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脱出
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ミラージュは、金属製の突起を指先でつまみ引き出した。
黄銅色の小さな鍵は、夢の中で母が持っていた物だ。
鍵を目の前に持ち上げると、キラリと光り輝いた。
ミラージュは、ゆっくりと、鉄格子のドアへ移動して、鍵を差し込んだ。
ガチャ
鉄格子のドアは簡単に開いた。
鉄格子の外には、誰もいない。
普段は使われていない場所らしく、寂れている。
出口の近くに黒のマントがあり、ミラージュはそれを被った。
石作りの階段を登っていく。重厚感のあるドアをゆっくりと開き、廊下へ出た。
やはり誰もいない。
どうやら今は、真夜中らしく、辺りは暗闇と静けさに包まれていた。
ミラージュは、すぐ側の使用人通路へ侵入した。
足音を立てないように、ミラージュは進んで行く。
夢と同じだ。
設備や内装が変わっている場所もあるが、母がいた時と屋敷の造りが変わっていない。
夜中の筈なのに、どこからかすすり泣く声が聞こえてくる。
ウウウウ、たすけてよ。
ヒックヒック、オカアサン。
ミラージュは、暫く使用人通路を進んでいった。目の前の曲り角を左へ行けば、母が飛び込んだ崖につくはずだ。だけど、泣き声は右側の古ぼけたドアから聞こえてくる。
ミラージュは、右側のドアを開いた。
その部屋には沢山の子供が押し込められていた。
涙を流している子供達が身を寄せ合っている。
ギガリア公爵領は豊かな領地だ。沢山の家族が豊かさを求めてギガリア公爵領へ転居してくる。だが、転居してきた家族の入れ替わりも激しい。夫がいなくなった。子供が攫われた。
町の食堂で、いつも噂になっていた。人攫い盗賊がいると。
(まさか、領主が人攫いをしていたなんて。)
ミラージュは、閉じ込められている子供達に声をかけた。
「大丈夫?ここにはどうして?」
「お姉ちゃん。誰?逃げられるの?」
「お母さんに会いたいよ。」
「捕まったんだ。あっちにお母さんもいる。」
子供達が指さした先には、鉄格子があった。
どうやら閉じ込められているらしい。
持っていた鍵でミラージュは、鉄格子を開けた。
その場は広い牢屋になっている。
ミラージュは、数カ所の鉄格子の鍵を全て開けた。
「おかあさん!」
「ぼうや。よかった。ありがとうございます。」
捕らえられていた人達は一斉に逃げ出した。
屋敷の中は急に騒がしくなっていた。
どうやら、騒ぎに気が付いたらしい。
ミラージュは子供達が捕まっていた牢屋へ帰り、入って来た使用人通路へ戻っていった。
使用人通路を進み、屋敷の裏口にたどり着いた。
夜空には黄金色の満月が輝き、周囲を照らしている。無数の星達がキラキラ輝き、舞い踊っているようだ。目の前の崖は緑の草に覆われている。母はここから飛び降りた。
ミラージュは、母と同じように崖に近づいて行った。
「まて!どこへ行く。」
ミラージュは声を掛けられ後ろを振り返った。
そこには、銀髪の壮年の男性がいた。
屋敷の2階には、ルルアーナが窓からこちらを見下ろしている。
「忌々しい娘だ。お前のせいで、商品がいなくなった。大損害だ。言う通りにすれば、贅沢な暮らしをさせてやったのに。」
ギガリア公爵は、顔を歪めミラージュを睨みつけてくる。
ミラージュはゆっくり後ずさりしながら崖へ近づいていった。
「それは、貴方にとって都合がいい道具になれって事でしょう。いらなくなれば無残に捨てられる事が分かっているのに、貴方に従うわけがないわ。」
「何を言う。お前みたいな者が一時でも贅沢な暮らしができるのだ。感謝し、身を弁えろ。」
ミラージュの後ろは崖になっている。波が崖に打ち付ける音が聞こえてくる。
ザバーーン、ザバーーン。
「完璧なルルアーナの阻害品の癖に、生意気な。」
ギガリア公爵は、ミラージュに近づいてきた。
「完璧?ふふふ。貴方の大事なルルアーナは、妊娠しているのは?青白い顔、乾燥した肌、膨らんだお腹。完璧な娘の体調不良を隠すために医者にさえ隠していたのかしら。大事な娘が聞いて呆れるわ。」
ギガリア公爵は、欺瞞を露わにした表情で屋敷を振り返り、大声を上げた。
「妊娠だと。まさか、ルルアーナ!」
ミラージュは、ギガリア公爵の叫び声を聞きながら、崖から落ちた。
