俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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2章 バイト先で偶然出逢わない

2章34 零ノ捌キ~Eighth note beats feel FREE to DEATH~ ①

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 弥堂 優輝びとう ゆうきは戦場へと復帰する。


 “G.H.O.S.Tゴースト”と“死霊レイス”の戦いへと眼を向けた。



 “G.H.O.S.Tゴースト”の隊員たちがレイスと繋がっている首無しの人狼ワーウルフの躰を銃撃している。

 パニックからの乱射ではなく、連携された行動のように見えた。


 対して、“死霊レイス”の方はその銃撃から人狼の肉体を守っている。

 カルトの魔術師たちが使っていたバリアのような魔術障壁が銃弾を遮っていた。


「――あのレイス、魔術も使えたんだな」

『おそらく、あまり使いたくはないのでしょうね』


 かつての師であるエルフィーネが弥堂の隣に立ち、銃撃を行っている“G.H.O.S.Tゴースト”のチームを指差す。

 すると、そのチームへ向けてレイスが霊体の蛇を伸ばした。


 射撃チームはそれを察知するとすぐに銃撃を中止して下がる。

 それと入れ替わるように別の方向に展開していたチームが、指揮官であるミラーの合図に従い人狼への射撃を開始した。


 メイド服を着た中高生くらいの見た目のハーフエルフは、その様子を冷めた目で観察している。


『魔術を使えば魔力が減る。それを補充するために“魔力吸収マナドレイン”を狙う』

「なるほど。そういうことか。ミラーもそれをわかっている」


 弥堂が納得を浮かべると、エルフィーネは「よろしい」とばかりに頷いて手を下ろした。


『貴方の戦いをしっかりと見ていたのでしょうね』


 そして今度は隣から弥堂の顏を見上げてくる。


『実体のある人狼を貴方が狙った時、レイスは血相を変えてすぐに迎撃をした。つまり?』

「狙われると都合が悪い」

『はい。ミラーは優秀ですね。しっかり観察が出来ている。彼女たちにしてみればまるで意味のわからない状況でしょう。それでも事実を分析し対処の為の仮説を立てて検証を行った』

「その検証結果はこっちが掠め取ってやるよ」


 弥堂がそう嘯くとエルフィは一瞬だけ物憂げそうに眉を寄せる。

 しかしすぐに表情を無に改めた。


『――戦闘プランを言いなさい』


 彼女のその言葉に、弥堂は懐かしさを覚える。

 彼女の生前に、教会や国の任務で一緒にどこかへ襲撃を仕掛ける際のある種決まったやりとりだった。


 弥堂を鍛える目的もあったのだろう。

 まず先に弥堂にプランを提示させ、それを彼女が理由を述べて修正する。

 そうやって弥堂の暗殺者としてのアルゴリズムを形成したのだ。


「なんだよ。今日は手伝ってくれるのか?」

『本当なら合わせる顔がないのですが……』


 弥堂は緩みそうになる口元を意識して締めて、だが茶化したようなことを言う。

 すると、エルフィーネは困ったように苦笑いをした。

 そんな彼女をさらに困らせようとする。


「そういえば前回はそんなこと言って出てこなかったな」
『すみません』

「でもよ、お前普段というか、日常生活の時はわりと出てくるよな」
『そ、それは……っ。だって、貴方があんまりにも……』

「この状況もあんまりだよな」


 人間同士の殺し合いのつもりで仕事にきたら、何故か魔物との戦いになる。

 そんな自分の境遇を弥堂が皮肉ると、何故かお師匠さまはスッとジト目になった。


『“あんまり”と謂えば……』


 まるで軽蔑でもするような、そんなとても冷たい目だ。


「なんだよ」

『あんまりだと思います』


 弥堂には被虐趣味はないので普通に問いかけてみると、今度は彼女は非難を向けてくる。

 何が何だかわからないが、弥堂はこれまでの経験からとても嫌な予感がした。


「なにがだよ」

『なにって……。わ、私の前で、あんな……っ。あ、あ、あ……っ、あんな……っ! 冒涜的な……!』


 原因に心当たりは無いがどうやら元カノはご立腹のようで、弥堂はとても面倒な心持ちになる。


「なんのことだ」

『なんの……⁉』


 正直にわからない旨を打ち明けると、メイドさんはビックリした。


『いくらなんでもあり得ないです。仮にも“神の薬”と呼ばれたものを、女性のにょ、にょ、にょ……っ、尿と混ぜて……! あ、あんな……っ! あぁ、神よ……。この子をどうか御赦しください。背徳的でしたが背信のつもりではないのです。ただ頭が、ちょっと……、その、ダメなだけで……』

