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第十一王子と、その守護者
可愛い子ども
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リューシーに送り届けられ、無事に部屋に帰った。夜中にみんなと話すなんて前世のことのようでとても楽しかった。
平和が約束された日々。ただ、仲間たちと楽しく健やかに過ごすだけで許されたあの夢みたいな日々は現世のオレには無縁で。一人寂しく夜を怯えながら生きていたから。
『お前は相当窓から出入りするのが好きらしいな。いっそ専用の出入り口でも作ってやれば良いのか?』
『殿下……』
リューシーがいなくなって、なんとなく過去を振り返って窓の向こうを見ていればすぐ横から手が伸びて来て窓を閉められた。
……起きてたのかよ。
『それで? 楽しくなかったのか。お前が不快な思いをしたのであれば今後一切ああした集まりは中止させるまでだが』
力なく首を横に振り、楽しかったとポツリと声を漏らすがとてもそういう雰囲気は出ていない。納得いかなそうに腕を組む王子に、包み隠さず自分でもよくわからない心の内を話す。
『……ふむ。それはつまりアレだな。
楽しかった今日が終わってしまうのが悲しい、ということだ』
やれやれとカーテンを閉めて、そのままオレの手を引いた王子はベッドを軽く整えてからオレを寝かせて自分も一緒に入ってきた。
いや、ちょっと待てや!!
『な、なんですかその子どもみたいな理由は?! 違います、断固として認めません!!』
『わかったわかった。早う寝ろ』
なんだコイツ、突然……私大人ですから、みたいなムーブかまして来よる!!
『お前はまだ子どもなんだ。誰がなんと言おうと、お前がいくら否定しようとそれは変わらん。事実お前はまだ十二歳なのだから』
『多分この間に十三歳になったはずですが』
『……は? 聞いておらぬ』
そういえばノルエフリンにしか言ってなかったっけ?
今にも溢れ落ちそうな蒼眼がスッと目を細めて声なき抗議が聞こえてくる。王子の右手が伸びて来て何をするかと思えばオレの自慢のもち肌がビヨンビヨンと伸ばされる。
『いらいー、いらいれすー』
『そういう大切なことをしっかり報告しろと言っているんだ、この愚か者。
……いや待て。多分なった、ということはまさか……』
『たんじょーひ、しらないれふー』
孤児院の先生にも、この花が咲き始めたらお前は一つ年を重ねると言っていた。ぶっちゃけ適当に言った疑惑すらある。オレが産まれた日はオレを預けて消えてしまった親だけが知ることなのだ。
その親も死んでしまったわけだが。
『……お前がいつも一人でなんでもやろうとする悪癖は頼る大人がいなかった故か。確かに、お前が子どもの割に聞き分けも良いから忘れていた。
誕生日というのは、世間一般では子どもの内は盛大に祝うものだ』
『殿下もお祝いしてもらいましたか?』
痛いところを突かれたのか、王子は押し黙る。間もなく成人を迎える王子だが彼はなんといっても最悪の異名持ち。王様にも毛嫌いされ、元々の性格も破綻した彼が周りに盛大に祝われたか?
きっと、違うはずだ。
『……僕のことは良い』
『やです。参考までに殿下はどういう風にお祝いしてもらったか聞きます』
聞くまで寝ない、という意思が伝わったのか隣に寝転ぶ王子が盛大にため息を吐いた。引っ張られた頬が撫でられ、重い口が開かれる。
『特に何もない。城に仕える者たちからは祝いの言葉を貰うが、まぁ言ってるだけであろう。心の内を暴ける僕の前から逃げるように去って行くからな。料理長も気を利かせて豪華な料理を作るが、僕はあれが好きではない。
……クロポルドからも祝いの言葉や品が届くが、アレは忙しいからな。共にいられた日は少ない』
料理長可哀想。
王子の誕生日に折角腕を奮ったのに内心でこんなことを思ってたなんて知ったら、包丁振り回して乗り込んで来そう。
『殿下の誕生日はいつなんです?』
『結婚式の日だ』
……あー、オレ多分もうここにいませんわ。
『残念です……守護魔導師の強みを活かして真っ先におめでとう、って言いたかったのに』
でも、それなら安心だ。結婚式の日に愛する人と一緒にいて誕生日を迎えられるなら、きっと人生で一番素晴らしい日になるはずだ。
そんな素晴らしい日を想像して、そこに自分がいないことを少し悔やみながらグッと抑えてなんでもないように振る舞う。
『じゃあ、今言っちゃいますね』
『何をだ……?』
これぞフライングバースデー。
なんだか眠くなってきたが、必死に我慢して王子の右手を両手で包むように握る。日頃から戦闘やら糸を思いっきり握るせいで綺麗とは言えない手で、王子のすべっすべな手を握るという背徳感。
……気にしませんよーに。
『殿下。お誕生日おめでとうございます。成人の日まで健やかに育ってくれて、ありがとうございます……殿下がいなければ、今幸せに過ごすオレはいません。これからもずっと、ずっと先も、殿下が幸せになれるよう願っています。
例え隣にいなくても、オレは……殿下のこと、ずっと……』
あれー? なんて言おうとしたんだっけ……。というか、凄い眠いんだけどちゃんと全部言えたか?
