いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう

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ドッキリ大成功

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 双子が仕出かした悪戯。そしてまんまとハマった? らしいボス。更にはオチを完全に放棄した奴等によって大変なことになっている。

 …え? これ、は…どうすりゃ良いんだ? オイせめて【ドッキリ大成功】の看板くらい用意しとけよ。

『宋平っ、すまねェ…もう大丈夫だ、怖かったろ? っ本当にすまねェ』

『ぼ、ボス…俺は平気。なんともないよ』

 すっぽりとボスに覆われるように抱きしめられて顔に手を置いたままなのを良いことにそっと心臓に近付かれないよう距離を取る。
 
『ンなわけあるかっ…! 安心しろ、どんなことをされたとしても俺が責任取ってやる。目も俺のをやる、だから大丈夫だ』

『え!?!』

 目?! い、移植…って完全にボスが俺がなんかされた後だと勘違いしてる! おいおい、双子の悪ふざけタチ悪いぞ?

 しかしここで、ちょっとした悪戯心が芽生える。最初で最後の悪ふざけ…一度だけ。一度だけだからと、目の前の人を試すようなことをした。

『本当? 責任って、例えば…?』

 若干上擦った声に棒読みの台詞。自分でも頭を抱えたくなるレベルだが内容が気になっているのは確かだ。

 静かに耳を澄ませるとしっかり俺を抱きしめたボスが喋り出す。

『安心しろ。幾らでも金は出してやる、必ず元通りになるよう何度だって治せる。だからお前は何も心配しなくて良い』

 …あー。うーん、なるほど…世の中はそんなに甘くねぇんだ。

 確かに誠意ある対応だがなんだかとても、残念な気分だ。聞きたかった言葉じゃない。もっとこう医術的な力じゃなくて、ほら…ね?

 例えば…もっと物理的なさ。なんならこう、愛の力寄りな…ね?

『普通の生活ができるようにしてやる。約束する』

 その言葉を聞いて自分が想う感情と、ボスが抱くものは違うのだと痛感した。自分の懐に入れた兄弟分を大切にしてくれるんだ。

 俺は、初めて恋をしていた。どうしようもなく惹かれて初めて得る感情ばかり。同じ気持ちなのではないかと自惚れていた。

 でもやっぱり貴方は俺なんか、眼中にないんだ。

『残念ですがその約束には応じられません』

 好きだった。きっと、許されない恋だった。いやマジで。

 どこの世界に平和と秩序を守るはずのバランサーがヤクザのボスに恋をする。世界中から石を投げられそうだ。

 …だけど。貴方を好きだった時間は世界で一番幸せな時だった。それだけは嘘じゃない。嘘で塗り固められた俺の人生で、それだけは…譲れない。

 終わりにしよう。蓋をしよう。

 いつも通りの嘘を吐こう。ボタン一つで切り替わる俺の性別、それくらい簡単に…この気持ちだって切り替えれるんだ。

『お金は大切なんですよ? 俺に使うことはありません。

 ってことで、ばぁ!! ドッキリ大成功!!』

 叫び声と共に両手を上げて万歳のポーズをしてニッコニコの笑顔の俺。目の前にいるボスはしっかり五体満足な上に両目もバッチリ揃った俺を見て目を丸く見開き少しポカンとしている。

 少し幼さの残る顔を堪能してからボスの手を握る。

『ごめんなさい。双子の悪戯みたいで、俺のことを少し脅かしたかっただけみたいなんです。ちゃんと止められなくてすみません』

『悪戯だァ…?』

 ビキリ、とボスの額に青筋が浮かぶ。ギリっと奥歯を噛む仕草から今はいない双子に対する怒りが天元突破してしまったらしい。

『あんまり怒らないであげてください。あれで心配して汚れ役を買ってくれたみたいなんです。お仕事でもないのに、わざわざそんなことをしてくれるくらいには気にかけてくれてたんですね』

 嬉しいです、と告げればボスは未知の生物を見たような顔をして俺の髪を耳に掛ける。

『…宋平、俺ァ…』

『わかってますよ。ボスはあの双子に何も命令してない。してたら今頃俺は生きてませんよ、あの二人はちゃんと貴方の命令に忠実ですし!』

 笑いながらそう答えればボスは少し切なそうに眉を顰めてから視線を逸らす。命令だと言われればあの二人はすぐに応じていたから、間違いない。

『さぁて帰りましょうか。そろそろ帰らないと家族に怒られちゃいます』

 ただでさえ延長していると言って心配させてるのに、これ以上帰宅が遅れると本格的に兄ちゃんが暴れてしまう。

 バイトすることもあんまり肯定的じゃなかったもんなぁ。

『待て、宋平。送って行くから…』

『いえ平気です。心配した兄たちが駅まで迎えに来ると思うので電車で帰ります』

 これは本当だ。遅くなって今から帰ると連絡すると大体兄ちゃんは駅まで迎えに来ようとする。

 ボスが掴もうとした手をスルリと躱して手を後ろに組むと笑顔で何も悟らせないようにして扉まで小走りで向かう。

『ボスもわざわざお仕事の手を止めて来てくれたんですよね? 俺は大丈夫だから戻って下さい』

『おい。送るってンだろ、良いから…』

 一緒にいたくない。辛くなるから。

 これ以上貴方とのキラキラ光るばかりの思い出が増えてしまったら、今度こそ俺の目は潰れてしまう。思い出ばかりに縋って何も見えなくなる。

『…もう。ボスは俺のこと小さな子どもだと思ってますね、全く。

 ボスを救った経験がある男ですよ、俺は! だから大抵のことは大丈夫なんです。それじゃあお先に失礼しまーす! おやすみなさいボスー!』

 扉の片側を引っ張って外に出たと同時に走り出す。お店にお邪魔しました、と挨拶を残して眩しい繁華街を駆け抜ける。すぐに駅に到着すると何食わぬ顔で改札を通り電車に乗ることに成功した。

 電車の中でぼんやりと今日を振り返って、漸く気付いた。

『ぁ。俺…今日、失恋したのか…』
 
 許嫁が出来てから恋を自覚するなんて、あまりにも鈍過ぎる。自覚してからのトキメキがなくなるのエゲつなく早い。強制終了だ。

『最悪だぁ』

 思わず鞄に顔を押し付けてしまう。あまりにも救いようがなくて涙すら出ない。

 いやこれ、もうさっき出し切ったのか。この状態で三年とかキツいな。俺が勝手に借金移して勝手に恋をしただけなんだけど。

 …でも、良かった。例え兄弟とか仲間の枠組みでもピンチの時は迎えに来てくれた。

『はぁ…、辛過ぎる…無理』

 その微妙な優しさが一番堪えるんだよチクショー。

 自宅の最寄駅に着く頃には夜八時になってしまった。それもこれも双子のせいだと最後には蜘蛛の子を散らすように去った諸悪の根元を恨む。

 真っ暗な帰宅路を見つめて、とある柱に背中を預ける人物を見つけた。よく見ればそれは長兄である創一郎に他ならない。

『兄ちゃん…!』

 兄ちゃんを呼んで駆け寄ると向こうも俺に気付いたようで手を振る。

『おかえり。あんまり遅くなったらダメだぞ、宋平。まぁ今回は交代の子が風邪引いたんだっけ。お前も気を付けろよー?』

『ただいま。もう、わかってるって。もしかして車? えーどっか寄ってよ兄ちゃん!』

『んー? ダメダメ。蒼士が夕ご飯作っておいてくれてるから。それに兄ちゃんシューアイス買っといたからそれ食べてくれ』

 アイス…!!

 大好きなアイスにテンションが上がるも、やはりご飯を目の前にすると食欲がなくなって折角のシューアイスも後日にした。兄さんは朝ごはんにすれば良いと体調を気遣ってくれたし、兄ちゃんも疲れているんじゃないかと心配してくれた。

 その日はすぐにお風呂に入って寝る。

 ベッドに入ると嫌でも思い出す。忘れるように布団に潜って目を閉じたけど、中々寝付けずやっと寝れたかと思えば泣きながら目を覚ます。

 その日。

 三男の蒼二は家に帰らず、そんな日々が何日か続くことになる。大学生だし珍しいことではない。だけど、用事も伝えず連絡もなし。双子の兄である蒼士は大学ですら姿を見なかったと言う。

 久しぶりに家に帰った蒼二は随分とやつれていて、オシャレで綺麗好きだったはずが何日も前に着ていた服をそのまま着ていたり。

 双子同士で怒鳴り合い、またいなくなりと…そんな日が何日か続き俺が仲裁に入ると蒼二はこれ以上にない声を上げて俺を拒んだ。

『お前は入って来るな! お前はっ…そうやって何かあるとすぐにバランサーの権能を使って俺たちを操ろうとするんでしょ?!

 権能…? 嫌になるっ、俺たちにまでそんなの使おうなんてどうかしてるよ!!』

 平和と秩序を保つのがバランサー。

 あらゆる力を持ち、権能と呼ばれる絶対の力を持つが万能過ぎる力は…やがて孤独を呼ぶ。

 人と距離を置きたかった。

 いつか自分がバランサーだとバレて

 ののしられ、うとまれ、拒絶される。

 そんな未来が怖くて…怖くて。だから必死に権能を磨いた。決して無意識で使わないように。決して乱用しないように。

 だから制御できる。使っていない。

 でも、

 …本当に相手は、俺自身を見て…仲良くなってくれたのか。

 それを考えるともう

 ダメなんだ。


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