「どういう意味だよ」


 珍しく早口で言葉を並べ立てたと思ったら、何故か途中から懺悔をしだした女へ、今度は弥堂がジト目を向ける。

 聞けば、まるで弥堂が何か不始末を起こしたかのような口ぶりだ。

 心外だと、弥堂はムッとする。


「仕方ねえだろうが。あの女が勝手にションベンを漏らしたんだ。俺のせいじゃない」
『だからってあんなことまでする必要はないでしょう⁉ あのような常軌を逸した変態は、教会幹部や貴族の豚どもの中にだって中々いませんでしたよ!』

「おい。その言い方だとまるで俺が常軌を逸した変態であるかのように聴こえるだろ」
『そう言っているんです!』

「人聞きの悪いことを言うな。どこが変態だ」
『変態以外のナニモノでもないでしょう⁉ じょ、女性の、排泄物と、麻薬を混ぜて……の、ののの、飲む、なんて……っ! 神はこのような変態的な行いを赦しません!』

「魔力を戻さなきゃ死んでたんだ。だったら飲むしかねえだろうが。ていうかお前、“神薬パルスポーション”が麻薬だと認めたな? 神に謝れ」
『ハッ――⁉ かみさまごめんなさい……!』


 弥堂が異世界で常用していた“WIZ”の類似品である魔力増強の薬は、一般ではその致死性の高さから“馬鹿に付ける薬ドープ・ダーヴ”と呼ばれて取引をされている。

 そしてそれと全く同じ物が教会でも拷問や洗脳、さらに使い捨ての暗殺者のドーピングに用いられていた。

 弥堂のような魔力に乏しい者に死んでも任務を達成させる為に、死ぬ前提で使わせるのだ。


 これらの2つは全く別の薬であるという前提がある。

 教会はそう主張し、魔術協会が検証しその主張は正しいと確かめ、そして各国の有力者もその真実性を認め保証した。

 当然それは建前だが。

 なんなら製造元は教会の下請けの非合法組織であり、自分たちが“神の薬”と称して使用する傍ら、資金源にするために世間にも流していたくらいである。


 教会では『神の薬を飲み、試練に耐えれば加護を授かる』などという建前があったので、一般に出回っている麻薬と同一のモノだとは絶対に認めるわけにはいかない。

 なので、敬虔な信徒であるエルフィさんは死後になった今でも、それらは別のモノであるという前提を基本的には崩さないのだった。


「大体、勝つために――生き残るために何でもやれって、俺に仕込んだのはお前らだろうが。何故文句を言う?」

『だからってあんまりです! 確かに“何でも”とは言いましたが、貴方は“何でも”過ぎるんですよ!』

「“何でも”は“何でも”、だろうが。例外など無い。手段を選ばないとはそういうことだろう。それしか方法がないのなら、俺は何でもやる」

『貴方はなんというか……。解釈を拡大というか、どうしていつも意味不明でおかしな方向にいっちゃうんですか!』


 元祖『手段を選ばない系暗殺者』だったエルフィさんは、自分が教えたこととはいえ、弥堂の『どうしてそうなっちゃうの?』的な生き様に、どうにも納得がいかないようだ。

 最初は隣り合って話していた二人は徐々にヒートアップしていき、ついには向かい合っての口論に発展していた。


「うるせえな。大体だ。変態だのと言うが、人のこと言えねえだろ。お前だって――」


 弥堂がそこまで言いかけた時――


 ヒュンッ――と。


 物理的には存在しないはずの彼女の姿が、風切り音を幻聴させて消える。


「――っ⁉」

『…………』


 次の瞬間には弥堂の懐の中におり、超至近距離にて拳を弥堂の腹に当てていた。

 殺しの仕事をしていた時と同じ、実に冷たい目で弥堂を見上げていて、思わず背筋に痺れがゾッと奔る。


 彼女は予備動作もなく無言のまま爪先を捻った。

 しかし――


「…………っ」

『……口惜しいです』


 やはり物理的には存在していないので、弥堂の身体に即死確定の零衝が打ち込まれることはなかった。

 とはいえ、修業時代に何度も彼女の零衝を喰らって憶えている弥堂の身体は、反射的にその痛みを錯覚してしまった。


 エルフィは残念そうに眉を下げて、スッと身を離す。

 こんなわけのわからない姿になっても、健在のままのその業に弥堂は感心した。


「流石だな。まったく反応出来なかった」
『反応くらいはしなさい』

「無茶言うなよ」
『貴方にだってそろそろこれくらいは出来るはずです。何度も言っていますが鍛練を怠るからです。成長しないどころか、戦いに身を置く機会が減った分、あちらの世界に居た時よりも衰えていっているくらいです。どうしてちゃんとやらないんですか』

「わかったわかった。ここを生き残れたらな」
『日々全力を尽くしなさい』

「だからなんでもやるんだろ」
『普通はやらないことをやったからといって、普通のことをやらなくてもよくなるわけではないんです。まったく。口ばっかり達者になって……』


