714 / 793
2章 バイト先で偶然出逢わない
2章26 福市 穏佳 ⑩
しおりを挟む「――ぅんしょっ、ぅんしょっ、ぅんしょ……っ」
美景台総合病院の病室にて――
愛苗ちゃんはベッドシーツを伸ばして、自身の寝床をいっしょうけんめい整えていた。
病院の消灯時間は22時。
それまではまだ時間があるが、よいこの彼女はそろそろおねむの時間だ。
枕元にそっとしましまのブラジャーを置くと、青い宝石がキラリと光る。
このブラジャーはこの病院に運ばれてきた時に彼女が着用していた市販品だ。
目が醒めたら何故か魔法少女の変身ペンダントである“Blue Wish”と似たような青い宝石が付いてブラがパワーアップしていた。
「不思議だねー」
大らかな彼女にかかれば、そんな不思議現象もその一言で済まされてしまう。
掛け布団をパフパフとした時、カラカラと病室の引き戸が開けられた。
「ふぅ~、いい仕事したッス……」
「あ、メロちゃん」
先程トイレに行くと言って出て行ったメロが戻ってきたようだ。
愛苗は家族でありパートナーでもあるネコ妖精をにこやかに迎える。
「おかえりー……って、あれ……?」
しかし、出て行った時と違うメロの姿にコテンと首を傾げた。
ネコさんは何かを口に咥えて帰ってきたようだ。
「メロちゃん? お口に何を……って、ネズミさん⁉」
メロが持ち帰った物を視認して、愛苗ちゃんはビックリ仰天した。
「フフフのフッス……」
ドヤ顔をするメロは口にネズミの尻尾を咥えており、顎の下ではその尻尾と繋がったネズミの本体がジタジタと暴れていた。
「メロちゃん。その子どうしたの?」
「ジブンが廊下を歩いてたら堂々と目の前を横切っていきやがったんッス。あ、コイツ、おネコ様をナメてるなって思ったから捕まえてやったんッスよ」
「かわいそう……」
愛苗ちゃんは眉をふにゃっと下げた。
「いやいや、なに言ってんッスか」
「え?」
「ここは病院ッスよ? こんな不潔なゴミクズが居ちゃダメッスよ」
「あ、そっかー」
同じく入院患者の病室に居てはいけない動物であるネコさんが真顔で言い切ると、愛苗ちゃんは「そっかー」と納得する。
「というわけで、これからコイツを介錯ゴメンするッス」
「かいしゃく……」
「首を引っこ抜くってことッスね」
「えぇ⁉」
愛らしくも残酷な生物であるネコさんの非情な選択に、愛苗ちゃんはまたもビックリした。
そしてまた眉をふにゃっとする。
「かわいそうだよぉ。逃がしてあげよー?」
「む。マナがそう言うんなら吝かではないッス」
メロは背中の上にポヨンっとオモチャのような羽を出すと、ふよふよと窓の方へ飛んでいく。
愛苗はてててっと駆け足で先回りをし、窓を開けてあげた。
「お、こりゃお気遣いどうもッス」
「えへへー。どういたしましてー」
二人はニコっと笑い合う。
「ほんじゃ、ジブンちょっち行ってくるッス。すぐに戻るッスね」
「うん。いってらっしゃーい」
挨拶を交わして、メロはネズミを咥えたまま夜空に飛びたった。
ぴゅいーっとコミカルな音を鳴らしてネコさんボディが宙を泳ぐ。
「――むっ! そういえば……」
メロは何かを思いつく。
「病院にネズミが居るって、イチャモンつけて金を要求できるんじゃ……」
ご主人様に毒された使い魔は犯罪行為を企てた。
「まったくもぅっ。何からナニまでジブンが面倒見てあげないとぉ。ロクに食い扶持も稼いでこれないんだからぁっ!」
世話焼き彼女ヅラをしつつも満更ではない様子だ。
「こうして役に立つアピールをしてけば、あのヒト畜生もジブンとマナの待遇を良くしてくれるはずッス」
「うんうん」と頷くとネズミさんがブンブンっと上下に振られる。
「それには脅迫ネタだけでは弱いッスね……。ジブンが実戦タイプのネコさんでもあることをアピール出来ないと、あの野蛮人のクズは認めないはずッス……」
