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招待したい人
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『それでは我が三組の学園祭の出し物は、スタンプラリーに決定しました。次はスタンプラリーの景品について話し合いまーす』
進行役のクラスメートが学園祭の出し物について司会をする中、俺は以前の違和感についてずっと考えていた。
大型ショッピングモールの爆破は、ガス漏れが原因の事故だと発表され被害もあったが人的被害はなし。多少封鎖はされたが一週間もすると通常通りの運営を再開した。
勿論、ガス漏れが原因ではない。
『過激派ってマジで過激なんだな』
ボソッと呟いた言葉は誰に拾われることもない。未だ膨れた頭のコブ。ぼんやりと思い出すのは、あの時の月見山羽魅の動きについて。
爆破が起こる前に退避した上に彼は…どこかに電話をしていたんじゃないかと思う。トイレで何か言ってストレス発散…、とかではなく誰かに電話をしていたならトイレに入ったのにも納得がいく。
聞かれたくないからだ。
『スタンプラリーの景品について一人一つ、アイディアを募集します。はい、紙配るよー』
アイディア?
回ってきた紙を受け取るとなるべく低予算、と黒板に書かれている。なるほど…と思いながら紙にアイディアを書いて一番後ろの俺が列のを回収して進行役に渡す。
どうやら低予算ですぐ出来るものは大体採用されるらしい。
『スタンプラリー参加の招待券も配ります。一グループで一枚、家族以外にも配りたい人は追加の招待券渡すので手を挙げてください。招待券は当日分を配って終了したら終わりです』
今回の学園祭には兄たちが参加する。だけど、もしかしたら…という気持ちを込めて手を挙げると二枚目の招待券を貰う。
当日の配置やグループ分けをして解散した。一年生は比較的簡単な催しが多いから準備も楽だ。
『学園祭?』
学校終わりにバイトへと赴くと、今日のペアである猿石が俺が渡したスタンプラリーの招待券を受け取り不思議そうな顔をしている。
『そう。アニキ、体育祭は殆ど来れなかったでしょ? だから学園祭は時間空いたら来てほしいなって。兄ちゃんたちは午前中に来るし、もしも鉢合わせしてもアニキなら大丈夫だから』
『行く!! 絶対行く!』
食い気味にそう言って招待券を空に掲げる猿石。まるで宝物のように大事に持って、何処に仕舞うか頭を悩ませている。
『着いたら連絡してくれたら迎えに行くよ。ちゃんと前みたいに変装してな?』
『…ん? これ、オレしか貰ってねーの? ボスたちの分ねぇなら渡すけど…』
若干嫌そうに言う猿石だが、招待券を預けるのは猿石のみだ。
『多分その日、月見山家とのデートの仕切り直しの日だからさ…。アニキはまたお留守番でしょ? 皆が帰って来たらチラっと寄りに来てよ』
『え…』
実は学園祭の出し物が決まって伝えようとしたところ、刃斬と犬飼の会話から丁度その日にデートの仕切り直しの日取りが向こうから提示されたという。
土曜日だし、仕方ない。肝心の土曜日の護衛は学校の予行演習があるからと断ってしまった。だから今回の護衛には猿石以外の幹部が総動員される。
『もしかしたらアニキも来れないかな…。そうだったらごめんね、仕事だから仕方ないのに』
『…いや行くけど。
宋平…、それ多分ボスに言った方が良いぞ』
猿石に手を引かれて近くの公園に入り、ベンチに座るように言われて一緒に座った。もう秋だというのに猿石は半袖で夏と装いが変わってない。
『でも、どうせ来れないし…。それにわざわざ俺の学校の行事に毎回来てもらうなんて変じゃん。まぁ、体育祭は何故か来賓だったけど』
『一応学園祭です、てのは伝えた方が良いぞ。オレも昔よくそんな感じで報告だの連絡だのサボって、アイツらにめっちゃドヤされたし』
…一理ある。先人の教えは大切だ。
『それにソーヘー、この前もスゲー活躍したんだろ? そのソーヘーがいねーんなら戦力ダウンじゃん。予定見直す良い機会かもしんねーぞ』
なんだこのアニキ、今日は正論しか言わないな?
