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第二章 地を知る者たち
第33話 Onxy社員一同より 5/6
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桜下が会社にいない。
その事実に、春明の思考がみるみる正気へと戻っていく。
「えっ、何で?」
たしか、風間は三日前に連絡を入れたはずなんじゃ。
驚きに目を丸くする少年に、珠希は申し訳なく項垂れる。
「たしかに三日前、風間さんという方から連絡を受けているわ。けれど、その直前にね。桜下君にもう一件約束が入ってしまっていたの。それを、受けた電話先が貴方たちと先方を混合して伝えてしまって。取り間違えしてしまった私たちに責任があるわ」
春明が会う約束と、もう一件の誰かの約束。
両方が一色に交じり合い、桜下に伝わってしまう。
起こってしまった人的ミス。
結果、先に約束を入れた片方が強調されてしまい、桜下に彼らの約束は伝わず仕舞い。
「本当にごめんなさい。わざわざ遠くから来てもらったのに……」
「オー、ノウ……マジか……」
元より誠意を込めて謝る彼女に向けて、責め立てる気持ちなどはない。
だが、シリウスはどうしようもなく。
珠希の気持ちを理解してした上でも不満が漏れ出てしまう。
「さくに、会えないかァ……」
「いいえ。そんな残念な結果にはさせないわ」
彼女は赤縁のメガネに手を添え、気持ち引き締める。
自分たちのミスのせいで、彼らが会えないなんて許せない。
珠希の目は、諦めないと強く主張する。
「先に入った約束は午後からで、有給も溜めていたからお休みにさせたのよ。だから、昼なら予定はフリー。彼の家は会社から近いし、連絡さえ取れれば会わせられる……はずなんだけど……」
おもむろに、彼女は胸ポケットから自分の携帯電話を取り出し、テーブルの上に置く。
画面は真っ暗のまま。
着信の気配を一向に示さない。
「さっきからね、何回か掛けているの。けど彼、こういう時に限って電話に出ないし。ホント、なんでかなぁ?」
「オゥ……」
休みなんだし、ゆっくりさせてあげればいいんじゃないのかなァ?
など、シリウスは言うべきかとも思ったが、今は桜下に会いたい気持ちが勝りぐっと堪える。
仲介役となって電話を待つ珠希はどうしたものかと模索中。
すると、ソファー席の後ろからヌッと大きな影。
「どしたー、珠ちゃん。また若社長に無茶振りされた?」
大きく出た腹に、全体的に丸いフォルムの男。
激戦の電話応対を終えた占田は、アイス一本齧りながら声が聞こえる彼らの元に現れた。
「占田さん、お疲れ様。みんな出払っているから、一人じゃ大変でしょ?」
「うん、今やっと落ちたところ。ほとんど信野さんと鳥前の現場に回されたし、待機もみんな簡易結界のメンテに行っちゃった。ハァー、外回りとは別の脅威が俺を襲う……」
「またまた、この暑い中外回りじゃなくて安心しているでしょ?」
「あはっはっ、バレた? 本音は西村さんの会議がもうちょっと伸びて欲しい」
来たら絶対俺も駆り出されるから、と占田はアイスを一口食べながら視線を横にスライドしていく。
ソファーにはハァイと会釈する金髪青目の男と、
怪訝な表情を見せる緋色の髪の和装少年。
「……なるほど、推しの襲来か……うらやましいなぁ」
「はい?」
よく聞き取れ占田の独り言に少年は首を傾げてしまう。
隣ではシリウスは苦笑いを浮かべていると、占田はキリッと表情を引き締める。
「だいたいの事実は分かった。さくに会えなくて困っているってところだろ?」
「さっすが、理解が早い。早速だけど、桜下君が休日にいそうな場所ってわかる?」
珠希が占田に聞く様子を、二人は揃って見守っている。
これで分かれば、さくがいるところに行ける。
ソファーの隣に鎮座する、信楽焼の黒い目と。
彼らの期待を含んだ視線が集中する中で。
「うん、わからん」
大太りの上司はハッキリと、得意げに答えた。
タヌキの置き物は無機質を保ったまま何も言わず、反面青少年たちはガックリと肩を落とす。
すると占田は彼らの落胆する様子に気がつき、慌てて説明を付け加える。
「あ、街の外に出てないのは確かだと思うよ。前に聞いたことあるんだ、いつも休み何してるのって。そしたらさ、何て言ったと思う?」
占田の問いかけに二人は顔を見合わせる。
二週間前の桜下の行動を振り返り、二人は想像を巡らせる。
シュークリームを買いに行く、いいやきっと違う。
あの時は上司たちへのお土産と言っていて、残ったものを自分たちで食べた。
なら筋トレ、とか?