『んー……むにゃぁ……』
深海のような、冷たい目を見た気がした。光るその美しい目から海が落ちる。何故か体が温かくて、それに縋るように身を寄せた。
『っ、何故……』
『何故、もっと早く……』
そうだ。
王子の誕生日にプレゼントを……プレゼントを買って、ノルエフリンに渡してもらおう。
『僕の前に、現れてくれなかったんだっ大馬鹿者……』
朝起きると、王子はベッドにはいなかった。昨夜一緒に寝たような記憶はあるがどのタイミングで自分が寝てしまったのかよく覚えていない。せっせとベッドを直して着替え、身だしなみを整えたところで扉をノックする。
さぁ。今日もまた一日頑張りますか!
なんて、言ってたのが二時間前。
オレは今、絶望の淵を歩いている。
『おっ!! 救世主様のご登場だぜー!』
『可愛いねぇ。今日は泣いていないのかい?』
『あの子が泣くと、あの第十一王子がおんぶして帰るんですって!』
『可愛いあの子がいれば、俺たちは怯えていなくったって良いんだ』
絶・望。
オレはバビリアダンジョン崩壊現場にいたものとしてギルドから召集を受けている。先日の一件もあり菓子折りを買って元気に城から出掛けたオレの心をぶち折ったのが、街中の声だった。
黒髪黒目の容姿に、服まで黒いオレは目立つ。そしてそういう子どもが第十一王子の守護魔導師ということもある程度広まっている。そしてトドメとばかりに先日の大号泣事件。周りには一般人も多かったためにオレの噂は加速に加速を続けてしまったのだ。
……もう許して……。
『うっ、うっ……酷い、あんまりだぁ』
『えーっと……なんていうか。その、元気だして下さいっす』
真っ赤な顔を隠すように路地に逃げると、そのまま糸を出してギルドまで直行した。入ってきたオレを見たギルド員や職員たちは一瞬だけ顔を強張らせたものの、真っ赤になった顔をしたまま転がるように入って来て受付で突っ伏す姿を見ては誰もが同情的になる。
クエストに出掛けようとしていたギルド員からはお菓子を貰ったり、職員には先日のお礼を言われたりと……少なくとも恨まれている様子などはなくホッとしている。
『王族の方のああした振る舞いは、ある意味では天災みたいなものなんで。命が助かったと安堵する者は多くても恨むようなアホはいないっす』
はい、お茶。と言われてお礼を言いつつお茶を貰う。あれからギルドの奥にある部屋へ通され他に呼ばれた人を待つため寛いでいる。
お茶を出してくれたのは受付によくいる青年で、職員のシガー君。
『王族から見たら自分らなんて塵芥と同じなんで。持ち物である守護魔導師が怪我をしたとなれば怒りの矛先が向くのも仕方ないっす。
それを承知でバビリアに行ってもらったんで……タタラ様には本当に感謝してます』
『いやー……第六王子を街まで避難させたのはリューシーだし、崩壊を止めたのは星の廻騎士団団長なんで、オレなんて……』
『いいえ。こちらがクエストとして発行したばかりに本来であれば国から莫大な報酬をもらえた偉業を、ギルドからの少ない報酬しか出せないなんて……申し訳ないくらいです』
そう。本来ならば王子を救い、民の人命救助に関わったとなれば前回のようなご褒美が貰えるはずだったがオレとリューシーはそれをギルドからの依頼だったために、貰える報酬はギルドからのみとなる。
またあの分厚いカタログ出されても困るから、オレは全く構わない。
『そーそー。ギルドからの少ねぇ報酬だけなんて、タタラちゃんの働きには及ばねぇよ』
ズン、と頭に乗る重さに驚いて固まると、二人掛けだったソファーに後ろから飛び出して来た何かが座る。男性でオレをちゃん付けで呼ぶ人物は一人しかいない。横を見れば、小さな子どもがいた。
『フリーリー団長!』
『ちげー。アーシール!!』
ああ、そうだった。謝罪しつつ改めてアシル様、と呼べば隣にいる団長様はとても上機嫌に笑って挨拶をしてくれた。
『おーい、シガー君。俺様にもお茶ー』
『はいはい。今持って来ますって』
