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第十一王子と、その守護者
帰る場所
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これは夢だろうか。
いいや、今までのが夢で……ここが現実?
『多々良場ぁー! 何してんだよ、置いて行っちゃうぞー!』
眩しい夏空。痛いくらいに照らす太陽。爽やかに体を撫でる風。青々とした草木の匂いに、額から流れる汗。遠くから聞こえる蝉の鳴く音。靴に触れた砂利道。
そう、これは……自分が最後に覚えている前世の記憶。だけど、あまりにも鮮明なそれに呆然としたまま立ち尽くす。両手は自転車を支え、着ているのは守護魔導師としての服ではなく高校の制服。白いシャツに黒いズボン……背負っているのも、ビローデアさんに貰った鞄ではなく通学カバンだ。
『え……? なに、オレ……え!?』
『オーイ。どしたん、お前さん本当に置いてくよーん』
ハッとして目の前を見れば、そこにいた人たちを見て思わず自転車を支えるのも忘れて倒してしまった。何故か顔が見えないものの……そこにいたのは自分と小学生の頃から連んできた三人の仲間たちだった。
そして、
『多々良場。具合でも悪いのか?』
自分と同じ黒髪黒目のくせに高身長で、なんだってそつなくこなせる頼もしい親友。後ろから倒してしまった自転車を直して笑うのは、唯一顔がハッキリとわかる親友。それを見て、堪えて来た何かが壊れるように涙が止まらなくって彼のお腹に突っ込むように突進した。
『いやー、多々良場が暑さで暴走したかと思ったわ。でもマジで大丈夫かー?』
『なんかちょっと顔赤くね? 飲みかけで良かったら俺のお茶飲むかね』
顔が見えない仲間たちが心配する中、散々揶揄われたオレはすっかり小さくなって仲間から貰ったお茶を飲む。隣を歩く唯一顔が見える親友に自転車を持ってもらい、とぼとぼと歩き出す。
『ありがと……。なんか、夢でも見てた気分で』
『俺知ってる、それ白昼夢じゃん! しっかり寝ろよー。お前の大切な成長期なんだぞぉ』
うるせぇ、と小さな声で言えば仲間たちが大爆笑する。平和な世界で絶えず笑い声が飛び交う幸せな世界。
隣で一緒に歩いてくれる親友も楽しそうに笑って、オレたちの下校はいつだって騒がしい。
なんでコイツだけ、顔が見えるんだ? みんなの顔はモヤがかかったように見えないのに。不思議だなと思いながらもみんなと歩き出す。
『でも体調悪いならちゃんと言えよ? 暑いしどっかファミレスでも寄るか』
『良いかもな。多々良場も休んでもう少し水分と塩分摂った方がいいだろうし。まぁ一番小っちゃいから誰でもおんぶしてやれるけどな!』
『よーし、押し潰してくれるわテメェら!!』
男のギャーギャーという騒がしい声が河川敷に響き渡り、なんとも暑苦しい夏の一日。他愛無い雑談に学校での出来事。下らない問答に昨日見たテレビの話。全部全部、まだ終わらないと思っていた。
……なんでオレ、死んだんだろう。
『……ごめん。オレ……忘れ物あるから、一緒に行けねぇわ。先行っててくれるか?』
振り返った仲間たちの顔は、見えないまま。みんな暫く黙っていたけど一人が道の先を指差した。
『良いのか? お前のお袋さんたちも心配してるぞ。いっぱい辛い思いして、悲しんで、痛い思いも何度もしただろ。
それでも、行くの? またお前……痛い思いするかもしんねーのに?』
道の先に待つ、薄っすらと見えるシルエット。覚えがあるその人影に涙を流しながらも、うんと頷いて一歩後ろに足を引く。
『そっか。じゃあ……大丈夫だな。
先に行ってるから、ゆっくり来いよな』
バイバイ、と言って手を振る三人。顔は見えないけど、きっと笑顔なんだろうと思うとまた涙が止まらなくなった。自転車を持つ親友を見れば、彼もオレの肩を叩いて眩しいくらいの笑顔で見送ってくれる。
無言のまま振り向いて、その先を指差す彼に頷き……オレは駆け出した。
『ありがとう、みんなっ……最後に会えて本当に嬉しかった!!
今まで、ありがとうっお前ら全員大好きだよ、マジで!! ……っ、さようなら』
もう一緒に帰る場所は、この世界にはない。オレにまだあの世界に留まれる資格があるなら、オレの帰る場所はもう一つしかない。
あの人のいる場所に、帰りたいっ……!
『アイツ、ちゃんと帰れた?』
『ん。行ったな。……あーあ、一緒に帰りたかったけど、多々良場が決めたんなら仕方ないか』
『好きな人が出来たみたいだぞ? アイツ中々ロマンチストな野郎だな』
『愛かぁ、そっかー。確か王子様だろ? メルヘンだな。いつからアイツお姫様になったんだ』
『いやいや、守護者だからお姫様ってより従者とか騎士だよな。ナイト様ってか? ……なんかお姫様のが似合ってね?』
『本当にな。次はこんなとこまで来るような怪我をしないでほしいんだがな』
『それな。次来たら問答無用でお持ち帰りしようぜ、お前ら』
『黒鬼、行こうぜ』
『ああ。楽しかったな、アイツに会えて』
.
いいや、今までのが夢で……ここが現実?
『多々良場ぁー! 何してんだよ、置いて行っちゃうぞー!』
眩しい夏空。痛いくらいに照らす太陽。爽やかに体を撫でる風。青々とした草木の匂いに、額から流れる汗。遠くから聞こえる蝉の鳴く音。靴に触れた砂利道。
そう、これは……自分が最後に覚えている前世の記憶。だけど、あまりにも鮮明なそれに呆然としたまま立ち尽くす。両手は自転車を支え、着ているのは守護魔導師としての服ではなく高校の制服。白いシャツに黒いズボン……背負っているのも、ビローデアさんに貰った鞄ではなく通学カバンだ。
『え……? なに、オレ……え!?』
『オーイ。どしたん、お前さん本当に置いてくよーん』
ハッとして目の前を見れば、そこにいた人たちを見て思わず自転車を支えるのも忘れて倒してしまった。何故か顔が見えないものの……そこにいたのは自分と小学生の頃から連んできた三人の仲間たちだった。
そして、
『多々良場。具合でも悪いのか?』
自分と同じ黒髪黒目のくせに高身長で、なんだってそつなくこなせる頼もしい親友。後ろから倒してしまった自転車を直して笑うのは、唯一顔がハッキリとわかる親友。それを見て、堪えて来た何かが壊れるように涙が止まらなくって彼のお腹に突っ込むように突進した。
『いやー、多々良場が暑さで暴走したかと思ったわ。でもマジで大丈夫かー?』
『なんかちょっと顔赤くね? 飲みかけで良かったら俺のお茶飲むかね』
顔が見えない仲間たちが心配する中、散々揶揄われたオレはすっかり小さくなって仲間から貰ったお茶を飲む。隣を歩く唯一顔が見える親友に自転車を持ってもらい、とぼとぼと歩き出す。
『ありがと……。なんか、夢でも見てた気分で』
『俺知ってる、それ白昼夢じゃん! しっかり寝ろよー。お前の大切な成長期なんだぞぉ』
うるせぇ、と小さな声で言えば仲間たちが大爆笑する。平和な世界で絶えず笑い声が飛び交う幸せな世界。
隣で一緒に歩いてくれる親友も楽しそうに笑って、オレたちの下校はいつだって騒がしい。
なんでコイツだけ、顔が見えるんだ? みんなの顔はモヤがかかったように見えないのに。不思議だなと思いながらもみんなと歩き出す。
『でも体調悪いならちゃんと言えよ? 暑いしどっかファミレスでも寄るか』
『良いかもな。多々良場も休んでもう少し水分と塩分摂った方がいいだろうし。まぁ一番小っちゃいから誰でもおんぶしてやれるけどな!』
『よーし、押し潰してくれるわテメェら!!』
男のギャーギャーという騒がしい声が河川敷に響き渡り、なんとも暑苦しい夏の一日。他愛無い雑談に学校での出来事。下らない問答に昨日見たテレビの話。全部全部、まだ終わらないと思っていた。
……なんでオレ、死んだんだろう。
『……ごめん。オレ……忘れ物あるから、一緒に行けねぇわ。先行っててくれるか?』
振り返った仲間たちの顔は、見えないまま。みんな暫く黙っていたけど一人が道の先を指差した。
『良いのか? お前のお袋さんたちも心配してるぞ。いっぱい辛い思いして、悲しんで、痛い思いも何度もしただろ。
それでも、行くの? またお前……痛い思いするかもしんねーのに?』
道の先に待つ、薄っすらと見えるシルエット。覚えがあるその人影に涙を流しながらも、うんと頷いて一歩後ろに足を引く。
『そっか。じゃあ……大丈夫だな。
先に行ってるから、ゆっくり来いよな』
バイバイ、と言って手を振る三人。顔は見えないけど、きっと笑顔なんだろうと思うとまた涙が止まらなくなった。自転車を持つ親友を見れば、彼もオレの肩を叩いて眩しいくらいの笑顔で見送ってくれる。
無言のまま振り向いて、その先を指差す彼に頷き……オレは駆け出した。
『ありがとう、みんなっ……最後に会えて本当に嬉しかった!!
今まで、ありがとうっお前ら全員大好きだよ、マジで!! ……っ、さようなら』
もう一緒に帰る場所は、この世界にはない。オレにまだあの世界に留まれる資格があるなら、オレの帰る場所はもう一つしかない。
あの人のいる場所に、帰りたいっ……!
『アイツ、ちゃんと帰れた?』
『ん。行ったな。……あーあ、一緒に帰りたかったけど、多々良場が決めたんなら仕方ないか』
『好きな人が出来たみたいだぞ? アイツ中々ロマンチストな野郎だな』
『愛かぁ、そっかー。確か王子様だろ? メルヘンだな。いつからアイツお姫様になったんだ』
『いやいや、守護者だからお姫様ってより従者とか騎士だよな。ナイト様ってか? ……なんかお姫様のが似合ってね?』
『本当にな。次はこんなとこまで来るような怪我をしないでほしいんだがな』
『それな。次来たら問答無用でお持ち帰りしようぜ、お前ら』
『黒鬼、行こうぜ』
『ああ。楽しかったな、アイツに会えて』
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