眦を緩めた。
弥堂は何も思わないようにしながら、頭の中で『カウンセラー気取りか? 傲慢な白人女め』と日本語で唱えてみる。
「学校でガールフレンドでも作ってみるのは?」
「一応いるよ」
「あら。驚いたわ」
言葉どおり、ミラーは驚きを顏に浮かべる。
内心でも本当に驚いているのかは弥堂にはわからない。
彼女が読めているのか、読めていないのかも、わからない。
「そんなにモテないように見えるか?」
「いえ、ゴメンなさい。そういう意味じゃないの。恋人を作ろうって気になれたのなら、更生や社会復帰のきっかけよ」
「どうだろうな。そうしたらもうこういう仕事は受けられなくなる。その先のキャリアに不安になるよ」
「そうね。でも、相手が一般人ならケジメはつけるべきよ。どんな子なの?」
弥堂は刻印に流す魔力を大幅に増やした。
「信じないかもしれないが、学校でも一番可愛い子なんだ」
「……?」
言い終わった後に下唇を噛みそうになるのを自制する。
ミラーは少し眉を顰めて訝しむような仕草を見せた。
「そんなに信じられないか?」
「え? いえ……、そんなことはないわ。でも、そういう評価の仕方はよくないわよ?」
取り繕うように続けた彼女へ弥堂は肩を竦めてみせる。
「仕方ないだろ。事実なんだ。一番は言い過ぎだったとしても、間違いなくトップクラスに可愛い。みんなそう言っている」
「もしかしてノロケなのかしら? どういうルックスをしているの?」
「あぁ、“ギャル”ってわかるか?」
「ギャル?」
「そうだ。お前らケバイ金髪女のサルマネをしてるメスザルのことをそう呼ぶんだ」
「……待って。なにか色々と聞き間違いかしら……? 本当にその子が好きなの?」
「好きだ」
「…………本当みたいね」
弥堂が強く「好きだ」と言い張ると、ミラーさんは不可解そうな顔をした。
だが、サイコメトリーの能力で『嘘ではない』と判定が出ているのだろう。
彼女は渋々受け入れた。
「えぇっと……、彼女とケンカとかする?」
「ついこないだしたばかりだな」
「アナタが悪いんでしょ?」
気を取り直したのか、ミラーは面白がるような目を向けてくる。
弥堂は心外だなと思った。
「彼女にもそう誤解をされてしまったよ」
「へぇ、どんな誤解?」
「浮気を疑われたんだ」
「まぁ。ありがちと謂えばありがちね。それで?」
「すっかり感情的になってしまって、話を全く聞いてくれなくなったよ」
「ふふふ、女性のそういうところが苦手?」
「あぁ。どうしたらいいかわからなくなる」
「うふふ、正直ね」
機嫌良さそうに笑う彼女に弥堂は不満を覚えた。
「女性がちゃんと納得出来るように弁明してみせるのも、男としてのアピールよ? ねぇ、エマ?」
「ふふ、可哀想よ、ジャスティン」
二人の女性に揶揄われてしまって、弥堂は困った。
「で、彼女はなんて言っていたの?」
「参ったよ。人前で『嘘吐き』だの『変態』だのと喚き散らして。挙句の果てには『あんたなんかとそもそも付き合ってない』だぜ? 何も言えなくなっちまうよ」
「気の強い女の子なのね。結局許してくれたの?」
「あぁ。ケツを揉んだら大人しくなったよ」
女の子に振り回される男の子を楽しんでいたつもりの女性二人は、突如聞こえた不適切な文言にフリーズした。
ミラーは「ん……?」と耳を疑い、その後ろの秘書の女性は「ホワッツ?」とか口から漏らしていた。
「あ、あの、今なんて……?」
「ケツを揉んだら大人しくなったよ」
「……人前で?」
「あぁ。2、30人くらい居たかもな」
「…………本当に付き合ってい――」
「――付き合ってる」
弥堂がクイ気味で「付き合ってる」と言い張ると、ミラーさんの手から緊張が伝わってきた。
「ウ、ウソじゃ、ない……⁉ そんなバカな……ッ」
さっきまで浮かべていた愛想のいい笑みが消え去る。
自身の異能力に疑問を感じているようだ。
「真実だよ。それに、日本ではよくあることだ」
「ヘ、ヘルジャパン……ッ⁉」
「ノー。ディスイズクールジャパン」
「オーマイガ……ッ!」
弥堂の適当な英語にミラーは戦慄を露わにした。
弥堂はその無様な顏に何も思わずに、ただ『バカめ』と心中で唱えた。
そして、段々掴めてきたなと手応えを感じる。