 お師匠さまはブツブツと口の中でお小言を呟く。

 久しぶりの本格的な説教で懐かしくはあるが、別にだからといって彼女に叱られることが好きなわけではない。

 弥堂は段々とうんざりしてきた。


『最後にこれだけ確認ですが……』

「……なんだよ」


 女の『最後に』と『だけ』は全く信用していないが、かといって聞かないわけにもいかない。


『趣味では、ないんですよね……?』
「あ?」


 エルフィは疑心と警戒に満ちた目で恐る恐る訊ねてくる。


『女性の、その……、小水に……。性的な興奮を覚えているわけでは……』
「そんなわけないだろ」


 酷く不名誉な疑いをかけられ、弥堂は即座に否定する。

 しかし、当然わざわざ訊いてくるくらいだから、彼女は納得しない。


『ですが。貴方は昔から女性を失禁させることや、そういう場面に遭遇する機会が多いです。多すぎます。わざとやってるんじゃないですか?』

「言いがかりだ。根拠のない邪推はやめろ」

『いいえ。これは私だけではなく、ルナリナやリンスレット、それにシャロも同じことを言ってました』

「シャロもかよ……」


 弥堂は珍しく軽くショックを受けて目元を手で覆った。

 しかしこの相手方の主張は何があっても認めるわけにはいかない。


「女どもが勝手に漏らすんだ。さっきもそうだっただろ。俺は女に排泄を見せつけられる被害者だ。クソ女どもの股が緩いのが悪い」

『よくもまぁそこまで言えますね……。けど、もういいです』


 エルフィさんは全く信用していない様子だったが、ちょうどタイミングよく“G.H.O.S.Tゴースト”隊員の断末魔の悲鳴が聴こえたので追及を一旦やめる。

 悲鳴がした方を見ると、何名かの隊員が霊体の蛇に魔力を吸われていた。


 二人はそれを一瞥だけして、そして同時に視線を合わせる。


『――では、戦闘プランを』

「あぁ」


 これまた馴れたやりとりで思考を戦闘に全て持っていった。


『何通り思いつきますか?』
「2つ」

『聞かせなさい』
「1つは、レイス――霊体を無視して実体のある人狼を叩くこと」

『成功すれば効率はいいですが、見ての通り一筋縄ではいかないでしょうね』


 実際に決して無傷では済んでいない“G.H.O.S.Tゴースト”たちの戦いを二人はもう一度見る。


『レイスの魔術障壁は銃では突破できず、しかし近づけば霊体に襲われる……』


 銃撃チームが人狼を狙う。

 その銃弾を防ぐためにレイスは魔術障壁を張る。

 そうしてレイスを足止めしている隙に、別動隊が障壁を抜けて直接人狼を叩きに近づく。

 しかし、近づいた者たちは霊体の蛇に襲われて生命力を吸われる。

 そうするとレイスの魔力が回復し、魔術を行使できる時間が伸びる。


 それが現在の戦況だ。

 なので、別の方法を考える。


『もう一つは?』
「レイスをどうにかしてから、人狼の肉体を確実に潰すこと」

『どうにかとは?』
「跡形もなく消し飛ばすか、肉体との繋がりを断つ」

『霊体をどうにかしないと近付けない以上、実際にはその両方を実行することになりそうですね』
「そうだな」


 霊体を完全消滅までには追い込めなくとも、ある程度行動不能にしてからでないと、人狼の肉体にアプローチは出来ないだろう。


『霊体の完全消滅が可能かどうかは一旦置いておいて――肉体との繋がりとは?』
「あの魔術師は、死の間際に『神降ろし』だと言った」


 “WIZ”を服用したヨギは弥堂へ向けてそう言った。

