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令嬢
しおりを挟むミラージュは、王城へ戻ってきた。
行方不明になったミラージュを心配していた王妃は、ミラージュが見つかった事をとても喜んでくれた。
グランの婚約者として迎え入れられたミラージュは、王城の部屋を与えられた。
鮮やかな青を基調にしたミラージュの部屋は、美しく豪華な作りになっていた。複雑な刺繍のカーテンや寝具、光沢のあるテーブルと椅子、フカフカの絨毯。
ミラージュには数人の侍女が付けられ、王太子妃になる為の生活が始まった。
今日は、王太子婚約者お披露目の舞踏会が開かれる事になっていた。
エスコートの為に、ミラージュの部屋を訪れたグランは、高級感のある黒の礼服に紫色の装飾品を身に着けて現れた。
「ミラージュ。緊張している?」
グランは、心配そうにミラージュに話しかけてきた。ミラージュは淡い紫色のドレスに金のネックレスと髪飾り、イヤリングを身についている。
「いいえ。こうして貴方の隣に立てる事がすごく嬉しいの。」
グランが差し出してきた手にミラージュは、自身の手をそっと乗せた。
「王太子殿下、並びに婚約者ミラージュ・ローニャ殿下」
係の者の声に合わせて、舞踏会場へグランとミラージュは足を踏み入れた。
高級服に身を包み談笑している貴族、沢山の宝石を身に着け笑っている令嬢達が一斉にミラージュ達を見てくる。
(厳しい教育を受け、先生方や王妃様も私を認めてくださった。今、身につけているドレスや装飾品は愛する人が私に贈ってくれた私だけの物。もう以前のように偽物の私じゃない。努力した時間と愛おしい人が私にここに立つ資格を与えてくれたの。)
ミラージュは、胸を張り悠然と微笑んだ。
愛するグランと共に堂々と、煌びやかな舞踏会場へ足を踏み入れた。
王太子の婚約者として、ミラージュは挨拶をして回った。急に現れたローニャ侯爵家令嬢が王太子の婚約者になった事で、ミラージュに対して冷たく敵対するような視線を感じる。
だけど、ミラージュの美しさと、貴族らしい立ち振る舞い、そして王太子の甘い微笑みに、徐々に貴族達も納得したらしい。御披露目会の終盤には、ミラージュを歓迎する貴族達が増えていった。
数曲グランとダンスを踊り、ミラージュは令嬢たちに囲まれて談笑していた。
その時、若草色のドレスを着た女性に小声で話しかけられ、手を引かれた。
「ルル様が貴方と話をしたいと言われています。こちらへ。」
ミラージュは、若草色のドレスの女性を見る。
取られた手を引き抜き拒否しようとするが、女性の力は強く振り払えそうにない。
周囲を見渡すと、先程まで談笑していた令嬢達はミラージュに背を向け話していた。まるで、ミラージュがその場に存在しないかのように、背で壁を作りミラージュを近くの廊下へ押し下がってくる。
「無礼ですわ。私は」
「お願いです。ルル様にはもう時間がありません。少しだけでいいのです。貴方様に危害を加えないと約束いたします。」
よく見ると、目の前の女性は涙を浮かべている。
「貴方は?」
「私は、ルルアーナ様の侍女のラニーと申します。別室でルルアーナ様がお待ちです。ミラージュお嬢様。」
「分かりました。少しだけなら」
(ルルアーナは私の腹違いの姉妹になるはずよ。たった一人の私の姉。)
舞踏会場は楽しそうな騒めきに包まれている。ミラージュは、ラニーについてルルアーナが待つ別室へ向かった。
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