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『いただきます』『ごちそうさま』
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軽くシャワーで汗を流したあとルリジオンの服を借りた俺は、リリエールに急かされながら食卓に向かう。
テーブルの上には深めのスープ皿。
その中には大きな肉がこれでもかと入ったスープが入っていて、湯気を立てていた。
「どうしても汗だけは流しておきたくてさ」
「リュウ、ちょっと臭かったから仕方ないよね」
「えっ……いや、本当にごめんな」
リリエールからのきつい一言に俺は心を傷つけながら席に着く。
向かいに座って木製のスプーンをくるくる回しながらニヤニヤしているルリジオンがイヤらしい。
「くっくっく。リリは良いとこのお嬢さんだから臭いに敏感なのさ」
「そうなんですか?」
「っと、失言失言。でもな、普通のそこらにいる村娘とかならお前さん程度の臭いなら気にしねぇってのはたしかだぜ……って、痛ぇな」
そう笑うルリジオンの頭を後ろから背伸びしたリリエールがひっぱたいた
「無駄な話してないで早く食べようよ。リリ、お腹空いちゃった」
「お、おう。それじゃあ食事の前にいつものお祈りをするか」
そう言ってリリエールが席に着くのを待ってからルリジオンと共に二人は目を閉じた。
食事の前のお祈りと言うと、よくある神様への感謝の祈りとかだろうか。
ルリジオンはファロスとかいう神の神官だから『ファロスの神よ。今日も命の糧をさずかり感謝します』とか言うのだろうか。
俺は二人の言葉を真似てお祈りをしようとワクワクしながら耳に意識を集中させる。
「……」
「……」
「……」
しかし二人は口を閉じたまま何も祈りらしき言葉を口にしようとしない。
俺が焦っていると突然二人は目を開けた。
「食べよ食べよ」
「おう。今日はオーク肉の良いところが手に入ったからな。楽しみだぜ」
どうやら彼らの『食前の祈り』は無言で心の中で行うものだったらしい。
俺は肩すかしを食らった気分で少しがっかりしながら
「いただきます」
と、両手を合わせた。
「それが異世界の食事前の作法か?」
「ええ、そんなもんです」
皿の中から救った肉の塊を囓りながらルリジオンが興味深そうに尋ねてきた。
俺はこの世界の作法を何一つ知らないうちにこの場所へ飛ばされてきたから他にやり方を知らないのだと応える。
「やっぱりみんなみたいにこの世界の神様に祈った方がいいんですかね?」
「そんな決まりはねぇよ。というか別に俺たちも神様に祈りを捧げてたわけじゃねぇしな」
「そうなんですか?」
予想外の返答に俺は驚きを隠せない。
「国とか宗派によっては神様に感謝をーとか言ってるやつらもいるけどよ。ファロス教の場合はどちらかってーと食材に対して感謝するって感じだな」
「それじゃあ僕らの国と同じですね」
「そうなのか?」
「諸説あるらしいんですが、食べる前の『いただきます』と食べ終わった後の『ごちそうさま』って言葉は、食材と作ってくれた人に対する感謝の気持ちの言葉らしいんで」
俺は自分がそうだと信じている話を食事をしながら話した。
「美味しい」
「だろ。ここには塩しかねぇが、キノコとかハーブのおかげで味付けには余り苦労してねぇんだ。といっても魔物が彷徨いてる森の中にはそうそう採取にも行けねぇから、いつもは簡単な味付けしか出来ねぇけどよ」
今日は俺が来て初めてのちゃんとした晩餐ということで備蓄している食材を放出してくれたらしい。
ありがたいやら申し訳ないやら。
「ルリがね。今日はリュウジに美味しいモン喰わせてやりてぇ!ってリリにお願いしに来たんだよ」
「お、おいリリ。それは言わねぇ約束だろ」
「そんな約束してないもん」
どうやら発案者はルリジオンだったようだ。
もしかすると解体作業の途中で俺を家に帰って料理を手伝えと言ったのも、彼の気遣いだったのかも知れない。
「今日はみんなに迷惑掛けてしまったって言うのに……ありがとうございます」
「兄ちゃんのせいじゃねーよ」
ルリジオンは具だくさんスープのお代わりをリリエールに要求しながら言う。
「一方的に召喚して、一方的に何も知らないまま兄ちゃんを捨てた奴らが一番悪ぃのさ」
「……」
「ったく。召喚なんてもうできねぇようにしてやったつもりだったんだがな……。お、ありがとよ」
リリエールから皿を受け取ったルリジオンが「もうちょっと肉入れてくれよ」などと文句を付けている。
だが俺は今の彼の言葉に聞き捨てならない部分があったことに意識が奪われる。
「ちょ、ちょっとまってくださいルリジオンさん」
「あ? なんだよ」
「今、あなたは『召喚をできないようにしたつもり』って言いましたよね」
「……聞き間違いじゃねーの?」
急にばつが悪そうな表情でそっぽを向くルリジオン。
その行動が如実にさっきのは聞き間違いじゃ無いということを示していた。
「俺には言いにくいことなんですか?」
「ルリ……」
なぜかルリジオンじゃなくリリエールが不安そうな顔で彼を見る。
もしかしてリリエールとルリジオンが開拓村に来た理由がそこにあるのかも知れない。
「しゃあねぇな。話してやるよ」
暫くして沈黙に耐えかねたのか、ルリジオンは頭を掻きながら俺の方を向く。
「でもな、そんなに気持ちの良い話じゃねぇぞ?」
「……」
不安そうな顔のリリエールを見ると聞かない方が良いんじゃないか。
そう思えてくる。
「話してもいいよ」
しかしそう口にしたのは当のリリエールだった。
「これからここで一緒に住むんだから、隠し事はダメだと思うの」
「ちっ。リリがそう言うならしかたねぇ」
ルリジオンはスプーンを皿に戻すといつもの飄々とした態度を改め、真剣な目で俺を見る。
「もしかしたら兄ちゃんが『無能』になったのも俺のせいかもしれねぇしな」
「それってどういう……」
「それも含めて全部話してやる。だから今は――」
そう言ってルリジオンはもう一度スプーンを手に取ると、救った肉の塊をゆらしながらさっきまでの少しふざけた様な表情に戻って。
「冷めないうちに飯を食っちまおうぜ」
そう笑ったのだった。
※本日の更新はここまでとなります。
※明日は夕方更新予定。
※次回 ルリジオンたちが開拓村にやって来た理由やら色々判明する・・・かも
テーブルの上には深めのスープ皿。
その中には大きな肉がこれでもかと入ったスープが入っていて、湯気を立てていた。
「どうしても汗だけは流しておきたくてさ」
「リュウ、ちょっと臭かったから仕方ないよね」
「えっ……いや、本当にごめんな」
リリエールからのきつい一言に俺は心を傷つけながら席に着く。
向かいに座って木製のスプーンをくるくる回しながらニヤニヤしているルリジオンがイヤらしい。
「くっくっく。リリは良いとこのお嬢さんだから臭いに敏感なのさ」
「そうなんですか?」
「っと、失言失言。でもな、普通のそこらにいる村娘とかならお前さん程度の臭いなら気にしねぇってのはたしかだぜ……って、痛ぇな」
そう笑うルリジオンの頭を後ろから背伸びしたリリエールがひっぱたいた
「無駄な話してないで早く食べようよ。リリ、お腹空いちゃった」
「お、おう。それじゃあ食事の前にいつものお祈りをするか」
そう言ってリリエールが席に着くのを待ってからルリジオンと共に二人は目を閉じた。
食事の前のお祈りと言うと、よくある神様への感謝の祈りとかだろうか。
ルリジオンはファロスとかいう神の神官だから『ファロスの神よ。今日も命の糧をさずかり感謝します』とか言うのだろうか。
俺は二人の言葉を真似てお祈りをしようとワクワクしながら耳に意識を集中させる。
「……」
「……」
「……」
しかし二人は口を閉じたまま何も祈りらしき言葉を口にしようとしない。
俺が焦っていると突然二人は目を開けた。
「食べよ食べよ」
「おう。今日はオーク肉の良いところが手に入ったからな。楽しみだぜ」
どうやら彼らの『食前の祈り』は無言で心の中で行うものだったらしい。
俺は肩すかしを食らった気分で少しがっかりしながら
「いただきます」
と、両手を合わせた。
「それが異世界の食事前の作法か?」
「ええ、そんなもんです」
皿の中から救った肉の塊を囓りながらルリジオンが興味深そうに尋ねてきた。
俺はこの世界の作法を何一つ知らないうちにこの場所へ飛ばされてきたから他にやり方を知らないのだと応える。
「やっぱりみんなみたいにこの世界の神様に祈った方がいいんですかね?」
「そんな決まりはねぇよ。というか別に俺たちも神様に祈りを捧げてたわけじゃねぇしな」
「そうなんですか?」
予想外の返答に俺は驚きを隠せない。
「国とか宗派によっては神様に感謝をーとか言ってるやつらもいるけどよ。ファロス教の場合はどちらかってーと食材に対して感謝するって感じだな」
「それじゃあ僕らの国と同じですね」
「そうなのか?」
「諸説あるらしいんですが、食べる前の『いただきます』と食べ終わった後の『ごちそうさま』って言葉は、食材と作ってくれた人に対する感謝の気持ちの言葉らしいんで」
俺は自分がそうだと信じている話を食事をしながら話した。
「美味しい」
「だろ。ここには塩しかねぇが、キノコとかハーブのおかげで味付けには余り苦労してねぇんだ。といっても魔物が彷徨いてる森の中にはそうそう採取にも行けねぇから、いつもは簡単な味付けしか出来ねぇけどよ」
今日は俺が来て初めてのちゃんとした晩餐ということで備蓄している食材を放出してくれたらしい。
ありがたいやら申し訳ないやら。
「ルリがね。今日はリュウジに美味しいモン喰わせてやりてぇ!ってリリにお願いしに来たんだよ」
「お、おいリリ。それは言わねぇ約束だろ」
「そんな約束してないもん」
どうやら発案者はルリジオンだったようだ。
もしかすると解体作業の途中で俺を家に帰って料理を手伝えと言ったのも、彼の気遣いだったのかも知れない。
「今日はみんなに迷惑掛けてしまったって言うのに……ありがとうございます」
「兄ちゃんのせいじゃねーよ」
ルリジオンは具だくさんスープのお代わりをリリエールに要求しながら言う。
「一方的に召喚して、一方的に何も知らないまま兄ちゃんを捨てた奴らが一番悪ぃのさ」
「……」
「ったく。召喚なんてもうできねぇようにしてやったつもりだったんだがな……。お、ありがとよ」
リリエールから皿を受け取ったルリジオンが「もうちょっと肉入れてくれよ」などと文句を付けている。
だが俺は今の彼の言葉に聞き捨てならない部分があったことに意識が奪われる。
「ちょ、ちょっとまってくださいルリジオンさん」
「あ? なんだよ」
「今、あなたは『召喚をできないようにしたつもり』って言いましたよね」
「……聞き間違いじゃねーの?」
急にばつが悪そうな表情でそっぽを向くルリジオン。
その行動が如実にさっきのは聞き間違いじゃ無いということを示していた。
「俺には言いにくいことなんですか?」
「ルリ……」
なぜかルリジオンじゃなくリリエールが不安そうな顔で彼を見る。
もしかしてリリエールとルリジオンが開拓村に来た理由がそこにあるのかも知れない。
「しゃあねぇな。話してやるよ」
暫くして沈黙に耐えかねたのか、ルリジオンは頭を掻きながら俺の方を向く。
「でもな、そんなに気持ちの良い話じゃねぇぞ?」
「……」
不安そうな顔のリリエールを見ると聞かない方が良いんじゃないか。
そう思えてくる。
「話してもいいよ」
しかしそう口にしたのは当のリリエールだった。
「これからここで一緒に住むんだから、隠し事はダメだと思うの」
「ちっ。リリがそう言うならしかたねぇ」
ルリジオンはスプーンを皿に戻すといつもの飄々とした態度を改め、真剣な目で俺を見る。
「もしかしたら兄ちゃんが『無能』になったのも俺のせいかもしれねぇしな」
「それってどういう……」
「それも含めて全部話してやる。だから今は――」
そう言ってルリジオンはもう一度スプーンを手に取ると、救った肉の塊をゆらしながらさっきまでの少しふざけた様な表情に戻って。
「冷めないうちに飯を食っちまおうぜ」
そう笑ったのだった。
※本日の更新はここまでとなります。
※明日は夕方更新予定。
※次回 ルリジオンたちが開拓村にやって来た理由やら色々判明する・・・かも
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