悪魔憑きデモネード』ではなく『神降ろし』だと。


『神降ろしとは不敬ですね。間違いなく異端です。速やかに殺害し滅ぼしましょう』

「だから今どうやってぶっ殺すかって話をしてんだろうが」

『んんっ、失礼しました……』


 狂信的な異世界宗教の信者だったエルフィさんは凄絶な眼差しになるが、弥堂に窘められると体裁を繕った。

 もしも彼女が生きてこの場にいたら、地球産カルトVS異世界産カルトの殺し合いが始まるところであった。


『では、“神降ろし”とは?』
「神などいないという大前提はとりあえず置いておく。おそらくあれは“悪魔憑き”や“精霊憑依”と同じような現象だ。当然、実際に神を召喚したわけではない」

『では、本質的には?』
「不完全なレイス化だ。魔物の肉体を生贄――依り代にして中途半端に霊体化を実現している。霊体を肉体に寄生させることで、その存在の強度を維持してカタチを保っている」


 二代目の遺したノートに書かれていた知識。

 そして自身の魔眼で視たモノ。

 そこからそのように分析をした。


『推測ですか?』

「いや――」


 弥堂は言葉を切って、自身の手から魔力の糸を創り出す。

 ヘリとのドッグファイトに使用した黒いワイヤーの形態ではなく、本来の用途であった限りなく透明に近い蒼――霊糸だ。


「――多分これと同じ理屈だ。俺の身体から離しては存在を続けられない」


 本当に純度100%の霊子で構成されているのなら、それは弥堂のような特別な感覚器を持っていないと観測も出来ない。

 だからこの透明な蒼の糸は、黒い魔力糸よりは魔素の含有率を下げて、霊子の純度を上げたものとなる。

 しかし、その分維持は難しくなる。


 弥堂は糸を意識して操作し、自分の指先との繋がりを断った。

 すると、1秒も経たずに宙に放たれた糸は消えてしまう。


「霊体を保つには肉体との繋がりが必要だ。“魂の設計図アニマグラム”をコピーしたり分割したりして、同時に2つ存在させることは出来ない。だから、あれらは一つのモノ。そうでなければ、生贄に使って用済みになったはずの肉体を守り続ける意味がない」

『なるほど。いいでしょう――』


 弥堂の説明にエルフィーネは満足げに頷いた。

 方針についての話は終え、実行手段に進む。


『では、具体的にどうやって繋がりを断ちますか?』

「俺ではあの術式に、魔術的な介入をすることは出来ない」


 魔術師としての弥堂の力量では、魔術的な解決は不可能だということだ。


『つまり?』
「力尽くで術式をぶっ壊すしかない」

『その為の手段は?』
「ルビアの焔だ」

『まぁ、それしかありませんね』


 エルフィは醒めた目で、それを認める。

 だが、あまり好ましくはないようだ。

 それは手段的な問題というよりは、彼女とルビアの仲がよくないせいだろうと、弥堂は察した。


『聖剣があれば簡単な話だったのですが……』
「無いモノは無い」

『ですが、ユウキ。貴方の【燃え尽きぬ怨嗟レイジ・ザ・スカーレット】では威力不足です』
「それはそうだな」


 事実は事実として弥堂もそれは認める。

 仮に使用者がルビアだったとしたら、あの程度の死霊は彼女の視界に入った瞬間に焼き尽くされて瞬く間に滅ぼされることだろう。

 だが、弥堂では――


『――先程、一度焔でレイスの顎を消し飛ばしましたが、すぐに元に戻りました』
「その復元のために魔力をエネルギーにしているようだ。使って減った分は人を襲って補充した。今と一緒だな」

