無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生

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二人のキッチンと苦~いお薬

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「すごーい! サクサク切れちゃうよ」

 シンク横で、台に乗ったリリエールが嬉しそうな声を上げた。

「指とか切らないようにね」
「今はもうそんな怪我はしないよ。それに怪我してもルリが治してくれるから」

 ミストルティンのスキルで新品同様の性能を取り戻した万能ナイフを片手に、木のまな板の上で楽しそうに野菜を切り刻むリリエール。

「たしかにルリジオンさんなら……って。でも痛いのは嫌だろ」
「それはそう。だから手は猫の手にゃ」

 右手の包丁を持って振り返ったリリエールが、空いている方の左手を猫の手のようにして俺に見せつける。

「そんなことよく知ってるね」
「ルリに教えて貰ったから」

 俺はルリジオンが猫のものまねをしながら『猫の手にゃ』と言う姿を思い浮かべてすぐに振り払った。
 無精髭面の三十路のおっさんのそんな姿を見たら悪夢だ。

「人の心配よりもリュウの方は大丈夫なの?」
「ああ。もうすぐ切り分け終わるよ」

 性能回復スキルのおかげで新品同様の肉切りナイフを片手に答える。
 もちろんリリエールが使っているナイフもミストルティンが変化したものだ。

 そのミストルティンの現在のステータスはこうなっている。



 ミストルティン

 レベル:4
 EXP:555 NEXT 800

 形 態:マルチプル
 モード:セカンダリモード

 《アイテムスロット》

 1:肉切りナイフ 2:金鎚(ランクA) 3:万能ナイフ

 《スキル》

 アブソープション・使用法理解・経験取得・性能回復・鑑定・セカンダリアイテム



 オークのような強い魔物は来ないというルリジオンの言葉を信じて、弓と炸裂矢の代わりに二種類のナイフを吸収アブソープションした。
 形態の『マルチプル』というのはセカンダリアイテムとして二つ以上のものに変化させているモードらしい。

 今後二つ以上に変化させられるようになるのかはわからないけども、可能性はかなり高いと思っている。

 それにしても使い込まれていたとはいえ二種類のナイフを吸収アブソープションしたにしては得られた経験値が少なかった。
 もしかするとレベルが上がるにつれて雑魚敵を倒しても貰える経験値が少なくなるゲームと同じような状態なのだろうか。

「痛てっ」

 そんな余所事を考えていたせいだろう。
 先ほどリリエールに注意しろと言っておきながら自分が怪我をしてしまった。

「油断した……」

 といってもこの前ルリジオンに治して貰ったときほど深い傷では無い。
 舐めておけば治るだろう程度のものだ。

 それにちょうど最後の肉を切り終えたところだったのも幸いだった。
 俺はその肉を怪我をしてない方の手で木製の大きな器に入れる。

 それから指先を手を拭くために用意していた布巾で拭ってから指先を口にくわえる。
 リリエールが用意してくれたこの布は煮沸消毒済みで、料理の時に使うためにキッチンに置いてあるらしい。

「どうかしたの?」

 そうこうしていると自分の作業が終わったのだろうリリエールがトコトコとやってくる。
 そして俺の姿を見て察したようだ。

「もう! やっぱり怪我したのはリュウの方じゃない!」
「めんふぉくにゃい」

 指をくわえながらリリエールに謝りながら俺は、ほとんど切り分け終わった肉が入った器を片手で抱きかかえるように持つ。

「ふぉれで、このにくふぁどうすれふぁいいんふぁ?」
「えっとね、あそこの大きな鍋の半分くらいまで入れてちょうだい」

 リリエールが指さしたのはコンロのようなものの上にのせられた寸胴鍋だった。
 器を抱えたまま鍋の中をのぞき込むが、まだ他には何も入っていない。

「結構大きい鍋だけど、流石に肉は全部入らないな」

 俺はリリエールの指示通り肉を鍋の半分ほどまで入れると残った肉の入った器を机の上に戻す。

「リュウ。指見せて」
「?」
「薬塗ってあげるから」

 肉を鍋に入れている間に持って来たのだろう。
 リリエールが小さな壺を持って、その蓋を開いた。
 とたん、辺りに薬臭が漂う。

「それふぁ?」
「これはね。ルリがいないときに怪我したら塗る薬だよ」
「へぇ。ふぁあおへがひいしよふかな」

 俺は指を口から離して、もう一度布で拭いてからリリエールの前に差し出す。

「塗ったら舐めちゃだめだよ。すっっっごく苦いの」

 思いっきり眉を寄せ、苦いものを食べたときのような表情でそう言うリリエール。
 きっと彼女も舐めたことがあるのだろう。

「舐めたんだ」
「む、昔の話だからっ」

 俺の言葉に恥ずかしそうに頬を染めながら、リリエールは壺に自分の指を突っ込む。
 彼女の指先に付いた軟膏の色は黒に近い茶色で、いかにも効きそうな匂いを放っている。

 この匂いが料理に付いたら大変だなと思いつつ、俺はなぜだか温かい気持ちが溢れてくるのを心地よく感じていた。

「はい。これですぐに血は止まるはずよ」
「ありがとう。助かった」
「リュウは大人なんだからしっかりしてよね」

 十二歳の女の子に説教される二十歳過ぎの男の図は、端から見ればかなり情けないに違いない。
 とはいえそんな女の子に注意しろよと偉そうに言っておいて、自分が逆に怪我をしているのだから何も言えない。

「仰る通りで……」

 俺は素直にリリエールに頭を下げるしか無かったのであった。
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