無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生

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王家の血

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「さてと、どこから話そうか」

 食事の片付けも終わり、リリエールがシャワーに向かったのを見計らってルリジオンが口を開く。
 リビング以外の灯りは消され、テーブルの上で湯気を立てているのは自家製のハーブティ。

「とりあえずリリが帰ってくるまでに簡潔にまとめるがいいか?」

 どうやらリリエールには聞かせたくないこともあるらしい。
 俺は小さく頷いて応える。

「俺に関係がある部分だけでかまいません」
「そうか。助かる」

 別に俺はルリジオンやリリエールの過去まで洗いざらい聞き出したいわけじゃない。
 俺にとって関係ない話は今は必要ないだろう。

「それじゃあ要点だけ簡単に言うぞ」
「はい」

 ルリジオンの表情が引き締まる。

「お前さんが勇者として召喚されたってのに特別なスキルがなかったのは俺様が魔方陣を書き換えたせいかもしれねぇ」
「は?」

 魔方陣を書き換えた――
 つまり俺を召喚した魔方陣は不完全なものだったということだろうか。

「俺様が召喚の間の魔方陣を書き換えちまったから、お前さんに力が宿らなかったんじゃねぇかって言ってるんだよ」
「どうしてそんなことを?」
「リリを守るためだ」

 そう言ったルリジオンの目に強い決意のようなものを感じた。

「何からリリエールを守らなきゃいけなかったんですか?」
「王国――つーか国王シェイムとストルトスの野郎からだよ」

「ストルトスってあの……」
「そうだ。お前さんを召喚して、騙してこんな辺境へ飛ばしたクソ野郎だよ」

「でもどうしてリリエールはそんな奴らに狙われてたんですか?」
「そりゃお前。リリが勇者召喚の生け贄だったからだ」
「生け贄……」

 俺は自分が転生されて初めて見た部屋のことを思い出す。
 あの部屋には生け贄らしきものはなかったけど、もしかすると別の部屋にあったのだろうか。

 そう考えるとゾッとする。

「お前さんはこの国のことをどこまで知ってる?」
「どこまでも何も、ルリジオンさんから教えて貰った異常のことは知りませんよ」

 既に俺より先に別の勇者が召喚されていて、既に魔王は倒された後だということ。
 バスラール王国はそれを隠して勇者の力だけを目的に俺を召喚して戦争の道具にしようともくろんでいたことを教えられた。

 あの時の話は忘れられない。

「そうだ。その勇者召喚の方法を北方の国から密かに手に入れ、王に勇者を国の戦力として使うということを提案したのが、あのストルトスの野郎でな」
「……ストルトス……」

 俺を騙して、ボロボロの短剣と申し訳程度の小銭だけで魔物の蔓延る地へ送ってくれたあの男の顔は忘れたくても忘れられない。

「で、本来なら勇者召喚に『生け贄』は必要ないんだが」
「そうなんですか? だったらどうして」
「勇者を自由に操って傀儡・・にするのに必要だからだよ」

 ルリジオンの説明によれば、勇者召喚というものは召喚魔法の一種で、通常の召喚魔法であれば呼び出した魔物や獣を召喚者に従わせるために召喚社自身の魔力を贄にするらしい。
 だが勇者召喚という異世界から強力なスキルを身につけさせての召喚は、とてもではないが人の魔力量では賄えない。

「何かを得るためには何かを失わないと行けない。そんな法則があるんだそうだ」

 膨大な魔力を使う勇者召喚。
 その強力な力を使役するための対価が主となる王家の者の命だった。

「それで白羽の矢が刺さったのがリリってわけさ」
「えっ……それじゃあリリエールってお姫様なんですか!?」
「バスラール王国第三王女リリエール=クラレ。それがリリの本名だ」

 良いところのお嬢さんだというのはわかっていたが、まさかお姫様だったなんて。
 でも一つだけ気になる所がある。

「クラレって。バスラールじゃないんですか?」
「リリはな、国王の隠し子みてぇなもんなんだよ。だから生まれてすぐ養子に出されたんだ」

 リリエールの母は王城勤めの給仕であった。
 今はもうリリエールの姿からその面影をたどるしかないが、儚げな雰囲気を漂わせた女性だったという。
 まだ若かった王はその女性に手を出し、リリエールが生まれた。

「リリを殺さなかったのはシェイムに情があったわけじゃねぇ。いつか何かの時に利用するために生かしておいただけに過ぎなかったのさ」
「何かの時って……」
「平和な世界に生きてた兄ちゃんにはわからないだろうけどよ。今回の様に生け贄にしたり呪いの肩代わりをさせたり、使い捨て出来る王族の血を引く者ってのは色々利用価値があるんだよ」

 ただそのためには自分の血を継いだ者がいればいい。
 目の届く範囲で、利用するその日が来るまで生かしておくだけでいいのだ。

 だから王と彼の側近たちは何かあったときに処分しやすい中流貴族であるクラレ家にリリエールを養子として送り込んだ。

 そしてクラレ家には口止めとして便宜を図りつつも、何かことが起こればクラレ家の一族ごと全て無かったことにするつもりだったという。

「酷い話ですね」
「だろ? でもまぁ特別バスラールだけが酷いわけじゃない。どこの国も自分たちの身分や国を守るためにならなんだってする。そういうことさ」

 為政者は時に非情な決断をしなければならない。
 それはわかる。
 だけど心がそれを認めたくないと叫んでいる。

「今、お前が考えていることと同じだ」
「え?」
「理屈ではわかっていても心がそれを認められない。だろ?」

 ルリジオンはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべて言葉を続けた。

「だから俺様は自分の心に従って動くことにしたってわけだ」


※次回 リリとルリの逃避行が始まる(?)
※明日は昼ごろ更新予定です
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