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第十一王子と、その守護者
旅立ちに向けて
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王国式典。
それは、年に一度開かれる一番大きな式典でありお祭りだ。まず成人する王族たちの祝いと、学園を卒業した王族たちの祝い。それが終わるとそれぞれの守護者たちの働きによって、王子或いは王女が守護者と共に評される。
それが終わると、それぞれの守護者たちが代表一名を出してトーナメント式で親善試合が行われたり、新しい魔道具のお披露目なんかがあるのが通例だ。
そして、この王国式典の終わりが……オレの守護魔導師としての終わりを意味する。
式典に出れば、オレは様々な人の目に改めて触れてしまい出自やら全て暴かれ始めるだろう。それが公になって騒がれる前に逃げるのだ。そして、その三日後がハルジオン王子の結婚式であり、誕生日。
『なぁ、どれが良いかな。これだっていうのが全然見付かんないんだよ……』
そんな王国式典は、いよいよ明日である。
『大切なものですからね。存分にお悩みになるのが宜しいかと!』
『一緒に考えてよ!!』
王子は結婚式のための段取りやら、明日の式典のための打ち合わせで他の王族たちとお話中。その間に城を出たオレとノルエフリンは、式典の飾り付けや準備で大盛り上がりの王都へ繰り出している。
内容は、お買い物だ!
『そもそも殿下は物欲が偏ってますから。本などは毎回適当に買ったり王国図書館から持ち出したりと。
……装飾品に関しては我々には手が出せないような価値がありますし』
大きな看板を抱えた男性がフラついてこちらに来たので、避けようと道を走る竜車が通る方に詰めようとしたらすかさずノルエフリンの手が伸びて来て捕まるといつものように抱えられ、もう片方でよろけた男性を支える。
『すまんね、坊ちゃん! 兄さんもありがっ……?!』
『お気になさらず。それでは』
ノルエフリンの姿に驚く男性が何か言う前に、自分が言うべきことを全て言い切って歩き出すノルエフリン。驚きはちょっとした波紋を呼び、誰もがノルエフリンに目を向け始める。
『ありがとう、ノルエフリン。でもちょっと持ち方変えてくれないか?』
『持ち方……ですか?』
すれ違う人々がオレたちを見ては、何やら朗らかに笑ったり、小さな子どもにも指を差される。しかしそれらは先程とは少し違う意味合いが持たれているのだろう。
ノルエフリンに肩車をされたオレは、誰よりも高い目線から街を見ている。
『違うからな! 決して歩くのサボってるわけじゃないから、気分転換だから!』
決してふわふわな髪を堪能してるとか、そんなんじゃねーから!!
『わぁ、ふわふわぁ』
『勿論です……。タタラ様に気に入っていただけて、恐悦至極です。どうかお好きなだけそこにいて下さい』
このイケメン髪からも良い匂いするんですよ? 許せます? 許せんぜ。
ギュッと抱きついて、もうあと何回もしてもらえるかわからないこの甘えを押し付けてしまう。日輪の匂いを含んだ誰よりも優しい騎士。きっと……たくさん傷付いたのに、それでも紳士的で誰かを護ることを譲らない男だ。
こうして最後まで王子のプレゼントが決まらないオレのために一緒に来てくれる、律儀で心配性な奴。
『ノルエフリンは装飾品とかつけないの? 騎士でも耳飾りとかしてる人いるよね。つけちゃいけないわけじゃないんだろ?』
『ええ、規制はされてませんよ。しかし私は必要性を感じたことがありませんので。肌身離さず持っていたいものは……タタラ様くらいですね!』
『うん、絶賛肌身離さず持ち運んでるしな……』
そうしてまた街を練り歩いていれば、思わぬところで懐かしいペアに出会う。街角でバッタリと出会ったのはリューシーとペッツさんの二人だった。二人はまずノルエフリンに気付いて声を掛けようとしたものの、その更に上にオレがいることに吃驚しながらも嬉しそうに声を出した。