「う~ん」と首を捻らせると、ネズミさんがダラーンっと吊るされる。
メロはおヒゲをうにょらせながら思案した。
先程まで視界共有で、ご主人様がニンゲンさんたちに殴る蹴るの暴行を加えまくっていたシーンを見ていた。あの残虐な男が気に入るであろう新ネタを見出そうとする。
やがてシッポがピンっと立つ。
「――キタぜェ……ヌルリとなァ……! 新たなネコさん魔法が閃きそうっス……!」
彼女は浮かんだイメージに深く意識を潜らせる。
「今回は攻撃魔法ッス……! きっとあのカスも夢中になるはず……! はああぁぁぁぁぁッス……!」
そのイメージに従い、メロは飛行しながらネコさんボディをギュルンギュルン回転させた。
ネズミさんのお目めがバッテンになった。
「うおぉぉぉッ! いくッス! ネコさーん……、って、ギャアアァァァ⁉」
しかし、新魔法の発動には失敗し、彼女は大きくバランスを崩す。
プチっという音がした。
「――ァァァァっとととと……! あっぶねッス……」
メロはどうにかバランスを取り戻し、安定した飛行へと回帰する。
「ふぅ……、九死に一生を得たッス……。魔法は失敗したッスが、この死の寸前まで追い込まれた経験がジブンをまた一つ強くしたはずッス」
「うんうん」と頷く。
しかし、先程まであった重量が今回は感じられなかった。
「ん……?」
目線を口元へと下げると、そこにあるのはシッポだけでネズミさんの本体は消えていた。
どうやら今のメロの行動で、尻尾から千切れてどこかへ吹っ飛ばされてしまったようだ。
「ありゃりゃッス……」
キョロキョロと眼下を見渡してみるが、小さなネズミなど当然見当たらない。
それに、この高さから落ちたら助かることもないだろう。
「……一匹のネズミが数百匹に増えるのに大した時間はかからないッス。ニンゲンさんのナワバリを守るためには仕方のない犠牲だったんッス……」
フッと、ニヒルな笑みを浮かべながらメロは夜空を見上げる。
そして、本当に何も気にしてなどいないのだろう、すぐに病院へと踵を返した。
「まったく! これじゃまた歯を磨き直しッス。これだから下賤なネズ公は……」
速やかな被害者ムーブをとりつつ、メロは愛苗の待つ病室へと急いだ。
一方で、窓辺でメロを待つ愛苗の目に、こちらへぴゅいーっと飛んでくるネコさんの姿が映った。
「あ、帰ってきた」
それだけのことで彼女は嬉しそうにする。
一緒に居られる家族が居ることは彼女にとってとても幸せなことなのだ。
「ユウくんは今なにしてるかなぁ……。もう寝てるのかなぁ……」
ここには居ないもう一人の家族の姿を浮かべながら、彼女はクンクンっと鼻を動かす。
すると、以前よりもわかりやすくなった彼の存在の煌めきを感じとった。
「……あ、まだがんばってるみたい。スゴイなぁ、エライなぁ……」
今日はいつもよりも彼の魔力が動いているように思えた。
きっとアルバイトがんばってるからだなと、愛苗ちゃんは感動する。
「はやく元気になって、私もお役に立たなきゃ……っ」
握力MAX15キロのフルパワーを以て胸の前で拳を握り、キラキラの夜空に「うんうん」と頷いた。
その頃、ユウくんは――
「――だってこんなのおかしいじゃないですか!」
「あぁ」
「なんですか! カルトとかテロリストって! 意味がわからなくないですか⁉」
「キミの言う通りだ」
「私はただ真面目に勉強をして、研究だって一生懸命やってただけなのに……!」
「そうだな」
「誰かの役に立てば……、救われる生命があればと……っ!」
「キミは素晴らしいな」
「それなのにこんなのってないですよ! おかしいと思いませんか⁉」
「……あぁ」
白目になってオートで相槌を打つだけのマシーンになっていた。
女のつまらない話に自動で相槌を打つ――自分の身体にそれを強制的に行わせる為だけに打ち込んだ刻印が熱を放つ。
あの後、この陰気な売れ残り処女の話を聞いてやろうとしたら、彼女は堰を切ったように喋り出した。
そしてあっという間に感極まって号泣し始めてしまった。
まともに聞いていなかったからよくわからないが、どうも自身の境遇に不満があるらしい。
まるでこの世の悲劇のようにそれを涙ながらに訴えかけてくるが、日常に不満を抱えているのは誰だって一緒だ。
いい歳をしてそんなこともわからずに、殊更に自分が特別に不遇なのだと強調するアラサー一年生の女を弥堂は軽蔑する。
だからお前は処女なんだと心中で嘲った。
鬱陶しいのは彼女だけではない。
<うっ、うぅ……、博士かわいそう……っ。ちょっと! もっとちゃんと聞いてあげなよ! 優しいフォローを言ってあげて!>
<なんでお前も涙声なんだよ。馬鹿じゃねえのか>
何やら共感と同情をしてしまったらしいウェアキャットが、こうしてちょくちょく話しかけて弥堂を正気に戻してくる。
弥堂はイライラしてきた。
「要はなんだ? もっと金が欲しいということでいいのか?」
「わ、私そんなこと一言も言ってません……っ! お、お金なんか……、うっ、うわぁぁぁぁぁん……っ!」
彼女の意思を汲んでやろうとしたが、何故か博士はギャン泣きに移行してしまった。
すかさずウェアキャットから叱責が飛んでくる。
<こらっ! なんでこんな時までふざけるの⁉>
<別にふざけてなどないんだがな>
<真面目にやってそれなの⁉ 話わかってる⁉>
<あ? こいつはアレだろ。報酬とリスクが見合ってないから不満なんだろ?>
<なに聞いてたの⁉ 泣いてる女の子にお金の話するとかサイテーだよ!>
<女が泣きだしたら金を渡さないと黙らないだろうが>
<そんなわけないでしょ! もう一回ちゃんと聞いてあげて!>
<めんどくせえな、クソが>
弥堂は悪態を吐いて博士を見る。
こっちの女の相手をしている方がまだマシだと思ったからだ。
「あー、なんだ? お前はカスどもに生命を狙われるのが気に喰わないということだな? 理不尽だと」
「は、はい……、ヒドイと思いますぅ……」
「そうか。だが『世界』とはそんなもんだ。運がなかったな」
「う、うわぁーーんっ!」
<こらぁーっ!>
話は終わりだと頷いてみせると博士はまた子供のように泣いた。
弥堂はまた相棒兼監視役に怒られてしまう。
<なんでそんな突き放したことを言うの⁉>
<事実だ>
<そんなのいらない! もっと女の子に寄り添ったことを言ってあげて!>
<そんな会話に何の意味があんだよ……>
辟易とするが、ここから立ち去るわけにもいかないので仕方なくやり直す。
「おい、お前」
「うえぇぇぇ……、え?」
「理不尽だと思うのなら反抗しろ。それが出来ないなら食い物にされるだけだ。お前のようなガッツのない女は殺されて当然だ」
「ひぐっ⁉ だ、だって、私そんなこと……」
「泣いていたら何か変わるのか? 逆だぞ。泣くということはお前が嫌がってる――つまり、有効だと判断してもっと泣くようなことをしてくるぞ。俺が敵だったらそうする。自分からこれをされたら困りますという情報を敵に与えるな、バカめ」
「そ、そんなこと言われてもおぉぉぉぉ……っ!」
だが、今回も駄目なようだった。
<おい、ダメだぞ>
<え? なにそのボクにやらされた感。バカなの?>
<もうやるだけやった。ダメだった。それでいいな?>
<いいわけないじゃん。もしかして今の励ましてるつもりだったわけ? 頭やばくない?>
弥堂は自分に寄り添った意見をくれない相手と話をしたくなかったので、再度博士にチャレンジする。
こっちの女とも話したくなんてなかったのだが、これも仕方ないことで――
運がなかったのだと割り切ることにした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる