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第二章 地を知る者たち
第40話 彼らを待つ人の元へ 4/5
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「……ったく、こんだけ探しているんだから、すぐに出てきてやりゃいいのに」
ざざん、ざざんと。
少年の独り言が波の音にかき消される。
捜索する二人の様子を黙って見守る中、春明は思わずため息を漏らしてしまう。
「おめぇは薄情だな。そのちっせぇ性格を直して、手伝ってやりゃあいいのによ」
「うるせぇ。こんな暑い中、しかも虫探しなんかしたくもねぇ」
「だよなー、それは俺様も大賛成。この傘すっげぇ涼しい、超極楽。ボンボン坊ちゃまは、いいモン持ってるなぁ。水系統の霊術でも組み込んでいるのか、コレ?」
「だ、か、ら。なんで見ただけで、ポンポン当てていくんだ。一応コレ、特注で作って貰っているんだから、そんなすぐに分かるわけ……」
あれ、オレは一体誰に話しかけているんだ?
そんな少年の疑問も、視線を前へと向ければすぐに解決する。
傘の内側、淵の部分から伝う一本の糸。
するすると糸を垂れていき、春明の目線と同じ高さにまで調整されていく。
「よっ、チビ助。勝手に居候してるぜ」
春明の目の焦点が定まる。
糸の先端に張りつくハエトリグモは、何食わぬ顔で挨拶を交わす。
ひとつ、間合いを置き。
少年はその意味が分かると体を思い切りのけ反らせた。
「うわああああ!! クモぉぉおおおお!!」
「何ぶん投げてるんだああああ!!」
空にはじけ飛ぶ、薄水色の日傘。
一人と一匹の絶叫が蝉にも負けぬ勢いで海岸に響き渡る。
ざざん、ざざんと。
着水し波に引き寄せられ、日傘は一匹の蜘蛛を乗せたまま沖へと旅立っていった。
◉
「ほんと、何やってるの」
「おめぇも見ただろ! あのチビ、海にぶん投げやがったぞ!」
「大先生があんな風にからかうのがいけないでしょう。春明君、虫苦手なのに可哀想」
春明君の傘が沖の方に流されようとしてすぐ。
牡丹大先生は結界を私の左手に繋ぎ、必死の抵抗を見せていた。
それを断ち切るわけにもいかないので、結界を手繰り寄せ無事に救出。
傘から私の指に飛び移った大先生は、まだ小言を言い続けている。
「そもそもだ。おめぇが暑い中、石ころに夢中になるのが原因じゃねぇか。こちとら、髪ん中はあっちぃんだよ」
「仕方ないでしょ、夏は暑いものです」
「帽子くらい被れっ!」
これは一つ正論を取られたかもしれない。
愚痴を零し続ける大先生を言い返せず、そっと財布を取り出す。
「おい、ちょっ」
大先生の慌てる声を聞き流し、財布の中に彼の小さな体をそっとしまう。
絶対に何か言い出す。
そう心構えはしてみたけれど、財布の中にしまえば意外と物静かだった。
拍子抜け、もといい安心はする。
中に入っていた小銭の冷たさが、案外心地がいいのかもしれない。
「さくゥ、ここ一旦離れよ? 勘が無くたって、これじゃあ焼けこげちゃうよ」
けれど、私たち三人には都合のいい避暑地など見当たらず、上から強い日差しが降り注ぐ。
遠くにそびえる入道雲は他人事みたいに伸びていき、周りでは蝉たちは笑っている。
そんな中でシリウス君は、よく似合っている青いサングラスをかけて日差しを乗り切り、隣の春明君は、鮮やかな薄水色の日傘を差して、私の方をじっと見つめていた。
「オレもこいつに賛成。なあ、どこか休憩出来そうな場所ってないのか?」
春明君は大先生に驚かされたせいで、少し疲れた雰囲気を見せている。
せっかくだから話そうぜ、と。
彼はシリウス君に賛同して、私と一緒にいたいみたい。
私も彼らの気持ちに応えたいのは山々だった。
「ごめんなさい。これから予定が入っているんだ」
ざざん、ざざんと。
少年の独り言が波の音にかき消される。
捜索する二人の様子を黙って見守る中、春明は思わずため息を漏らしてしまう。
「おめぇは薄情だな。そのちっせぇ性格を直して、手伝ってやりゃあいいのによ」
「うるせぇ。こんな暑い中、しかも虫探しなんかしたくもねぇ」
「だよなー、それは俺様も大賛成。この傘すっげぇ涼しい、超極楽。ボンボン坊ちゃまは、いいモン持ってるなぁ。水系統の霊術でも組み込んでいるのか、コレ?」
「だ、か、ら。なんで見ただけで、ポンポン当てていくんだ。一応コレ、特注で作って貰っているんだから、そんなすぐに分かるわけ……」
あれ、オレは一体誰に話しかけているんだ?