『タタラパイセン!!』
『リューシーにペッツさん、お疲れ様です』
いつかは最悪な空気の中で出会った四人だが、今回はそんなこともない。
リューシーとペッツさんが改めてノルエフリンに謝罪する姿を見ながら、あれからの時の流れを痛感せざるを得ない。
『嫌っスね、タタラパイセンってば。自分のことは呼び捨てで良いです! なんたって後輩なんで!』
『え……。良いんですか? じゃあ……ペッツ。ペッツが一番歳が近そうだから嬉しいな』
『自分も嬉しいっス!! ……自分なんてベルガアッシュ殿下の守護者の中じゃ一番幼い上に魔法下手だから、……あ! でもでも、この前タタラパイセンと一緒の時はすんなり魔法使えて、勉強になったっス!!』
近くのカフェに入り、外の席で四人で仲良くお茶の時間。左隣のペッツがこの間のギルドでの出来事を嬉しそうに語るので、心なしか飲んでいる花紅茶がとても美味しく感じる。
花紅茶は魔力が含まれたカップに注ぐことで紅茶に覚えさせた花の香りがするバラツィアの名物だ。
『タミミリーター殿というと、やはり古代魔法でしょうか?』
『は、はいっス! 自分は古代魔導師でして……空間魔法の使いなんですが、まぁ一族全員がそうなんで。歴史ある一族ですが自分は落ちこぼれっス』
古代魔法。
それは、大きく分けて三つ。空間魔法と、植物魔法と、雷魔法。この中の一つを扱える古代魔法は古くからそれを受け継ぐ一族が多いのだ。そもそも、一般的な家庭から古代魔法の使いが産まれるのは稀。
因みに……いつかのリリン・パ・レッティは、その稀な一般家庭の出だ。
『じ、自分なんかよりポーディガー殿は?!』
『え? 私ですか……私は土魔法の使いですが、この通り肉体派なので魔法はてんでダメですよ。魔法はこちらの先輩にお任せしてます!』
まぁノルエフリンは騎士だしね。
再び紅茶を飲もうとした時、向かい側に座っていたリューシーがやけに静かなことに気付く。注文した紅茶に手を付けつつ、何か他のことを考えているような。
見つめ過ぎたせいかリューシーと目が合う。これ幸いと話し掛けようとしたところで、それを遮るように強風が吹いたのだ。荒ぶる髪を避けて片目を開けば……リューシーが何か伝えたそうに目線を上に向けた。それを追うように上を向けば、小さな葉っぱがオレの顔に落ちてきた。
『ぷへっ』
更にテーブルに落ちる小さな葉っぱ。下に落とそうかとしたところで、葉っぱがカタカタと動き出す。ギョッとしてそれを見ればもう風もないのに葉っぱが何処かへ飛んでいく。
……ファンタジー葉っぱじゃん。
目で追いかけた葉っぱはやがて、少し離れたところに落ちた。ここから二つ離れたテーブルだ。
『……マジか』
リューシーに視線を戻せば、小さく頷く彼を見て確信へと至る。後の二人を見ればノルエフリンもわかっているようですぐに合図に気付いてくれた。ペッツは……気付いてない。まぁオレも全然気付かなかったし、仕方ないか。
オレたちは、誰かに監視されてるらしい。
魔物相手に警戒は怠らなかったが、まさか王子もいないこんな守護者だらけの一団を狙うバカがいるのか? リューシーたちは一目見て第一王子の守護魔導師とわかる隊服を着ているし、オレだって目立つ容姿だ。すぐハルジオン王子の守護魔導師だとわかるはず。
つまり、奴等はオレたちがそういう連中と知って付けて来たわけだ。
『……よし逃げるか』
『異論なし』
『タタラ様がお決めになった通りに』
ペッツ、とリューシーが彼を呼べば丁度最後のクッキーを食べ終わったようで良い返事で立ち上がる。何がなんだかわからないが、取り敢えず条件反射で動いたのが可愛くてつい笑ってしまう。
テーブルの上に代金を置いて、他のメンバーも立ち上がる。
『近くで良い。全員を一旦ここより開けた、離れた場所に移動させてくれ。そうしたら君はすぐに一人で城まで戻るように。一人なら魔法ですぐに帰れるな? 我々は各自散開してバラバラに逃げるぞ』
『え!? な、なんだかわからないけどっ了解したっス!!