確かに猿石の言う通り前回の羽魅の一件もあり少し不安だ。自分がいればバランサーとして補える部分もあるかもしれない。
『な? オレも一緒に言ってやるからさ、行こうぜ。ダメって言われたしょーがねーよ。オレは絶対行ってやるからさ、な?』
『…ん。わかった…、なんか今日のアニキ凄くお兄ちゃんみたいだ。頼もしいね?』
『当たり前だろ。オレはいつだってソーヘーの兄貴分なんだからな! ほら、行くぞ!』
嬉しそうにベンチから立ち上がった猿石に手を差し伸べられ、それを握る。一緒に歩いていると隣にいる存在がとても頼り甲斐があって、嬉しかった。
道中で羽魅の不可思議な動きを言うべきか、迷う。
…もしも。もしも、これを言って婚約が破棄されたらどうしたら良いのか。ボスが弐条会のトップに立つ為に交わされた契約。こんな曖昧なことを話して疑心暗鬼になり、双方の仲に何かあったら。
それは、ダメだ…。だってボスは弐条会のトップに立つんだ。その為に結婚は必須。
…もう少し、証拠とか集めてからにしよう。
『あれ。犬飼さんだ』
『だな』
アジトに辿り着くと丁度、犬飼が何か荷物を持ってロビーに入るところだった。猿石と一緒に彼の元に行くと結構な荷物を抱えていたので手伝おうとしたら全て猿石が横から掻っ攫ってくれる。
『ありがとう、アニキ』
『全然! …テメェの為じゃねーぞ。ソーヘーに重いもんなんか一グラムだって持たせねー! まぁ、これくらいちっとも重たくねーけどな!!』
『あーはいはい。世界一需要のないツンデレをありがとよ』
やれやれ、と肩を回す犬飼がボスのフロアのエレベーターを呼び出す。三人で乗ると猿石の持つ荷物の正体に気付いた。
『これ、もしかしてクリーニングですか?』
『そうそう。ふっふっふ、本当はそのまま捨てるはずだったんだけど…気が変わったみたいでさ』
少しだけファスナーが開けられると、そこにあったのはデート爆破事件で着ていたキャラメル色のスーツだ。美味しそうな色だったから、よく覚えてる。
『捨てる? 古くなったから、とか…? でも新品な感じだったような』
『うん、殆ど着てないよ。…うふ。ボスもわかりやすいよねぇ』
いや全然わかんないですけど?
『怪我はもう大丈夫? 頭だったからね、皆かなり心配してたんだよ』
『はは…、頭は止めろって先生に説教されちゃいました。でも平気ですよ。コブは残ってるけど』
どれどれ、と確認する犬飼と一緒に猿石まで触ってくる。ポコっと膨らんだそれを発見した猿石は痛い? と心配そうに聞いてきたが痛みはないのだ。
『はい、到着。ワタシはスーツ干して来るから先行ってて。貰ったお菓子あるから、後で食べるよ』
終わったらお菓子。
終わったらお菓子。
そう自分に言い聞かせて歩き出すと、猿石が俺の手に招待券を握らせた。
『自信持て。ソーヘーが一番に招待したい奴に渡すもんだろ? まぁ、実際はオレが一番だったのは内緒な!』
『…うん。内緒な!』
二人で笑い合ってボスの元へ行くと、そこにはいつも通り書類に目を通すボスに近くの棚で作業をする刃斬。そしてお茶を淹れてきた覚の姿。
『ん? なんだ、お前らか。報告ならさっきメールで受け取ったぞ。改まってなんだ』
刃斬にそう言われてから、取り敢えず学園祭のお知らせという日付などが書かれたプリントをボスに手渡す。無言でそれに目を通すボスの椅子の後ろに刃斬と覚が集まって、二人が先にギョッと目を見開く。
ボスは無表情のまま、プリントから目を離して俺の方を向いた。
『…あの…、その。実は例の日、本当は予行演習じゃなくて本番なんです。学園祭と日取りが被ってて…でも、俺の学校の催しに毎回来てもらうのも負担かと、思って…黙ってました』
ボスの目が見れなくて、俯いたままスニーカーの爪先の部分を見つめる。
『でも。本当は、最初から…皆に来てほしかった。最初から…招待券は二グループ分、貰ってて。体育祭の時、凄く楽しかったから。だから、また来てほしくて…
アニキに言われたんです』
今度は招待券をしっかりと持ち、差し出す。この気持ちに偽りなどないと。それが伝わってほしいと願いを込めて目を見た。
『招待したい人に、あげろって』
そう言った瞬間。目の前に座る人と初めて、目が合ったような気がした。
『…っ遅くなってごめんなさい! でもボスと、皆にも来てほしいっ! 時間が空いたらで、良いから…来て、ください』
どんどん萎む語尾に、静か過ぎるフロア。五人と遠くにもう一人いるのに物音一つしない。招待券を握る手が震え始めてやはり受け取ってくれないかと手を引こうとした時。
そっと招待券が手から引き抜かれて、パッと顔を上げる。そこには機嫌良さげなボスが小さな招待券を眺めていた。
わ、笑ってる…?!
