無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生

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塩の実と便利な魔道具生活

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 ぐつぐつという音と共に、キッチンの中に立ち上った湯気からハーブと肉の香りが流れてくる。

 俺がコンロだと思ったものはズバリそのもので、リリエールに聞くとどうやら魔石を燃料にした魔道具だとのことだった。

 この世界の文明レベルから、てっきりかまを使っていると思っていた。
 だけどよく考えずともこの世界には魔法が普通に存在しているのだ。
 現に俺は既にいくつかの魔道具を見てきていたのにすっかりそのことを失念していた。

 俺自身は無能力なので魔法は使えないが、ルリジオンは回復魔法を使うし、リリエールの様な子供ですら簡単な魔法が使えてもおかしくは無い。
 ちなみにリリエールは水と炎の魔法が使えるらしいが、料理に使うわけでは無い。

「リリはね。まだ魔法を上手く使えないからルリが見てない所で魔法を使うのは禁止だって言われてるんだ」
「それじゃまた今度、ルリジオンがいるときに見せてよ」
「うん、いいよ」

 というわけで今俺はそんな魔法で動くコンロで一生懸命額に汗を流しながら寸胴鍋の中身をゆっくりとかき混ぜていた。
 具材はオークのもも肉意外に森で採れた木の実やハーブ、キノコなどの山菜。
 思ったより豊富な山の幸に驚いたが、実は一番驚いたのが塩の実の存在である。

「これが木に生ってるのか……」
「うん。リリが木に登って採ったんだよ。木登りは得意なの」

 この森の中に生えているナマルクという木は、地中の塩分を吸い上げる性質があるという。
 そして吸い上げた塩を実のような状態で堅め、実の様に生らせるのだそうな。

「だから塩だけは一杯あるのよ」

 自慢げなリリエールに見せて貰った壺の中には、ゴツゴツとした氷砂糖のような固まりが大量に入っていて、それが塩の固まりだった。
 料理の時はそのまま鍋に投入するか、すり鉢で砕いて使うらしい。

「リュウ、そろそろ煮えたかしら?」
「たぶん」
「じゃあ後はリリが味付けするね」

 俺の横で洗い物をしていたリリが手を拭きながらそう言った。
 さすがに水道なんてものは通っていないので水は井戸水なのだが、別にいちいち井戸水を汲む必要は無く、魔道具で普通の水道の様に使えてしまう。

 ちなみに排水は開拓村の端に作られた浄化槽のような所に集められて森に還されるらしい。
 仕組みはリリエールもよくわからないと言っていたが、魔法という超自然的なものが存在する世界で仕組みについて考えても意味は無いのかもしれない。

「俺は鍋の前から退くと、リリエールのために台座を移動させる。
 そしてリリエールの両脇を持ち上げて台の上に置いてあげた。

「これくらい自分で出来るもん。リュウはあっち行ってて!」
 
 だが、どうやらリリエールはそういう子供扱いされるようなことは嫌だったらしい。
 ほっぺたを膨らませた彼女に俺はキッチンを追い出されてしまった。

「ごめんごめん。次からは気をつけるよ」

 俺は素直に謝りながら「女の子の扱いは難しいな」と思いつつ昨日食事をしたリビングらしい部屋に向かった。

 キッチンは窓が少なく、魔法灯で照らされていたために気がつかなかったが、既に日は完全に落ちていたらしくリビングは薄暗くなっていた。
 それでも今日は晴天だったおかげで月の明かりだけでもかなり明るく、魔法灯のスイッチがある所までは苦も無くたどり着ける。

「えっと、たしか手のひらを当てて……」

 俺は前にミストルティンで魔法灯をアブソープションした時の記憶を思い出しつつ部屋の明かりを灯す。

 それほど広くない部屋には昨日食事を取った後にルリジオンと話をしたテーブルがあり、窓際にはくたびれたソファーっぽい椅子が置かれている。
 壁際に置かれている道具や家具は、たぶん開拓村の家々から集めてきたのだろう。
 実用性重視で統一感が一切無い部屋の中は、改めて見るとかなり煩雑としていた。

 落ち着いて時間が出来たら一度この部屋の整理をさせて貰おう。
 そんなことを考えつつ部屋の中を見渡していると。

「ふぅ。働いた働いた」

 玄関からルリジオンの声が聞こえた。
 こんな時間まで彼一人でオークの後処理をしていたのだ。

 ルリジオンの指示とはいえ、結局解体を彼一人に任せたことに幾分負い目を感じつつ俺は彼を出迎える。

「おかえりルリジオンさん」
「おう。飯の準備は出来てるかい?」
「ええ。今ちょうどリリエールが最後の仕上げをしているところですよ」
「どぉーりて良い匂いがしやがると思ったぜ」

 ルリジオンはそう言うとキッチンの入り口まで歩いて行って中を覗き込む。

「リリ、今帰ったぞ」

 そして中にいるリリエールに帰宅を伝え。

「あっ、お帰りルリ。もうすぐご飯出来るから待ってて」
「おう。その前にシャワー浴びてくるから、あれだったら先に喰ってて良いぞ」
「むぅ……お料理が冷めないうちに早く出て来てよ」
「わーってるよ」

 まるで夫婦の様な会話を交わしてから家の奥へ向かおうとする。

「ルリジオンさん!」

 その背中に俺は慌てて声を掛けた。
 なぜなら――

「この家にはシャワーがあるんですか!!」

 この世界に来てから俺はまだ一度も風呂に入ることも水浴びすらもしていないことを思い出したからである。


※次話は皆さん待望(?)のお風呂回 お昼頃更新予定
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