「そ、それはそうとマッドドッグ……」
「なんだ?」
すると、ミラーが体裁を取り繕おうとし――
「さて、アナタはスパイかしら――?」
唐突に核心となる質問を投げかけてきた。
打って変わって鋭く真剣みを佩びた彼女の目を見つめながら――
弥堂は瞬間的に【領域解放】を解除する。
思考の言語も完全に日本語へと戻した。
そして――
「――ノーだ」
――ほぼノータイムで最後の答えを口にする。
「…………」
「…………」
手を握られながら視線を合わせ、数秒ほど真剣に見つめ合う。
やがて――
「――オーケーよ」
スッと、ミラーは弥堂から手を離した。
「信用してもらえたようで嬉しいよ」
そんなことを口にしながら――
(素人め――)
――弥堂は心中ではそう相手を嘲った。
不慣れな手つきでノックをすると、日本語で入室の許可を与えられる。
「失礼する――」
弥堂 優輝は躊躇いなくドアノブを回して執務室の中へと入った。
「ようこそマッドドッグ。そこに座ってちょうだい――」
彼を迎えたのは、“G.H.O.S.T”の指揮官であるジャスティーヌ・ミラーだ。
「悪いけれど、ちょっと付き合ってもらうわよ」
悠然とした態度で彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「…………」
ドアを閉めながら弥堂は眼球を動かさずに部屋の中の配置を視る。
通常時にこの部屋に置かれているような調度品の類は全て撤去されており、部屋の真ん中に事務机と椅子が置かれている。
その机に着いているのがミラー指揮官だ。
ミラーのすぐ斜め後ろには1人の隊員が立っている。
恐らく護衛だろう。
その護衛の近くにはノートPCを乗せた小さな机があり、そこには黒人の女性が座っている。
こちらは秘書兼書記といったところだろうか。
そのさらに後ろ、部屋の両角あたりに一人ずつ小銃を提げた武装隊員が居る。
ミラーを射線に入れずに、いつでも彼女の対面に座る者を射殺出来るような位置取りだ。
スッと、ドアの前に立つ弥堂の両脇に隊員が近寄る。
「座ルンダ」
「…………」
ブラジル人の背の高い男に指示され、弥堂は眼を細めた。
もう一人は弥堂よりも若いかもしれない男。
弥堂に着席を促した後にその二人の隊員はドアの前に立つ。
退路を断つように。
この二人は1Fのロビーで見かけた二人だ。
確か背の高い方がフィリップスで、ガキの方がシェキルだとダニーが言っていた。
弥堂は足を進めてミラーの前に立つ。
「どうぞ」
「あぁ」
着席を勧められ、それに素直に従った。
机の上には僅かな書類とノートPC、それからコーヒーの匂いのするマグカップが一つ。
拷問器具などは見当たらない。
「緊張しなくていいわ。コンプライアンスを遵守した上で、貴方に聴取を行います」
「コンプライアンス……?」
意味のわからない英単語だと弥堂は訝しんだ。
「これから尋問をするけど、それは貴方の人権を保証した上で行われるってことよ。当然、拷問や薬物の投与などの非人道的なことは行われない」
「……?」
弥堂はますます眉を顰める。
生命と舌だけは残し、それ以外の人としての尊厳などは全て踏み躙った上で奪ってやるのが尋問だ――それが弥堂の常識である。
油断させるための罠なのかと疑う。
だが――
「――ワタシには“サイコメトリー”の“異能”があります。今回の聴取ではそれを使わせてもらいます」
「……なんだと?」
――続いた言葉にはつい声に出して反応してしまった。
不真面目な隊員が情報漏洩をしたのでその情報は予め知ってはいた。
しかし――
「――何故わざわざそれを明かす?」
情報を抜いてスパイかどうかを判断するのなら、異能のことを報せるメリットなど何もないはずだ。
それを訊ねると、ミラーは苦笑いを浮かべて肩を竦めた。
「色々と問題があるのよ。黙ってやると任務が終わって国に帰った後で訴えられることもあるの」
「そんなバカな」
「日本もそうでしょうけど、今の社会って難しいのよ。不法な尋問が明るみに出るのもマズイけれど、ワタシたちはそもそも存在が明るみに出るとマズイから……」
