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1、婚約者の義務としての定例のお茶会。まずは遅れたことに謝罪するのが筋なのでは?
しおりを挟む定番の婚約破棄もの。前10話完結です。
※※※※※※※※※
約束の時間に遅れ、さらには腕に女性を張り付けて登場したアレックス殿下。
彼は悪びれることすらなく、ドヤ顔でこう仰いました。
「レティシア。君との婚約は破棄させてもらう」
婚約者の義務としての定例のお茶会。まずは遅れたことに謝罪するのが筋なのでは?1時間も待たせたあげく、開口一番それですか? しかも腕に他の女を張り付けて?
うーん……おバカさんなのかしら?
チラリと視線を投げかけ、小さなため息をひとつ。全く、どうしようもない人ね。
私のそんな態度を「ショックのあまり言葉もない」と捉えたのか、アレックス殿下は誇らしげに声を張り上げました。
「今更後悔しても遅いぞ!残念だったな!正直に言おう。君には可愛げというものが無い。
私という婚約者をたてる奥ゆかしさもない。それどころか偉そうにこの私に向かって講釈をたれ自らの優秀さを誇示するその浅ましさ。お前にはもううんざりなのだ!私が妻にしたいと望むのは、ヒナゲシのように飾らず儚げで心根の優しい女性、そう、このエリーのような…」
これ見よがしに女性―エリザベス男爵令嬢のウエストを引き寄せ、愛おしげにその頬を撫でる殿下。
抱き寄せられたエリザベス嬢は「まあ!」と頬を赤らめ大袈裟に殿下の胸に頬をすり寄せ恥じらって見せます。
アレックス殿下、「心根の優しい女性」というのは、溢れそうな胸を押し付けながら殿下の腕にぶら下がっているその女性のことですか?
「まあ!そんな!」なんて恥じらうふりをしていらっしゃいますが、そもそも恥じらいのある方ならばそのように婚約者のいる異性に胸を押しつけたりはしませんよ?
おまけに、その顔を見てごらんなさいな。愉悦を隠しきれておりませんわ。
それ、明らかに男を手玉に取り弄び破滅へと導く「ビッチ」だとか「あざと女」というものですわよ?
心根が優しいどころか、腹の中は真っ黒、自分のことしか考えていないタイプでしょうに。
男爵家に生まれながら、婚約者のいる第一王子に狙いを定めるのですから相当なもの。彼女の神経は鋼ででもできているのかしら?いいえ、いっそミスリルね。
いずれにせよ、どこをどう考えても自分に自信があるしたたかな女性ですわ。儚げなのは外見だけ。どの雑草よりもしぶといと思いますけれど?
などと親切に教えてやる義理もございません。何しろ私は「可愛げのない女」だそうですので。
2人とも見た目だけは整っておりますから、ピッタリとくっついて離れない今の姿はまるで巷で流行りのお芝居を見せられているかのよう。
そういえば今の流行りは、確か婚約破棄が題材の……「真実の恋人たち」でしたかしら?
カフェという公共の場で突然始まった第一王子殿下とあざと女の「真実の愛劇場」。
今ここにいらっしゃる方々は、みなさま日々の娯楽に飢えた貴族です。こんな面白いものに飛びつかないはずがございません。周囲の意識がさりげなくこちらに向けられているのが分かります。
皆さまこの店を出たらすぐにこのことを「内緒ですわよ?」と触れて回るに違いありませんわね。
一方、カフェ中の注目を集めた二人は、すっかり主役気分でまだ悦に浸っております。
「真実の愛」?私に言わせればくだらない茶番でしかございませんわ。
そもそもあのお芝居は「現実にはあり得ない」からこそ、そこに夢を見て楽しむ類のものなのです。それを現実に持ち込むなど馬鹿げております。これが将来国のトップたる第一王子なのかと、ため息しか出ません。
申し遅れました。
私は筆頭公爵家であるジーニアス公爵家の娘、レティシア・ジーニアスと申します。10歳の折、王命により2つ年下の第一王子アレックス様の婚約者となりました。
そしてここは貴族に人気のティールーム「ゴールデンドロップ」。席を予約するのも難しいと言われておりますが、私は別。何故ならここは私の従兄弟が経営する店なのですもの。
本日は婚約者としての義務、月に一度の茶会のため、約束の時間である1時間前からここで殿下をお待ちしておりましたの。
さて、目の前の二人は踊るに任せ、とりあえず私はお代わりしたお茶を楽しむことにいたしましょう。せっかくのお茶が冷めてしまいますものね。
実は約束の時間が過ぎたのを確認した私は、殿下の登場を待つことなく遠慮なく先にお茶を楽しんでおりました。ですから、このお茶は二杯目なのです。
礼儀知らずの婚約者をただ待っているだけなんて、時間がもったいないわ。でしょう?
ここは紅茶で知られているカフェ。従兄の店とはいえ、すぐにまた融通を利かせてもらうわけにも参りません。ですから私はこの機会を存分に楽しむつもりなのです。
「今日のオススメの紅茶とスイーツをくださる?」
そう言って最初に頼んだお茶は、期待以上のものでした。雑味のないスッキリと洗練された味と、ふくよかな香り。一緒にいただいたスイーツにとても良くあっておりました。
これでもそれなりに忙しい身。久しぶりの自由時間をまったりと堪能いたしましたわ。
二杯目として頼んだ茶葉は、従兄のオススメの、純粋にお茶自体を楽しめるものに致しましたの。
給仕の方がゆっくりとポットに湯を注ぎ、砂時計を倒します。この砂が落ちきるまでの間、希望すれば茶葉の説明をしてもらうことができるのです。
「同じ種類の茶葉なのにブレンド? どういうことなのかしら?」
「実は、同じダージリンでも産地や農園によって味が異なるのです。茶葉を採取した年度によっても差が出ます。いつ来ても同じ味を楽しんでいただけるように、毎年それぞれを組み合わせて調整しているのですわ」
「まあ!さすがは人気の茶館『金の雫』ね!手が込んでいるわね」
「お褒め頂き光栄です」
婚約者が登場したのは、砂時計を確認し、給仕の方がティーポットを掲げた、まさにそのタイミングだったのです。
給仕の方も、いきなり始まったお二人の小芝居にどうしたら良いのか分からない様子。
ああ、こんな人たちのことは気にしなくていいのよ?
もう一刻の猶予もありません。苦味や雑味が出てしまいますもの。
困惑顔で固まっている給仕の方に、私はにっこり微笑みかけました。
「お騒がせしてごめんなさいね?お茶を淹れてくださる?」
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