暁天一縷 To keep calling your name.

真道 乃ベイ

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小噺集

His birthday present. 5/5

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【注意】
 この話には以下の描写がございます。ご注意下さい。
 ・軽度の暴力残虐描写
 

 ああ、死んだ方がいいかもしれないな。

 向けられた銃口に俺は悟る。
 急所は外れたけど、もう次はない。
 撃たれた痛みのせいで頭が楽になったのか、死を目前に楽観的テキトーな勘定を割り出していた。

 だって当然だろ、こんな殺人鬼。
 
 ユーリだってこんな兄弟いなくて、じいちゃんと二人で過ごした方がよっぽどいいよ。

 じいちゃんもこんな出来の悪いヤツをさっさと破門すればいいんだ。

 ここで何もかも終わりにしたら楽勝だ。
 コイツらにやられてデットエンド、もう悔しさも湧いてこない。

 と、理性では分かっているのに。
 頭の中で自分のカンがうるさくてたまらなかった。

 俺が死んだら、次はどうなる?

 ……Shut up.うるせぇ。

 俺が死んだら、この銃口は一体どこに向かう?

 Shut up.黙ってろ。


 俺が死んだら、誰が弟を助けるんだ?
 

   Shut your mouth up!黙れって言ってるだろうが!


 鳴り響く直感に牙を立てるも、身体が最善を見極めようと足掻いてしまう。

 なんてザマだ。
 ユーリを理由にしてまで生き延びようとするほど、俺は生き汚なかったみたいだ。

 背中の悲鳴いたみを、生の執着ざつねんを。
 必死に堪えて、気導をうえから体内したへめぐらせる。
 じいちゃんに仕込まれた姿勢と呼吸は、己を一歩先へと進ませる。

 
 研ぎ澄まされた、刀みたいに。


 俺はヤツの引き金のタイミングを見計らい弾道を躱して、手にしたナイフを強く握り直す。
 次の発砲までのわずか数コンマ、その僅かな合間で僕の躍動は攻撃の射程範囲に入る。
 バン、と3発目の発砲。
 弾道の軌跡、やってくるタイミング。
 すべてがゆっくり見えてきて、俺はナイフで銃弾を両断した。

 キン、と弾ける音と真正面から走ってくる俺をヤツは驚愕に身を震わす。
 まるで化け物を見るような、そんな表情カオ
 俺がヤツの腹を貫けば、時を止めたように顔は動かなくなってそのまま倒れ伏せた。


 終わった。何もかも。


 俺は辺りに転がる死体どもを見下ろすと、続くようにコンクリの床に横たわる。
 気力を使い続けて頭は回らず、迸っていた殺意ねつも急速に冷えていく。
 割れた窓ガラスからは強い雨脚が降り注いで、冬の肌寒さがやっといつもの理性じぶんを戻す。

 それでも俺は、未だ真っ赤に汚れたナイフを握りしめたままだった。


 ユリウスユーリユリウスユーリ


 首だけ動かして弟の名前を呼びかけても、ハァハァと生き絶え絶えの呼吸しか返ってこない。
 いや、もうそれだけでいい。生きているって分かったから。
 斬るべき悪党ヤツらはもういないのに、まだ人殺しに飢えた兄なんて。
 普通だったらゾッとする以外ないだろう。

 部屋の外もなんだか騒がしくなって、いよいよ犯罪集団が押し寄せるのも時間の問題だった。
 重く閉じられた鉄の扉がガタガタ小刻みに震えて、いよいよかと他人事みたいに眺めてしまう。
 
 でももう、俺の身体は全然動かねぇ。
 気力を一気に使い果たしたのか、それとも背中から流れる出血で頭が回らないのか。

 さっきまでの感覚は嘘みたいに消え去ってもう何もねぇ。
 ユーリをまだ助けてねぇのに、なんて中途半端なんだ。


 ああ、すげぇ寒いなぁ……。
  

 頭がすげぇボーっとする。
 いつの間にか外の騒がしさも段々静まってきて、コツコツとコンクリの床に聞き慣れた音が響く。
 この乱れのない、一定の足音リズム
 俺はこの足音をよく知っていた。

 足音はどんどん近づいていき、やがて鉄の扉の前までやってくる。
 キン、と静かに響く金属音。
 同時に

 老いなんて全く見せない剣術に、鋭さと温さを合わせ持つ


「……青嗣せいじ


 おっせぇよ、じいちゃん。

 いつも着ている牧師服はびしょ濡れで、白髪まじりの黒髪も乱れている。
 俺たちが攫われてからすぐに駆け付けたみたいだけど、もう全部終わっちまったよ。
 じいちゃんは90センチ近くある太刀を鞘に収まると、俺の方に駆け寄ってくる。

 ていうより、ユーリの方に行けって。俺なんか構うんじゃねぇよ。
 こんなコトしちまったんだから、もうユーリに来るなって言われたんだから。
 もう戻れないんだよ。俺は。
 なのに、なんで構おうとするんだよ……。
 
