無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生

文字の大きさ
25 / 33

懺悔室とあの日見た女神

しおりを挟む
「リリと初めて会ったのは王都の教会だった」

 その日、リリエールを養子としたクラレ家の頭首テリタネス・クラレが教会の門を叩いた。

 元々ファロスの神の敬虔な信徒でもなかった彼は冠婚葬祭などの祭事でもなければ顔を見せることは無かったというのに、特に何も無い平凡な日の夕方に娘と二人で多くの参拝者の一人としてやって来たのである。

「その日俺は急に休みを取った他の神官に代わって懺悔室にいたんだが」

 旅神官は雑用係だ。
 新館の中での立場も低く、様々な用事を押しつけられる。

 その中でもかなり厄介なのが懺悔室での職務である。

「懺悔室って知ってるか?」
「俺たちの世界のものと同じかどうかはわかりませんけど、一応は」
「簡単に言やぁ教会に訪れる、誰にも話せない秘密や相談事がある人たちがその懺悔や相談事を神官に告げる部屋なんだが」

 話を聞くとどうやら俺の想像するものとそれほど大差は無かった。

 教会に作られた懺悔室は大人一人が座れる程度の小さな部屋で、中に入ると正面にはファロスの像が置かれているのだという。
 そのファロス像の向こう側には懺悔室の担当神官が常に控えていて、彼らの告白や相談を聞いては、時に相談に乗り、時に救いの言葉を投げかけ、犯罪行為の懺悔であれば自首を勧めたりする。

 ただやはりここは異世界。
 剣と魔法の世界だ。

「本来ならファロス様との誓約があるんで詳しくは話せないんだが」

 懺悔室で秘密を語る者と、それを聞く神官。
 懺悔の前に、その二人の間に魔法的な契約をするらしい。

 それは懺悔室で聞いたことを外部には漏らさないという契約で、お互いが懺悔室にあるファロス神の像に手を当てながら契約に従うという宣誓をすることで発動する。

「でもよ。あの頃の俺様はもう神官を辞めようと考えててよ……」

 懺悔室での勤務が厄介だ。
 狭い部屋で一日中、聞きたくもない人の悩みや懺悔を聞き続けなければならないのだ。
 しかもそれがとんでもない内容であっても誓約のせいで自分は誰にも相談することが出来ない。

 懺悔室に来た人々は自分の心の闇を吐き出せて満足するが、それを聞かされた方の闇は深まるばかりで消えることは無い。

「誓約の間も鼻をほじりながら適当に誓約の言葉だけ口にしてたんだ」
「そんなことして相手にはバレないんですか?」
「敬虔な信徒相手だったらバレてたろうな。だけどテネリタスは今まで個人的なことで教会へ来たことも無いような男だったし、一度も懺悔室なんて使ったことも無かったんだぜ」

 だから彼は気がつかなかった。

 人伝に聞いた話と入室前に別の神官から伝えられた懺悔室の使い方だけしか知らなかった。
 だから彼は誓約が結ばれたと信じて懺悔を始めてしまった。

「それでリリエールが生け贄にされることを知ったんですね?」
「ああ。といってもテネリタスもそれほど詳しく知らされてなかったみたいだけどな」

 勇者召喚の儀式を二十日後に行う。
 正確に言えば『養女を二十日後までに王城へ戻す様に』と王命が届いたのだとテネリタスは語った。

「出来るならそんな命令は王令であっても拒否したい。娘は――リリエールはもう自分たちの大切な子供なのだからってな」

 最初こそ無理矢理国から押しつけられた養女だった。
 だが息子はいても娘がいなかったクラレ家にとって、リリエールはいつしか本当の娘の様に愛される様になっていったのだという。

「最初から胡散臭いとは思ってたんだろうぜ。あの頭首はリリを養女にしてから密かに貴族同士の伝手を使ってリリのことを調べてたらしい」

 そして王令が届いた時、自分が今まで手に入れていた情報が嘘では無かったことを知った。
 だが――

「といっても王命は王命だ。それに逆らったらリリの命だけじゃなくクラレ家……いや、あの王のことだ。一族もろとも消されてもおかしくねぇ」
「……」
「自分の力ではもうどうしようもない。だから最後に神頼みしに、その娘と二人で滅多に来ない教会へ来たって声を殺しながら悔しそうに話してくれたよ」

 ルリジオンはそう言うと、大きく息を吐いてからテーブルの上のカップに手を伸ばす。
 そして冷めたハーブティを一気に喉に流し込んだ。

「懺悔が終わった後に、気になった俺はこっそりと懺悔室を『休憩』と偽って出てテネリタスを追ったんだ。その一緒に来た娘とやらをひと目見てみたくてな」

 ルリジオンは自嘲気味に「野次馬根性っぽくて、今考えてもゲスいよな」と微笑を浮かべる。

「そこで初めてリリを見たんだ。大勢の参拝客が入れ替わり立ち替わり軽く祈りを捧げて去って行く中、一人だけまだ子供なのにじっと手のひらを組んで神殿で一番大きなファロス様の像に祈ってる姿をな」
「……」

 その瞬間のことを思い出していたのかも知れない。
 静かに目を閉じ、椅子の背もたれに体を阿づける様に僅かに上を向いたまま。

「あの時のリリはまるで女神様みたいだったな」

 と聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
 かと思うと体を突然起していつもの飄々とした表情を浮かべ。

「それが今じゃ、あんな元気なやんちゃ娘だぜ。騙されたって思うよな」

 そう言って彼は先ほどまでのしんみりした空気を振り払うかの様に愉快そうに笑ったのだった。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

最強ドラゴンを生贄に召喚された俺。死霊使いで無双する!?

夢・風魔
ファンタジー
生贄となった生物の一部を吸収し、それを能力とする勇者召喚魔法。霊媒体質の御霊霊路(ミタマレイジ)は生贄となった最強のドラゴンの【残り物】を吸収し、鑑定により【死霊使い】となる。 しかし異世界で死霊使いは不吉とされ――厄介者だ――その一言でレイジは追放される。その背後には生贄となったドラゴンが憑りついていた。 ドラゴンを成仏させるべく、途中で出会った女冒険者ソディアと二人旅に出る。 次々と出会う死霊を仲間に加え(させられ)、どんどん増えていくアンデッド軍団。 アンデッド無双。そして規格外の魔力を持ち、魔法禁止令まで発動されるレイジ。 彼らの珍道中はどうなるのやら……。 *小説家になろうでも投稿しております。 *タイトルの「古代竜」というのをわかりやすく「最強ドラゴン」に変更しました。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します

すもも太郎
ファンタジー
 伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。  その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。  出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。  そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。  大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。  今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。  ※ハッピーエンドです

処理中です...