まるで実家のようなやり取り。シガー君からお茶を貰ったアシル様は何度も熱いお茶の湯気を吹きながらチビチビと飲み始める。
……氷魔導師、猫舌疑惑……。
そこから何人かの人が続々とやって来てギルドの一室は人でいっぱいになった。その中にはリューシーもいて、オレに気付くと手を振ってくれた。
みんなオレの方にチラチラと視線を寄越すが、誰も下手に話しかけてこない。何故ならオレの後に隣にいる星の廻騎士団団長に目を向けて驚きと共にすぐ目を逸らすからだ。
やっぱりこんな見た目でも団長だし、恐れられてるんだな、この人……。
『それではこれよりバビリアダンジョン崩壊の件についての報告会を始めます』
司会の人が資料を配り、オレにもその一枚が渡される。資料にはバビリアダンジョン崩壊の大まかな時間に、被害を受けた街。あと、死者が記されていた。
『……ダンジョン崩壊は国にとっても痛手だが、この程度で済んだのは奇跡だな』
誰かの声に、みんなが同じ思いだったのか深く頷く。
『バビリアダンジョンが崩壊した今回、一番の謎はそれが事故であったか、事件であるか』
『ダンジョン内にいた生き残ったギルド員より、崩壊時の詳しい状況説明を』
こうしてバビリアダンジョン崩壊についての会議が始まり、様々な人の声や憶測などが飛び交っていく。オレも資料に載っていないことなどを書いたりしていると、オレの名前が呼ばれた。
『最前線にて魔獣との戦闘に及んだ、第十一王子守護魔導師タタラ殿。魔獣との戦闘で何か気付いた点などありましたかな?』
『は、はい』
よ、呼ばれた……どうしよう。
『魔獣は数が多く、対処することが精一杯であまり観察は出来なかったのですが……核獣が現れてからは侵攻が一気に勢いを増しました』
『核獣だと……?!』
一気に騒つくのも、無理はない。本来ならばバビリアダンジョンの核獣は遥か昔に倒されコアとしてあったのだ。
『……胸に、無理矢理ねじ込んだような感じでしたが強さは圧倒的です。星の廻騎士団団長と同じくクエストを受けた守護魔導師が助けに来てくれなかったら、私も負けていました』
『何ということだ……。フリーリー団長、誠ですか?』
『ああ。ありゃどー考えてもコアを盗み出した野郎に無理矢理改造された核獣だろーな。魔獣が自分でコアを取り出して自分に埋め込めるなら他のダンジョンでも同じような現象が起きるだろーよ。
それが今回。リーベダンジョン封鎖の影響で監視の目が薄まったバビリアダンジョンで起きたってのは……つまりそういうことだ』
第三者による、意図的なダンジョン崩壊。
神妙な空気に纏われた会議は暫くして、終わりを迎えた。
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平和が約束された日々。ただ、仲間たちと楽しく健やかに過ごすだけで許されたあの夢みたいな日々は現世のオレには無縁で。一人寂しく夜を怯えながら生きていたから。
『お前は相当窓から出入りするのが好きらしいな。いっそ専用の出入り口でも作ってやれば良いのか?』
『殿下……』
リューシーがいなくなって、なんとなく過去を振り返って窓の向こうを見ていればすぐ横から手が伸びて来て窓を閉められた。
……起きてたのかよ。
『それで? 楽しくなかったのか。お前が不快な思いをしたのであれば今後一切ああした集まりは中止させるまでだが』
力なく首を横に振り、楽しかったとポツリと声を漏らすがとてもそういう雰囲気は出ていない。納得いかなそうに腕を組む王子に、包み隠さず自分でもよくわからない心の内を話す。
『……ふむ。それはつまりアレだな。
楽しかった今日が終わってしまうのが悲しい、ということだ』
やれやれとカーテンを閉めて、そのままオレの手を引いた王子はベッドを軽く整えてからオレを寝かせて自分も一緒に入ってきた。
いや、ちょっと待てや!!
『な、なんですかその子どもみたいな理由は?! 違います、断固として認めません!!』
『わかったわかった。早う寝ろ』
なんだコイツ、突然……私大人ですから、みたいなムーブかまして来よる!!
