俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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2章 バイト先で偶然出逢わない

2章30 病院がたいへんっ⁉ たすけて! ステラ・フィオーレ! ⑥

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「――待ちやがれッス……!」


 病院の敷地を飛び出した不審者を追ってメロも国道へ繋がる並木道へ出る。

 ここは下り坂だ。

 自称下り専門のネコさんは俄然勢いづいた。


 しかし――


「――クッ……! コイツ……ザコじゃない……⁉」


 メロの何mか前を走る黒いシルエットの人との差は中々縮まらない。

 どこかコミカルなフォームでドスドスと鈍くさい足音を立てて走っているが、ネコさんフォームのメロでも簡単には追い付けない速度だ。

 ちなみに二人の距離は相手をもう視認出来るくらいの距離だが、まだ正体を明らかにしていないので黒い人は黒い人のままだった。


「このままでは……ッ」


 国道まで出られてしまっては、その後もずっと追い続けるわけにはいかなくなる。

 あまり愛苗と離れてしまうのはよくないと、メロの顏に焦りが浮かんだ。


「仕方ないッスね……、どうやらアレを使う時がきたようッス……!」


 エモノを狙うネコさんの目が夜闇の中でギラリと光った。


 何時間か前に病院に出たネズミを外に捨てに行った時のことを思い出す。

 あの時に思いついて試したが失敗してしまった新ネコさん魔法を、今こそ使うしかないとメロは強く思い込んだ。


「ウオォォォ……、ネコさんスパァーック!」


 気合の声とともにメロのネコさんボディがビカーンっとスパークした。

 キッと鋭い眼差しで黒い人の背中を睨む。


「こうなったら、一か八かッス……!」


 パートナーの魔法少女と似ているのか、マスコットネコさんも初手から『一か八か』だ。


「グランニャイトウェーーッブッ!」


 メロのネコさんアイがぺかーっと光り、黒い人の元まで光のレールが伸びていく。

 メロは高くジャンプをした。


「ウィーン、ガシャ! ウィーン、ガシャッ!」


 自前の作動音と共に前足と後ろ足を順番に畳んで、レールの上にお腹をつけて着地をする。

 まるでスフィンクスのような精悍な表情と姿勢でレールの上をツゥーっと滑っていった。


 走りながら背後を振り返った黒い人の顏に汗が垂れる。

 伏せをしながら高速で迫るネコさんの姿に彼も慌てた。


「うおぉぉぉ……ッ! こいつでトドメだぁッス! グランニャッシャーーーッ!」


 接触の直前でネコさんボディを一層派手な魔法のエフェクトが包み込む。

 とはいえ、あくまで視覚的なエフェクトなのでそれに物理的な威力はなにもない。

 そのままの勢いでメロは黒い人に体当たりをした。

 上手いこと膝裏にぶつかったおかげで、黒い人は大きくバランスを崩す。


「ギャアァァァッ⁉」


 膝カックンで転んだ黒い人にメロも巻き込まれ、絡み合いながら坂道をゴロゴロと一緒に転がる。

 明確な危険行為だった。


 しばらく転がってようやく止まる。

 二人ともお目めがバッテンになっていたが、先に立ち直ったのはメロの方だった。


「しゃあっ……!」


 バフンっとエフェクトを出して女児フォームになると、メロは倒れる黒い人の上に素早く馬乗りになる。


「オラァッ! オラァッ! くたばれッス!」


 マウントポジションからの無慈悲な女児パンチを黒い人の顔面に打ち込むと、バフッバフッと音を立ててちっちゃな拳がめり込んだ。

 効いていると判断してメロは黒い人の首元へ手を伸ばす。


「おぅコラぼけぇ! ツラ見せんかいワレェッ!」


 最近悪いお兄ちゃんと付き合いがあるせいですっかりと馴染んでしまったガラの悪い言葉を叫びながら、グイっと黒い人の胸倉を引っ張った。

 だが――


「え……っ?」


――月明りの下で顕わになった黒い人の正体にメロは一瞬呆けてしまう。

 メロの躰の下に居る者、その正体とは――


「――ゲロモン……⁉」


――美景市の名産ということにしたい“美景汁”をプロモーションする為に生まれ、一部で大人気となったご当地マスコットであるゲロモンだった。

 つまり、犯人はその着ぐるみをかぶっていることになる。


「あっ――⁉」


 攻撃の手を緩めてしまったその隙に、ゲロモンがそのずんぐりボディをブリッジさせる。

 跳ね除けられた女児はコロコロと転がった。


 メロは素早く立ち上がってゲロモンに鋭い目を向ける。


「キサマ……! さてはニセモンのゲロモンッスね……⁉」


 女児にビシッと指を差されるとゲロモンはお手てを口元にやってオロオロと目を泳がせた。

 その態度にメロはネコさんメトリーを使うまでもないと判断し、戦意を高める。


「街のみんなの健康を守る妖精であるゲロモンが悪さをするわけがないッス! そんな子供たちに大人気のご当地マスコットになりすまし、夜の病院に迷惑をかけるとは不届き千万ッ! ジブンのこのツメで八つ裂きにしてやるッス!」