……すーっ、はー……。
空間魔法 神隠しの布』
集まったオレたちを覆うように地面の魔法陣から現れた、真っ黒なカーテン。それが上まで行って再び下に行けばどうだろう。先程までのカフェが見渡せる高い建物の屋上にオレたちはいる。
『ぜはーっ、ぱ、パイセン~! 自分にはこれが限界っスー!』
『ああ。これで良い、感謝する。では各自……健闘を祈る!』
再びペッツは黒いカーテンに包まれる。不安そうにこちらを窺う彼に心配を掛けないように笑ってから、それぞれ行動に移る。リューシーは風魔法により高く高く高度をとってから一気に城まで飛ぶ。
ノルエフリンはグッと体勢を低くしてから、一気に走り出し鎧を着ているとは思えない速度で屋根から屋根へと器用に渡りながら走り去る。
みんなの行動を確認したオレも糸を出し、適当な建物へと放って身を乗り出す。リューシーのように飛ぶとまではいかないが、街では縦横無尽に動ける。ふと振り返れば……やはり奴等はオレの方へ半分ほど来ていた。
恐らく、残りの半分はノルエフリンの方だ。
『オレだけかと思ったけど……やっぱり目当ては、第十一王子の守護者ってところか?』
いつかオルタンジーが言っていた、派閥やらなんやらの言葉が過ぎる。
『まずは邪魔な守護者から消そうって? もうすぐ消えるオレにまで、こんな祝いの祭典の前に労力を出してくるなんて……』
ご苦労様だ。
『折角のお祭りだ、邪魔にならないようにしなくちゃ』
移動しながら糸を断ち、新たな魔法を発動しようとした時だった。狙いを定めようとしたのに……敵が、どこにもいない。
『あれぇーっ?!』
確かに追いかけて来た敵が、三人はいたはずだった。それなのに今はどこにもその気配を感じない。隠れている感じもないし、不意をつかれたわけでもない。完全に消えている。
中途半端に練られた魔力をどうすることも出来ず、取り敢えず空に向かって放つ。そして重力に従って落ちるオレを、誰かが抱えて壁を蹴って地面へと降り立った。
まるで赤ちゃんみたいにまん丸になって抱えられ、パチパチと瞬きをする。
『申し訳ありません。
折角の散策に横槍など、我らの不足の限りです。敵はこちらで捕らえておきました。お買い物をお楽しみ下さい』
『あっ……!!』
そこにいたのは、夜の信徒だった。いつものように顔を隠した彼らは地面に平伏したまま。日輪の光も届かない薄暗い路地で、誰にも気付かれず何者かを捕縛して回収してしまったようだ。
職人技か……? 全然気配しなかったんですが?
地面に降ろされれば、信徒に日輪が照らす大通りへ行けとばかりに背を押される。それに抗って振り返れば、彼女はしゃがんだままの姿勢で待機中。間違いなくこのよく通る綺麗な声はあの夜に出会った、絵本を一緒に読んでくれたあの人。
『助けてくれて、ありがとう……』
『不要とは思いましたが、余計な手を煩わせるわけにもいきません。この国で我々の手の伸ばせる範囲に貴方様がいる限りはお守りします。
明日は大切な式典。間違っても怪我などありませんように』
相変わらず、心配性な人たちだ。
『ここを抜けた先に穴場の店がいくつかあります。装飾の凝った小物なども多いかと』
しかも買い物場所まで斡旋してくれる、と。
完璧すぎて恐ろしいくらいだとため息を吐いてから、再び向き合う。まだ何か? とばかりの空気を晒すが構わずその顔を覆う布を控えめに握る。
『名前……教えてほしいんだ。名前も顔も、ダメなのか?』
『……申し訳ありません』
ダメらしい。
残念に思いながらも、布から手を離せない。困らせたくはないのに名前を呼んで礼も言えないことが少し悲しいのだ。
『タタラ様のお好きなようにお呼び下さい。それを受け入れます』
『……好きに? じゃあ……カグヤ、ね』
月に女性と聞けば、こうなるだろう。この世界にはその話はないからわからない。カグヤと仮の名前を授けた彼女は一度だけ名を呟き、そのままオレの手を丁寧に離してから闇に消えた。
少しは距離が縮まったかなと思いつつ、オレは大通りへ行き教えてもらった店へと入って行く。やがて王子の部屋の前でノルエフリンと無事に合流した。勿論彼も無傷だが、敵は逃したらしい。
『……恐らく例の、派閥とやらでしょう。あのようなお粗末な戦力では私でも対処出来ます。脅しにもなっていません。気にしなくても良い程度かと』
『王族のいざこざなら、よくある話って感じか。引き続き警戒を怠らないようにな。明日は本番だし』
『御意。
……無事に目当てのものも買えたようで、安心しました。良かったですね』
胸に抱えた、大切な包み。わざわざオレの部屋を開いてもらい取り敢えず何処かへ隠しておこうと隠し場所を探すが……結局ベッドの下という王道の隠し場所となった。
掃除の際にバレないよう糸でベッドへと括り付けて、完璧だ。
『……明日、か』
いよいよバーリカリーナ王国最大の式典
王国式典の開催である。
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それは、年に一度開かれる一番大きな式典でありお祭りだ。まず成人する王族たちの祝いと、学園を卒業した王族たちの祝い。それが終わるとそれぞれの守護者たちの働きによって、王子或いは王女が守護者と共に評される。
それが終わると、それぞれの守護者たちが代表一名を出してトーナメント式で親善試合が行われたり、新しい魔道具のお披露目なんかがあるのが通例だ。
そして、この王国式典の終わりが……オレの守護魔導師としての終わりを意味する。
式典に出れば、オレは様々な人の目に改めて触れてしまい出自やら全て暴かれ始めるだろう。それが公になって騒がれる前に逃げるのだ。そして、その三日後がハルジオン王子の結婚式であり、誕生日。
『なぁ、どれが良いかな。これだっていうのが全然見付かんないんだよ……』
そんな王国式典は、いよいよ明日である。
『大切なものですからね。存分にお悩みになるのが宜しいかと!』
『一緒に考えてよ!!』
王子は結婚式のための段取りやら、明日の式典のための打ち合わせで他の王族たちとお話中。その間に城を出たオレとノルエフリンは、式典の飾り付けや準備で大盛り上がりの王都へ繰り出している。
内容は、お買い物だ!
