待ってください

仲 奈華 (nakanaka)

文字の大きさ
21 / 25
第4×

広げてください

しおりを挟む
ボストンバックを肩にかけて、ルチアは1年間住んだマンションを後にした。
後ろで、夫と隣人が話す声が聞こえてくる。

「やっと別れたのか。子供の泣き声は酷いし、叩きつける音も聞こえてくる。いくら継子だからといって酷い女だ」

「いつもご迷惑をおかけして申し訳ありません。実は前妻の体調が回復して帰って来てくれる事になりました」

「おお、それはよかったな。あのルチアとかいう女と違って、前の奥さんは穏やかで優しい人だから。安心だよ。こっちは親切で伝えているのに、あの女は逆切れしてくるから別れて正解だよ。」

ルチアは、かすかに聞こえてくる話声から耳を背けるように走り出した。





上手く生活できていると思っていたのに。

今度こそ幸せになれると思っていたのに。

精一杯妻としての役割を果たして来たのに。

どうして、夫も家族も、隣人さえも分かってくれない。

多くは望んでいない。
アクセサリーも、バックもブランド品も買っていない。

慎ましく、できる範囲で工夫をして生活してきたのに。

どうして、、、


最寄りの駅までは、20分歩かなければいけない。普段は車で移動する道路をルチアは一人とぼとぼと歩いて行った。

何がいけなかったのだろう?

ただ、平凡な生活を送りたいだけなのに、どうして上手くいかないのだろう。

どうして、、、



赤や黄色に染まった街路樹から、ヒラヒラと葉が落ちてくる。石畳の地面を黄色や赤の落ち葉が染め上げ、美しいまだら模様の絨毯が遠くまで続いている。

ただ少し相性が悪かっただけだ。

あの人とは縁がなかった。

この無数の落ち葉のように、どれも同じように見えて少しずつ色や形が違う。どれでもいいように思えてそうではない。

彼は、彼の家族は私には合わなかった。ただそれだけだ。

沢山の人が、暮らして生きている。きっといつか私に合う人が見つかる。

だから、それまで、、、

トラック、タクシー、乗用車、配達車が道路をせわしなく進んでいく。駅に近づけば近づくほど沢山の人が流れるように蠢き進んでいく。紅葉が始まっても、毎日世界は回る。やるべきことも、仕事も無数にある。結婚して幸せになる。家族の為に家事をして家を守る。そうしようと思っていたけど、何度も結婚したけれど、幸せになれると思っていたけれど。

だけど、ルチアが望んだはずの結婚は、想像以上に大変で、最後にはパートナーから責められる結果となった。

正直、あんな生活を続けるくらいなら一人で暮らした方がいいと思う。自分の時間がない。いくら家族の為に頑張っても認められない。逆に批判される。私はなにも悪くないのに・・・

少しだけ肌寒い風が、無数の落ち葉を吹き飛ばし、清々しい青空と太陽が灰色の町の窓に反射して、紅黄と光青の世界がルチアの目の前に広がった。

新しい門出を祝福しているかのように。


ルチアは、胸を張り、前を見て一人呟いた。

「働こうかしら」

きっと昨日よりいい生活が待っている。
不本意だけど、彼と別れる事になった。でも、それでよかったのかもしれない。
3年程専業主婦をしていた。3年間のブランクがある。だけどルチアはまだ20代だ。いくらでも仕事はあるはずだ。

ルチアは、落ち葉の絨毯を踏みしめながら、微笑んだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

嘘の誓いは、あなたの隣で

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢ミッシェルは、公爵カルバンと穏やかに愛を育んでいた。 けれど聖女アリアの来訪をきっかけに、彼の心が揺らぎ始める。 噂、沈黙、そして冷たい背中。 そんな折、父の命で見合いをさせられた皇太子ルシアンは、 一目で彼女に惹かれ、静かに手を差し伸べる。 ――愛を信じたのは、誰だったのか。 カルバンが本当の想いに気づいた時には、 もうミッシェルは別の光のもとにいた。

いくつもの、最期の願い

しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。 夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。 そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。 メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。 死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

6年前の私へ~その6年は無駄になる~

夏見颯一
恋愛
モルディス侯爵家に嫁いだウィニアは帰ってこない夫・フォレートを待っていた。6年も経ってからようやく帰ってきたフォレートは、妻と子供を連れていた。 テンプレものです。テンプレから脱却はしておりません。

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく

矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。 髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。 いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。 『私はただの身代わりだったのね…』 彼は変わらない。 いつも優しい言葉を紡いでくれる。 でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。

処理中です...