9 / 25
第2×
買わせてください
しおりを挟む
ルチアは、毎朝5時に起きて1升の米を研ぐ。
大きなタライに冷たい水を入れて、手で米をかき混ぜる。
透明だった水が白く濁り、米粒が徐々に透き通ってくる。
濁った研ぎ汁は捨てずに、重いタライを持ち上げて足元のバケツに移す。
米一粒でも無駄にすると、義母に怒鳴られる。
慎重に、でもできるだけ早く。
結婚後、彼の家に嫁ぎ、彼の家族と一緒に暮らす事になった。
作らないといけない食事は、彼の分だけではない。義祖父母、義両親、前妻二人の子。毎日8人分の食事を用意しなければならない。
田植えや稲刈りをする繁忙期には、夫がアルバイトを雇う事になっている。
義母から繁忙期は、アルバイトの人の賄をルチアが用意をするように言われた。
冷たい水と、無数の米粒を何度も何度もかき混ぜて、指先が冷え、痛みを感じる。
バケツに入れたコメのとぎ汁は、畑へ運び栽培している野菜に撒く事になっている。
米が研ぎ終わった。
一升用の大きな炊飯窯に、米と水を入れて両手で持ち上げ、炊飯器へ運び入れる。
スイッチを押して時計を確認すると、5時20分を針が示していた。
ルチアは、慌てて米のとぎ汁が入ったバケツを持って、勝手口から外へ向かった。
研ぎ汁が入った重いバケツを運び、畑の片隅に置く。
畑から、ネギと白菜を取り、家へ戻った。
「ルチアさん。食事の用意はまだなの?本当に愚図な嫁だね」
「すみません。お義母さん。今野菜を取ってきたところです。すぐに味噌汁を作りますから」
「私達は、仕事があるの。ずっと家にいる貴方とは違って遅れるわけにはいかないのよ。まったく、いくら孫たちの為に嫁が必要だからってこんな子を連れてくるなんて。本当に見る目がないよ」
ルチアは、痛みをこらえるように俯き、野菜を持ってキッチンへ向かった。
包丁で、収穫したばかりのネギと白菜を切っていく。
水を入れた鍋をコンロに置き、お湯を沸かす。
冷蔵庫から揚げを出し千切りにする。顆粒だしと野菜、揚げを鍋に入れて煮込む。
8個の卵をボウルに割り入れて、箸でかき混ぜる。だし入り醤油を入れ、熱した玉子焼き機に卵液を流しいれた。
ジューーー。ジュワーーー。
流し込まれた卵液は、熱され白い煙と香ばしい音を立てながら所々膨らんでいく。箸で、ふくらみを潰しながら、かき混ぜ、持ち手を持ってひっくり返して形を整える。
何度も、何度も、ただひたすら繰り返し。
洗面所から声が聞こえてきた。
「ルチアさん。まだ洗濯機を回していないの?本当に遅いわね」
「すみません。お義母さん。今手が離せなくて」
「後で、洗っておいてね。早く干さないと乾かないわよ」
「・・・はい」
ルチアは嫁いで、また専業主婦になった。
ルチアの新しい夫は、老いた祖父の後を継ぎ米農家を営んでいる。義両親は、家計を支える為に会社員として働いている。前妻と離婚してルチアが嫁ぐまでの間は、義母が有休を取りながら家事と育児を引き受けていたらしい。ルチアが結婚した後は8人分の家事を全てルチアがこなす事になった。
鍋の火を止めて味噌を入れてかき混ぜる。
卵焼きを切り分け皿に盛り付ける。
子供たちはまだ小さい。先に味噌汁をお椀に入れて冷ましておかなければならない。
広い食卓に、朝食を並べていると、夫と義祖母、義父、二人の子供達が起きてきた。
「おはよう。ルチア」
穏やかに笑う夫は、3歳の息子を抱き上げている。
6歳の娘が、食卓に並んだ食事を見て不満を口にする。
「ええー?また卵焼き?私、もう飽きたよ。毎日一緒だもん」
「ミナ。せっかく、お母さんが作ってくれた料理だよ。そんな事をいうな」
「…おかあさんじゃないもん」
「そうよね。毎日味噌汁と卵焼きばかりだもの。ミナちゃんがそう言うのも仕方がないわ」
ルチアは、食事を並べながら、義母へ頼み込んだ。
「お義母さん。車を貸してくれませんか?食材を買いに行きたいのです。私も子供たちの為に栄養がある物を作るようにしますから」
ルチアの言葉に、義両親と夫が顔を見合わせ困った表情で笑った。
「ルチア。買い物は僕たちがするよ。野菜も米も卵も沢山あるから、好きなだけ使っていいから。他に必要な食材があれば、教えてくれ。僕か母が買ってくるから。」
「でも、食材は自分で選びたいし、他にも必要なものがあるわ。スーパーまで遠くて買い物に行けないから、車があれば、私が、、」
「私の職場の隣にスーパーがあるわ。必要な物があれば仕事終わりに私が買ってきます。いつも通りメモをして渡してちょうだい。」
「…はい」
大きなタライに冷たい水を入れて、手で米をかき混ぜる。
透明だった水が白く濁り、米粒が徐々に透き通ってくる。
濁った研ぎ汁は捨てずに、重いタライを持ち上げて足元のバケツに移す。
米一粒でも無駄にすると、義母に怒鳴られる。
慎重に、でもできるだけ早く。
結婚後、彼の家に嫁ぎ、彼の家族と一緒に暮らす事になった。
作らないといけない食事は、彼の分だけではない。義祖父母、義両親、前妻二人の子。毎日8人分の食事を用意しなければならない。
田植えや稲刈りをする繁忙期には、夫がアルバイトを雇う事になっている。
義母から繁忙期は、アルバイトの人の賄をルチアが用意をするように言われた。
冷たい水と、無数の米粒を何度も何度もかき混ぜて、指先が冷え、痛みを感じる。
バケツに入れたコメのとぎ汁は、畑へ運び栽培している野菜に撒く事になっている。
米が研ぎ終わった。
一升用の大きな炊飯窯に、米と水を入れて両手で持ち上げ、炊飯器へ運び入れる。
スイッチを押して時計を確認すると、5時20分を針が示していた。