『そもそも殿下は物欲が偏ってますから。本などは毎回適当に買ったり王国図書館から持ち出したりと。
……装飾品に関しては我々には手が出せないような価値がありますし』
大きな看板を抱えた男性がフラついてこちらに来たので、避けようと道を走る竜車が通る方に詰めようとしたらすかさずノルエフリンの手が伸びて来て捕まるといつものように抱えられ、もう片方でよろけた男性を支える。
『すまんね、坊ちゃん! 兄さんもありがっ……?!』
『お気になさらず。それでは』
ノルエフリンの姿に驚く男性が何か言う前に、自分が言うべきことを全て言い切って歩き出すノルエフリン。驚きはちょっとした波紋を呼び、誰もがノルエフリンに目を向け始める。
『ありがとう、ノルエフリン。でもちょっと持ち方変えてくれないか?』
『持ち方……ですか?』
すれ違う人々がオレたちを見ては、何やら朗らかに笑ったり、小さな子どもにも指を差される。しかしそれらは先程とは少し違う意味合いが持たれているのだろう。
ノルエフリンに肩車をされたオレは、誰よりも高い目線から街を見ている。
『違うからな! 決して歩くのサボってるわけじゃないから、気分転換だから!』
決してふわふわな髪を堪能してるとか、そんなんじゃねーから!!
『わぁ、ふわふわぁ』
『勿論です……。タタラ様に気に入っていただけて、恐悦至極です。どうかお好きなだけそこにいて下さい』
このイケメン髪からも良い匂いするんですよ? 許せます? 許せんぜ。
ギュッと抱きついて、もうあと何回もしてもらえるかわからないこの甘えを押し付けてしまう。日輪の匂いを含んだ誰よりも優しい騎士。きっと……たくさん傷付いたのに、それでも紳士的で誰かを護ることを譲らない男だ。
こうして最後まで王子のプレゼントが決まらないオレのために一緒に来てくれる、律儀で心配性な奴。
『ノルエフリンは装飾品とかつけないの? 騎士でも耳飾りとかしてる人いるよね。つけちゃいけないわけじゃないんだろ?』
『ええ、規制はされてませんよ。しかし私は必要性を感じたことがありませんので。肌身離さず持っていたいものは……タタラ様くらいですね!』
『うん、絶賛肌身離さず持ち運んでるしな……』
そうしてまた街を練り歩いていれば、思わぬところで懐かしいペアに出会う。街角でバッタリと出会ったのはリューシーとペッツさんの二人だった。二人はまずノルエフリンに気付いて声を掛けようとしたものの、その更に上にオレがいることに吃驚しながらも嬉しそうに声を出した。
『タタラパイセン!!』
『リューシーにペッツさん、お疲れ様です』
いつかは最悪な空気の中で出会った四人だが、今回はそんなこともない。
リューシーとペッツさんが改めてノルエフリンに謝罪する姿を見ながら、あれからの時の流れを痛感せざるを得ない。
『嫌っスね、タタラパイセンってば。自分のことは呼び捨てで良いです! なんたって後輩なんで!』
『え……。良いんですか? じゃあ……ペッツ。ペッツが一番歳が近そうだから嬉しいな』
『自分も嬉しいっス!! ……自分なんてベルガアッシュ殿下の守護者の中じゃ一番幼い上に魔法下手だから、……あ! でもでも、この前タタラパイセンと一緒の時はすんなり魔法使えて、勉強になったっス!!』
近くのカフェに入り、外の席で四人で仲良くお茶の時間。左隣のペッツがこの間のギルドでの出来事を嬉しそうに語るので、心なしか飲んでいる花紅茶がとても美味しく感じる。
花紅茶は魔力が含まれたカップに注ぐことで紅茶に覚えさせた花の香りがするバラツィアの名物だ。
『タミミリーター殿というと、やはり古代魔法でしょうか?』
『は、はいっス! 自分は古代魔導師でして……空間魔法の使いなんですが、まぁ一族全員がそうなんで。歴史ある一族ですが自分は落ちこぼれっス』
古代魔法。
それは、大きく分けて三つ。空間魔法と、植物魔法と、雷魔法。この中の一つを扱える古代魔法は古くからそれを受け継ぐ一族が多いのだ。そもそも、一般的な家庭から古代魔法の使いが産まれるのは稀。
因みに……いつかのリリン・パ・レッティは、その稀な一般家庭の出だ。
『じ、自分なんかよりポーディガー殿は?!』
『え? 私ですか……私は土魔法の使いですが、この通り肉体派なので魔法はてんでダメですよ。魔法はこちらの先輩にお任せしてます!』
まぁノルエフリンは騎士だしね。
再び紅茶を飲もうとした時、向かい側に座っていたリューシーがやけに静かなことに気付く。注文した紅茶に手を付けつつ、何か他のことを考えているような。
見つめ過ぎたせいかリューシーと目が合う。これ幸いと話し掛けようとしたところで、それを遮るように強風が吹いたのだ。荒ぶる髪を避けて片目を開けば……リューシーが何か伝えたそうに目線を上に向けた。それを追うように上を向けば、小さな葉っぱがオレの顔に落ちてきた。
『ぷへっ』
更にテーブルに落ちる小さな葉っぱ。下に落とそうかとしたところで、葉っぱがカタカタと動き出す。ギョッとしてそれを見ればもう風もないのに葉っぱが何処かへ飛んでいく。
……ファンタジー葉っぱじゃん。
目で追いかけた葉っぱはやがて、少し離れたところに落ちた。ここから二つ離れたテーブルだ。
『……マジか』
リューシーに視線を戻せば、小さく頷く彼を見て確信へと至る。後の二人を見ればノルエフリンもわかっているようですぐに合図に気付いてくれた。ペッツは……気付いてない。まぁオレも全然気付かなかったし、仕方ないか。
オレたちは、誰かに監視されてるらしい。
魔物相手に警戒は怠らなかったが、まさか王子もいないこんな守護者だらけの一団を狙うバカがいるのか? リューシーたちは一目見て第一王子の守護魔導師とわかる隊服を着ているし、オレだって目立つ容姿だ。すぐハルジオン王子の守護魔導師だとわかるはず。
つまり、奴等はオレたちがそういう連中と知って付けて来たわけだ。
『……よし逃げるか』
『異論なし』
『タタラ様がお決めになった通りに』
ペッツ、とリューシーが彼を呼べば丁度最後のクッキーを食べ終わったようで良い返事で立ち上がる。何がなんだかわからないが、取り敢えず条件反射で動いたのが可愛くてつい笑ってしまう。
テーブルの上に代金を置いて、他のメンバーも立ち上がる。
『近くで良い。全員を一旦ここより開けた、離れた場所に移動させてくれ。そうしたら君はすぐに一人で城まで戻るように。一人なら魔法ですぐに帰れるな? 我々は各自散開してバラバラに逃げるぞ』
『え!? な、なんだかわからないけどっ了解したっス!!
……すーっ、はー……。
空間魔法 神隠しの布』
集まったオレたちを覆うように地面の魔法陣から現れた、真っ黒なカーテン。それが上まで行って再び下に行けばどうだろう。先程までのカフェが見渡せる高い建物の屋上にオレたちはいる。
『ぜはーっ、ぱ、パイセン~! 自分にはこれが限界っスー!』
『ああ。これで良い、感謝する。では各自……健闘を祈る!』
再びペッツは黒いカーテンに包まれる。不安そうにこちらを窺う彼に心配を掛けないように笑ってから、それぞれ行動に移る。リューシーは風魔法により高く高く高度をとってから一気に城まで飛ぶ。
ノルエフリンはグッと体勢を低くしてから、一気に走り出し鎧を着ているとは思えない速度で屋根から屋根へと器用に渡りながら走り去る。
みんなの行動を確認したオレも糸を出し、適当な建物へと放って身を乗り出す。リューシーのように飛ぶとまではいかないが、街では縦横無尽に動ける。ふと振り返れば……やはり奴等はオレの方へ半分ほど来ていた。
恐らく、残りの半分はノルエフリンの方だ。
『オレだけかと思ったけど……やっぱり目当ては、第十一王子の守護者ってところか?』
いつかオルタンジーが言っていた、派閥やらなんやらの言葉が過ぎる。
『まずは邪魔な守護者から消そうって? もうすぐ消えるオレにまで、こんな祝いの祭典の前に労力を出してくるなんて……』
ご苦労様だ。
『折角のお祭りだ、邪魔にならないようにしなくちゃ』
移動しながら糸を断ち、新たな魔法を発動しようとした時だった。狙いを定めようとしたのに……敵が、どこにもいない。
『あれぇーっ?!』
確かに追いかけて来た敵が、三人はいたはずだった。それなのに今はどこにもその気配を感じない。隠れている感じもないし、不意をつかれたわけでもない。完全に消えている。
中途半端に練られた魔力をどうすることも出来ず、取り敢えず空に向かって放つ。そして重力に従って落ちるオレを、誰かが抱えて壁を蹴って地面へと降り立った。
まるで赤ちゃんみたいにまん丸になって抱えられ、パチパチと瞬きをする。
『申し訳ありません。
折角の散策に横槍など、我らの不足の限りです。敵はこちらで捕らえておきました。お買い物をお楽しみ下さい』
『あっ……!!』
そこにいたのは、夜の信徒だった。いつものように顔を隠した彼らは地面に平伏したまま。日輪の光も届かない薄暗い路地で、誰にも気付かれず何者かを捕縛して回収してしまったようだ。
職人技か……? 全然気配しなかったんですが?
地面に降ろされれば、信徒に日輪が照らす大通りへ行けとばかりに背を押される。それに抗って振り返れば、彼女はしゃがんだままの姿勢で待機中。間違いなくこのよく通る綺麗な声はあの夜に出会った、絵本を一緒に読んでくれたあの人。
『助けてくれて、ありがとう……』
『不要とは思いましたが、余計な手を煩わせるわけにもいきません。この国で我々の手の伸ばせる範囲に貴方様がいる限りはお守りします。
明日は大切な式典。間違っても怪我などありませんように』
相変わらず、心配性な人たちだ。
『ここを抜けた先に穴場の店がいくつかあります。装飾の凝った小物なども多いかと』
しかも買い物場所まで斡旋してくれる、と。
完璧すぎて恐ろしいくらいだとため息を吐いてから、再び向き合う。まだ何か? とばかりの空気を晒すが構わずその顔を覆う布を控えめに握る。
『名前……教えてほしいんだ。名前も顔も、ダメなのか?』
『……申し訳ありません』
ダメらしい。
残念に思いながらも、布から手を離せない。困らせたくはないのに名前を呼んで礼も言えないことが少し悲しいのだ。
『タタラ様のお好きなようにお呼び下さい。それを受け入れます』
『……好きに? じゃあ……カグヤ、ね』
月に女性と聞けば、こうなるだろう。この世界にはその話はないからわからない。カグヤと仮の名前を授けた彼女は一度だけ名を呟き、そのままオレの手を丁寧に離してから闇に消えた。
少しは距離が縮まったかなと思いつつ、オレは大通りへ行き教えてもらった店へと入って行く。やがて王子の部屋の前でノルエフリンと無事に合流した。勿論彼も無傷だが、敵は逃したらしい。
『……恐らく例の、派閥とやらでしょう。あのようなお粗末な戦力では私でも対処出来ます。脅しにもなっていません。気にしなくても良い程度かと』
『王族のいざこざなら、よくある話って感じか。引き続き警戒を怠らないようにな。明日は本番だし』
『御意。
……無事に目当てのものも買えたようで、安心しました。良かったですね』
胸に抱えた、大切な包み。わざわざオレの部屋を開いてもらい取り敢えず何処かへ隠しておこうと隠し場所を探すが……結局ベッドの下という王道の隠し場所となった。
掃除の際にバレないよう糸でベッドへと括り付けて、完璧だ。
『……明日、か』
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