「だからって配慮するのか? そもそもそれを漏らしたら確実に消されるだろ。そんなこともわからないバカを雇ってるのか?」
「今は大丈夫でもふとしたことで自制が効かなくなることだってあるわ。インターネットとSNSは人に万能を錯覚させる麻薬よ。容易く人間をモンスターに変えてしまうわ」
「……人権ってめんどくせえな。クソだろ」
「……エマ、今のは記録に残さないであげて」
ミラーが振り向いてそうお願いをすると、秘書官の女性は苦笑いで頷いた。
弥堂は改めて背もたれにかける体重を調節する。
「さて、これからアナタの手に触れます……」
ミラーは机の上に両手を乗せて掌を見せてくる。
「ワタシとアナタの手を触れ合わせながら、そのままアナタに質問をしていきます。答えたくないことには『答えたくない』『答えられない』と言っても結構よ」
「わかった」
その言葉とほぼ同時に秘書官がカタカタとキーボードを鳴らす。
了承をした――とでも記録に残したのだろう。
弥堂は鼻を鳴らして両手を机に乗せる。
すると、ミラーの手が近づいて来た。
その手は指先が触れそうな位置で止まる。
「緊張する?」
ミラーは少し悪戯げな目でそう訊ねてきた。
弥堂はその顔を魔眼で視返す。
「そうだな。女性にはあまり慣れていないんだ」
肩を竦めて弥堂が冗談めかすと、ミラーは彼の手に指で触れた。
「……あら。エマ、この子ウソを吐いたわ。悪い子だって記録しておいて」
意地の悪そうな顔で笑うミラーが指示をすると、背後の女性がまたカタカタとキーボードを鳴らす。
「勘弁してくれ」
「フフ、今のは見逃してあげる。こうやってわかっちゃうから正直に答えるのね」
「そうするよ」
「ところで、どれくらい女の子を泣かせたの?」
「泣かされたことの方が多いよ」
「これはウソじゃないみたいね」
「…………」
どうやら既に“サイコメトリー”の能力を使われているようだ。
ウェアキャットの時と同様、魔力の流れなどは視えなかった。
これなら「使う」と言われなければ気付けなかっただろう。
能力の考察とは関係ないが――
(――やはりぬるいな)
――廊下で待っていた時と同じ感想が浮かぶ。
「あら? 怒ったのかしら? プライベートの質問は嫌がるタイプ?」
「……あまり好ましくはないな」
「そう。でも、ゴメンなさい。必要の上でプライベートのことにも多少触れると思うわ」
「答えたくなかったらそう言うよ」
「よろしい。緊張もしていないみたいだし早速始めていくわね」
「どうぞ」
承諾をしつつ、弥堂は心臓の鼓動を意識して魔力を操る。
身体に刻まれた一つの刻印が熱を持つ。
――【領域解放】
魔術を用いて自分自身に洗脳をかけた。
「――まず、ワタシの能力のことは知っていたのかしら?」
「知らない」
これには『嘘を吐く』と強く意識をして嘘を吐いた。
「知っていたみたいね。サトウから聞いたのかしら?」
「すごいな。そこまでわかるのか」
「……サトウじゃないみたいね」
「白状するよ。ダニーから聞いた」
軽い調子で弥堂は明かした。
同時にミラーに触れられている箇所を意識する。
緩く握って机に置かれた弥堂の両手に、ミラーの両手の掌が重ねられている。
其処から感じるモノは何もない。
少なくとも魔術的な干渉を受けているわけではなく、触れている間だけ触れているモノにだけ作用する能力であると推測出来る。
当然、それもブラフである可能性があるのですぐには結論を出さない。
ここからは『嘘を吐いている』という暗示を解除して、『自分は真実を口にしている』と強く思い込む。
「どうして隠したのかしら?」
「下の階でのやりとりを見ていたからな。ダニーがまたアンタに怒られちまうと思ったんだ」
「そう。上手くやれているみたいね」
「おかげさまでな」
少しずつ刻印に流す魔力を増やして洗脳を強めていく。
【領域解放】による催眠レベルの自己暗示――
これがサイコメトリーによる尋問への弥堂の対抗手段だ。
弥堂は異世界で過ごした時間の中で、何度か敵や味方に捕まって身体の部位が欠損するような拷問を受けたことがある。
それだけなら根性で耐えればいいだけなので別にどうということはない。
しかし中には、薬漬けにされて洗脳をされたり、魔術によって心理を観測されるような尋問もあった。