『お前はまだ子どもなんだ。誰がなんと言おうと、お前がいくら否定しようとそれは変わらん。事実お前はまだ十二歳なのだから』
『多分この間に十三歳になったはずですが』
『……は? 聞いておらぬ』
そういえばノルエフリンにしか言ってなかったっけ?
今にも溢れ落ちそうな蒼眼がスッと目を細めて声なき抗議が聞こえてくる。王子の右手が伸びて来て何をするかと思えばオレの自慢のもち肌がビヨンビヨンと伸ばされる。
『いらいー、いらいれすー』
『そういう大切なことをしっかり報告しろと言っているんだ、この愚か者。
……いや待て。多分なった、ということはまさか……』
『たんじょーひ、しらないれふー』
孤児院の先生にも、この花が咲き始めたらお前は一つ年を重ねると言っていた。ぶっちゃけ適当に言った疑惑すらある。オレが産まれた日はオレを預けて消えてしまった親だけが知ることなのだ。
その親も死んでしまったわけだが。
『……お前がいつも一人でなんでもやろうとする悪癖は頼る大人がいなかった故か。確かに、お前が子どもの割に聞き分けも良いから忘れていた。
誕生日というのは、世間一般では子どもの内は盛大に祝うものだ』
『殿下もお祝いしてもらいましたか?』
痛いところを突かれたのか、王子は押し黙る。間もなく成人を迎える王子だが彼はなんといっても最悪の異名持ち。王様にも毛嫌いされ、元々の性格も破綻した彼が周りに盛大に祝われたか?
きっと、違うはずだ。
『……僕のことは良い』
『やです。参考までに殿下はどういう風にお祝いしてもらったか聞きます』
聞くまで寝ない、という意思が伝わったのか隣に寝転ぶ王子が盛大にため息を吐いた。引っ張られた頬が撫でられ、重い口が開かれる。
『特に何もない。城に仕える者たちからは祝いの言葉を貰うが、まぁ言ってるだけであろう。心の内を暴ける僕の前から逃げるように去って行くからな。料理長も気を利かせて豪華な料理を作るが、僕はあれが好きではない。
……クロポルドからも祝いの言葉や品が届くが、アレは忙しいからな。共にいられた日は少ない』
料理長可哀想。
王子の誕生日に折角腕を奮ったのに内心でこんなことを思ってたなんて知ったら、包丁振り回して乗り込んで来そう。
『殿下の誕生日はいつなんです?』
『結婚式の日だ』
……あー、オレ多分もうここにいませんわ。
『残念です……守護魔導師の強みを活かして真っ先におめでとう、って言いたかったのに』
でも、それなら安心だ。結婚式の日に愛する人と一緒にいて誕生日を迎えられるなら、きっと人生で一番素晴らしい日になるはずだ。
そんな素晴らしい日を想像して、そこに自分がいないことを少し悔やみながらグッと抑えてなんでもないように振る舞う。
『じゃあ、今言っちゃいますね』
『何をだ……?』
これぞフライングバースデー。
なんだか眠くなってきたが、必死に我慢して王子の右手を両手で包むように握る。日頃から戦闘やら糸を思いっきり握るせいで綺麗とは言えない手で、王子のすべっすべな手を握るという背徳感。
……気にしませんよーに。
『殿下。お誕生日おめでとうございます。成人の日まで健やかに育ってくれて、ありがとうございます……殿下がいなければ、今幸せに過ごすオレはいません。これからもずっと、ずっと先も、殿下が幸せになれるよう願っています。
例え隣にいなくても、オレは……殿下のこと、ずっと……』
あれー? なんて言おうとしたんだっけ……。というか、凄い眠いんだけどちゃんと全部言えたか?
『んー……むにゃぁ……』
深海のような、冷たい目を見た気がした。光るその美しい目から海が落ちる。何故か体が温かくて、それに縋るように身を寄せた。
『っ、何故……』
『何故、もっと早く……』
そうだ。
王子の誕生日にプレゼントを……プレゼントを買って、ノルエフリンに渡してもらおう。
『僕の前に、現れてくれなかったんだっ大馬鹿者……』
朝起きると、王子はベッドにはいなかった。昨夜一緒に寝たような記憶はあるがどのタイミングで自分が寝てしまったのかよく覚えていない。せっせとベッドを直して着替え、身だしなみを整えたところで扉をノックする。
さぁ。今日もまた一日頑張りますか!
