無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生

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リリエールとキッチンで

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「あとは俺様がやっておくから兄ちゃんはオークの肉をリリのところへ持ってって夕飯の準備の手伝いを頼むぜ」

 空が茜色に染まる頃。
 壁の修復を終えた俺たちは、倒したオークの素材回収を始めていた。

「俺がですか?」
「もしかしてお前。料理とかしたことねぇのか? それとも異世界人は料理しねぇってんじゃねぇだろうな?」
「いえ。普通に料理はしてましたけど。一人暮らしだったし」

 元々貧乏で両親は共働きだった俺は、子供の頃から家事の手伝いは当たり前にやっていた。
 さらに両親を亡くしてからはずっと一人暮らしで、ブラック企業勤めのせいで自由な時間もなく。
 休日と言えば激務の疲れを取るだけで精一杯で彼女を作る暇もありはせず。

「といっても特に勉強とかした訳じゃ無いんで期待しないでくださいね」
「別にお前の料理の腕に期待して頼んでるわけじゃねぇから安心しろ」

 ルリジオンは小さく笑ってそう応え。
 それから手際よくオークの足から肉の塊を切り出し表面をナイフで削って綺麗にし、森で採ってきた大きめの葉に包んで手渡してきた。
 俺はそれを受け取ると「慣れてますね」と苦笑いを浮かべる。

「旅神官なんてモンをしてるとな、旅の途中の食料は自分で手に入れなきゃならないことも結構あるんだよ」

 ナイフに付いた脂を葉で拭きながらルリジオンは言う。
 旅神官という仕事については異世界人である俺にはわからないが、言葉の意味からだいたい察することは出来る。

「さすがに街道沿いだとこれだけデカい魔物は出てこねぇが、ゴブリンとかホーンラビットとか小物とはたまに戦うこともあってな」
「ゴ……ゴブリンって食べられるんですか?」
「喰わねぇよ。っていうかゴブリンの肉はオークと違って人様にゃ毒だから喰ったら死ぬぞ」

 よかった。
 オークはファンタジーものでも食材として扱われることが多いせいか既に食材として見れる。
 だがゴブリンにはなぜか激しい拒否感がある。

「でもそれであんなに戦い慣れていた理由はわかりました」
「まぁ元々ある程度訓練はしてたってのもあるんだが……って、のんびり話してる場合じゃねぇな。リリに怒られちまう」

 ルリジオンはそう言うと俺に向かって手を「さっさと行け」とばかりにぞんざいに降る。

「お前もこれからこの村で暮らすつもりならリリとも色々話した方が良いだろ」
「あ、そういうことですか」

 どうやらルリジオンはリリエールと俺がまだろくに話もしていないことを気に掛けてくれたようだ。
 見かけと言葉は荒いけれど、彼の心根はとても優しいのだなと俺は感じていた。

「そうですね。ルリジオンさんとの話は夜にでも。それじゃ行きます」

 解体作業を始めたルリジオンの背に俺はそう告げ、ずっしりと重い肉を持って踵を返す。
 気付くと空の色は先ほどより赤さを増していて、それはすぐにでも夜の闇に変わるだろう。

「お肉持って来たよリリエール!」

 肉を抱えながら扉を開けた俺は、家の奥に向かってそう言いながらキッチンへ向かう。
 そういえばこの家のキッチンに入るのは初めてだ。
 朝は直前に魔石の異常に気がついてしまったから。

「おかえりリュウ。お肉はここに置いてちょうだい」
「わかった」

 俺はキッチンの中央にある机の上に肉を置く。
 二脚の椅子がある所を見ると、普段はここが食卓なのかもしれない。

「うわぁ。こんなに大きいお肉見たの久しぶりよ」

 石造りのシンクで野菜を切っていたリリエールが、台座の上からぴょんと飛び降りて俺の近くまでやってくるなり肉を見て目をきらめかせた。
 まだ幼い彼女は、台座を使わないとシンクまで手が届かないのだ。

「俺もこんなのは食べたこと無いな」

 前世でも大きめのかたまり肉くらいはスーパーで見たことはあるが、こんな一抱えもあるものは初めてだ。
 それにしても、これがオークのもも肉だと言われなければ普通に豚肉にしかみえない。

 オークというイメージからすると脂身が多そうだったが、ルリジオンが切り出した部分は脂身がほとんどない。
 それどころか豚肉に比べて赤さが強く、どちらかと言えば牛の赤身に近い印象を受ける。

「リュウは料理とかできるの?」
「一応はね」
「それじゃあ、このお肉をこれくらいの大きさに切り分けて欲しいの」

 リリエールは背伸びしていた足を戻すと、俺に向かって両手の指を使い五センチ角くらいの四角を作って見せた。

「いいけど包丁とかあるかな」
「ほう……ちょう?」
「あっ、ナイフだよナイフ。キッチンナイフっていうのかな」
「いつも使ってるお肉用のならあるよ。ちょっとまってて」

 ちょこちょこちょことリリエールはシンクの方へ走っていくと、その横にある棚を開けて中から一本のキッチンナイフを取り出す。
 さっきルリジオンもナイフを使っていたが、この世界というかこの国あたりでは俺が普通にイメージするような包丁は無いらしい。

 リリエールはそのナイフの柄を重そうに両手で持ちながら歩いてくる。
 さすがに危険を感じた俺が彼女に駆け寄ってそれを彼女の手から奪うように受け取った。

「はぁ……重かった。いつもはルリがやってくれるから」
「危ないから、次からは場所だけ教えてくれれば俺が取るからね」
「うん。おねがい」
「それにしてもこれは重いな」

 受け取ったキッチンナイフに目を落とす。
 見かけは日本でもキャンプ用品とかで売っていたナイフを二回りほど大きくしたような代物で、見かけ通りずっしりとした重みもある。

 鉄製なのだろう。
 使い古されたそれはルリジオンが磨いだだろう歯の部分はマシではあったが、それ以外の部分はずいぶんとガタが来ているように見える。

 日本では普通に切れ味の良い肉用の包丁を使っていた俺に使いこなせるだろうか。

「あっ、そうだ。こういうときのためにコイツがあるんだった」
「コイツ?」
「ミストルティンだよ……って、リリエールはまだ見たこと無かったんだっけ」

 俺は小枝を胸元から引き抜くと、テーブルの上に置いたキッチンナイフに枝先をあてる。

「アブソープション!」

 既にかなり手慣れてきたその能力スキルを発動刺せたのだった。




※きらめくナイフの刃がリュウジの指先を襲う!! 次話は12時頃更新予定
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