そんな少年の疑問も、視線を前へと向ければすぐに解決する。
傘の内側、淵の部分から伝う一本の糸。
するすると糸を垂れていき、春明の目線と同じ高さにまで調整されていく。
「よっ、チビ助。勝手に居候してるぜ」
春明の目の焦点が定まる。
糸の先端に張りつくハエトリグモは、何食わぬ顔で挨拶を交わす。
ひとつ、間合いを置き。
少年はその意味が分かると体を思い切りのけ反らせた。
「うわああああ!! クモぉぉおおおお!!」
「何ぶん投げてるんだああああ!!」
空にはじけ飛ぶ、薄水色の日傘。
一人と一匹の絶叫が蝉にも負けぬ勢いで海岸に響き渡る。
ざざん、ざざんと。
着水し波に引き寄せられ、日傘は一匹の蜘蛛を乗せたまま沖へと旅立っていった。
◉
「ほんと、何やってるの」
「おめぇも見ただろ! あのチビ、海にぶん投げやがったぞ!」
「大先生があんな風にからかうのがいけないでしょう。春明君、虫苦手なのに可哀想」
春明君の傘が沖の方に流されようとしてすぐ。
牡丹大先生は結界を私の左手に繋ぎ、必死の抵抗を見せていた。
それを断ち切るわけにもいかないので、結界を手繰り寄せ無事に救出。
傘から私の指に飛び移った大先生は、まだ小言を言い続けている。
「そもそもだ。おめぇが暑い中、石ころに夢中になるのが原因じゃねぇか。こちとら、髪ん中はあっちぃんだよ」
「仕方ないでしょ、夏は暑いものです」
「帽子くらい被れっ!」
これは一つ正論を取られたかもしれない。
愚痴を零し続ける大先生を言い返せず、そっと財布を取り出す。
「おい、ちょっ」
大先生の慌てる声を聞き流し、財布の中に彼の小さな体をそっとしまう。
絶対に何か言い出す。
そう心構えはしてみたけれど、財布の中にしまえば意外と物静かだった。
拍子抜け、もといい安心はする。
中に入っていた小銭の冷たさが、案外心地がいいのかもしれない。
「さくゥ、ここ一旦離れよ? 勘が無くたって、これじゃあ焼けこげちゃうよ」
けれど、私たち三人には都合のいい避暑地など見当たらず、上から強い日差しが降り注ぐ。
遠くにそびえる入道雲は他人事みたいに伸びていき、周りでは蝉たちは笑っている。
そんな中でシリウス君は、よく似合っている青いサングラスをかけて日差しを乗り切り、隣の春明君は、鮮やかな薄水色の日傘を差して、私の方をじっと見つめていた。
「オレもこいつに賛成。なあ、どこか休憩出来そうな場所ってないのか?」
春明君は大先生に驚かされたせいで、少し疲れた雰囲気を見せている。
せっかくだから話そうぜ、と。
彼はシリウス君に賛同して、私と一緒にいたいみたい。
私も彼らの気持ちに応えたいのは山々だった。
「ごめんなさい。これから予定が入っているんだ」
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