 ガキなりに必死に振りほどこうとしたけれど、相変わらずじいちゃんの腕力は強くて離す気配もなくて。
 俺の意識は、そこでこと切れた。


 ◉


 僕たちを拉致した犯罪組織はじいちゃんが一人で壊滅させた。
 何十人も武装した連中を鞘に刀を納めたままフルボッコ。
 警察も追って駆け付けたんだけど、敵を蹴散らしたじいちゃんを見て震え上がっていた。
 まあ、それはそうだよね。

 それでボブおじさんは僕らを庇ったせいで、全治3ヶ月の大怪我をしてしまった。
 怪我の後遺症のせいでバリバリ働くのが難しくて、それからずっと車イス生活。
 じいちゃんと僕はそのことをすごく悔いていたけど、おじさんは「これくらい大したことない」って言ってたっけ。

 そしてユーリは、部屋にずっと引きこもった。
 暴行で受けた傷や打たれたクスリも完治されて、じいちゃんが言うには身体面で問題は無いらしい。
 ただ心の傷は癒えなくて……恐怖の矛先は僕に塗りつぶされている。
 
 そりゃそうだ、6人も殺しちゃったんだから。
 僕は長い取り調べを受ける中でずっと少年院送りされるんじゃないかと覚悟していた。
 けれど警察の見解は、誘拐された状況やユーリが暴行されたことを鑑みて殺人じゃなくて正当防衛。

 それを聞いて僕はどっと肩を落とす。
 安心したのはもちろんだけど……、結局、僕の殺人は何処へ行くんだろうとやるせ無さの方が強かった。

 怪我は半月もあれば完治して、今まで通りに動かせるほどに回復した。
 普通だったらありえない回復力で、医者も口をそろえて「ありえない」って言ったのが覚えている。
 それでも、左肩の甲骨辺り……。


 背中に残った銃痕だけが、あの日の罪を僕に背負わせた。


「刀を取るか、手放すか。

 じいちゃんはこの後に及んでまだ僕に選択肢をくれる。
 破門すればいいのに、と言ったら思いっきりぶん殴られた。この鬼じいちゃん。

 僕はよく考えて手放す方を選んだ。

 だいたい2年間。
 木刀の柄を握ることもなく、平穏フツーに過ごす。
 孤児院のみんなは僕が人殺しなんて知らなくて変わらず接してくるから、これでも色々と頑張ったと思う。

 例えば、日本語で話す時に『僕』に直したとか。
 正直、孤児院で日本語を使うことはあんま無いけれど姿勢って大事だよね。
 もう違和感なく言えるし、あとなんとなく話し方もコミカルになった気もする。

 でも、ふとした時に感覚カンは消えなくて、後ろからいつも追いかけては逃げての繰り返し。
 気が付いたら呼吸とか構えを無意識にやっちゃうものだから困っちゃうね。
 そういえば、寝れなくてこっそり礼拝堂に行っていていたっけ。

 30人も入ったらいっぱいになるほどの、こじんまりとした礼拝堂。
 日曜日の昼間は人がたくさん入って賑やかだけど、こんな時間じゃゴーストが賑わいそうだ。
 ま、僕は逢ったこと無いけど。

 ここには偶像は無くて、白いレンガ造りの建物の中央に十字架が立っているだけ。
 夜になると本当に真っ暗。
 それでも光があるとすれば、十字架の真上にある天窓が外の静寂さを映し出して、薄明りでも明るくしてくれんだ。
 天気のいい日はいつも、ここからの星明りが良く見える。


 マリア様はここにはいないから、代わりにソラに祈りを捧げて。


 僕は熱心な信者じゃないから、きちんとしたやり方を知らないから。
 ただ夜空に手を伸ばすことしか出来なかった。


 〇


 7年の歳月が過ぎ。
 13歳の少年は、20歳の検非違使として遥か東方の国で警備を任されていた。

 今日は、かの聖人が殉じた命日。

 青を基調とした軍服に、夏の光を思わせる金髪を軍帽で深くかぶる。
 そして腰には、

 彼は行き交う人混みを横目で見て、混ざりたいとぐっと堪えている。
 その最中、ちらりと見えたあるモノが視界に入った。

 頭にチョンと毛が生えた猿のマスコット。
 かつて彼がロボットを作ろうと考えた際、題材にした漫画のキャラクターだった。

「一般客に混ざりたいとか、思っているんじゃないぞ」
「ファイ!? ノッシング! 思っていませんよ、そんなこと!」
「シリウス、顔に書いてあるぞ、顔に」

 通行人が付けていたキーホルダーに視線を奪われ、彼は背後からやってきた上司の気配に声が裏返る。

 彼が驚き見開いた目は、夏空に負けないほど焼き焦がす。深い群青アオだった。
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