なんて、言ってたのが二時間前。
オレは今、絶望の淵を歩いている。
『おっ!! 救世主様のご登場だぜー!』
『可愛いねぇ。今日は泣いていないのかい?』
『あの子が泣くと、あの第十一王子がおんぶして帰るんですって!』
『可愛いあの子がいれば、俺たちは怯えていなくったって良いんだ』
絶・望。
オレはバビリアダンジョン崩壊現場にいたものとしてギルドから召集を受けている。先日の一件もあり菓子折りを買って元気に城から出掛けたオレの心をぶち折ったのが、街中の声だった。
黒髪黒目の容姿に、服まで黒いオレは目立つ。そしてそういう子どもが第十一王子の守護魔導師ということもある程度広まっている。そしてトドメとばかりに先日の大号泣事件。周りには一般人も多かったためにオレの噂は加速に加速を続けてしまったのだ。
……もう許して……。
『うっ、うっ……酷い、あんまりだぁ』
『えーっと……なんていうか。その、元気だして下さいっす』
真っ赤な顔を隠すように路地に逃げると、そのまま糸を出してギルドまで直行した。入ってきたオレを見たギルド員や職員たちは一瞬だけ顔を強張らせたものの、真っ赤になった顔をしたまま転がるように入って来て受付で突っ伏す姿を見ては誰もが同情的になる。
クエストに出掛けようとしていたギルド員からはお菓子を貰ったり、職員には先日のお礼を言われたりと……少なくとも恨まれている様子などはなくホッとしている。
『王族の方のああした振る舞いは、ある意味では天災みたいなものなんで。命が助かったと安堵する者は多くても恨むようなアホはいないっす』
はい、お茶。と言われてお礼を言いつつお茶を貰う。あれからギルドの奥にある部屋へ通され他に呼ばれた人を待つため寛いでいる。
お茶を出してくれたのは受付によくいる青年で、職員のシガー君。
『王族から見たら自分らなんて塵芥と同じなんで。持ち物である守護魔導師が怪我をしたとなれば怒りの矛先が向くのも仕方ないっす。
それを承知でバビリアに行ってもらったんで……タタラ様には本当に感謝してます』
『いやー……第六王子を街まで避難させたのはリューシーだし、崩壊を止めたのは星の廻騎士団団長なんで、オレなんて……』
『いいえ。こちらがクエストとして発行したばかりに本来であれば国から莫大な報酬をもらえた偉業を、ギルドからの少ない報酬しか出せないなんて……申し訳ないくらいです』
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『そーそー。ギルドからの少ねぇ報酬だけなんて、タタラちゃんの働きには及ばねぇよ』
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……氷魔導師、猫舌疑惑……。
そこから何人かの人が続々とやって来てギルドの一室は人でいっぱいになった。その中にはリューシーもいて、オレに気付くと手を振ってくれた。
みんなオレの方にチラチラと視線を寄越すが、誰も下手に話しかけてこない。何故ならオレの後に隣にいる星の廻騎士団団長に目を向けて驚きと共にすぐ目を逸らすからだ。
やっぱりこんな見た目でも団長だし、恐れられてるんだな、この人……。
『それではこれよりバビリアダンジョン崩壊の件についての報告会を始めます』
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こうしてバビリアダンジョン崩壊についての会議が始まり、様々な人の声や憶測などが飛び交っていく。オレも資料に載っていないことなどを書いたりしていると、オレの名前が呼ばれた。
『最前線にて魔獣との戦闘に及んだ、第十一王子守護魔導師タタラ殿。魔獣との戦闘で何か気付いた点などありましたかな?』
『は、はい』
よ、呼ばれた……どうしよう。
『魔獣は数が多く、対処することが精一杯であまり観察は出来なかったのですが……核獣が現れてからは侵攻が一気に勢いを増しました』
『核獣だと……?!』
一気に騒つくのも、無理はない。本来ならばバビリアダンジョンの核獣は遥か昔に倒されコアとしてあったのだ。
『……胸に、無理矢理ねじ込んだような感じでしたが強さは圧倒的です。星の廻騎士団団長と同じくクエストを受けた守護魔導師が助けに来てくれなかったら、私も負けていました』
『何ということだ……。フリーリー団長、誠ですか?』
『ああ。ありゃどー考えてもコアを盗み出した野郎に無理矢理改造された核獣だろーな。魔獣が自分でコアを取り出して自分に埋め込めるなら他のダンジョンでも同じような現象が起きるだろーよ。
それが今回。リーベダンジョン封鎖の影響で監視の目が薄まったバビリアダンジョンで起きたってのは……つまりそういうことだ』
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