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森の奥
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ミラージュは、両手でドレスを持ち上げて、木々の奥へ走って行った。王太子の登場に気を取られてミラージュがいなくなった事に侍女達は暫く気がつかなかったらしい。
暫くして、ミラージュの遥か後ろで、「ルルアーナ様」とギガリア公爵令嬢の名前を呼ぶ数人の声が聞こえてきた。
王太子婚約者候補選別会は、王城の広大な庭園で開催されていた。整備された庭園の奥には森が広がっている。ミラージュは、走りながら、ヒールのついた靴を脱ぎ森の奥へ進んで行った。
もし、ギガリア公爵にミラージュが逃げた事が知られたらどうなるのだろう?あの紫瞳の冷たい男がミラージュを見逃すはずがない。
王太子婚約者候補選別会すら、まともにこなせない紛い物のミラージュがどうなるかなんて考えたくない。
それに、もしミラージュが、王太子婚約者に指名されたとしても、婚約者になるのはルルアーナ公爵令嬢だ。どっちみちミラージュに未来なんてない。
思わず、ミラージュは涙ぐんだ。
母が亡くなってからミラージュはなんとか生き延びてきた。下町の食堂の店主や馴染の客、町の人達に支えながらここまで生きてきたのに、あの温かい場所へ帰る事もできそうにない。
だけど、逃げないと、、、
大樹が太く力強い根を地面に生やし、濃緑の葉が無数に揺れている。
ピジピジピピ
バサバサパサ
鳥らしき声が聞こえ、時折羽ばたきが聞こえる。
ミラージュは、ふと立ち止まった。
ギガリア公爵令嬢を呼ぶ声は聞こえない。暗く鬱蒼とした森の中でミラージュは一人だった。真っ白な絹の靴下は茶色く汚れ、極上のドレスは所々緑の草や種がついている。
周りを見渡すと、頭上には揺れる透き通る黄緑の葉、木々を這い上がる濃緑の蔦、焦茶色の太い幹、行く手を遮るように盛り上がる斑模様の根、かなり森の奥の来てしまったようだ。追っ手はいない。
でも、ここからどうすればいいのか。
もう町にも帰れない。
もうグランにも会えないかもしれない。
ミラージュは、毎月店に訪れるグランを心待ちにしていた。
ただ、グランに会えるだけで良かったのに、、、
座り込み物思いに耽るミラージュの目の間に、真っ黒な猫が現れた。茶眼に黒い毛。亡くなった母も黒髪に茶眼だった。ミラージュは、猫を見つめる。
黒猫は、ミラージュを誘うように、ゆっくりと森の奥へ歩いて行った。
もうどこにも行く場所はない。
ならば、どこへ行ってもいいかもしれない。
ミラージュは、立ち上がり黒猫の後ろをついていった。
暫く進むと、真っ白な建物が見えてきた。離宮の一つらしい。黒兎は堂々とその建物に近づいていく。ミラージュは黒猫の後を歩いていった。
建物の前で、黒猫は急に飛び上がった。
地面から花壇へ移り、大きく蹴り上げて2階のテラスへ前足をかけ上がった。
自由で美しい黒猫に見惚れていたら、ミラージュは急に声をかけられた。
「まあ、どうなさったの?」
ミラージュに声をかけてきた女性は、金髪の中年の女性だった。庭仕事をしていたのか作業着を着て、大きな麦わら帽子を被っている。
「あの、私は、、、、」
私は誰だろう。ミラージュだけど、ここへはルルアーナ公爵令嬢として連れて来られた。だけど、もうルルアーナの身代わりはしたくないし、ギガリア公爵家へ連れていかれるのも嫌だ。
目の前の女性は、穏やかに笑って言った。
「なんだか訳ありかしら。ふふふ。ここにお客様が来るのは久しぶりなのよ。せっかくだからお招きするわ。ようこそ、可愛らしい妖精さん。」
暫くして、ミラージュの遥か後ろで、「ルルアーナ様」とギガリア公爵令嬢の名前を呼ぶ数人の声が聞こえてきた。
王太子婚約者候補選別会は、王城の広大な庭園で開催されていた。整備された庭園の奥には森が広がっている。ミラージュは、走りながら、ヒールのついた靴を脱ぎ森の奥へ進んで行った。
もし、ギガリア公爵にミラージュが逃げた事が知られたらどうなるのだろう?あの紫瞳の冷たい男がミラージュを見逃すはずがない。
王太子婚約者候補選別会すら、まともにこなせない紛い物のミラージュがどうなるかなんて考えたくない。
それに、もしミラージュが、王太子婚約者に指名されたとしても、婚約者になるのはルルアーナ公爵令嬢だ。どっちみちミラージュに未来なんてない。
思わず、ミラージュは涙ぐんだ。
母が亡くなってからミラージュはなんとか生き延びてきた。下町の食堂の店主や馴染の客、町の人達に支えながらここまで生きてきたのに、あの温かい場所へ帰る事もできそうにない。
だけど、逃げないと、、、
大樹が太く力強い根を地面に生やし、濃緑の葉が無数に揺れている。
ピジピジピピ
バサバサパサ
鳥らしき声が聞こえ、時折羽ばたきが聞こえる。
ミラージュは、ふと立ち止まった。
ギガリア公爵令嬢を呼ぶ声は聞こえない。暗く鬱蒼とした森の中でミラージュは一人だった。真っ白な絹の靴下は茶色く汚れ、極上のドレスは所々緑の草や種がついている。
周りを見渡すと、頭上には揺れる透き通る黄緑の葉、木々を這い上がる濃緑の蔦、焦茶色の太い幹、行く手を遮るように盛り上がる斑模様の根、かなり森の奥の来てしまったようだ。追っ手はいない。
でも、ここからどうすればいいのか。
もう町にも帰れない。
もうグランにも会えないかもしれない。
ミラージュは、毎月店に訪れるグランを心待ちにしていた。
ただ、グランに会えるだけで良かったのに、、、
座り込み物思いに耽るミラージュの目の間に、真っ黒な猫が現れた。茶眼に黒い毛。亡くなった母も黒髪に茶眼だった。ミラージュは、猫を見つめる。
黒猫は、ミラージュを誘うように、ゆっくりと森の奥へ歩いて行った。
もうどこにも行く場所はない。
ならば、どこへ行ってもいいかもしれない。
ミラージュは、立ち上がり黒猫の後ろをついていった。
暫く進むと、真っ白な建物が見えてきた。離宮の一つらしい。黒兎は堂々とその建物に近づいていく。ミラージュは黒猫の後を歩いていった。
建物の前で、黒猫は急に飛び上がった。
地面から花壇へ移り、大きく蹴り上げて2階のテラスへ前足をかけ上がった。
自由で美しい黒猫に見惚れていたら、ミラージュは急に声をかけられた。
「まあ、どうなさったの?」
ミラージュに声をかけてきた女性は、金髪の中年の女性だった。庭仕事をしていたのか作業着を着て、大きな麦わら帽子を被っている。
「あの、私は、、、、」
私は誰だろう。ミラージュだけど、ここへはルルアーナ公爵令嬢として連れて来られた。だけど、もうルルアーナの身代わりはしたくないし、ギガリア公爵家へ連れていかれるのも嫌だ。
目の前の女性は、穏やかに笑って言った。
「なんだか訳ありかしら。ふふふ。ここにお客様が来るのは久しぶりなのよ。せっかくだからお招きするわ。ようこそ、可愛らしい妖精さん。」
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