『刃斬』
『はい。なんでしょうか、硬質ケースでしたらこちらに』
いや、どっから出した?
刃斬から受け取ったケースに招待券を入れると、それを机の一番目立つ場所に飾ってから再び刃斬を呼ぶ。
『予定の調整だ。先方には予定が入ったから変更するように連絡を入れろ。
…年に一度の招待だ。受けねェわけにはいかねェ』
『御意。至急連絡を入れます』
刃斬がスマホを持って席を外すのを見送ると、いつの間にか椅子から離れたボスが俺のすぐ後ろにいた。ビックリして肩を揺らすと、そのままソファまで連れて行かれてボスの膝に座らされ…優しく頭を触られる。何かを探すような手付きで触られ、先程も話題に出したコブに触れると一際丁寧に撫でられた。
『ったく。そういうことは遠慮してねェで言うだけ言え。
有り難く受け取る。必ず行くから、良い子で待ってろ』
ボスの言葉に嬉しくて何度も頷く。夢みたいで、本当に嬉しい。だって絶対無理だと思ったのに。
よし…、今年の学園祭! 頑張らないと!
『全然オレの出番ねーし。普通に大丈夫じゃん。イヌー。菓子まだー?』
『バカ! まだ良い雰囲気なんだから黙ってろ猿が!!』
…この騒がしさは間違いなく夢じゃないな。
.
進行役のクラスメートが学園祭の出し物について司会をする中、俺は以前の違和感についてずっと考えていた。
大型ショッピングモールの爆破は、ガス漏れが原因の事故だと発表され被害もあったが人的被害はなし。多少封鎖はされたが一週間もすると通常通りの運営を再開した。
勿論、ガス漏れが原因ではない。
『過激派ってマジで過激なんだな』
ボソッと呟いた言葉は誰に拾われることもない。未だ膨れた頭のコブ。ぼんやりと思い出すのは、あの時の月見山羽魅の動きについて。
爆破が起こる前に退避した上に彼は…どこかに電話をしていたんじゃないかと思う。トイレで何か言ってストレス発散…、とかではなく誰かに電話をしていたならトイレに入ったのにも納得がいく。
聞かれたくないからだ。
『スタンプラリーの景品について一人一つ、アイディアを募集します。はい、紙配るよー』
アイディア?