ルチアは、慌てて米のとぎ汁が入ったバケツを持って、勝手口から外へ向かった。
研ぎ汁が入った重いバケツを運び、畑の片隅に置く。
畑から、ネギと白菜を取り、家へ戻った。
「ルチアさん。食事の用意はまだなの?本当に愚図な嫁だね」
「すみません。お義母さん。今野菜を取ってきたところです。すぐに味噌汁を作りますから」
「私達は、仕事があるの。ずっと家にいる貴方とは違って遅れるわけにはいかないのよ。まったく、いくら孫たちの為に嫁が必要だからってこんな子を連れてくるなんて。本当に見る目がないよ」
ルチアは、痛みをこらえるように俯き、野菜を持ってキッチンへ向かった。
包丁で、収穫したばかりのネギと白菜を切っていく。
水を入れた鍋をコンロに置き、お湯を沸かす。
冷蔵庫から揚げを出し千切りにする。顆粒だしと野菜、揚げを鍋に入れて煮込む。
8個の卵をボウルに割り入れて、箸でかき混ぜる。だし入り醤油を入れ、熱した玉子焼き機に卵液を流しいれた。
ジューーー。ジュワーーー。
流し込まれた卵液は、熱され白い煙と香ばしい音を立てながら所々膨らんでいく。箸で、ふくらみを潰しながら、かき混ぜ、持ち手を持ってひっくり返して形を整える。
何度も、何度も、ただひたすら繰り返し。
洗面所から声が聞こえてきた。
「ルチアさん。まだ洗濯機を回していないの?本当に遅いわね」
「すみません。お義母さん。今手が離せなくて」
「後で、洗っておいてね。早く干さないと乾かないわよ」
「・・・はい」
ルチアは嫁いで、また専業主婦になった。
ルチアの新しい夫は、老いた祖父の後を継ぎ米農家を営んでいる。義両親は、家計を支える為に会社員として働いている。前妻と離婚してルチアが嫁ぐまでの間は、義母が有休を取りながら家事と育児を引き受けていたらしい。ルチアが結婚した後は8人分の家事を全てルチアがこなす事になった。
鍋の火を止めて味噌を入れてかき混ぜる。
卵焼きを切り分け皿に盛り付ける。
子供たちはまだ小さい。先に味噌汁をお椀に入れて冷ましておかなければならない。
広い食卓に、朝食を並べていると、夫と義祖母、義父、二人の子供達が起きてきた。
「おはよう。ルチア」
穏やかに笑う夫は、3歳の息子を抱き上げている。
6歳の娘が、食卓に並んだ食事を見て不満を口にする。
「ええー?また卵焼き?私、もう飽きたよ。毎日一緒だもん」
「ミナ。せっかく、お母さんが作ってくれた料理だよ。そんな事をいうな」
「…おかあさんじゃないもん」
「そうよね。毎日味噌汁と卵焼きばかりだもの。ミナちゃんがそう言うのも仕方がないわ」
ルチアは、食事を並べながら、義母へ頼み込んだ。
「お義母さん。車を貸してくれませんか?食材を買いに行きたいのです。私も子供たちの為に栄養がある物を作るようにしますから」
ルチアの言葉に、義両親と夫が顔を見合わせ困った表情で笑った。
「ルチア。買い物は僕たちがするよ。野菜も米も卵も沢山あるから、好きなだけ使っていいから。他に必要な食材があれば、教えてくれ。僕か母が買ってくるから。」
「でも、食材は自分で選びたいし、他にも必要なものがあるわ。スーパーまで遠くて買い物に行けないから、車があれば、私が、、」
「私の職場の隣にスーパーがあるわ。必要な物があれば仕事終わりに私が買ってきます。いつも通りメモをして渡してちょうだい。」
「…はい」
246
あなたにおすすめの小説
6年前の私へ~その6年は無駄になる~
夏見颯一
恋愛
モルディス侯爵家に嫁いだウィニアは帰ってこない夫・フォレートを待っていた。6年も経ってからようやく帰ってきたフォレートは、妻と子供を連れていた。
テンプレものです。テンプレから脱却はしておりません。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
嘘の誓いは、あなたの隣で
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢ミッシェルは、公爵カルバンと穏やかに愛を育んでいた。
けれど聖女アリアの来訪をきっかけに、彼の心が揺らぎ始める。
噂、沈黙、そして冷たい背中。
そんな折、父の命で見合いをさせられた皇太子ルシアンは、
一目で彼女に惹かれ、静かに手を差し伸べる。
――愛を信じたのは、誰だったのか。
カルバンが本当の想いに気づいた時には、
もうミッシェルは別の光のもとにいた。
いくつもの、最期の願い
しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。
夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。
そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。
メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。
死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。
【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。
山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。
姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。
そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる