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2章 バイト先で偶然出逢わない
2章28 戦場の獣 ⑤
しおりを挟むポートパークホテル15F。
“G.H.O.S.T”の仮設本部のあるこのフロアに、弥堂はいよいよ降り立った。
アサルトライフルの束を抱えてフラフラと歩く福市博士を連れて進む。
少ししてエレベーターホールに差し掛かると、若干息切れしながら博士が口を開いた。
「エレベーターが使えたら楽なのに……」
弥堂は背後の彼女をチラリと見遣り、少し歩を緩めた。
「使えたとしても乗らんぞ」
「え? 1Fまで降りるんじゃないんですか?」
「最終的にはそうだが、エレベーターの前は押さえられている可能性が高い。射撃の的になるだけだ」
「そ、それもそうですね……。そうすると、階段かぁ……」
そのシーンを想像して博士は顔色を悪くする。
普段研究室に缶詰の彼女は慢性的な運動不足だ。
ここからの苦行を想像して、さらに顔をゲッソリとさせた。
「その前にここの本部に用がある」
「本部、ですか? でも……」
弥堂が壁に寄って足を止めると、彼女は言葉を一度切ってホッと息を吐く。
少し息を整えて、それから話の先を続けた。
「……本部って“G.H.O.S.T”の人がいっぱいいるんじゃ……、あ、だから行くんですね……。み、みなごろし……」
「それもそうだが。それだけじゃない」
「他にも理由があるんですか? もしかして……、アムリタを……?」
通路の向こうから丸見えの位置で棒立ちになっている博士を弥堂はジロリと視る。
彼女の腕を掴んで自分の隣に引き寄せてから、彼女の質問に答えた。
「それはあわよくば、だな」
「あわよくば……」
「手に入るなら盗んでもいいが、邪魔にもなる。優先度はお前よりは高くない」
「はぁ……。じゃあ一体何をしに? というか、これすごく重いんですけど、使うんですか?」
博士は続けて二つの質問をする。
後半は愚痴のようなものだが。
弥堂は彼女が持つライフル銃に一度視線を遣って、それから質問に答える。
二つの質問を混ぜられたようなものだが、それらへの答えは実質同じものだ。
「本部には捕虜がいる」
「捕虜、ですか?」
「あぁ。俺が適当にスパイのレッテルを貼ってやったテロリストと“G.H.O.S.T”の隊員が、拘束されて隔離されている」
「ん? 適当に……?」
「そいつらを解放してこの武器を与える」
「えっと……? 何故そんなことを?」
その武器を持つなりこちらに銃口を向けてくるのではと、博士は真っ当な疑問を覚えた。
弥堂は表情を変えずに続ける。
「おそらく、今頃は1Fで激しい戦闘が起きているだろう」
「テ、テロリストの部隊が攻めてきてるんですか?」
「あぁ。ヤツらの本隊にもこの中の現状はわかっていないだろうが、こうなった以上はもう動くしかないはずだ」
「す、すこし気の毒です……」
「お前を狙ってる敵だぞ」
「そ、そうなんですけど……」
ここまでに見た、わけもわからないまま弥堂に惨殺されたテロリストたちの姿を思い出すと、博士は少し同情的な気持ちが浮かべてしまう。
博士的には、この事件に関わっている者の中で、自分の隣にいるこの男が最も恐ろしい人間なのではないかと疑いを持っていた。
「1Fの地形的には“G.H.O.S.T”の方が有利だから、多分膠着状態にあるはずだ。そこに上からもテロリストが攻めてきたらどうなる?」
「つ、つまり……、より激しい潰し合いをさせるために、わざと捕虜を逃がすと……? 親切に武器まで渡して……?」
「そういうことだ」
「あ、悪辣すぎますぅ……」
弥堂がコクリと頷くと、悪事に加担させられていることを知った博士はシクシクと泣いた。
だが、それを止めさせるよう説得することも非難することも彼女はしない。
意思が弱いのか、見せている態度ほどは他人の生命に関心がないのか――それは判断がつかなかった。