回ってきた紙を受け取るとなるべく低予算、と黒板に書かれている。なるほど…と思いながら紙にアイディアを書いて一番後ろの俺が列のを回収して進行役に渡す。
どうやら低予算ですぐ出来るものは大体採用されるらしい。
『スタンプラリー参加の招待券も配ります。一グループで一枚、家族以外にも配りたい人は追加の招待券渡すので手を挙げてください。招待券は当日分を配って終了したら終わりです』
今回の学園祭には兄たちが参加する。だけど、もしかしたら…という気持ちを込めて手を挙げると二枚目の招待券を貰う。
当日の配置やグループ分けをして解散した。一年生は比較的簡単な催しが多いから準備も楽だ。
『学園祭?』
学校終わりにバイトへと赴くと、今日のペアである猿石が俺が渡したスタンプラリーの招待券を受け取り不思議そうな顔をしている。
『そう。アニキ、体育祭は殆ど来れなかったでしょ? だから学園祭は時間空いたら来てほしいなって。兄ちゃんたちは午前中に来るし、もしも鉢合わせしてもアニキなら大丈夫だから』
『行く!! 絶対行く!』
食い気味にそう言って招待券を空に掲げる猿石。まるで宝物のように大事に持って、何処に仕舞うか頭を悩ませている。
『着いたら連絡してくれたら迎えに行くよ。ちゃんと前みたいに変装してな?』
『…ん? これ、オレしか貰ってねーの? ボスたちの分ねぇなら渡すけど…』
若干嫌そうに言う猿石だが、招待券を預けるのは猿石のみだ。
『多分その日、月見山家とのデートの仕切り直しの日だからさ…。アニキはまたお留守番でしょ? 皆が帰って来たらチラっと寄りに来てよ』
『え…』
実は学園祭の出し物が決まって伝えようとしたところ、刃斬と犬飼の会話から丁度その日にデートの仕切り直しの日取りが向こうから提示されたという。
土曜日だし、仕方ない。肝心の土曜日の護衛は学校の予行演習があるからと断ってしまった。だから今回の護衛には猿石以外の幹部が総動員される。
『もしかしたらアニキも来れないかな…。そうだったらごめんね、仕事だから仕方ないのに』
『…いや行くけど。
宋平…、それ多分ボスに言った方が良いぞ』
猿石に手を引かれて近くの公園に入り、ベンチに座るように言われて一緒に座った。もう秋だというのに猿石は半袖で夏と装いが変わってない。
『でも、どうせ来れないし…。それにわざわざ俺の学校の行事に毎回来てもらうなんて変じゃん。まぁ、体育祭は何故か来賓だったけど』
『一応学園祭です、てのは伝えた方が良いぞ。オレも昔よくそんな感じで報告だの連絡だのサボって、アイツらにめっちゃドヤされたし』
…一理ある。先人の教えは大切だ。
『それにソーヘー、この前もスゲー活躍したんだろ? そのソーヘーがいねーんなら戦力ダウンじゃん。予定見直す良い機会かもしんねーぞ』
なんだこのアニキ、今日は正論しか言わないな?
確かに猿石の言う通り前回の羽魅の一件もあり少し不安だ。自分がいればバランサーとして補える部分もあるかもしれない。
『な? オレも一緒に言ってやるからさ、行こうぜ。ダメって言われたしょーがねーよ。オレは絶対行ってやるからさ、な?』
『…ん。わかった…、なんか今日のアニキ凄くお兄ちゃんみたいだ。頼もしいね?』
『当たり前だろ。オレはいつだってソーヘーの兄貴分なんだからな! ほら、行くぞ!』
嬉しそうにベンチから立ち上がった猿石に手を差し伸べられ、それを握る。一緒に歩いていると隣にいる存在がとても頼り甲斐があって、嬉しかった。
道中で羽魅の不可思議な動きを言うべきか、迷う。
…もしも。もしも、これを言って婚約が破棄されたらどうしたら良いのか。ボスが弐条会のトップに立つ為に交わされた契約。こんな曖昧なことを話して疑心暗鬼になり、双方の仲に何かあったら。
それは、ダメだ…。だってボスは弐条会のトップに立つんだ。その為に結婚は必須。
…もう少し、証拠とか集めてからにしよう。
『あれ。犬飼さんだ』
『だな』
アジトに辿り着くと丁度、犬飼が何か荷物を持ってロビーに入るところだった。猿石と一緒に彼の元に行くと結構な荷物を抱えていたので手伝おうとしたら全て猿石が横から掻っ攫ってくれる。
『ありがとう、アニキ』
『全然! …テメェの為じゃねーぞ。ソーヘーに重いもんなんか一グラムだって持たせねー! まぁ、これくらいちっとも重たくねーけどな!!』
『あーはいはい。世界一需要のないツンデレをありがとよ』
やれやれ、と肩を回す犬飼がボスのフロアのエレベーターを呼び出す。三人で乗ると猿石の持つ荷物の正体に気付いた。
『これ、もしかしてクリーニングですか?』
『そうそう。ふっふっふ、本当はそのまま捨てるはずだったんだけど…気が変わったみたいでさ』
少しだけファスナーが開けられると、そこにあったのはデート爆破事件で着ていたキャラメル色のスーツだ。美味しそうな色だったから、よく覚えてる。
『捨てる? 古くなったから、とか…? でも新品な感じだったような』
『うん、殆ど着てないよ。…うふ。ボスもわかりやすいよねぇ』
いや全然わかんないですけど?
『怪我はもう大丈夫? 頭だったからね、皆かなり心配してたんだよ』
『はは…、頭は止めろって先生に説教されちゃいました。でも平気ですよ。コブは残ってるけど』
どれどれ、と確認する犬飼と一緒に猿石まで触ってくる。ポコっと膨らんだそれを発見した猿石は痛い? と心配そうに聞いてきたが痛みはないのだ。
『はい、到着。ワタシはスーツ干して来るから先行ってて。貰ったお菓子あるから、後で食べるよ』
終わったらお菓子。
終わったらお菓子。
そう自分に言い聞かせて歩き出すと、猿石が俺の手に招待券を握らせた。
『自信持て。ソーヘーが一番に招待したい奴に渡すもんだろ? まぁ、実際はオレが一番だったのは内緒な!』
『…うん。内緒な!』
二人で笑い合ってボスの元へ行くと、そこにはいつも通り書類に目を通すボスに近くの棚で作業をする刃斬。そしてお茶を淹れてきた覚の姿。
『ん? なんだ、お前らか。報告ならさっきメールで受け取ったぞ。改まってなんだ』
刃斬にそう言われてから、取り敢えず学園祭のお知らせという日付などが書かれたプリントをボスに手渡す。無言でそれに目を通すボスの椅子の後ろに刃斬と覚が集まって、二人が先にギョッと目を見開く。
ボスは無表情のまま、プリントから目を離して俺の方を向いた。
『…あの…、その。実は例の日、本当は予行演習じゃなくて本番なんです。学園祭と日取りが被ってて…でも、俺の学校の催しに毎回来てもらうのも負担かと、思って…黙ってました』
ボスの目が見れなくて、俯いたままスニーカーの爪先の部分を見つめる。
『でも。本当は、最初から…皆に来てほしかった。最初から…招待券は二グループ分、貰ってて。体育祭の時、凄く楽しかったから。だから、また来てほしくて…
アニキに言われたんです』
今度は招待券をしっかりと持ち、差し出す。この気持ちに偽りなどないと。それが伝わってほしいと願いを込めて目を見た。
『招待したい人に、あげろって』
そう言った瞬間。目の前に座る人と初めて、目が合ったような気がした。
『…っ遅くなってごめんなさい! でもボスと、皆にも来てほしいっ! 時間が空いたらで、良いから…来て、ください』
どんどん萎む語尾に、静か過ぎるフロア。五人と遠くにもう一人いるのに物音一つしない。招待券を握る手が震え始めてやはり受け取ってくれないかと手を引こうとした時。
そっと招待券が手から引き抜かれて、パッと顔を上げる。そこには機嫌良さげなボスが小さな招待券を眺めていた。
わ、笑ってる…?!
『刃斬』
『はい。なんでしょうか、硬質ケースでしたらこちらに』
いや、どっから出した?
刃斬から受け取ったケースに招待券を入れると、それを机の一番目立つ場所に飾ってから再び刃斬を呼ぶ。
『予定の調整だ。先方には予定が入ったから変更するように連絡を入れろ。
…年に一度の招待だ。受けねェわけにはいかねェ』
『御意。至急連絡を入れます』
刃斬がスマホを持って席を外すのを見送ると、いつの間にか椅子から離れたボスが俺のすぐ後ろにいた。ビックリして肩を揺らすと、そのままソファまで連れて行かれてボスの膝に座らされ…優しく頭を触られる。何かを探すような手付きで触られ、先程も話題に出したコブに触れると一際丁寧に撫でられた。
『ったく。そういうことは遠慮してねェで言うだけ言え。
有り難く受け取る。必ず行くから、良い子で待ってろ』
ボスの言葉に嬉しくて何度も頷く。夢みたいで、本当に嬉しい。だって絶対無理だと思ったのに。
よし…、今年の学園祭! 頑張らないと!
『全然オレの出番ねーし。普通に大丈夫じゃん。イヌー。菓子まだー?』
『バカ! まだ良い雰囲気なんだから黙ってろ猿が!!』
…この騒がしさは間違いなく夢じゃないな。
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