【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)

文字の大きさ
1 / 11

忘れてください

しおりを挟む
1カ月ぶりに会った夫は険しい表情をしていた。

金髪の髪に青い瞳の整った顔立ちの夫は、結婚しているにも関わらず社交界で未だに人気が高い。

夫のライル・オーガンジス侯爵は、妻のルナリーに一枚の書類を渡してきた。


それは、離婚届だった。

夫は言った。
「ルナリー。今までありがとう。」


その用紙には既に、ライル・オーガンジスの署名まで記入されている。


ルナリーは、以前から分かっていた事だが、酷くショックを受ける。


ルナリーは小刻みに震える手で書類を受け取り、夫へ言った。

「こちらこそ、ありがとうございました。お元気で。」


夫は、ルナリーを見ながら何か言いたそうにしている。


結局、ルナリーは夫へ伝える事ができなかった。


でも、その方が良かったのかもしれない。


夫と久しぶりに対面した応接室のドアの向こうに女性の人影が見える。その女性は聞き耳を立てているようだ。


夫の恋人のメアリージェン。夫と同じ金髪で、緑色の瞳の彼女は、表情豊かでとても美しい。このオーガンジス侯爵家のほとんどの使用人達は、彼女の方が、侯爵夫人に相応しいと言っている。


オーガンジス侯爵家でのルナリーの味方は、実家から連れてきたメイドのアンナだけだった。


夫のライルは、ルナリーに言った。
「ルナリー、もし君さえよければ、、、、、」


その時、タイミングを見計らったかのように、応接室のドアが開き、メアリージェンが入ってくる。
「ライル。会いたかったわ。」

メアリージェンは、妻のルナリーの目の前で、ライルに抱き着き、広く逞しい胸板に顔を埋めた。


夫のライルは、少し罰が悪そうに、メアリージェンの肩を押し離そうとしている。


(もう、私に気を遣う必要な無いのに、、、、)


そんな二人に背を向けて、ルナリーは応接室から出て行った。


(愛していた。誰よりも愛していた。でも、もういいの。解放してあげる。さようならライル。)



私の瞳から一筋の涙が流れ落ちた。



その涙が誰にも気付かれないように、私は自室へ急いで戻った。






しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

あなたの言うことが、すべて正しかったです

Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」  名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。  絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。  そして、運命の五年後。  リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。 *小説家になろうでも投稿中です

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです

睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

もう演じなくて結構です

梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。 愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。 11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。   感想などいただけると、嬉しいです。 11/14 完結いたしました。 11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。

戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました

Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。 「彼から恋文をもらっていますの」。 二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに? 真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。 そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...