それはそれとして、弥堂はプランに穴がないかを思考する。
外のテロリストたちと同様に、現在までホテル内に潜伏中のまだ見つかっていないスパイどももこの機に動くはずだ。
先程20Fで博士に襲撃をしかけてきた連中のように。
それがどの程度の数がいるのかはわからないが、あまり数は多くないように思える。
もしも内部犯に十分な戦力があるのなら、今頃はこの15F本部は戦場になっているはずだ。
しかし、このフロアは静かなものだ。
戦闘をしている様子どころか、人の気配も近くにはない。
だが、テロリストたちはともかく、ここに“G.H.O.S.T”すらもいないのは少々不自然に思えた。
ここの維持を諦めて1Fの方へ戦力を集中することにしたのだろうか。
それはわからないが、この混沌の中では誰しもが本性と目的を露わにして動かざるをえない。
そういう風にしてやった。
(進めばわかるか……)
そう結論した時――
「――え? これ、銃声……ですか……?」
進行方向の向こうで銃声が鳴った。
この先にあるのは仮設の本部としていた広めの貸し会議室だ。
尤もそこは半ばスパイ収容所とも化していて、弥堂の目的地でもある。
弥堂は反射的に駆け出してエレベータホールから出ると、すぐそこにあった曲がり角の壁に肩をつける。
そして角の向こうを覗き視ると――
「――ミラーだと……?」
覗いた通路の奥の角で、壁をブラインドに射撃戦をしている者がいた。
その人物の“魂の設計図”は“G.H.O.S.T”の指揮官であるジャスティン・ミラーのものと、記憶上で一致した。
(どういう状況だ……?)
弥堂はスッと眼を細める。
ミラーが居る曲がり角を曲がるとそこが本部の部屋のある場所となる。
彼女が戦闘をしている以上は、相手はテロリストということになるのだろう。
だが、弥堂は位置関係に不自然さを覚えた。
ミラーは元々本部の中か、その隣の執務室に居たはずである。
通常起こり得るのはその部屋を守る彼女のところに、外部からテロリストが攻めてくるというカタチだ。
であるのならば、位置関係は逆でなければならない。
現在ミラーが居る場所にテロリストの戦闘員がいるのが、最も自然なカタチだ。
「考えても意味がないか」
どんな経緯があろうが殺してしまえば同じことだと結論する。
「あ、あの……」
「その銃を彼女へ渡せ」
「え?」
追い付いてきた博士に短く指示だけを出して、弥堂は【身体強化】の刻印に熱を入れてミラーの方へ駆けだした。
「そのまま撃ってろ――」
猛スピードで駆け寄りながらそう声を掛けて、驚いたミラーがこちらへ振り返る前に――
「――【falso héroe】」
――弥堂は『世界』から自分を引き剥がした。
そのままミラーの横を通りすぎて角を曲がり、迷わず敵の方へと突っ込んで行く。
“な、なに……?”
驚いたミラーは周囲へ目を遣る。
男の声で日本語で呼びかけられた気がしたが、近くにそれらしき人物は誰もいない。
代わりに――
“――あ、あの……っ”
“え……?”
白衣を着た女性が両手で何かを抱えながら駆け寄ってくる。
“こ、これ、使ってください……っ!”
“シ、シズカ博士……⁉”
差し出されたライフルと、「ぜぇぜぇ」と息を荒らげる福市博士の顏とを見比べて、ミラーはわけがわからず目を白黒させた。
“え、援護を……っ”
博士の要請にミラーはハッとし、受け取ったライフルの銃口を角の向こうへ出す。
だが――
“え、う、うそ……っ?”
――覗いた奥で立っているのは一人の男だけだった。
彼の足元には今しがたミラーが戦っていたテロリストたちが3人転がっている。
“ア、アナタ……、マッドドッグ……ッ⁉”
その姿を認めたミラーが驚きの声で名前を呼ぶと、弥堂は死体から足を下ろして彼女の方を視た。
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