アクティブさはあるが、趣味で鍛えるイメージが、あの青年にはない。
さくの趣味と呼べるものは一体……、
「……一日、石磨いていたとか?」
と、検索をかけること五秒間。
一つだけの心当たり、二人揃ってヒットする。
「惜しいっ! けど、近いよ。すごいな君たち!」
二人の回答に占田は興奮気味になり、手に持ったアイスがこぼれそうになる。
すかさず溶けてしまう前に一飲みにし、正解を発表した。
「散歩の途中で肥料が無くなりそうだったのを思い出してホームセンターに駆け込んで。さくは車持ってないから、代車を借りて肥料を運んでいたら日が暮れたってさ」
「全く惜しくねぇじゃねぇか」
「あっはっは、まあそう言いなさんな……って!?」
得意げに語る占田だったが横から入った野太い声に言葉を詰まらせる。
その事実に、春明の思考がみるみる正気へと戻っていく。
「えっ、何で?」
たしか、風間は三日前に連絡を入れたはずなんじゃ。
驚きに目を丸くする少年に、珠希は申し訳なく項垂れる。
「たしかに三日前、風間さんという方から連絡を受けているわ。けれど、その直前にね。桜下君にもう一件約束が入ってしまっていたの。それを、受けた電話先が貴方たちと先方を混合して伝えてしまって。取り間違えしてしまった私たちに責任があるわ」
春明が会う約束と、もう一件の誰かの約束。
両方が一色に交じり合い、桜下に伝わってしまう。
起こってしまった人的ミス。
結果、先に約束を入れた片方が強調されてしまい、桜下に彼らの約束は伝わず仕舞い。
「本当にごめんなさい。わざわざ遠くから来てもらったのに……」
「オー、ノウ……マジか……」
元より誠意を込めて謝る彼女に向けて、責め立てる気持ちなどはない。
だが、シリウスはどうしようもなく。
珠希の気持ちを理解してした上でも不満が漏れ出てしまう。
「さくに、会えないかァ……」
「いいえ。そんな残念な結果にはさせないわ」
彼女は赤縁のメガネに手を添え、気持ち引き締める。
自分たちのミスのせいで、彼らが会えないなんて許せない。
珠希の目は、諦めないと強く主張する。
「先に入った約束は午後からで、有給も溜めていたからお休みにさせたのよ。だから、昼なら予定はフリー。彼の家は会社から近いし、連絡さえ取れれば会わせられる……はずなんだけど……」
おもむろに、彼女は胸ポケットから自分の携帯電話を取り出し、テーブルの上に置く。
画面は真っ暗のまま。
着信の気配を一向に示さない。
「さっきからね、何回か掛けているの。けど彼、こういう時に限って電話に出ないし。ホント、なんでかなぁ?」
「オゥ……」
休みなんだし、ゆっくりさせてあげればいいんじゃないのかなァ?
など、シリウスは言うべきかとも思ったが、今は桜下に会いたい気持ちが勝りぐっと堪える。
仲介役となって電話を待つ珠希はどうしたものかと模索中。
すると、ソファー席の後ろからヌッと大きな影。
「どしたー、珠ちゃん。また若社長に無茶振りされた?」
大きく出た腹に、全体的に丸いフォルムの男。
激戦の電話応対を終えた占田は、アイス一本齧りながら声が聞こえる彼らの元に現れた。
「占田さん、お疲れ様。みんな出払っているから、一人じゃ大変でしょ?」
「うん、今やっと落ちたところ。ほとんど信野さんと鳥前の現場に回されたし、待機もみんな簡易結界のメンテに行っちゃった。ハァー、外回りとは別の脅威が俺を襲う……」
「またまた、この暑い中外回りじゃなくて安心しているでしょ?」
「あはっはっ、バレた? 本音は西村さんの会議がもうちょっと伸びて欲しい」
来たら絶対俺も駆り出されるから、と占田はアイスを一口食べながら視線を横にスライドしていく。
ソファーにはハァイと会釈する金髪青目の男と、
怪訝な表情を見せる緋色の髪の和装少年。
「……なるほど、推しの襲来か……うらやましいなぁ」
「はい?」
よく聞き取れ占田の独り言に少年は首を傾げてしまう。
隣ではシリウスは苦笑いを浮かべていると、占田はキリッと表情を引き締める。
「だいたいの事実は分かった。さくに会えなくて困っているってところだろ?」
「さっすが、理解が早い。早速だけど、桜下君が休日にいそうな場所ってわかる?」
珠希が占田に聞く様子を、二人は揃って見守っている。
これで分かれば、さくがいるところに行ける。
ソファーの隣に鎮座する、信楽焼の黒い目と。
彼らの期待を含んだ視線が集中する中で。
「うん、わからん」
大太りの上司はハッキリと、得意げに答えた。
タヌキの置き物は無機質を保ったまま何も言わず、反面青少年たちはガックリと肩を落とす。
すると占田は彼らの落胆する様子に気がつき、慌てて説明を付け加える。
「あ、街の外に出てないのは確かだと思うよ。前に聞いたことあるんだ、いつも休み何してるのって。そしたらさ、何て言ったと思う?」
占田の問いかけに二人は顔を見合わせる。
二週間前の桜下の行動を振り返り、二人は想像を巡らせる。
シュークリームを買いに行く、いいやきっと違う。
あの時は上司たちへのお土産と言っていて、残ったものを自分たちで食べた。
なら筋トレ、とか?
アクティブさはあるが、趣味で鍛えるイメージが、あの青年にはない。
さくの趣味と呼べるものは一体……、
「……一日、石磨いていたとか?」
と、検索をかけること五秒間。
一つだけの心当たり、二人揃ってヒットする。
「惜しいっ! けど、近いよ。すごいな君たち!」
二人の回答に占田は興奮気味になり、手に持ったアイスがこぼれそうになる。
すかさず溶けてしまう前に一飲みにし、正解を発表した。
「散歩の途中で肥料が無くなりそうだったのを思い出してホームセンターに駆け込んで。さくは車持ってないから、代車を借りて肥料を運んでいたら日が暮れたってさ」
「全く惜しくねぇじゃねぇか」
「あっはっは、まあそう言いなさんな……って!?」
得意げに語る占田だったが横から入った野太い声に言葉を詰まらせる。
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