暁天一縷 To keep calling your name.

真道 乃ベイ

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小噺集

斉天祭より8ヶ月前 2/2

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 そして大晦日、当日。
 年末の大結界整備もなんとか終えて、は鬼門の塔の上から下の様子を眺めていた。
 除夜の鐘が本堂の方角からよく聞こえ、その音に吸い取られるように人の波が進んでいく。
 あちらこちらで紅白の屋台が用意され、奥の方にはあれは山車か?
 ちらっと正月の気配が見え隠れして、いよいよ年越しって意気込みだ。
 まあ、その前にちゃんと整備を終えて良かったよ。ホント。

「報告は毎回目を通していたけどよ、実際やるとこりゃキツイな……。毎年これかよ」
「ここ数年で今回が一番乱れていた。前回、私がやった時は『南』の影響がすごかったし、年々法則性が無くなってきてるのは頭抱えるね」
「まじかー……。オレがやってた時より数値が変わってきてるのは確かだな。信野さんに任せっきりだったから悪いことしたなぁ……。あ、さくはノーカンな。今回はオレ指名だったけど、これからはお前が年末の鬼門の専属になって、毎年胃を痛めるがいい」
「おい」

 さくとオレ。
 寒空の下、鬼門の展望場で腰を下ろして、屋台で買った年越し蕎麦を啜りながら仕事の話をしていた。
 こうして関東域の結界で年末過ごすのは、オレが社長になって以来実は初めてだ。
 社員だった頃はオレは鬼門をやるのが当たり前で、さくは最初の方は配線だったかな。
 それが年数重ねていけば、四門の担当にも上り詰めて。いつの間にか鬼門の整備師資格も取っていやがる。
 
 ……全く、初めて会った頃は右腕ぎしゅを動かせられなかったお前が。本当に、大したものだよ。

「何、顔をまじまじ見て。気持ち悪っ」

 ま、その分この口の悪さが年々酷いことになっているんだが。
 なんだこれ。10代の頃は人形めいた表情が鉄板だったはずなのに、あのガラスの青春時代はどこいった。
 あ、オレが気に食わないから消し飛ばしたんだっけか。メンゴ、メンゴ。

「いんやぁ? それより、今はいいにしても、毎年こんな数値だと結界だけじゃ限度がある。舞師、誰がやってるんだ?」
「うーん……、西東さいとう家から派遣された人だと思うけれど。あんまり印象残ってないかな」
雅楽寮がらくりょうでも西東家は舞よりも式神重視だからなぁ。質より量を求めるって言うと嫌な言い方だけど、依頼を断ることもねぇし何より人手が足りている。けどなぁ……、土地のこと理解している舞師が少ないから、シワ寄せが結界こっちに来るのは解せないな」

 大結界の中にある土地見衆の本部には、通年で祭事を行う舞殿がある。
 と言っても、陰陽衆が所蔵しているどでかい建物じゃなくて、神社とかでよく見る赤いこうらんが囲われた6メートルほどの舞台だ。
 祭事の際は舞師が舞いを奉納して土地の安寧を祈祷するんだけど、これも舞師の質が絡んでくるんだろうな。
 何回か西東家の舞を見たことがあるんだけど、式神に代替えしたり、場所のイメージとちょっとズレた動きするし。
 素人目線だからうまく伝えづらいんだが、土地のことを理解していない。そんな風にも見えるんだ。

 あ、でも一人。気になる奴はいるんだっけ。

「そういえばさ、お前が気になっていた舞師。あの子、名前なんだっけ?」
「……春明はるあき様のこと? けれど私会ったことないよ。何年か前に夏に、仕事で行ったけどやらずに帰ってきちゃっただけ」
「あのさ、普通に話してるけどさそれって異例のことだぞ」

 西東家の重鎮でさえ、多少なりとズレは出てくる。これは技量じゃなくて、大地の構造上の問題だ。
 それが一過性であってもしても、霊力のズレが無く場を納めて、しかも舞の奉納後3日間は継続された記録もある。
 小さな規模の祭事だったから話題には上がっていないが、これがデカい舞台の奉納だったとしたら……。

「よし、今年の抱負が決まった。さく、その春明様と一度面識取ってこい」
「……はぁ??」

 油揚げを箸で持ったまま、さくは大口開けてこっちを睨みつけている。ちなみに、ヤツの耳は真っ赤なまま。
 まったく、嬉しいのか驚いてるのか苛立ってるのか。
 情緒を一個に統一しなさいっ!

「それ、お前の役割じゃないの? なんで、私?」
「外堀は埋めるよ。さく一人でいきなり営業は無理だし、オレが雅楽寮に先に行って阿部あべ家のツテを探ってみるわ。土地見衆経由で会えっかなぁ……、なんだか今年の夏に京都で集まりがあるから行くのもアリだな」

 一番いいのが、混天大聖こんてんたいせい阿部藤照あべふじてると面識を持つのが理想だけれど、そこまでは高望みかな。
 とにかくだ。
 舞師と面識を持って、うちの会社専属になってくれたら、ここまで整備の時に疲弊することはないはずだ。
 土地に理解を持って、どんな場所でも舞ってくれる。
 そんな根性が座った舞師……。

「ンン、やっぱり最後はお前が頼りだ! 頑張れ、さくちゃん! 社長は応援してるゾ!」
「はぁぁ……」

 また毒霧みたいなため息をするさくの横で、オレは音を立てながら蕎麦をすする。
 正直無理言ってるのは自覚してるし、あまりさくに期待を持ちすぎて圧をかけたくもない。
 けれど何かしらの改善テコ入れしなきゃ自体は収まらない。
 事業の発展はもちろんあるが、現場ベースが整っていないと足元から崩れるのは目に見えているからな。
 それにさくも、その春明とか言う舞師が多少なりと気になっているみてぇだし。丁度いいだろう。

「お、ちょうど始まったみたいだな」

 参道のずっと奥、本堂の方角から雅楽の音色が聞こえてきた。
 わぁっと賑やかな歓声と、華々しい宴。
 ちょうど今、新年の年を跨いだみたいだな。

「まあ、何はともあれ。あけましておめでとうだ。今後ともよろしく頼むぞ」
「……うん」

 さくはこっちに見向きもせず、ただ真っ直ぐに賑やかな縁日の街並みを見つめていた。
 生意気に、そしてオレに対してだけは太々しく。
 そして、ズズっと一口。音を立てて蕎麦をすすってやがる。
 ……ったく、美味そうに食いやがって。

 こうして、珍しくオレら揃って年越しをしたわけだが。
 この8ヶ月後、まさかさくが例の春明クンとコンタクト取ってるし、しかもアメリカンな検非違使っていうこれまた面白そうなヤツと知り合っているとは。
 そんなことは梅雨知らず、オレもさくに釣られて蕎麦をもう一口すすった。
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