『だから中途半端に削っても意味がないです。やるなら一撃で消し飛ばすしかありません』
「それは無理だ」


 弥堂は即答する。


『ならば、撤退するべきです』

「それも無理だ」


 そして倒すことが出来ないのなら戦うべきではないと提案するエルフィの言葉にも、同様に即答した。

 エルフィーネの目がスッと細まる。


『どういう意味です?』

「削り合いで勝負するしかない」

『消耗戦……? 正気ですか?』

「もちろん――」


 いつでも正気であるし、いつでも正気でないとも謂える。

 やることが変わらないのなら、どっちだろうと同じ事で意味がない。

 弥堂も師と同様の冷たい眼を返した。


「焔で削れた。だがすぐに元に戻った。そしてすぐに“マナドレイン”で魔力を補充した」

『それは、つい今同じことを――』

「――それはつまり。そうしないと存在を維持出来ないということだ」

『だからここに居る人間たちが全滅するまで削り合いを? 無理です。全力の【燃え尽きぬ怨嗟レイジ・ザ・スカーレット】はそう何度も撃てないでしょう? 先に尽きるのは貴方の魔力です』

「普通にやればそうだろうな」

『普通に……?』


 エルフィーネは訝しげな顔で弥堂の曖昧な言葉の真意を探る。

 すぐにハッとした。


『ユウキ……。あなた、まさか……』


 弥堂は答えない。

 言うまでもないことだからだ。


 エルフィーネは反射的に彼を止めようとして、そしてすぐに止めた。

 言って聞くような男ではないからだ。


 だから切り口を変えて説得を試みる。

 彼女の本音や願いは、彼には今すぐにここから脱出して欲しいのだ。

 全員を見捨ててでも。


『……ユウキ。貴方は今回、後ろ盾を得るためにこの仕事を受けました。そうですよね?』

「まぁ、そうだな」

『その候補は清祓課と“G.H.O.S.Tゴースト”。仕事が開始してから情報を集めて、世界的には“G.H.O.S.Tゴースト”の方が影響力が強そうだとわかった。アメリカの方が国土も広いですし、途中で行方を晦ませるのも比較的容易……』

「なんでお前にアメリカのことがわかるんだよ。勉強したのか?」

『茶化さないでください』

「割と普通に疑問だったんだが」


 彼女も弥堂の振る舞いには慣れたもので、話を逸らすことは許さない。


『強い方に取り入るなら“G.H.O.S.Tゴースト”。相手の感触も悪くなかった。なのに貴方は突然“G.H.O.S.Tゴースト”を殺し始めた』

「人間関係はどっちも面倒そうだが、そもそも俺は英語がわからないからな」


 答えになっているようでなっていないような弥堂の言葉。

 そう感じながらエルフィーネは追及をしない。


 彼が何を考えているのかは相変わらずわからない。

 だけど、どういうつもりなのかはこれまでの付き合いから察することが出来る。


 だからわざわざそれを彼に言わせる気はない。

 それに、彼女の言いたいこともそれではないからだ。


『……しかし、指揮官に気に入られたおかげで不問になりそうです。せっかく事なきを得られそうなのに、何故また……』

「それはレイスを仕留めたらの話だ。バックレたら白紙だろう。それに……、このまま終わらせると『死に戻り』がバレる」

『ですが……っ! こんなことを続けていたら、あなたはこっちでも、また……』

「…………」


 エルフィーネは声を詰まらせる。

 弥堂は少し反論の言葉を探した。


 だが、それについては何も言い返せなかった。


 どこの国に居ても――

 どこの世界に居ても――


――結局のところ、不良品はずっと不良品のままなのだ。


 ほんの少し間が空いて、エルフィーネの方から口を開いた。


『……あの娘を……、マナを守るのでしょう?』

「そうだ」

『…………』


 弥堂は即答する。

 するとまた間が空く。


 自分からこの話を振っておいてどういうつもりだと――弥堂は彼女の表情を覗く。

 そして、その顔を見て驚きに眼を見開いた。


『――わ、わたし……は……っ』


 上擦った声――


『……わたしは、あなたに……、足を洗ってほしかった……っ』


 彼女は泣いていた――


(ほらな。だから嫌な予感がしたんだ――)


 そう嘯いた言葉は、口には出せなかった。
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