この【領域解放】での自己暗示はそれらの尋問への対策に身に着けたものである。
幸いそれらの尋問魔術は、頭の中の思考や記憶を何もかも読まれてしまうような強力なものではなく、嘘発見器に毛が生えた程度のものだった。
なので自己暗示でどうにか切り抜けてこられた。
これが“神意執行者”の認定を受けるほどの“加護”だったら恐らく対抗出来なかっただろうが、そういった種類の“神意執行者”には出遭ったことがない。
仮にこのジャスティン・ミラーの“サイコメトリー”とやらが、“神意執行者”クラスの加護だったら、その時はもう諦めるしかない。
その時はもう諦めて――
弥堂は浮かびかけた思考を自制して消し去る。
刻印が熱を持った。
意識を変えて弥堂はミラーの表情を視る。
何も反応はない。
魔力を感知出来ていない。
弥堂はそれについて何も思わなかった。
「配属先はどう?」
「アホばっかりで悪くない」
「そう。なにか気になったことはある?」
「特には」
「何も思わなかったことはないでしょ?」
「犯罪者だらけで少し驚いたくらいかな」
「そう。彼らは彼らなりに真面目に仕事をしているわ。そこは評価してあげて」
「もちろん。気のいいヤツらだよ」
「護衛体制については?」
「それなら少し――」
弥堂は試しにリスクをかけてみる。
思考内の言語を異世界の言語に変えてみた。
「何故この本部と護衛対象が離れている? すぐ近くの階か同じフロアにした方がいいんじゃないか?」
「そうしたいのは山々だけれど、本部はどうしても人の出入りが多くなるから」
「どちらにしてもリスクはあるか」
「そうね」
「攻められた場合はどう対応するんだ?」
「侵入が可能な経路は地上からに絞っているわ。敵は外の清祓課の防衛ラインを突破した後にホテルに突入。その後はエレベーターか階段で博士の居る20Fまで上がってくるしかない。その20Fまでの最終防衛ラインがこの本部がある15Fよ。ここで食い止めている間に屋上からヘリで博士を逃がす手筈になっているわ。ここまでのことがわかっていたとしても非常に困難よ。ダニーから聞いていないの?」
「初めて聞いたよ」
「アイツ……」
下唇を噛むミラーの顔を見ながら、弥堂は何も思わなかった。
「屋上からヘリで逃がせるなら、敵も同じ手段で攻めてこられるんじゃないのか?」
「屋上には対空砲を設置、ロケットランチャーを持った隊員も居るわ。付近のいくつかのビルにも同様の部隊を待機させているから、1機や2機ではまず近寄れないわね」
「それ以上の規模のものは敵も出してこれないか」
「そういうことよ」
「いい作戦だな」
今吐いた嘘には気付かれていない。
異世界の言語にも反応はない。
弥堂はそれについて何も思わない。
「スパイはそんなに深刻なのか?」
「そうね。ここに来るまでに何人も見つかっているから。もう居ないとは限らないわね」
「そういえば、ホテルの従業員も入れていると聞いたが」
「えぇ。急なスケジュールだったからワタシたちはこの施設のことが把握出来ていない。運用のアドザイザーという面でも最低人数は必要よ」
「そいつらの身元は?」
「勤続1年以上のスタッフだけに絞ってもらっているわ」
「その程度のリスクは受け入れるべきか」
「そうね。だから今やっているのが100%に近付ける為の作業よ」
「…………」
「他に何か疑問や、問題に感じることはあるかしら?」
「いや、ないな。なにも問題ない」
ほぼダニーから聞いた通りの内容だった。
これなら上手くいくだろうと思う。
「次はまたワタシから質問をしてもいい?」
「もちろん。どうぞ」
一定の調子を意識して承諾を返す。
「アナタの保護者について――」
「…………」
「さっき下のラウンジで聞いた女性について。聞いてもいいかしら?」
弥堂は刻印の洗脳を弱めて腹の底の燃え尽きぬ怨嗟を意識する。
すると、ピクっと――
弥堂の手に重ねられるミラーの手が反応した。
「答えたくない」
「……ゴメンなさい。怒らせたかしら」
「そういうわけじゃない。答えたくないのは女性に聴かせるべき話じゃないから、というのもある」
「それって……」
「彼女は拷問の果てに殺された。訴訟どころじゃ済まないような話になる」
「そう……。わかったわ。言わなくて結構よ。もちろんこのことでアナタの評価に影響はありません」
「助かるよ」
握った左手の掌の中に冷たい熱を感じる。
弥堂は焔を再び腹の底に沈めて、【領域解放】への魔力供給量を増やした。
ミラーは少し神妙そうな顔を作って、話題を変える。
「そうね……なら、仕事上で困ったこととかはないかしら?」
無難な話。
今の話の前の話題と地続きなようで少し曖昧な質問だ。
それを投げかけつつ、ミラーは少し口調を和らげた。
弥堂は何も思わなかった。
「そうだな……。博士に雑談を求められた」
「あら。それは珍しいわね」
その流れに弥堂は逆らわずに、少し重要度を下げた話をする。
ミラーは大袈裟に表情を動かして興味を示した。
「アルファ1――ケインもそう言っていた。彼女はあまり社交的ではないのか?」
「そうね。社交的な人物だとは言えないけれど、気難しい人でもないわ。シャイでナイーブなのよ。それに今は状況が状況だから」
「そうか。俺に話しかけたのは、恐らく同じ日本人だからだろうとケインは言っていた」
「ワタシもそう思う。その程度のコンタクトなら許可するわ。余裕があれば付き合ってあげてちょうだい。護衛対象のメンタルケアも重要な任務よ。もちろんケインの許可があれば、だけど」
「……そうか」
刻印を操作して、弥堂は不満を露わにする。
「あら? どうかしたの?」
それにミラーは反応した。
弥堂は再び刻印へ魔力を渡す。
「実は女性と話すのが苦手なんだ。だから少々困っている」
その答えにミラーは片眉を動かした。
「そうは見えないわね。それに、ワタシも女性よ?」
弥堂の眼を下から覗き込むようにしながら、わずかに手の甲を撫でてくる。
弥堂はそれについて何も思わない。
「アンタはプロだ。だから仕事上の上司や同僚としてだけ考えられる。だが、博士はそうじゃない」
「フフ、正直ね」
「何かとっかかりになるような博士の情報はないか? 雑談のネタが欲しい」
「それを相手から見つけ出すのが雑談よ」
「参ったな」
眉間に皺を寄せる弥堂に、ミラーも彼女の秘書もクスクスと笑った。
空気が和らいだところで、別の話を向けてくる。
「アナタ、学生なんですってね」
「そうだな」
その程度のことは当然調べているし、佐藤からも情報が行っているだろう。
それについて何も思わない。
「学校は楽しいかしら?」
「博士にも同じことを聞かれたよ。別に不満はない」
「それは楽しくないってことね?」
「楽しみ方がわからないんだ」
作戦と関係のない“雑談”が続く。
「大学まで行くつもり?」
「いや。どうかな」
「何故高校に?」
「戦場を抜けて日本に帰ったタイミングが、ちょうどそういう時期だった。それで、このまま足を洗えないかと気の迷いを起こしてしまったんだ」
「……それで? どうだった?」
「難しさを覚えているよ」
弥堂は何も考えずに真実のみを口にする。
ミラーは一定の調子で話を続ける。
「そう。でも、すぐに決めるべきではないわ。慣れていないだけかもしれない。慣れは時間が齎してくれることもあるわ」
「参ったな。待つのも苦手なんだ」
「フフ……」
ミラーは気を許したように眦を緩めた。
弥堂は何も思わないようにしながら、頭の中で『カウンセラー気取りか? 傲慢な白人女め』と日本語で唱えてみる。
「学校でガールフレンドでも作ってみるのは?」
「一応いるよ」
「あら。驚いたわ」
言葉どおり、ミラーは驚きを顏に浮かべる。
内心でも本当に驚いているのかは弥堂にはわからない。
彼女が読めているのか、読めていないのかも、わからない。
「そんなにモテないように見えるか?」
「いえ、ゴメンなさい。そういう意味じゃないの。恋人を作ろうって気になれたのなら、更生や社会復帰のきっかけよ」
「どうだろうな。そうしたらもうこういう仕事は受けられなくなる。その先のキャリアに不安になるよ」
「そうね。でも、相手が一般人ならケジメはつけるべきよ。どんな子なの?」
弥堂は刻印に流す魔力を大幅に増やした。
「信じないかもしれないが、学校でも一番可愛い子なんだ」
「……?」