窓からルルアーナが驚愕した表情でミラージュを見ていた。その手は、ミラージュに縋りつくように伸ばされていた。
黄銅色の小さな鍵は、夢の中で母が持っていた物だ。
鍵を目の前に持ち上げると、キラリと光り輝いた。
ミラージュは、ゆっくりと、鉄格子のドアへ移動して、鍵を差し込んだ。
ガチャ
鉄格子のドアは簡単に開いた。
鉄格子の外には、誰もいない。
普段は使われていない場所らしく、寂れている。
出口の近くに黒のマントがあり、ミラージュはそれを被った。
石作りの階段を登っていく。重厚感のあるドアをゆっくりと開き、廊下へ出た。
やはり誰もいない。
どうやら今は、真夜中らしく、辺りは暗闇と静けさに包まれていた。
ミラージュは、すぐ側の使用人通路へ侵入した。
足音を立てないように、ミラージュは進んで行く。
夢と同じだ。
設備や内装が変わっている場所もあるが、母がいた時と屋敷の造りが変わっていない。
夜中の筈なのに、どこからかすすり泣く声が聞こえてくる。
ウウウウ、たすけてよ。
ヒックヒック、オカアサン。
ミラージュは、暫く使用人通路を進んでいった。目の前の曲り角を左へ行けば、母が飛び込んだ崖につくはずだ。だけど、泣き声は右側の古ぼけたドアから聞こえてくる。
ミラージュは、右側のドアを開いた。
その部屋には沢山の子供が押し込められていた。
涙を流している子供達が身を寄せ合っている。
ギガリア公爵領は豊かな領地だ。沢山の家族が豊かさを求めてギガリア公爵領へ転居してくる。だが、転居してきた家族の入れ替わりも激しい。夫がいなくなった。子供が攫われた。
町の食堂で、いつも噂になっていた。人攫い盗賊がいると。
(まさか、領主が人攫いをしていたなんて。)
ミラージュは、閉じ込められている子供達に声をかけた。
「大丈夫?ここにはどうして?」
「お姉ちゃん。誰?逃げられるの?」
「お母さんに会いたいよ。」
「捕まったんだ。あっちにお母さんもいる。」
子供達が指さした先には、鉄格子があった。
どうやら閉じ込められているらしい。
持っていた鍵でミラージュは、鉄格子を開けた。
その場は広い牢屋になっている。
ミラージュは、数カ所の鉄格子の鍵を全て開けた。
「おかあさん!」
「ぼうや。よかった。ありがとうございます。」
捕らえられていた人達は一斉に逃げ出した。
屋敷の中は急に騒がしくなっていた。
どうやら、騒ぎに気が付いたらしい。
ミラージュは子供達が捕まっていた牢屋へ帰り、入って来た使用人通路へ戻っていった。
使用人通路を進み、屋敷の裏口にたどり着いた。
夜空には黄金色の満月が輝き、周囲を照らしている。無数の星達がキラキラ輝き、舞い踊っているようだ。目の前の崖は緑の草に覆われている。母はここから飛び降りた。
ミラージュは、母と同じように崖に近づいて行った。
「まて!どこへ行く。」
ミラージュは声を掛けられ後ろを振り返った。
そこには、銀髪の壮年の男性がいた。
屋敷の2階には、ルルアーナが窓からこちらを見下ろしている。
「忌々しい娘だ。お前のせいで、商品がいなくなった。大損害だ。言う通りにすれば、贅沢な暮らしをさせてやったのに。」
ギガリア公爵は、顔を歪めミラージュを睨みつけてくる。
ミラージュはゆっくり後ずさりしながら崖へ近づいていった。
「それは、貴方にとって都合がいい道具になれって事でしょう。いらなくなれば無残に捨てられる事が分かっているのに、貴方に従うわけがないわ。」
「何を言う。お前みたいな者が一時でも贅沢な暮らしができるのだ。感謝し、身を弁えろ。」
ミラージュの後ろは崖になっている。波が崖に打ち付ける音が聞こえてくる。
ザバーーン、ザバーーン。
「完璧なルルアーナの阻害品の癖に、生意気な。」
ギガリア公爵は、ミラージュに近づいてきた。
「完璧?ふふふ。貴方の大事なルルアーナは、妊娠しているのは?青白い顔、乾燥した肌、膨らんだお腹。完璧な娘の体調不良を隠すために医者にさえ隠していたのかしら。大事な娘が聞いて呆れるわ。」
ギガリア公爵は、欺瞞を露わにした表情で屋敷を振り返り、大声を上げた。
「妊娠だと。まさか、ルルアーナ!」
ミラージュは、ギガリア公爵の叫び声を聞きながら、崖から落ちた。
窓からルルアーナが驚愕した表情でミラージュを見ていた。その手は、ミラージュに縋りつくように伸ばされていた。
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