 そう宣告するとメロは女児のくせにいっちょまえにデコったツメをチラチラと自慢した。

 それを受けたゲロモンはバッと腕を広げると――


「――ハッ⁉ そ、それは……⁉」


――手足をヒョコヒョコとヒョウキンに動かして、自身の人畜無害さと健康にもいいことをアピールする。

 そのコミカルでキュートな姿に女児のお目めはキラキラと輝いた。


「うわぁっ! ゲロモンダンスだぁー! かわいーっ!」


 メロは「わぁーっ」と歓声をあげてゲロモンの方へ駆けて行く。

 ピョンコっとジャンプをしてゲロモンの毛むくじゃらボディにバフンっと抱きついた。


 すると――


「――ん?」


――妖しい踊りでまんまと女児を誘き寄せたゲロモンはガシっとメロの身体をホールドする。


「はぅぁ⁉ しししししまったッス!」


 卑劣な敵のズルい罠にかかったことを知り、メロは驚愕に目を見開いた。

 そのメロの顏に、ヌっとゲロモンの顏が近づく。


「ま、まさか……、ジブンにキスをするつもりッスか⁉ こんな年端もいかぬ女児に……⁉」


 キスしかありえないような顏の距離の縮まりに、メロは女児ボディを震わせた。

 だが――


「せ、世間の人気者にメスとして求められるとは、ジブン割と吝かじゃないッス……!」


 インフルエンス力に目がないミーハーなクソ女の気質を持つサキュバスは割と満更でもなさそうだ。

 目を閉じて自分から「んーっ」と唇を突き出していく。

 すると――


「ん――?」


――唇と布地が接触間近になったところで、ゲロモンの両手がガシっとメロの頭を掴んだ。

 メロの眼前でゲロモンの口がガパっと大きく開く。

 そしてその口の中からウィィーンっと駆動音を鳴らしてウォッシュレットトイレのノズルのようなモノが突き出てきた。


「は? え……? ま、まさか――⁉」


 本能的な恐怖からメロが身を引かせようとするが、逃げることは許されない。


「――い、いひゃまひおっ⁉」


 剥き出しにされた突起物はメロの咥内へと容赦なく突っこまれた。

 さらにそれだけでなく、女児の狭い内側の壁を抉じ開けながら無理矢理奥まで突きこまれたその先端からは、ドロドロとした“美景汁”が勢いよく排出される。

 その水勢に奥の行き止まりを叩かれる感触に、メロは「んぅ~っ!」「むぅ~っ!」と唸りながら、自身の頭をガッチリと掴むゲロモンの手をパンパンっと叩いた。


 だが、ゲロモンは決して手を離してやることはしない。

 顔を紅潮させ涙目になる女児の顏を、どこか無機質な瞳で冷たく見下ろしている。

 そして喉奥から食道へ直接“美景汁”を出しきると、用済みだとばかりにペイっとメロの身体を道端に放り捨てた。


「ケホッ、ゴホッ、オボロロロロロ……ッ」


 ようやく自由に呼吸が出来るようになったメロだが、口の中に残った“美景汁”のあまりのマズさに四つん這いで嘔吐する。

 口から出た吐瀉物にはキラキラとしてエフェクトで配慮がされるが、それが路面に落ちて一定時間空気に触れると真ピンク色に変わった。


「ゲ、ゲロマズッス……」


 苦味に顔を顰め嘔吐き、咳き込むメロの上に大きな影が差す。

 一撃で戦闘不能になった女児にトドメを刺そうと、ゲロモンはそのずんぐりとした腕を振り上げた。


「クッ……! ここまでかッス……⁉」


 己の敗北と最期を同時に悟ったメロがギュッと目を瞑る。

 その時――


「待ちたまえ――ッ!」


――どこからともなく鋭い男の声が響く。

 同時にメロとゲロモンの間の路面にカカカッ――と、何か大きなカードのようなモノが数枚突き刺さった。


 ゲロモンは思わずバックステップを踏み、メロから離れる。

 そしてキョロキョロと慌てて周囲を見回した。


「ここだよ。悪党――」


 頭上からの声に反応して、メロとゲロモンはバッと同時に空を見た。

 すると、電信柱の上にタキシードを着た紳士の姿があった。


「ホホホ。このような夜更けに婦女子を襲うとは感心しないね」


 泰然とした穏やかな声と緩やかな夜風に、タキシードの黒いテイルがゆらりと揺れる。

 その姿を月光がライトアップしていた。


「あ、あれは――」


 メロにはあの人物に見覚えがあった。

 あれは昨日病院の中庭で会った老紳士だ。


 一体何故こんな時間にこんな場所に――その疑問よりも先に聞きたいことが生まれる。

「一体何者なんだ」という言葉が喉まで出かかって、メロはギリギリで自重した。


 それを訊ねるのは敵役であるゲロモンの役割だ。

 弁えた女児であるメロは電柱の上の老紳士を見たまま、お膝に手を置いてお行儀よく待つ。

 だが、ゲロモンは一向にそれを訊ねない。


 早くしろよという念をこめてチラリとゲロモンを見る。

 するとゲロモンはなにやらオロオロとしていた。

 どうやら喋れないキャラのようだ。

 メロは「んっ」「んっ」と喉を整えて、代わりに訊いてやることにした。


「キ、キサマ……ッ! ナニモノだ……ッ!」


 悪魔学校で習ったとおりの小物さを演出して叫ぶと、老紳士は満足げにコクリと頷く。


「フッ――戦場で問われ黙しては貴族の名折れ……。よかろう。とぅ――ッ!」


 老紳士は電柱の上からさらに高く跳び上がると、タキシードをバサバサとたなびかせながらメロとゲロモンの間に着地した。

 白手袋に包まれた手をバッと振るい名乗りを上げる。


「訊けィッ! 偉大なる女王陛下より伯爵の位を賜りし我が名は、ミハイル・パンティストッキング――」


 そのあんまりな名前にメロとゲロモンはゴーンっと白目になった。


「――ドイツ生まれの英国紳士さ」


 老紳士はパチリとお茶目にウィンクをする。


 メロは彼から目線を外して先程路面に突き刺さったモノをジッと見た。

 それは台紙と一緒にパッケージングされた未開封のパンティストッキングだった。


「なんかまたヤベェのが出たァーーーッ⁉」


 次々におかしなのが襲来するこの街の治安の悪さを、幼気な女児は頭を抱えて嘆き叫んだ。
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