言い終わった後に下唇を噛みそうになるのを自制する。
ミラーは少し眉を顰めて訝しむような仕草を見せた。
「そんなに信じられないか?」
「え? いえ……、そんなことはないわ。でも、そういう評価の仕方はよくないわよ?」
取り繕うように続けた彼女へ弥堂は肩を竦めてみせる。
「仕方ないだろ。事実なんだ。一番は言い過ぎだったとしても、間違いなくトップクラスに可愛い。みんなそう言っている」
「もしかしてノロケなのかしら? どういうルックスをしているの?」
「あぁ、“ギャル”ってわかるか?」
「ギャル?」
「そうだ。お前らケバイ金髪女のサルマネをしてるメスザルのことをそう呼ぶんだ」
「……待って。なにか色々と聞き間違いかしら……? 本当にその子が好きなの?」
「好きだ」
「…………本当みたいね」
弥堂が強く「好きだ」と言い張ると、ミラーさんは不可解そうな顔をした。
だが、サイコメトリーの能力で『嘘ではない』と判定が出ているのだろう。
彼女は渋々受け入れた。
「えぇっと……、彼女とケンカとかする?」
「ついこないだしたばかりだな」
「アナタが悪いんでしょ?」
気を取り直したのか、ミラーは面白がるような目を向けてくる。
弥堂は心外だなと思った。
「彼女にもそう誤解をされてしまったよ」
「へぇ、どんな誤解?」
「浮気を疑われたんだ」
「まぁ。ありがちと謂えばありがちね。それで?」
「すっかり感情的になってしまって、話を全く聞いてくれなくなったよ」
「ふふふ、女性のそういうところが苦手?」
「あぁ。どうしたらいいかわからなくなる」
「うふふ、正直ね」
機嫌良さそうに笑う彼女に弥堂は不満を覚えた。
「女性がちゃんと納得出来るように弁明してみせるのも、男としてのアピールよ? ねぇ、エマ?」
「ふふ、可哀想よ、ジャスティン」
二人の女性に揶揄われてしまって、弥堂は困った。
「で、彼女はなんて言っていたの?」
「参ったよ。人前で『嘘吐き』だの『変態』だのと喚き散らして。挙句の果てには『あんたなんかとそもそも付き合ってない』だぜ? 何も言えなくなっちまうよ」
「気の強い女の子なのね。結局許してくれたの?」
「あぁ。ケツを揉んだら大人しくなったよ」
女の子に振り回される男の子を楽しんでいたつもりの女性二人は、突如聞こえた不適切な文言にフリーズした。
ミラーは「ん……?」と耳を疑い、その後ろの秘書の女性は「ホワッツ?」とか口から漏らしていた。
「あ、あの、今なんて……?」
「ケツを揉んだら大人しくなったよ」
「……人前で?」
「あぁ。2、30人くらい居たかもな」
「…………本当に付き合ってい――」
「――付き合ってる」
弥堂がクイ気味で「付き合ってる」と言い張ると、ミラーさんの手から緊張が伝わってきた。
「ウ、ウソじゃ、ない……⁉ そんなバカな……ッ」
さっきまで浮かべていた愛想のいい笑みが消え去る。
自身の異能力に疑問を感じているようだ。
「真実だよ。それに、日本ではよくあることだ」
「ヘ、ヘルジャパン……ッ⁉」
「ノー。ディスイズクールジャパン」
「オーマイガ……ッ!」
弥堂の適当な英語にミラーは戦慄を露わにした。
弥堂はその無様な顏に何も思わずに、ただ『バカめ』と心中で唱えた。
そして、段々掴めてきたなと手応えを感じる。
「そ、それはそうとマッドドッグ……」
「なんだ?」
すると、ミラーが体裁を取り繕おうとし――
「さて、アナタはスパイかしら――?」
唐突に核心となる質問を投げかけてきた。
打って変わって鋭く真剣みを佩びた彼女の目を見つめながら――
弥堂は瞬間的に【領域解放】を解除する。
思考の言語も完全に日本語へと戻した。
そして――
「――ノーだ」
――ほぼノータイムで最後の答えを口にする。
「…………」
「…………」
手を握られながら視線を合わせ、数秒ほど真剣に見つめ合う。
やがて――
「――オーケーよ」
スッと、ミラーは弥堂から手を離した。
「信用してもらえたようで嬉しいよ」
そんなことを口にしながら――
(素人め――)
――弥堂は心中ではそう相手を嘲った。
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